4,MIX〜アドバイス編
07.MIX開始
ここからは毎年好評をいただいている録れコン・リプロダクション名物!「プロのミックスをプロのエンジニアが解説するコーナー!」です。
昨年までは鎌田氏がリプロダクションのミックスを行っておりましたが、今回はサウンドの傾向から、バンドのミックスをメインに行っている中澤氏がミキシング・エンジニアを担当。
08.レクチャー
鎌田氏は中澤氏が何を考えてどのようにミックスを構築していくのか、作業されている実際の画面を前にアマチュアの方にもわかりやすく解説してくれます。

鎌田 岳彦 プロフィール
10代の頃は音楽の勉強に明け暮れ、音楽大学卒というエンジニアとしては珍しい経歴を持つ。
音楽的な視点から全体のサウンドを思考できる、独特なワークスタイルを持つエンジニア。作家やバンドメンバー、ミュージシャンとのコミュニケーションを大切に考え、アイデアを出し合い一緒に作り上げるスタイルで、楽器やヴォーカルのピッチ、リズムのチェックやディレクションなど、スタジオワークにおいて多くのミュージシャン、アーティストの信頼を得ている。
また、ビンテージを含む、マイクロフォン・エフェクターのアナログ録音機材にも造詣が深く、大胆な選択でより本格的・個性的なサウンドを生み出している。
関わった作品は、アーティストのアルバム、映画やTVドラマ等、非常に多岐にわたる。音楽雑誌(サウンド&レコーディングマガジン)等で、録音機器の使い方等のレクチャーや新しい機材のレビュー等も20数年執筆継続中。
リプロダクションは限られた時間の中で2ミックスまで仕上げるためスピードが要求されます。
ヴォーカルトラックのオートメーションなど時間のかかる作業はもちろん、あらかじめ作業効率をアップさせるために様々な工夫をしています。
作業に取り掛かる前にあらかじめ、Bus(楽器をまとめたり、リバーブなどのプラグインをかけたりするためのトラック)を作成します。
ProToolsではAUX入力トラックを作成し、ドラム、ギター、ストリングスなどの楽器をまずまとめ、さらにそれら全体をインストルメントとしてまとめています。その後、複数トラックに対して、ボリュームコントロール、エフェクトのインサートなどを行います。
VCAマスタートラックは、複数トラックのボリュームを一括で調整するために設定しています。
※ミックスしている際に各トラックのボリュームを上げていくとトータルのボリュームが上がってしまい、各トラックのボリュームすべて下げなくてはいけないといったことを避けるためです。(アナログコンソールのVCA(Voltage Controlled Amplifier)と同じ役割として使っています。)
右のあずき色のトラックがインスト、ヴォーカルなどまとめたトラック。左の深青のトラックがVCAトラック。
ドラム、ギター、ヴォーカル、ストリングスなどは緑のトラックにまとまっています。
チャンネルストリップに WAVES SSL4000 を使用。実機を使い慣れているので使用しているとのことです。
基本的にはほぼすべてのチャンネルにWAVES SSL4000をさし、ある程度の音作りをし、「ガッツ」の欲しいトラックには音が太くなる感じがする NEVE をさします。
「本当はNEVE育ちなのですべてNEVEで行きたいところなんですが、最近入れたばかりのプラグインなのでマシンパワーの兼ね合いなどを含め試しているところです。(中澤氏談)」とのこと。
こちらはBrainworx 「bx_console N」。中澤氏お気に入りのNeve VXSコンソールをモデリングした、チャンネル・ストリップ。
ボーカルトラックに関しては、あらかじめAメロ、Bメロ、Cメロでトラックを分けていました。これは各セクションに対して、ミックス時にトラックのボリュームや、インサートエフェクトなどをAメロもしくはBメロのみにかけるなど直感的な作業ができるように配慮したとのことでした。
ベース、ドラムと低音成分から音作りしていきます。その後、ギター、ピアノ、ストリングスなどを上物をのせていきます。
コンプレッサーはあまりかけずに、基本的にはボリュームで調整。
コンプレッサーについて「トータルのコンプやリミッティングは、全体の音量を飛躍的に大きくする事ができますが、使い方を間違えると、バランスや奥行き感・立体感が無くなる、平坦なサウンドになり、歪み過ぎて”うるさい”音色になってしまいます。世界的に音圧を上げすぎない規格(ラウドネス規格)もあるので、現在は深くかけすぎない方向になってきています。」と鎌田氏。
