この記事ではライブでも自宅でも使えるオススメの88鍵盤「ステージピアノ」を紹介いたします。
「ステージピアノって、なんだかプロっぽくて難しそう…」
「種類が多すぎて、何から選べばいいのか全然わからない!」
お店にいると、そんな声をよく耳にします。ステージピアノは、ライブだけでなく、自宅での練習から、パソコンを使った音楽制作(DTM)まで活用できるキーボードです。
「ステージピアノって何?」「シンセサイザーや電子ピアノとどこが違うの?」という方もいらっしゃると思いますので、まずはそこからご説明いたします。
ステージピアノって何?
ステージピアノの主な特長としては
- ライブでも自宅でも使えるピアノ音色に特化したキーボード、タッチにもこだわり。
- 演奏中にも音色の響きなどの音響効果を柔軟かつ直感的に操作できる。
- 自分で作成した音色の呼び出し機能が付いていることが多い。
- スピーカーやスタンドが付いていないものが多いので自由に組み合わせできる。
- 持ち運び可能。
- ヘッドホンも使えるしアンプに繋ぐこともできる。
- ルックスが良い!お洒落!
といった点があげられると思います。ライブでピアノサウンドはステージピアノ、その他の音色はシンセといった感じでセットで使う方も多いです。ペダルやスタンドは別途用意する必要があり(付属の機種もある)、スピーカーは付いていない機種が多いです。好きなスピーカーやスタンドと自由に組み合わせができるのも特長ですね。

電子ピアノとの違い
写真は一般的な電子ピアノですが、ステージピアノと電子ピアノでは、タッチや内蔵されているピアノ音色については、ほぼ同じと考えて問題ありません。

違う点は、高さ調整ができない本体一体型のスタンドのものは電子ピアノです。また、ピアノ以外の音色はそこまでこだわっていないものもほとんどは電子ピアノです。
もう一つの大きな違いは「操作パネル」。電子ピアノは音色の切り替えぐらいしか操作できないシンプルな作りのことが多いですが、ステージピアノは複数の音色を操作できたり、音のキャラクターを変えることができたりする操作性となっていることがほとんどです。
本当はアコピが弾きたいのだけど、毎回用意するのは大変だし、場所も取るし、マイクで音を拾わないといけないし、調律も面倒。かといってバンドのステージで電子ピアノを使うのも持ち運びも大変です。それに電子ピアノはどうしても「据え置き」のイメージ強いので(ピアノの発表会ならともかく)絵的にも違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
最近のステージピアノは非常に多機能な機種も多くなっており、単にピアノの代用だけでなく、ピアノと内蔵のストリングス音色と組み合わせたり、外部のシンセと組み合わせてサウンドに厚みを出したりといったマスターキーボード的な使い方をする方も多くなっているようです。またもちろんDTMでもマスターキーボードとして使うことができます。
シンセとの違い
主に内蔵音色数、音色編集(エディット)機能が異なります。最近のシンセは1000音色内蔵なんてのは当たり前ですが、ステージピアノはピアノ系音色に特化しているため、ピアノ、エレピ系音色の他にはバンドで使用頻度の高いオルガン、ストリングス、ブラス、シンセリードといった必要最小限のサウンドが内蔵されているものが多いです。
エフェクターはEQ、リバーブ、ディレイの他、エレピには必須のコーラス、フェイザー、歪み系、オルガン向けのロータリーエフェクトといった種類が搭載されています。
また音色作成機能も必要最小限になっており、シンセサイザーのように自由に音色を作るといった機能は持ち合わせていません。(下記は1983年に発売されたFM音源による個性的な音作りが特徴のデジタルシンセサイザー)

また、アコースティックピアノの弾き心地と表現を再現するため、ピアノタッチにこだわったハンマーアクション鍵盤などの重い鍵盤が採用されています。なお、軽い鍵盤タイプのライトタッチ(シンセタッチ)を採用しているものはステージキーボードといわれることが一般的です。
【関連記事】【FAQ】シンセサイザーとキーボードの違い~鍵盤楽器いろいろ

