皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。

最近日に日に暖かくなり、春らしい気候になってきました。
もう流石に、冬眠未遂常習犯である我が家のハリネズミにとっても安心の気候に…と思っていたのですが、また未遂事件が発生しました。
熱過ぎてもいけないと思い、ケージ内にあえてヒーターが当たらない場所を設けていたのですが、夜中にわざわざ寒いところに移動したらしく…
危うく冬眠しかけていました。
暖かくなっても油断できませんね。
(今では何事もなかったかのように元気です)

今回は弓のチップ交換について、簡単にご紹介致します。

弓のチップ交換

ブログに載せようと思っては写真を撮り忘れ…
を10回ほど繰り返し、ようやく忘れずに写真を撮れましたので、今更ではありますが「チップ交換」について書かせて頂きます。
このブログを見て下さっている方は「チップ交換」というワードを何度か聞いたことがあると思います。
実は2度ほどブログ内で紹介しているのですが、全て修理後の写真のみです。
今回は交換前の状態、手順についても触れていきたいと思います。

弓、チップピークの状態

そもそもチップを交換するタイミングは

  • チップが割れた、亀裂が入った
  • チップピーク(チップの先端)が欠けた
  • チップが剥がれて無くなった

のように、物理的にダメージを負った時です。
詳しくは(チップについて1)(チップについて2)を是非ご覧ください。
弓のチップについて詳しく紹介してくれています。
今回の修理も、チップに亀裂があるという良く見る症状だったのですが…

まさかの、弓本体の先端部分が欠けています(長さが足りません)。
正確には「あった」のですが、チップ除去中にポロッと取れてしまいました。
普通だったら「お客様の弓を壊してしまった…!」と青ざめている所ですが、今回は違います。
なんと、以前修理(?)された痕跡がありました。
修理というより、補修用の木工パテで整形していただけなので…何ちゃって修理ですね。
パテが無くなった所を放置したままだと見栄えがかなり最悪なので、何とかして直しましょう。

チップピーク部補修

と言いましても、部分的に木を継ぎ足しても簡単に外れてしまいますし、他の部位を削っての補修やピン打ちは弓に負荷がかかりますので…
今回はチップ材の黒檀を利用して補修しましょう。
どういうことかと言いますと、弓本体に木を継ぎ足すのは少し厄介なので、チップ材自体に材を足してしまおうという魂胆です。
チップ白色部の材質は「牛骨、マンモス牙、イミテーション、プラスチック…」と色々あるのですが、実は裏側には黒檀(プラスチック材だと黒厚紙)が使用されています。

画像チップの黒い部分が黒檀です。
先端部の黒檀に、こちらで用意した黒檀を継ぎ足すとこのようになります。

厚みが増しました。
この状態で弓に接着すれば、チップピーク部の補修が行えるはずです。

チップ交換

ここから先はチップ交換についてです。

チップ材の反り矯正、フィッティング

まずはチップ接着の準備を行います。
駒と同じで、チップ材もただ貼り付けるわけではありません。
弓の形状とチップ材を合わせて、フィットすれば問題なのですが、合わなければチップ材を加工する必要があります。
今回は反りが僅かに合わなかったので、熱を加えて反りを矯正します。

矯正中です。
この工程で、手で軽く押さえただけではほとんど隙間が出来ないレベルまでフィッティングを行います。

良い感じです。
中心部へ行くにつれて僅かに隙間があるのは良いですが、逆(端に隙間がある)は最悪なのでやり直す必要があります。

チップ材穴開け加工

続いて、楔穴の穴開けを行います。
この作業を忘れると、接着後にそこそこ苦労してしまいますので忘れずに行います。

もう少し大きくしましょう。

まだ小さいですが、ナイフが通れば問題無いのでこれで準備完了です。

チップ材接着

ある程度チップ材の荒削りを行い、接着を行います。
職人によっては、紐で固定したりハンドクランプ(要するに人力)で接着する方もいるのですが…
私はお手製の接着道具を使用します。

これにより、隙間なく接着が可能です。

チップ加工

接着後、数時間放置して道具から外すと…

無事接着出来ていました。
ここからは、ナイフや鑿でひたすら削ります。

…ですが時間短縮も大切なので、ここは文明の利器を使用して荒削りを行いましょう。

さすが文明の利器です。
ここからはナイフや鑿で慎重に削っていきます。

楔穴加工

仕上げる前に、楔穴の加工を済ませます。

特に難しいことは無く、この状態からナイフを使用して

こうします。
天然素材のチップ材なので、ナイフがボロボロになりました。

仕上げ

仕上げ前に、チップと弓ヘッド部に段差が無くなるまでチップ材をナイフで削り落とします。
チップピーク部の加工は油断すると弓本体を傷付けかねないので細心の注意が必要です。
下の画像は仕上げ前の段階なので、まだチップ材とヘッドに段差があるのがお分かりいただけると思います。

この後、チップ全体を更に削って磨くと…

完成

完成となります。
心配だった黒檀部の補修も、予想より目立たずに済んで一安心です。
(ライトブラウン系の弓だと目立ってしまうかもしれませんね)

他のブログ内でもチップ交換後の写真を載せていますので、是非ご覧ください。

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この記事を書いたスタッフ

マークイズ福岡ももち店高瀬

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