今回の録れコンの応募作品でも、音圧を稼ぐためにコンプレッサーやリミッターをかけすぎている音源というものが全体的に多く聴かれました。
前に出てこないサウンドをコンプレッサーやリミッターで聴こえるようにするのではなく、倍音などを含めた、ピッチ調整などができているという前提でボリュームを上げて調整する。現在は、より原音を生かしたサウンドが主流とのことです。
Rikuro.A氏も「今回のMixについて私が感じた感想としては”なんでも潰せばいいってもんじゃない”という点で、Mixは原音を活かしたバランスで構築されてました。
シンバル類とストリングスの音量バランスを交代させるような感じに調整しただけで、随分と高音域がスッキリし、その結果として他のパートもより明瞭に聴こえるようになったのは目からウロコでした。」と得るものがあったようです。(詳細はコメントにて)
話を戻しまして、インスト部分のミックスがすすんでいく中、はじめは気にならなかった細かい部分が浮き彫りになってきました。
まず、ギターユニゾンのフレーズのタイミングを修正し、その部分のボリュームをアップ。
サビのストリングスのボリュームを調整。2 サビの最後のヴォーカル”傷つけてしまう”の部分がもたっているのが気になる、というところで、修正。
この後、イントロのギターの入り方をいろいろ議論しながら決定!
ほぼミックスが完成しました。
リプロダクションはアーティスト、エンジニアが同じスタジオでリアルタイムでコミュニケーションをとりながら進めていけることが醍醐味。気になる部分があったら、その場で修正して、どっちが良いかを聴いてみる。結果として、修正する前のほうが良かったので戻しましたが、そうしたトライ&エラーを重ねることによって自分たちの音楽のベストなサウンドが決まっていきます。
09.確認〜修正
中澤氏によるMIXが完了。楽曲全体の確認をします。その後、各々が気になる点を確認し、修正していきます。
最後まで妥協せずに完璧なサウンドを追求します。
10.最終確認
ANNEX T2スタジオのメインスピーカーはYAMAHA 「NS10M Studio」。生産は完了していますが、現在でも定番モニターとして数々のスタジオで活躍している名機です。
アンプは AMCRON 「PSA-2」
VICTOR のミニコンポ 「EX-AK1」。
最後まで確認したところ、”傷つけてしまう”が大きくて気になるということでラジオボイスのような感じにしたら・・・というアイディアが。試してみます。
いい感じに仕上がったのでこれは採用!
その他気になる点を各人出し切り、最終チェック。
最後の最後まで集中して聴きます。
11.お疲れ様でした
時間は21時に。あっという間に1日が終わってしまいました。皆さん本当にお疲れ様でした!!
今回のメンバーショットです。

外はすっかり真っ暗に。東京タワーのイルミネーションがきれいでした。
5,リプロダクション完了~コメント
グランプリ楽曲『STEAM』はどのように変わったのでしょうか?聴いてみましょう!
リプロ後
「STEAM」のリプロダクションバージョンは「STEAM type Edge」として各配信サイトにて配信中!!
ケリーサイモン氏の超絶プレイで生まれ変わった「STEAM type Edge」CrimsonAir Feat. KellySIMONZ をぜひチェックしてみてください!!
12.リプロダクションを終えて
CrimsonAir
Rikuro.A(あずまやりくろう)氏(写真右) コメント 》
CrimsonAir 玲桜(レオ)氏(写真左) コメント 》
中澤 智氏
中澤 智氏 コメント 》
鎌田 岳彦氏
鎌田 岳彦氏 コメント 》
中澤 智 プロフィール
1991年に株式会社サウンド・シティに入社。以降CM、劇伴、バンド等、レコーディングエンジニアとして、メジャー・インディーズを問わず数々の作品に参加。2001年 フリーランスとして独立。2011年に株式会社サウンド・シティに再入社。
現在、株式会社サウンド・シティ オーディオ技術部部長。レコーディングエンジニアとしての仕事をこなしながら、レコーディングスタジオの運営、管理など忙しい日々を送っている。