「DTMを始めてみたいけれど、結局どれを買えばいいの?」
これまで数回にわたり、パソコン、DAWソフト、ヘッドホン、キーボードなど、DTMに必要な機材の選び方を解説してきました。しかし、いざ購入しようとすると、選択肢が多すぎて組み合わせに悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
機材選びで大切なのは、「自分の作りたい音楽」と「現在の環境(予算・スペース)」のバランスです。最初からプロ仕様の最高級品を揃えるのが正解とは限りませんし、逆に安さだけで選んで後悔することも避けたいものです。
そこで今回は、これからDTMを始める方のために、厳選した 4つの推奨セットを紹介します。
- とりあえず安く始めたい方向けの「低価格予算セット」
- 手軽に始めてみたい方向けの「コストパフォーマンス重視セット」
- 上達しても長く使い続けられる「王道スタンダードセット」
- 最初から最高の環境で制作に没頭したい「プロユース・こだわりセット」
あなたのスタイルにぴったりの組み合わせを見つけて、音楽制作の第一歩を踏み出しましょう!
DTMに必要なもの:機材チェックリスト
前の記事でも紹介していますが、改めてDTMを始める上で「必ず必要なもの」と「あると便利なもの」を整理しましょう。
絶対必要なもの
- コンピューター
- 音楽制作ソフト(DAWソフト)
- オーディオインターフェース
- ヘッドホンまたはモニタースピーカー
可能であれば揃えたいもの
- MIDIキーボードやMIDIコントローラー
- マイク
まず、コンピューターとDTMソフトは必ず必要といえます。これがないと始まりません。どんなパソコンを選べば良いのか、DTMソフトとはどのようなものなのかを知りたい場合は下記の2つの記事を参考にしてください。
そして音の出口となるヘッドホン(またはスピーカー)も欠かせません。 「ヘッドホンとスピーカー、どちらから揃えるべきか」については、下記の記事をご覧ください。
オーディオインターフェースは「絶対揃えるべき?」といわれたら、そのとおりです。ただ、Macは内蔵オーディオ周りの仕様が比較的統一されていて、まず“音が出る”ところまでは行きやすいので、ソフトやマシンスペックにもよりますが、ヘッドホンを挿してそのまま再生できるケースも多いです。
一方でWindowsはPCメーカーや構成がさまざまで、環境によっては設定やドライバー周りで音が出ない/不安定といったことも起こりえます。
これらのように、内蔵オーディオでも「鳴る」場合があるのですが、制作となるとドライバーの対応や安定性のほか、レイテンシー(遅延)、ノイズ、入出力の数などの面で不利になりがち。なので、快適にDTMをするならオーディオインターフェースの導入をおすすめします。
なお、PCに内蔵されている音声機能は、外付けのオーディオインターフェースと区別して「内蔵オーディオ(サウンドカード)」などと呼ばれるのが一般的です。
MIDIキーボード、あるいはMIDIパッドは、どちらかは揃えたいところ。
「ピアノ弾けないし…」「リズム感ないし…」「不要なのでは?」と思うかもしれませんが、あると便利なのです。どのようなところが便利なのかは下記の記事でご紹介していますのでご覧ください。
そして、マイク。こちらは楽器やボーカルを録音するのであれば必要です。なので、全員に必須というわけではないかと思います。
ではおさらいができたので、推奨セットを紹介する前にそれぞれの選ぶ基準を説明したいと思います。
推奨セットの「選定基準」について
推奨セットを決めるにあたって、選び方の基準と補足を説明したいと思います。
DAWソフト:初心者にこそ「上位版」を勧める理由
まず、DAWソフトはどのメーカーも1~4グレードの 上位版/下位版がありますが、乱暴なことをいえば、メーカーによっては変わりますが基本的には初心者であっても最上位をおすすめします。理由は大きく分けて3つあります。
便利な「制作支援機能」が省略されていないから
一般的に、メーカーはより便利で使いやすい機能を上位版に搭載するため、下位版にはそれらが入っていないことも多いです。その結果、下位版では、いわば昔ながらの少し面倒な手順で制作しなければならない場面が出てきます。
実は、先進的な機能が充実している方が、視覚的にも分かりやすく、初心者にとっても飲み込みやすいのです。たとえば、編集内容が見やすくグラフィック表示され、直感的に操作できるツールがありますが、こういった機能が下位版では省かれていることがあります。そうなると、「昔ながらの手間のかかる入力作業」を強いられがちです。
さらに、コード進行を助けてくれたり、楽曲のパターンを提案してくれたりと、音楽理論や知識を補佐する機能も、上位版にしか搭載されていないケースがあります。これらがないと、知識ゼロの状態から自力で解決しなければならず、ハードルが高くなってしまいます。
自分の「やりたいこと」がまだ定まっていないから
DTMと一口に言っても、「楽譜入力で作りたいのか」「ループ素材を並べて作りたいのか」「自動演奏機能を使いたいのか」、そのスタイルは千差万別です。 上位版はすべてのスタイルに対応していますが、下位版は特定の機能が制限されていることがあります。「これがやりたかったのに、自分のソフトにはその機能がない…」というミスマッチを防ぐためにも、あらゆる可能性を網羅した上位版が安心です。
「先生(解説動画)」と同じ画面で学べるから
YouTubeやWebサイトにある解説の多くは、機能をフルに使える「最上位版」の画面で説明されています。 いざ勉強しようとしたときに、「動画と同じメニューがない!」「ボタンが見当たらない!」という躓きは、初心者にとって大きなパニックの原因になります。「機能が削除されていない上位版」を選ぶことで、余計なトラブルを避け、安心して制作や学習に取り組むことができます。

