弓の反り直し 【弦楽器工房ブログ】
皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
ここ最近、我が家のハリネズミが私の生活サイクルにわざわざ合わせてくるようになりました。
今までは20時間睡眠、夜中に動き出すという典型的な夜型サイクルでしたが、ここの所、私の帰宅時と起床時に必ず目覚めます。
そして全力でご飯と散歩を要求してきます。
夜行性動物としてはどうかと思いますが、可愛いので良しとします。
本日は
■ 毛替え
■ 弓のスクリュー交換
■ ペグ調整
■ 駒加工
を行わせていただきました。
ご来店いただき、ありがとうございます。
弓の反り直し矯正
昨日ご来店いただいたお客様から、弓の反り直し矯正をご依頼いただきました。
弓を下の画像のようにスクリュー側から見た時、弓の元から先まで、ブレることなくストレートに見える状態が理想です。
これが、左右どちらかに曲がっている状態だと、反り直し修理が必要になります。
反りが発生してしまう原因は
■ 使用されている木材の繊維方向が曲がっており、経年変化で反る
■ 毛替えの際、左右どちらかにテンションを多めにかけている
■ 弓を張ったまま長期保管
■ 高温多湿の環境に長時間放置
大体、これらのどれかです。
どれほど良い材を使用していても、元から先まで狂うことなく繊維が真っ直ぐな材はなかなかありません。
どこか1点左右にうねっていたり、段々と左右に繊維が曲がっている弓が多いです。
それでもしっかりとした作りの弓でしたら(良質なフェルナンブーコ材の使用が大前提ですが)、多少繊維が曲がっていても通常使用で十数年は反ることはありません。
ではどんな弓に繊維方向による反りが多いかと言いますと、『オールド弓』と呼ばれるものが繊維方向による反りが多いと感じます。
今回のお客様もオールド弓です。
ヴァイオリンと違い弓は消耗品と呼ばれることがありますが、保管を徹底し、丁寧に使用すれば100年以上使用可能です。
オールドヴァイオリンと同じく、長年の使用により木材が程良く枯れ、新作には無い味わいを楽しめます。
(状態の良いトルテの弓は200年近く経過していますが、まだまだ現役です)
それでも、使用年数による経年変化により、新作弓と比べると耐久値はやや下がってしまいます。
結果として、新作弓と比較すると、環境や保管状態により弓が反りやすいものが多いと言えます。
続いて、毛替えの際のテンションについてです。
毛替えを行う時、職人は馬毛の張りのテンションをどこに設定するかを決めることができます。
通常は左右均一に張ることが多いですが、弓の状態やプレイヤーの好みにより、左右どちらかを強めにする場合がございます。
一般的には、ヴァイオリンなら画像の左側、チェロなら画像の右側を強めに張る方が多いです。
演奏する方なら分かると思いますが、それぞれ楽器に対する演奏時のプレイングサイドを強めに設定しています。
そうすることにより、弓の食い付きとテンションが向上するので演奏しやすくなります。
しかし、このように左右どちらかの張りを強く設定した状態で、毛を張ったまま保管すると、、、
ジワジワと反り癖が付いていきます。
もちろん、演奏後にしっかりとスクリューを緩めて保管すれば基本的には問題ありません。
「弓を張ったままの長期保管」と「高温多湿の環境に長時間放置」は、弓に対して反り以外でも様々な支障をきたします。
演奏後はスクリューを緩めて保管、高温多湿の場所に放置しない、を徹底しましょう。
熱曲げ矯正
反りを矯正する方法は2パターンあります。
1. 毛替えを行い、反っている方向と反対側の張りを強くする
2. 熱を与え、弓の反り癖を矯正する
1の方法は簡易的な手段であり、根本的には直せません(時間をかけてじっくり直ることもありますが)。
軽い症状だったり、弓が熱曲げ矯正に耐えられない状態のものには有効です。
今回は2の方法で直していきます。
お客様の弓を良く見ると、所々左右に小さくぶれている所があります。
単純に左に曲がっているだけならば取り急ぎ1の方法を取ることも考えていたのですが、うねうねしていたので熱曲げ矯正で修正を行います。
行うことは、以前ご紹介しました「駒の反り直し」とよく似ています。
(今回は水は使用しませんが。)
上の画像がお客様の弓ですが、先端に行くにつれて左側に反っているのがお分かりいただけますでしょうか。
この状態が『反っている』状態です。
修理の手順はとてもシンプルです。
毛を張った状態でアルコールランプで弓を炙り、弓を台に固定して手の力で曲げる、をひたすら繰り返します。
その後、必要に応じて毛替えをやり直し、反りの状態を再び確認します。
その後何度か上記手順を繰り返し、完了となります。
(両手が常に塞がる修理ですので、アルコールランプしか撮影できませんでした)
シンプルな修理ですが、ほんの僅かでも力加減を間違えると、簡単に折れてしまいます。
折れたら、色々と全てが終了致します。
上の画像は、反り直し矯正後、毛替えをやり直した後のものです。
画像でも分かりますが、毛替えの間に若干反りとうねりが戻ってきているので、再び反り直し矯正で手直しを行います(この写真で満足し、完成後の撮影を忘れていました、、、途中の段階でも、このように反りが改善されていく様子が分かっていただければと思います)。
弓の状態によりますが、今回はオールド弓ということもあり、またいずれ反りが現れる可能性があります。
その場合は、また改めて反り直し矯正を行う必要があります。
最後に
弓の反り直し矯正ですが、弓の状態によってはお受け出来ない場合もございます。
適度なしなりと強度のある良質なフェルナンブーコ材を使用しており、弓のコンディションが良好なものに限らせていただくことがあります。
安価な弓に多いですが、フェルナンブーコ材やブラジルウッド材以外の木で製作された弓の反り直しはお受け出来ません。
普段から弓の保管に気を付けていただき、それでも反りが発生してしまったらご相談ください。
適切な修理をご提案させていただきます。
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弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!