皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
先日、弦楽器修理イベントのため長崎へ出張しました。
1泊2日の出張だったので近場のホテルに宿泊したのですが、夜になり寝ようとするとバスルームから大きな物音がしました。
あまりにもうるさかったので寝るのを諦めると音はピタッと止み、また寝ようとすると音が鳴り出す…の繰り返しです。
おそらく設備不良の音だと思うのですが、あまりにタイミングが良かったのでスピリチュアル方面を疑いその晩は一睡も出来ませんでした。
次回からは耳栓を持参します。
今回は少し珍しい症状の弓をお預かりしましたので、簡単にご紹介致します。
弓のスクリュー取り外し
お客様から楽器をお預かりする際、最近よく耳にする言葉があります。
「この楽器、○○年間押入れに眠っていました」
コロナの巣籠需要でしょうか、週に1件は必ず聞きます。
(意外かもしれませんが、長期間放置していても楽器本体には特に大きな問題が無い場合も多いです。適切に保管されていた場合、駒や弦などの消耗パーツ系が痛んでいるだけの場合がほとんどです。)
今回のお客様も押し入れに楽器を寝かせており、その期間なんと15年です。
何か問題が起きていなければ良いなぁ…と願いつつ見積をお出ししましたが、残念なことに弓に問題が発生しておりました。
弓の状態
パッと見問題など無いように見えますが…
スクリューが全く動きません。
このパーツです。
本来ならば軽い力で回して取り外せるのですが、人力でも万力を使用してもビクともしません。
おそらく湿度の高い場所に保管してしまったのだと思いますが、大抵の場合スクリューの錆が原因で動かなくなることが多いです。
スクリュー取り外し開始
取り外しを初めて30分ほど奮闘しましたが、微塵も変化がありません。
潤滑油を使用しても変化無しです。
この段階でお客様へ弓の状態をお伝えしたところ「どうにかして治したい」とのことでしたので、もう少し頑張ってみて、どうしても外せなかったら最終手段としてフロッグとスクリューを交換する、ということになりました。
さらに30分作業後
全く変化がありません。
もしかしたらスクリューと弓本体が接着されているのでは…?と疑いつつ更に作業を続けます。
20分後
外せました。
やはりスクリューが錆びていましたね。
あまりにも微動だにしなかったので、スクリュー交換前提で(弓に影響のない範囲で)渾身の力を加えたところ音を立てて動きました。
修理において慎重さは1番大事ですが、豪快さも時と場合によっては必要ですね。
スクリュー洗浄
フロッグの雌ネジもスクリューも錆を落とせば使用出来そうでしたので、洗浄を行います。
目立つ錆は落とせました。
ついでにフロッグのアンダースライド部も整えてあります(面が歪んでおり、フロッグのスムーズな移動を妨げていました)。
修理完了
錆を落とし、再びスクリューとフロッグを取り付けました。
スムーズに可動したので、これでスクリューの修理は完了となります。
今回のような症状はなかなか起きませんが、もし長期間保管していた弓がこのような症状になっていた場合、ご自身で無理に外す行為は極力控えて下さい。
錆の状態が今回の弓以上に酷いと、スクリューを回した影響で弓本体に割れが生じる可能性があります。
ある程度の力を入れても動かなかった場合は、無理をせず工房へお預けください。
記事中に表示価格・販売価格、在庫状況が掲載されている場合、その価格・在庫状況は記事更新時点のものとなります。
店頭での価格表記・税表記・在庫状況と異なる場合がございますので、ご注意下さい。