オーディオインターフェース:最初はコスパ重視でOK
ここは価格帯がピンキリですが、使用するDAWソフトやOSに しっかり対応しているものであれば、最初は安価なモデルで十分です。 DTM機材の中で、ヘッドホンの次に買い替える可能性が高いのがこのインターフェースです。まずは手頃なもので始め、自身のレベルアップに合わせて段階的に良いものへ変えていくのが賢い選び方です。 (※ただし、「最初からドラムを録音したい」など用途が決まっている場合は、必要な入力数を備えたモデルを選びましょう)

ヘッドホン / スピーカー:モニター用を使えばOK
揃えるべきものの中では 最もピンキリの世界です。最初は「作品のクオリティ」云々よりも、「DTMに適した道具(スタジオモニター)」を使うことが大切です。 高価なものである必要はありませんが、どっちかに絞ってでもしっかりしたものを最初に選択する方がよいかと思います。消耗品でもあるので、インターフェース同様、段階的にアップグレードしていけばOKです。

MIDIキーボードやMIDIコントローラー
鍵盤奏者であれば最初から揃えた方がよいです。そうでなくても、後々揃えると便利かと思います。鍵盤奏者でない場合はコンパクトでも鍵盤数が少なくても良いですが、鍵盤奏者であればデスクスペースのこともありますが49鍵盤以上はほしいところです。
以上、推奨セットをご紹介する前の前提(諸注意?)でした。では推奨セットをご紹介します。
おすすめDTMセット
価格が 異なる4つのグレードをご紹介します。
とりあえず安くすませたい!「最低限予算セット」

【ここがポイント】
YAMAHA(Steinberg)の「UR22MK3」は、DTMの定番インターフェース。USB-C接続で動作し、音質も堅実です。配信に便利な「ループバック機能」も搭載しているため、将来的に「歌ってみた」など配信もやってみたいという方にも対応します。 ここに組み合わせるのは、SHUREの「SRH440A」。これはモニター用ヘッドホンとして、初めて購入される方が多い人気モデルです。 ケーブルやイヤーパッドが交換可能なので、断線や劣化を恐れずに長く愛用できる点が魅力です。DAWはインターフェースに付属する「Cubase AI」を利用することで、初期費用をグッと抑えました。「まずはDTMがどんなものか触ってみたい」という方に最適なセットです。
この構成なら、3万円台でスタートすることができます。予算的にとりあえずはすぐに始めたい!という方向けです。



手軽に始めてみたい!「コストパフォーマンス重視セット」

【ここがポイント】
最低限セットをベースに、DAWソフトを製品版のミドルグレード「Cubase Artist」に変更した構成です。 付属版(AI)と異なり、Artistグレードになれば機能制限が大幅に緩和されます。前述した通り、DAWのグレードは「便利さ」に直結します。「やりたいことがあるのに、ソフトの制限でできない」「古いやり方しか選べない」というストレスを減らし、スムーズに制作を学ぶことができます。 もう少し予算があれば、最上位版の「Cubase Pro」にする、あるいは小さくてもMIDIキーボードを追加してみるのもおすすめです。組み合わせの「UR22MK3」は、もし、買い替えたりしても、こちらはiPhone/iPadのアプリ「Cubasis LE」が利用できるので、モバイル制作や配信用と使い分けが可能なところもおすすめです。




迷ったらコレ!「王道スタンダードセット」
- DAW:Steinberg Cubase Pro
- オーディオインターフェース:MOTU M2
- ヘッドホン:SHURE SRH440A
- スピーカー:ADAM D3V ※カラー2種から選択可能
- MIDIキーボード:Novation Launchkey Mini 37 Mk4 ※カラー2種から選択可能

