皆様、こんにちは。

弦楽器技術スタッフの高瀬です。




先日、室内用ハンモックを購入致しました。

かねてよりハンモックで寝てみたいという願望がありましたので、この時を大変楽しみにしていました。


実際に寝てみたところ、想像以上の快適さです。

適度な揺れが心地良いので、寝ようと思えばすぐに寝られます。

とてもおすすめです。




本日は

  • ニスコーティング
  • リタッチ
  • 駒反り直し

を行わせていただきました。

楽器をお預けいただき、ありがとうございます。


ギアペグ交換


女性でヴァイオリン、特にチェロを弾く方に多いと思いますが

  • チューニング時に、押し込む力が足らなくてペグが止まらない
  • そもそもペグが重くて回せない

このような悩みをお持ちの方、いらっしゃるのではないでしょうか。


今回はそんな悩みを解消できるパーツ、『ギアペグ』についてご紹介したいと思います。

(昨日まで『1日で出来る音の変え方』シリーズをご紹介していましたが、一旦お休み致します)


『ギアペグ』とは

ギターやウクレレを演奏する方なら「ギアペグ」と聞いてどのようなものか想像出来ると思いますが、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ奏者だと中々想像が出来ないかもしれませんね。


ギアペグとは、ペグの内部に「精密ギア」を内蔵させた特殊なペグになります。

当工房で使用しているギアペグはこちらになります。



正式名称は、ドイツのメーカー「Wittner(ウィットナー)社」が開発した『ファインチューン・ペグ』というパーツです。

ぱっと見は通常の黒檀ペグですが、先ほど説明した通り内部に「精密ギア」が内蔵されているため、テールピースに付いているアジャスターを回す感覚と同じように、ペグでチューニングが出来るという優れたペグです。


ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ全てに対応しています。



交換方法

交換方法は、通常の木製ペグの交換とあまり大差ありません。


1. サイズの合うギアペグを用意する

オリジナルのペグ穴サイズを計測し、一番近いサイズのギアペグを用意します。

サイズを間違えると、ペグ穴をかなり拡げる必要があり、少なからず楽器に負担がかかります。


2. サイズの近いギアペグに合わせて、ペグ穴を拡げる

丁度良いサイズが用意できたら、ギアペグに合わせてペグ穴を少しずつ拡げます。


3. ペグが抜けにくくなるように、「目止め」を行う

しなくても問題は無いのですが、長年の使用によりペグ穴が痩せて、ギアペグが抜けてしまうことがあります。

これを予防するために、ペグ穴部を痩せにくくする処置「目止め」を行います。

もちろんこの処置で完全にペグ穴痩せを防げる訳ではないので、あくまでも対策です。

目止めをした後、もう一度ペグ穴を整えます。


4. ペグの出っ張りを切り落とす

ここは通常のペグ交換と一緒です。

出っ張りが残っていると見栄えが良くないので、切り落とします。

木製のペグだと切断面の加工が容易なのですが、ギアペグは少々時間がかかります…


5. ギアペグをしっかりと押し込み、仕上げる

最後に、ギアペグが抜け落ちないようにしっかりとペグ穴に押し込み、完成となります。

接着剤等は使用しませんので、ギアペグに付いている突起の食い込みだけで固定します。



交換の手順は以上となります。


通常のペグ交換と異なる点は、

ペグ穴の大きさにペグを合わせるか、ペグの大きさにペグ穴を合わせるか

この違いが大きいでしょう。

木製ペグで交換する場合は、(ペグ穴の状態が良好なら)ペグ穴は軽く整える程度の加工で済ませ、主にペグを削ってフィッティングします。

そうすることで交換前のペグも今後使用出来るかもしれませんし、何より楽器本体を削らなくて済みます。


一方、ギアペグは逆の方法になります。

ギアペグは削ることが出来ないので、どうしてもペグ穴を削ってフィッティングしなければなりません。

では、ペグ穴の状態によってはかなり楽器本体を削ることになるのでは…

と思うかもしれませんが、ご安心ください。

『ファインチューン・ペグ』には楽器ごとにS.M.Lとサイズ分けされており、楽器のペグ穴に合ったペグを用意することが出来ます。

つまり、ペグ穴削りを最小限に抑えることが可能ということです。


※オリジナルのペグの太さ、ペグ穴の位置によっては、ペグ穴を埋め直して加工する「ブッシング」という修理が必要になる場合がございます


使用感

実際に使用すると、どのような感覚なのか…

当店の女性スタッフ、インストラクター3名にご協力いただき、チェロの木製ペグとギアペグの使用感を体感していただきました。



チェロ木製ペグ

木製ペグのチューニングは、どのスタッフも苦戦していました。

理由はやはり

  • 回してもペグが緩む
  • 力加減が分からない

以上の2つでした。

そもそもチェロのチューニング自体、慣れていないと難しいということもありますが…

慣れたとしても、今度はペグを押し込む力加減に悩まされてしまいます。


チェロギアペグ

では、ギアペグを体験していただきましょう。

もちろん全員、ギアペグに触れたことはありません。


スタッフ 鹿目「えっ…」


スタッフ 上川「すごい…」


インストラクター 寺田「ちょー楽…」


明確な感想は得られませんでしたが、ギアペグの回し心地に感動していただけたようです。

もう少し長い感想を得られるとブログ的には良かったかもしれませんが、言葉を失う程快適な回し心地になると分かっていただければと思います。

(ご協力ありがとうございました!)

どなたも「ペグを押し込む」という動作に苦労していたようなので、ギアペグになり「押し込む」という動作が不要になったことが驚きの要因ではないでしょうか。



音への影響、メリットとデメリット

ギアペグへの交換を検討されている方が一番気になることは「音への影響」と「楽器へのダメージ」だと思います。


音への影響、楽器へのダメージ

確かに、木製ペグから樹脂製の(しかもギアが内蔵された)ペグへの交換は、技術者から見ても不安要素はありました。

なんだかんだ言っても木製ペグの方が音が良いのは間違いないです。

しかし、音の変化具合は「微々たるもの」です。

実はテールピースやあご当てに比べると、ペグ交換による音の変化は小さいです。

楽器によっては、魂柱の位置調整や弦交換で木製ペグの時の音にグッと近付けることさえ可能です。

(もちろん、全く同じというわけにはいきませんが)


楽器へのダメージですが、ほとんど無いと考えていただいて問題ありません。

ギアペグは表面に突起状の細い線が4本あるのですが、この線状の突起がペグ穴に食い込んで固定されています。


画像でも分かる通り、かなり細い突起です。

この程度なら楽器には影響はありません。

固定方法はこの突起による食い込みなので、接着剤も必要としません。

つまり、突起がある以外は木製ペグとほとんど変わりないのです。

(接着剤をべたべたに塗ってある場合は話は別ですが…)


メリットとデメリット

ここで、一度ギアペグ交換のメリットとデメリットを挙げてみましょう。


メリット

  • ただ回すだけでチューニングが出来る
  • アジャスターのように、チューニングの微調整が出来る
  • 音が狂わない
  • テールピースをアジャスター無しタイプに付け替えられる→音質が良くなる

デメリット

  • 弦交換に手間がかかる、専用の道具が必要
  • 少なからず音に影響がある
  • 内部のギアが破損すると、修理が出来ない
  • 人によっては、ギアを回した時の音が気になる

思いつく限りでは、この位になります。

デメリットに関しては、1番の気がかりは音への影響でしょう。


弦交換の手間に関しては専用の道具さえあればそこまで困難ではありませんし、面倒なら工房へ持参いただければこちらで弦交換を致します。


内部ギアの破損も滅多に起こることはなく、言ってしまえば木製ペグも折れる時は折れます。

ギアペグにしても木製ペグにしても、どちらも消耗品なのでいずれは交換が必要になります。


ギアの回転音もほとんど発生しません。

静まり返った部屋の中で耳を澄ますと、僅かに「カカカッ」と聞こえるかどうか、という大きさです。


なので、音に関してかなりの拘りが無い限りは、ギアペグは技術者として自信をもっておすすめ出来るパーツです。




最後に

ギアペグの弦交換に手間がかかる、と上で書きました。

どういうことかと言いますと、ギアペグは通常ペグより何倍も多く回さないと、弦が巻けません

ギア式なので当たり前と言えば当たり前(でないと微調整が出来ません)ですが、ギアペグの弦交換は本当に手間がかかります。

しかし、これは「専用の道具がない場合」の話です。


実はギアペグ専用のペグ回し道具があるので、ご自身で弦交換を行いたい、という方は是非一緒にお買い求めください。


専用道具が無くても弦交換は可能ですが、4本全て手作業…気が遠くなると思います。

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この記事を書いたスタッフ

マークイズ福岡ももち店高瀬

弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!

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