ステージピアノを選ぶ際のチェックポイント
さて、ステージピアノについてだんだんイメージがつかめてきたところで、今度は実際に購入する際のチェックポイントについてお話しします。
ステージピアノを選ぶ際にチェックしたいポイントは下記の5点です。
【Point 1】 鍵盤・タッチ
ライブでもご自宅での練習でも、やっぱり“弾き心地”にはこだわりたいところ。電子ピアノも同様ですが、メーカーごとに鍵盤にはグレードがあり、グレードが上がるほど価格や重量もアップするのが一般的です。
88鍵盤であれば鍵盤数に関しては心配ありませんが、やはりあとは弾き心地が重要になってきます。同じ「ピアノタッチ」と一言で言っても、機種ごとに個性があって、かなり感触が変わります。
例えば、アコースティックピアノのように低音部は重く、高音部は軽いという“段階的な重さ”の鍵盤もあれば、ある程度一定の重さを持つタイプもあります。どちらがいいかは一長一短ですが、アコースティックピアノに近い演奏感を求める場合は、やはり前者のほうがしっくりくると思います。
それからアコースティックピアノの場合、鍵盤の手前で弾いても奥で弾いても、あまり感覚が変わらずに演奏できます。しかし、ステージピアノは可搬性も重視されるため、機種によっては鍵盤の奥側で弾くと重く感じて、弾きづらい場合もあります。これは手前で弾くだけでは気付きにくいので、実際に鍵盤の奥やいろいろなポジションで試してみるのがおすすめです。
また、連打性(同じ鍵盤を高速で連打したときの反応の良さ)も機種によって差があります。速いパッセージや細かいフレーズを弾いて、イメージ通りに表現できるかもぜひチェックしてみてください。
いずれにせよ、実際に弾いて試すのが一番。店頭で色々と触ってみて、ご自身のフィーリングに一番近い物を選びましょう。

【Point 2】 内蔵音色と音質
ピアノ音色はもちろんですが、エレピやオルガンなど、内蔵されている各音色が自分の演奏する音楽ジャンルに合っているかどうかはとても重要です。アコースティックピアノの音しか使わないという方もいれば、ローズ系のエレピやクラビネットの音までこだわりたい、という方もいるかと思います。
特にエレピ音色にこだわる場合、トレモロ、フェイザー、コーラスといった内蔵エフェクトの質にもぜひ注目してみてください。また、クラビやブラス、ストリングスなど、ピアノ以外の音色も使いたい場合は、それぞれの音色がどんなキャラクターなのかをしっかりチェックしましょう。
そして、多くの方はピアノ音色に一番こだわりがあるかと思いますが、ここで気をつけたいのが「どんな場面でピアノの音を使うか」という点です。たとえば独奏や弾き語り、合唱の伴奏などでは表情豊かで細やかなニュアンスまで再現できる音色が合いますが、それをそのままバンドの中で使うと繊細な演奏が埋もれてしまい、逆にフォルテッシモで弾くと音が派手で主張が強すぎてしまう・・なんてこともあります。
ですので、ステージピアノを選ぶ際には、ぜひピアノ音色だけで単独で比較するのではなく、実際に自分が演奏するシチュエーション(バンドならバンド音源と一緒に)で試してみて、イメージ通りの音になるかどうかをチェックするのがおすすめです。

【Point 3】 操作性とパフォーマンス機能
正直、このポイントを2つ目にすべきか迷ったくらい、個人的にはとても重要だと感じています。初めてステージピアノに触れる方にとっては少し難しい部分かもしれませんが、「すぐに操作できること」はライブでは本当に大切です。
ライブで「あれ、設定どうだっけ?」「あの操作はたしかこのボタン押して、この表示になったらここを押して・・」とあたふたすることはとても避けたいことなのです。ただ、パネルにたくさんのボタンやツマミが並んでいると、最初は難しそうに感じてしまうもの。でも、慣れてくるとその“即操作できるありがたさ”が分かってくるので、これは本当に悩ましいポイントです。
ひとつ例を出すと、レイヤーやスプリットの操作が簡単かどうか。オクターブ切り替えや、移調などの設定も簡単にできるかどうかで判断してみるのも良いかと思います。
それと、パフォーマンス機能ですが、演奏中に音色を切り替えた際、「前の音がスパッと途切れず自然に残る」かどうかという仕様も、ライブパフォーマンスでは意外と重要です。また、ピアノ以外の音色を使う際の各種コントローラー(ピッチベンダーやモジュレーション、フットコントローラーなど)が、自分の演奏スタイルに合っているかどうかも、ぜひチェックしてみてください。