【ここがポイント】
初心者が選んで欲しいものを詰め合わせた王道セットです。 DAWは「Cubase Pro」。初心者からプロまで多くのユーザーが愛用するド定番ソフトです。すべての機能が解放されているため、解説動画との食い違いに悩むことなく、効率的に学習と制作を進められます。 インターフェースの「M2」は、「UR22MK3」のような付加機能は最低限にしつつ、音質のクオリティを高めたモデル。同クラスの中で頭一つ抜けた音質を誇ります。
スピーカーは「D3V」。ペアで販売されていて低価格ながらしっかり定位や距離感もつかみやすいです。そして小型でデスクに置きやすいのもポイント。コンパクトなモニターですが、低域再現を大きく犠牲にしているわけでもなく、かなりパワフルです。間違いなくこの価格帯ではトップを争うほどコスパ高いといえます。
そして、Launchkey Mini 37 Mk4ですが、こちらはミニ鍵盤を採用し省スペースで設置しやすいMIDIキーボードです。ミニ鍵盤で鍵盤数も限られるので、ピアノ演奏者には物足りないですが、ちょっとした入力だけであれば問題ないかと思います。そして、Cubaseとの連携もバッチリ。ミキサーなどの基本的な操作に加えてシンセなどの操作を物理で行うことができます。また、曲作りを補佐するスケールおよびコードモードは初心者にとって嬉しい機能のひとつ。例えば、本体でスケール設定(音階)ができます。設定したスケール以外を弾いても入力されないようにしたり、近い音に補正して音を外さないようにしたり、演奏しやすいように白鍵に割り当てたりできるのです。スケールは日本の和風的なものからジャズなど全30個入っているので、そのようなテイストの曲を作りたいといったときにも便利です。そして、コードを知らなくてもパッドを押すと指一本で鳴らすこともできます。40種類のバンクが用意されているので、普段使用している和音ではない新しいひらめきが生まれるかもしれませんね。
このように、王道セットでは、シンプルだけど長く重宝するものを選択しています。もし予算が厳しい場合は、最初はDAWとオーディオインターフェースだけ、といった揃え方でもよいかもしれません。







最初から妥協なし!「プロユース・こだわりセット」
- DAW:Steinberg Cubase Pro
- オーディオインターフェース:MOTU M2
- ヘッドホン:beyerdynamic DT 770 PRO X
- スピーカー:Neumann KH 80 DSP A G EU & MA1
- MIDIキーボード:Novation Launchkey Mini 37 Mk4

【ここがポイント】
DAWとオーディオインターフェース、MIDIキーボードは王道スタンダードセットと同じものですが、音の出口のみ変更しています。オーディオインターフェースは「M2」なの?と心配された方もいるかもしれませんが、前述通り、オーディオインターフェースは買い替えるものが前提となります。しかし、こだわっていくとなると、その方の方向性がわからないと難しいため、「あえて」同じものをセレクトしています。
ヘッドホンは「DT 770 PRO X」です。これは密閉型なのでマイク録音にも使えますし、ミックスまで対応します。意外と重要なのが、ヘッドバンドの交換です。使っているとボロボロになってしまうのですが、このモデルは交換が可能。他メーカーではイヤーパッドは交換品が用意されているものもあるのですが、ヘッドバンドはなかったりするのです。
そしてスピーカーは「KH 80 DSP A G EU」。部屋の大きさにもよりますが、6〜10畳くらいの自宅環境であれば十分すぎるほどの性能です。ミックス~マスタリングまでかなり精度高く制作できます。また、キャリブレーション機能をもっているのも一つの特徴。まだまだ浸透はされてはいませんが、個人的に「私の部屋は音響対策がバッチリ!」という方以外は必須だと思っているのがキャリブレーション。部屋の音響特性に合わせて理想的なモニタリング環境へ補正してくれます。詳しくは下記のKH 80 DSPを紹介した記事をご覧ください。
さて、この5つをセットにすると、かなり本格的です。なので高額になります。予算に糸目がない方、ガチでプロを目指している方向けですね。もし、この中で買い替えるものがあるとするならインターフェイスはもっと上位のものがあるくらいです。
紹介してはみたものの、ここまでは最初に揃えるのは難しいと思います。スタンダードで始めこれらをステップアップとして参考にしていただけたらと思います。







以上、4つのセットをご提案しましたが、予算と目的に合わせて紹介したセットを参考にセレクトいただければと思います。もちろん、セットではなく機材をアップデートしていくのもありだと思います。
もし、この機材で迷っている、などがあればお近くの店舗のスタッフまでお気軽にご相談ください。
まずは、DTMerへの一歩を踏み出せるようにサポートいたします。











