アナログポリフォニックシンセサイザー korg prologue
巷ではふたたび盛り上がりを見せている「アナログシンセサイザー(アナログシンセ)」ですが、ツマミだらけで「なんだか難しそう」という感じる方もいると思います。しかし実はアナログシンセは決して難しいものではありません。最新式のデジタルシンセのほうが逆に操作が難しいのではないかと思えるくらい基本はシンプル。
そして多くのシンセの音作りは、このアナログシンセの考え方が基本となっています。したがって一度アナログシンセの仕組みを理解してしまえば、最新のデジタルシンセの使いこなし方にも応用が効くのです(※)。
※FM音源等、音作りの仕組みが異なっている一部の製品は例外。
アナログシンセ・ブーム?
シンセサイザーは、今から5~60年ほど前に(高価な)アナログシンセが登場し、後に比較的安価なデジタルシンセが主流となり現在に至っています。もちろんアナログシンセにこだわり続けているメーカーも少なくはありません。しかしそれらは数十万から数百万円もする大変高価なものが中心で、ごく一部のプロやマニア向けの製品だったといえるでしょう。
比較的安価なDave Smith Instrument社の「Prophet REV2 16Voice」・・それでも税込み30万弱!
しかしここ数年で状況が変化してきました。老舗のMoogをはじめKorg、Arturiaなどのメーカーが、わずか数万円のリーズナブルな「アナログシンセ」を発売したのです。
KORGのmonologueにいたっては、今なら限定特価で¥27,500(税込)ですから、文字通り桁違いの価格!今アナログシンセが流行しているのは、monologueのように低価格ながら本格的な機能を持ったシンセや、後述するユーロラック・モジュラーといった製品の存在も大きいと思われます。
というわけでこのコーナーの本題に入るわけですが、その前にじゃあ一体アナログシンセとはいったいどんなものでしょうか?
アナログシンセとデジタルシンセの違い
どちらもシンセなので「アナログ」と「デジタル」の違いということになるのですが、アナログシンセはなんとなく「つまみがいっぱいついている」というイメージを持つ人もいると思います。
しかし、実は見た目では「アナログ」か「デジタル」かは判断できません。たとえばRolandの「SYSTEM-8」というシンセ、
つまみだらけで見るからに「アナログ」っぽいルックスですが、実はこれはバーチャルアナログ(アナログモデリング)という種類のデジタルシンセ。
では一体両者の違いは何かというと、それは下記の「音作りの仕組み」の違いになります。
- アナログシンセ:アナログ方式⇒トランジスタなどで構成された電子回路で電気的に音を生み出す方式
- デジタルシンセ:デジタル方式⇒DSP(digital signal processor)やサンプリング技術で音を合成する方式
それぞれには特徴があり、主観を交えて書くとアナログは「厚い、温かい、不安定」、デジタルは「シャープ、リアル、機械的」・・さすがにこれだとアバウトすぎるので表にしてみましょう。
アナログシンセ | デジタルシンセ | |
回路 | 電子部品回路で音創り。回路の違いが個性にもなる | DSPやサンプリングなどのデジタル技術で音創り |
特長 | ピアノなどの複雑な生楽器の音は苦手 | リアルな楽器音も得意(サンプリング等) |
音程など、不安定になりやすい(逆にそれが厚みを生む場合もある) | デジタル制御のため正確無比(逆にそれが機械的になる場合もある) | |
小型化困難 | 小型化が可能 | |
単音しか出ない機種もあり、和音が出せても16、24程度 | シーケンサー(自動演奏)搭載など、多機能化が行われている | |
アナログでしか出せないウォームなサウンド | 様々な方式があり、それぞれにカラーの違いがある |
この他にも違いは多々ありますが「どちらが優れているか?」ということではありません。何が何でもアナログ命!という方もいらっしゃいますが、演りたい音楽や好みに応じて使い分ければ良いのです。
なお近年ではたとえばオシレーター(発振器)はデジタルだけどフィルター(音色を変えるところ)はアナログ・・と言うように、両者の利点を合体させた「ハイブリッドシンセ」というカテゴリーの製品も続々と発売されています。
Roland JD-XA
というわけでなんとなくアナログとデジタルシンセの違いがわかったかと思いますが、もしよくわからなくても全然問題ありませんので安心してください。
【関連記事】
【今さら聞けない用語シリーズ】デジタルとアナログの違い、サンプリングとは?