【Point 4】 重量
タッチと重量はトレードオフの関係にあるといえます。軽いに越したことはありませんが、そもそもピアノタッチで88鍵盤となると13kg以上になるので、気軽に背負って持ち運ぶというのは難しいかと思います。どうしても持ち運びたいという方は、車での移動を検討する(タクシー利用の場合は事前に会社に相談)、電車しかない場合は大型で安定したキャリーカートを用意し移動先にエレベーターがあるかなど、事前準備は必須です。
ただ、それよりも、持ち運ぶ前提なら、鍵盤数を減らす(73鍵盤)などする、あえて軽めの鍵盤(シンセタイプやセミウェイテッド)選ぶ方が現実的かなと思います。用途や環境に合わせて無理のない選択をおすすめします。

【Point 5】 外部との拡張性
内蔵音源を演奏するだけでなく、MIDIやUSB等で外部のパソコンや音源と接続してつかう「マスターキーボード」機能もステージピアノには備わっている機種も多いです。最近ではパソコンのソフトシンセをステージピアノでコントロールする人も増えてきていますので、そんな方にはマスターキーボード機能の充実度も要チェックポイントです。

オススメのステージピアノ5機種
今回紹介するのは下記5機種(メーカー名アルファベット順)
Clavia Nord Grand 2

Kawaiのレスポンシブハンマーアクション鍵盤(トリプルセンサー、アイボリータッチ)を搭載し、NORDならではのサウンドに加え、アコースティックピアノの表現力やタッチ感をしっかり再現したモデルです。
本体にはピアノとシンセ、2つのセクションが用意されていて、それぞれのセクションごとに音色を編集できます。さらに、各セクションに2つずつ独立したレイヤーがあるため、最大で4つの音色を同時に重ねることが可能です。
ピアノサウンド用には2GBのメモリーを搭載し、グランドピアノ、アップライトピアノ、エレクトリックピアノ、クラビネット、ハープシコードなど多彩な音色を内蔵。シンセサウンド用にはチェンバリン、メロトロン、ストリングス、パッドなどが収録されています。また、それぞれのセクションの音色は、NORDのWEBサイト上に用意されているライブラリからパソコン経由で自由に入れ替えることができるのも大きな魅力です。
Clavia Nord Stage 4

ステージピアノの中でも最高峰と言われるモデルで、多くのプロが愛用する、まさにキーボーディスト憧れの一台です。
「Nord Wave 2」シンセエンジン、Nord C2Dをベースにしたオルガンエンジン、そしてピアノセクションという、3つの独立したサウンドエンジンを搭載しています。オルガンセクションではB3トーンホイールはもちろん、「Vox Continental」や「Farfisa Compact」など、6種類のオルガンモデルを内蔵。シンセ部は1GBのメモリを搭載し、バーチャルアナログやFM音源による音作りが可能。ストリングスやベース、クワイアなど幅広いサンプルコレクションも利用できます。
さらに、ピアノセクションには「Nord Grand 2」と同じく2GBのメモリがあり、グランドピアノ、アップライトピアノ、エレクトリックピアノなど多彩な音色を収録。これらの音色もNORDのWEBサイトに用意されたライブラリから、パソコン経由で入れ替えることができます。
操作パネルは、ライブステージですぐ使いたい機能が分かりやすく配置されており、Nordらしい抜群の操作性を誇ります。
Yamaha CK88

今回ご紹介する中では最も低価格なステージピアノで、Bluetoothやオーディオインターフェース機能、さらに電池駆動にも対応するなど、コストパフォーマンスに優れた先進的なモデルです。
ライブセットとして80種類のプリセットサウンドが用意されており、ステージでよく使われる363種類の音色を内蔵。ヤマハを象徴するグランドピアノやDX7のFMエレピなどはもちろん、オルガンやパッド、リードやブラスなどのシンセ系が搭載されています。操作性にも配慮されており、シンプルながらもライブでよく使うパラメーターのコントロールが配置されているので、初心者でもライブで使いやすい一台です。
Yamaha CP88

グランドピアノに近い弾き心地を再現するNW-GH3鍵盤を採用しており、ヤマハのピアノ音が好きな方や、ピアノサウンドにとことんこだわりたい方に特におすすめなのがこの「CP88」です。
ピアノ音色には、ヤマハを代表する「CFX」や「S700」といったコンサートグランドピアノ、そしてベーゼンドルファーの「290インペリアル」など、計9種類が内蔵されています。また、アップライトピアノ音色も3種類収録されており、全体的にヤマハのアコースティックピアノを丁寧にサンプリングした音色が中心となっています。
エレピセクションでは、「CP80」やローズ系、ウーリッツァー系など代表的なサウンドを多数搭載。オルガン音色はサンプルタイプのため、オルガン演奏にこだわりたい方には「YCシリーズ」もオススメです。その他、ストリングスやシンセ用のSubセクションもあり、すべてのセクションで操作パネルが直感的に配置されているので、必要なパラメーターへのアクセスもスムーズです。
Roland RD-2000 EX

