変わったビオラの調整Vol.1 ~ストロービオラ~ 【弦楽器工房ブログ】
皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
マークイズ福岡もオープンして2年が経過しました。
私が福岡へ来てからもう2年と考えると早く感じます。
そして流石に2年も経つと飽きが来てしまうのは避けられず、休憩時間のマークイズ館内散策もめっきり減ってしまいました。
今では散歩がてら最寄りの海まで歩いてみたり、用もないのにペイペイドーム前まで歩いてはマークイズに戻ってを繰り返しています。
何をしているんでしょうね。
今回は変わった楽器を修理調整する機会がありましたので、ご紹介いたします。
ラッパ付き?
調整前の状態がこちらです。(上部に写っているバイオリンは関係ありません)
パッと見は少しおしゃれなエレキバイオリンですが、隣にある大きなラッパが気になりますよね。
実はこの楽器、ラッパを取り付けて演奏を行います。
何を言っているか良く分からないかもしれませんが、そういう楽器なのです。
楽器の名前は『ストローヴィオル、ストローバイオリン、コルネットバイオリン、ホーンバイオリン…』色々あります。
形状や構造により呼び名が異なるのかもしれませんが、あまり情報がないので私も正式名称が分かりません(すみません…)。
ちなみに『ストロー』は喫茶店でよく目にするあのストローではなく、イギリス人の開発者の名前(strohさん)だそうです。
1900年代初頭、主に楽曲の録音時に使用されており、録音技術の発達した今では全くお目にかからない珍しい楽器となってしまいました(今でも細々と製作している国があるとかないとか)。
そしてこの楽器は写真だと分かりにくいですが、なんとバイオリンではなくビオラです。
ただでさえ珍しい楽器なのに、ビオラとなるとさらに珍しいのではないでしょうか。
今回はこの楽器を修理調整して、弾き易くちゃんと鳴るようにカスタマイズしましょう。
各部の状態
見た目は特に大きな問題は無いのですが、じっくり見ると所々劣化が進んでいます。
全てパーツ系なので交換してしまえば良いのですが、一番気になるのはエンドピン穴の状態です。
他、心臓部のサウンドボックスや駒付近のパーツなどにも問題が無いかも見ていきましょう。
エンドピン穴
エンドピンが今にも抜けてしまいそうな角度になっています。
長年の使用により、弦の張力でエンドピンが上へ上へと穴を押し広げてしまった結果です。
実際にエンドピンを抜いて穴の形状を確かめてみましょう。
やはり長年の使用によりエンドピン穴が変形しています。
画像に写っている紙のようなものは紙やすりで、以前修理した職人が簡易的に穴の広がりを修正した痕跡と思われます。
紙やすりを取り除くと、更に穴の広がりが顕著になりましたね。
こちらは一旦穴の埋め直しが必要となりますので、穴を埋めて再びエンドピン穴を成形する作業を行います。
エンドピン穴埋め修理についてはこちらをご覧ください。
修理後
新しいエンドピンも入れ直して、角度も適切になりました。
これで問題なく使用できます。
余談ですが、エンドピン穴埋め直しにあたり不安要素が一つありました。
技術者なら分かっていただける悩みだと思いますが、この楽器を見てエンドピン穴埋めが必要と判断した時『エンドピンの穴、内部構造はどうなっているの?貫通している?もしかして本体に刺してあるだけ…?』と、とても不安でした。
万が一エンドピンが刺さっているだけなら径の太いドリル用意しないといけないな、大変だな…とドキドキでしたが、なんと内部は空洞でした。
なので問題なく通常の方法で穴埋めも行えましたので一安心です。
胴体はただの筒状の木に見えますが、装飾が施されたり3枚の木で出来ていたり、内部に空洞を作っていたりとなかなか凝った作りでした。
サウンドボックス
続いて、この楽器の心臓部とも言えるサウンドボックスを見てみましょう。
サウンドボックスはAmplifiers社製の『MeltropeⅢ』です。
蓄音機でたまに見かけるサウンドボックスですね。
こちらの状態は錆以外に特に問題は無く、気密ゴムもかなり健康な状態です(ボロボロになっている事が多いので本当に良かったです…)。
なので簡単にクリーニングしたり針穴のアジャスター部を調整したりするだけで問題ありません。
このゴム部にラッパを接続します。
駒
ストローバイオリンと検索してヒットする画像をよく見ると、駒の素材が『木製・金属製』の2パターンあることがわかります。
この楽器にも2種類付属しておりました。
木製駒は割れている訳では無く、構造上あえてこのように作られています。
(駒足に金属が埋め込んである当たり、駒を製作した職人のこだわりが伺えますね!)
駒足部はこのようになっており、レールの上を上下に動かせるようになっているんですね。
このレールの上にサウンドボックスと連結した駒置きパーツをセットし、その上に駒を立てるという作りです。
金属の駒と木製の駒で音がどう変化するか、そしてレールを上下した時の音の変化も気になりますね。(Vol.2でご紹介予定です)
肩当?
何でしょうね…?
これが一番謎の多いパーツです。
付いている場所から判断して間違いなく演奏時の補助パーツ(肩当の役割)なのですが、身元不明のネジやパーツが多数存在します。
写真に黒いつまみやボタンのようなものが見えると思いますが、こちら、ただ付いているだけなのです。
何かに繋がっている訳でもなく、ただ付いているだけです。
市販の肩当を取り付けるため?ピックアップ取付の痕跡?など色々考えましたが結局謎は解けなかったので考えるのを諦めました。
(また時間のある時に考えます)
あご当て
付属のあご当てですが、よく見るとぱっくり割れています。
別段難しいことはなくあご当てを交換するだけなのですが、1点特殊な箇所がありました。
写真を撮り忘れてしまったのですが、本体側のあご当て装着部にピンが2本立っています。
なので、あご当て側にもピンと同じ系の穴を作りあご当てを取り付ける必要があります(あご当て外れ防止でしょうか?)。
続きは次回更新で
今回はここまでにしまして、残りの調整、組み立てと完成後はVol.2へ続きます。
完成をお楽しみに!
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弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!