アナログシンセの仕組み
アナログシンセの一番の魅力は、ファットで温かみのあるサウンドはもちろん、音色が変わる過程がリアルに体感できるということではないでしょうか?
下記の写真のようなユーロラックモジュラーと呼ばれるアナログシンセ(の一種)が、クラブミュージック系のトラックメイカーやDJなどにも愛用されるのはそんな理由があるのかもしれません。
写真を見ると難しそうな印象ですが、実はアナログシンセの基本の仕組みは実はとてもロジカルでシンプル。だた突き詰めていくとしまいにはこんな感じに・・・
いきなりハイレベルな完成形を目の当たりにすると「自分には絶対無理!」と感じてしまいますが、でもこれはスポーツでも勉強でも同じことですね。まずは基本から、地道な積み重ねが大事なのです。
そんなわけで早速アナログシンセの仕組みを理解しましょう!
基本3セクション
アナログシンセの基本となるセクション(役割)はまず3つ
- VCO(ぶいしーおー):オシレーター:音の元となる波形の発振器(音程)
- VCF(ぶいしーえふ):フィルター:特定の周波数成分を除いたり、弱めたりするセクション(音色変化)
- VCA(ぶいしーえー):アンプ:音量をコントロール(音量変化)
よく音の三要素は「音量」「音程」「音色」などと言われたりもしますが(諸説あり)上記の3つはそれぞれに関係がありそうですね。
アナログシンセは基本、直流電圧で制御するので、それぞれが「電圧制御」という意味の「Voltage Controlled 〇☓」という名前になっています。「電圧?」という言葉に拒否反応を起こす方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでは深く考えなくて結構です。とりあえず乾電池でも使う「〇〇ボルト」というアレで音程とか音量が変わると考えてください。ちなみにその電気信号をCV(control voltage)とよびます。
上記の基本3セクションに加えて
- EG(ADSR):エンベロープジェネレーター:音程・音量・音色などに時間的な変化を与えます。
- LFO:低周波のオシレータ:揺れ(ビブラート、トレモロ)を作るときに使います
などのセクションで味付けをする仕組みになっています。この他にもいろいろなセクションがありますが、まずはこの程度で十分でしょう。
ケーブルのパッチング機能のない鍵盤付きシンセ、たとえばこうしたポータブルタイプのシンセですが・・
Mini Moog Model D
実は各セクションの回路が内部で接続されているのです。したがって先ほどのスパゲッティー状態のモジュラーシンセみたいなややこしいセッティングは必要なく、適切なセッティングであれば弾けば音が出ます(安心)。一方ユーロラックモジュラーシンセの場合、VCO、VCF、といったセクションをわざわざバラ売りにしてるわけですが、なぜそんな面倒くさいことしているかというと
- モジュールの組み合わせが自由=音作りの自由度が高い
- 自分の好みのモジュールを組み合わせることができる=個性が出せる
- シーケンサー(自動演奏装置)などと組み合わせればグルーヴシステムが構築でき、ライブパフォーマンスが可能
等々の魅力があるからですね。さてアナログシンセの仕組みに話を戻しましょう。
アナログシンセの各セクションの基本の構造は、
VCO ⇒ VCF ⇒ VCAという信号の流れになっています。言い換えると
オシレーター ⇒ フィルター ⇒ アンプ
となります。
MiniMoog(写真上)のようなポータブルタイプのシンセでセッティングが適切ならば、これで鍵盤を押せば音が出て鍵盤でメロディーも弾くことができるでしょう。フィルターのカットオフノブというつまみを回せば音色も変わります。