今回ご紹介する中では、ちょっと毛色の異なるステージピアノです。
V-Pianoモデリング・テクノロジーとSuperNATURALサウンド・エンジン、バーチャル・トーンホイール、そしてPCMの4つの音源を採用し、ステージピアノでは多い1,100以上もの豊富な音色を内蔵しています。操作面は、独立した専用のセクションがないため、他のモデルと比べて直感的とは言いにくいですが、その分カスタマイズ性や内部設定の自由度は非常に高いです。
また、内部音源はもちろん、ソフトウェア音源など外部機器と連携し、最大8つの音色(ZONE)を自在に割り当てることができるため、マスターキーボードとしても優れた機能を持っています。
オススメ5機種比較表
ブランド | Roland | Yamaha | Yamaha | Nord | Nord |
品番 | RD-2000 EX | CK88 | CP88 | Nord Grand 2 | Nord Stage 4 |
鍵盤タイプ | PHA-50 | GHS | NW-GH3 (グレードハンマー3) | Kawai Responsive Hammer action | トリプルセンサーハンマーアクション |
鍵盤素材 | ハイブリッド (木材×樹脂)・象牙調/黒檀調 | 樹脂 | 木製・象牙調/黒檀調 | 象牙調 | |
最大同時発音数 | V-Piano: 全鍵, その他: 128音 | 128音 | 128音 | ピアノ:120 シンセ:不明 | ピアノ:120, シンセ:46 |
マルチティンバー (最大パート数) | 8パート以上 | 3パート | 3パート+1 | 4パート | 7パート |
音色数 | 1,100以上 | 363 | 129 | 384 | |
音色追加/変更 | 対応 | 非対応 | 非対応 | 対応 | 対応 |
出力端子 | XLR + MAIN(TS) + SUB(TS) | TS | TS + XLR | TS | TS x 4 |
音色切り替え音切れ防止 | 一部音源非対応 | 非対応 | 対応 | 対応 (プログラム) | 対応 (プログラム) |
シーン/ライブセット登録数 | シーン:100 プログラム:300 | ライブセットサウンド: 160 | ライブセットサウンド: 320 | プログラム: 576 (ライブプログラム: 6) | プログラム: 512 (ライブプログラム: 8) |
ペダル/FC接続端子数 | 4系統 | 2系統 | 4系統 | 4系統 | 6系統 |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 1412 × 367 × 140 mm | 1333 × 354 × 148 mm | 1298 × 364 × 141 mm | 1286 × 396 × 174 mm | 1282 × 349 × 121 mm |
重量 | 21.7kg | 13.1kg | 18.6kg | 21.3kg | 19.6kg |
スピーカー出力 | 非搭載 | 6W x 2 (内蔵) | 非搭載 | 非搭載 | 非搭載 |
Bluetooth機能 | 非搭載 | オーディオ受信 | 非搭載 | 非搭載 | 非搭載 |
USBインターフェース機能 | オーディオ / MIDI | オーディオ / MIDI | オーディオ / MIDI | MIDI | MIDI |
外部入力端子 | ステレオミニ + MIDI | MIC/LINE + MIDI | LINE + MIDI | ステレオミニ + MIDI | ステレオミニ + MIDI |
電池駆動 | 非対応 | 単3電池 × 8 | 非対応 | 非対応 | 非対応 |
まとめ
というわけで、今回はオススメのステージピアノをいくつかご紹介してきました。
「どれが一番いい?」とよく聞かれますが、結局のところステージピアノ選びは、その人が今までどんなピアノを弾いてきたか、どんなサウンドやタッチを好むか、どんな場面で使いたいか、、、つまり“自分にとってのこだわり”によって本当に人それぞれだと思います。
大切なのは、「今の自分にとって、何が一番大事なのか」を考えること。そして、タッチ、音色、操作性、拡張性などに優先順位をつけていくと、きっと後悔のないピアノ選びができるはずです。
そのためにも、ぜひ店頭で実際に音を出して、一つひとつ鍵盤に触れてみてください。記事でご紹介したポイントを頭に入れつつ、ピアノ選びの時間さえ楽しんでもらえたら嬉しいです。
あなたにぴったりの一台が見つかりますように!
この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。