では今度は、KorgのMS-20 mini(写真下)を例に、個々のセクションについてもう少々掘り下げてみましょう。機種が変わっても考え方は共通ですのでご心配なく。
VCO (Voltage-controlled oscillator)
Korg MS-20 miniのVCO
オシレーターはシンセの肝となる部分で、音自体をここで発振させます。一般的にはノコギリ波、三角波、パルス波、矩形波(パルス波の一種)、サイン波、ノイズといった波形を生み出す機種が多いです。MS-20 miniは和音は出せない「モノフォニックシンセ」と呼ばれる機種ですが、2基のVCOが搭載されているのがわかりますか?写真の「OSCILLATOR1」「OSCILLATOR2」というのがそれ。
ここで鍵盤を弾くと2つのVCOの音が同時に鳴ります。VCO1とVCO2の音程は変えることができます。一般的にはオクターブ重ねや、少しだけ音程をズラして厚みをつける(デチューン)といった使い方が多いです。ほかにもたとえばドの鍵盤を弾いたときにVCO1は(ド)、VCO2は(ソ)が出るようにしておけば、2つの音程を一つの鍵盤で演奏することができます。ただし音程の関係は常に平行移動になるので、和音というより特徴的な音色として認識される感じですね。
「32’、16’、8’、4’、2’」と表示があるノブを廻すことでオクターブ単位で音程が変わります。「’」はフィート(約30.5cm)という長さの単位です。なぜ長さが関係あるのかというと、これはパイプオルガンのパイプに空気を送り込んで発音する仕組みに由来しています。つまり「8フィートの半分の長さの4フィートのパイプは1オクターブ上の音が出る」というわけですね。
上記の写真では右隣にVCO MIXERというセクションがありますが、これはVCO1と2の出力をミックスする場所。このノブがゼロだと音が出ませんので注意しましょう。
搭載されているオシレータ数は機種によって様々ですが、基本の1オクターブ下の音を出す「Sub-oscillator(サブオシレーター)」を搭載している機種も多くあります。下写真のMoog IIICという機種では黄枠の部分に9つのVCOが搭載されています。
では各波形を詳しく見ていきましょう。
ノコギリ波
整数次倍音と呼ばれる成分を含んだ波形で、バイオリンやブラスなどのサウンドの素になります。
三角波
あまり倍音を含まない波形。フルートや笛などの素。
パルス波
クラリネット、サックスなど木管系の素。MS-20 miniではVCO1の「PW(パルスウィズ)」というノブでパルスの幅を変更可能です。パルス幅は狭いとザラつきのある音、広いと丸みのある感じになります。
パルス幅を変化させてみた動画
矩形波(スクエア波)
パルス波の幅が50%(※)の波形を矩形波(スクエア波)と呼びます。奇数次倍音と呼ばれる成分を含んだ波形で、クラリネット、木管系の素。※幅の比をDuty比といいます。
【豆知識】
Korg社のソフトシンセ「KORG Collection for Mac/Win(旧 KORG Legacy Collection)」版の「MS-20」では、矩形波は完全に奇数次倍音の構成となる。しかしハードウエアの「MS-20 mini」では、アナログ回路部品の特性上、矩形波の状態でも若干の偶数時倍音が含まれ、その結果楽器的なまろやかな音色になるとのこと。なお「MS-20」でも同様に偶数次倍音を含んだ音を生み出すことも可能。
サイン波
倍音を含まない地味な「ポー」という音。純粋なサイン波は自然界には存在しません。NHKの時報の音はコレですね。
ノイズ
いろいろな周波数成分を含んだその名の通り雑音。「ザー」「サー」といった音程感のない波形。物を叩いたり、息を吹き込んだりする際に発するノイズ成分を作る際には必須の波形です。
【関連記事】【今さら聞けない用語シリーズ】倍音(ばいおん)とは?
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VCOに搭載されている波形は、基本どれも無機質な単調な電子音ですが、メーカーや機種、年代によっても各波形の特長も変わります(部品が変わるので)。またアナログシンセは湿度や温度で抵抗値が変化するので音程が微妙に変わったりしますが、こうしたファジーっぽいところが音の厚さに関係しているとも言えるのかもしれません。
なお実際はVCOセクションでは音がずっと出っぱなしになっているのですが、鍵盤付きシンセの場合は、鍵盤を弾いたら音が出て(ゲートが開くイメージ)、音程も鍵盤で変えられる様に内部であらかじめセッティングされています。
VCF (Voltage-controlled Filter)
コーヒーのフィルターと同じ意味ですが、音の成分を濾(こ)すセクション。一般的なのはローパスフィルターで、高い周波数成分を削っていきます。カットオフフリケンシーというノブを絞っていけば、だんだんと音がこもっていき、絞りきると音が消えてしまう機種もあります。MS-20 miniにはハイパスとローパスフィルタが搭載されています。この2つを組み合わせることでバンドパスフィルターの効果を出すこともできます。
下記動画で使用しているのはMini Moogのソフトシンセ版 Arturia「Mini V」というアナログシンセをシミュレーションしたパソコンで動作するソフトウエア・シンセサイザーです。
レゾナンス(ピーク)というノブを上げていくと、カットする帯域部分を持ち上げる現象が起き、「ビョーン」といったシンセ特有のクセのある音色になります。
機種によっては、レゾナンスをいっぱいにすると「自己発振」して「ピー」という音が出ます。この場合、VCOからの音声信号がなくとも音が出ます。ここでカットオフを変えることで音程が変わるので、それを利用して口笛のような音を作ることができます。
ノコギリ波にローパスフィルターをかけた音色の変化を、オシロスコーププラグイン(SocaLabs「Oscilloscope」無料)で見てみましょう。
フィルターを閉じていくに連れノコギリ波がサイン波に近づいていくのがわかると思います。
【関連記事】【脱プリセット~初心者のためのシンセ音作り】基本その2 音色を変えるフィルター
VCA (Voltage-controlled Amplifire)
音の最終出口。とはいえ特に設定するパラメーターはありませんが、ここがないと音が出ません。「アンプ=増幅」という言葉の意味の通り、最終的に音のレベルを上げて出力するセクションです。MS-20 miniの場合、パネルには上記のロゴしか見当たりませんね。次回紹介するEG(Envelope Generator、ADSR)と対になって時間的な音量変化を生み出します。
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以上がアナログシンセの基本的な3つのセクション。音程、音色、音量という音の要素を各セクションで生み出すのがアナログシンセの基本ということがお分かりいただけましたでしょうか?
なおMS-20 miniの場合、右側のパネル部分にパッチング用のジャックが並んでいます。
基本はVCO>VCF>VCFですが、ほかの様々なセクションも含めた信号の流れを、自在にコントロールできる様に設計されています。それにより更に自由度の高い高い音作りが可能となっていますが、こうした機種をセミモジュラーシンセと呼んだりします。
アナログシンセでは各セクションをコントロールする際に使われるのが CV(control voltage)という直流電気信号。ほかにも GATE(ゲート、トリガーと呼ぶこともある)という信号で鍵盤のON、OFFなどの信号をコントロールします。これらは音声(オーディオ)の信号と区別して考える必要がありますが徐々に覚えていけばよいでしょう。なおこうしたCV/GATEを記録して出力してくれるのがシーケンサーと呼ばれる自動演奏装置。Korgの「SQ-1」はMIDIとCV/GATEの変換も可能なUSB対応のステップシーケンサー。
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ちょっとここまでをまとめてみましょう、次の動画の前半を見てください。VCOの波形を変えて、フィルターで音色を変えています。
ちょっと応用編
下図はフリーでダウンロードできるユーロラックモジュラーのソフトシンセ「VCV Rack」の画面です。これはパソコン内でバーチャルにパッチングをおこなって音作りができる無料ソフト(一部追加モジュールは有料)ですが、信号の流れを見てください。
VCO-1のSAW(ノコギリ波)からVCAのINに入り、OUTから一番右の出力(Output)につながっています。実際にこのソフトで試してみると、この状態ではオーディオ・インターフェースから音が出っぱなしになります。それだと演奏には少々不自由なので、何かのアクション、たとえばここでMIDI鍵盤を弾く時だけ音が出るようにしたい場合は、写真下のようにGate信号を使って音のON、OFFを鍵盤でコントロールすることができます。
下図は VCO>VCF>VCA という信号の流れを作り、鍵盤で演奏できる状態にしたもの。つまり今回使ったMS-20 miniのセッティングとほぼ同じことをパッチングでやってみるとこうなるわけですね。「1V / oct」というジャックからVCO-1の「V/OCT」に接続することで鍵盤で音程をつけることができるようになります。なおこれは1オクターブ音程があがるごとに1ボルト電圧が上がる「Oct/V」というアナログシンセの方式の一つに由来しています。
今回は特に覚える必要はありませんが、こうした自分のやりたいことをロジカルに考えて音を作ることができるのがモジュラーシンセサイザーの面白いところですね。
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というわけで VCO>VCF>VCF を駆け足で説明してきましたが、ただこれだけだとまだ「ピー」とか「ポー」といった単純な音しか鍵盤で弾くことしかできません(弾きながらフィルターノブをグリグリやればそれなりの効果は出せそうですが・・・)
これらに加えて重要な要素を生み出すのが次回以降、順次紹介するEGとLFOになります。というわけで今回はここまで。それでは~
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