【マイスター工房通信】弓のヘッド折れ修理について

みなさま、こんにちは。弦楽器修理担当の鍵主です。
3月に入り暖かくなり春の陽気が近づくのを感じてきました。今年は暖冬ということで厳しい寒さというのはあまり感じませんでしたが、暖冬の影響か花粉の量が多い様に思います。暖かくなるのはいいですが、花粉が落ち着くまでしばらく辛い時期になりますね。

弓のヘッド折れについて

衝撃的な画像ですが、前回に引き続き今回も折れてしまったリペアのお話になります。
今回折れてしまったのは弓のヘッドです。
状況としては、練習中に手から滑って落としてしまったところ割れてしまったそうです。リペアの際にはどのような状況で事故が起きたかを確認するのですが、聞いているだけで胸が痛くなってきます。
練習では座っていたのでそれほど高いところから落としたわけではありませんが、今回は運悪くヘッドが折れてしまいました。

写真のようなヘッド折れは、弓の折れる事故で多いパターンですが、ヘッドをわりと強く譜面台や壁にぶつけても折れないときもあれば、演奏中にいきなり折れてしまったり今回のように少し落としただけで折れてしまうこともあり、こうすれば「折れる、折れない」ということがはっきりと言えないところがなんとももどかしいところでもあります。
弓のヘッドは非常に力がかかる場所であり、折れたところは接着をしたとしてもそのままですと再び取れてしまう可能性があるので、ヘッドに切れ込みを入れて補強のクサビを入れ込む修理が必要となります。
ヘッドの修理はある程度料金がかかってしまうのと、強度などが完全に元通りになるわけではありません。
そのため入門用の弓などですと、修理費が購入金額を上回ることもありますので、その場合は基本的にはお買い換えをお勧めしています。

弓のヘッドが折れた時は

弓のヘッドが折れた時は予期せぬハプニングで焦ってしまうかもしれません。
ヘッド折れを修理する時は折れた断面が綺麗にそのまま残っているのが望ましいです。また、折れた際に折れ目から取れた細かい破片があるようでしたら、それらも必要です。
断面が綺麗に残っていないとうまく接着出来ませんし、破片があればなるべくきれいに直すことが出来ます。
まずヘッド折れの修理の場合は断面を梱包材などで包んで傷つかないように保護して、破片があるようでしたら無くさず持ってきて頂くと助かります。

弓のヘッド接着

まずは弓のヘッドを接着します。修理ではニカワを使うのが基本ですが、フェルナンブーコは樹脂分などが多く繊維がうねっているため普通の木材に比べて接着が難しく、弓は強い力がかかるのでニカワではなく他の接着剤を使います。

接着後の写真です。接着の際に接着面がずれて段差にならないように慎重に作業をして何度も何度も確認をします。

クサビ用の溝切れ込み作業

接着が出来たら弓のヘッドに補強のためのクサビを入れる溝を作るため作業になります。これは色々な方法がありますが、工房では精密旋盤を使って作業をしています。手で溝をつくるよりも綺麗に正確に溝を作っていくことができます。旋盤とはいえセッティングはアナログですので、弓の固定角度や高さなどをチェックして弓がきちんと真っ直ぐにセッティングされているかなどをチェックします。こちらも一度切れ込みを入れ始めると後戻りが出来ないので何度もチェックをします。

セッティングをしたら鋸刃に当たらないようにずらして実際に削る時と同じように動かして切れ込みがどのように入っていくかチェックします。

そして削る際には弓に不必要な不可がかからないように慎重に少しずつ削っていきます。普段は手で削ると削りごたえで色々と分かるので自然と調整しながら削りますが、機械ですと必要以上に力がかかっても分かりづらいので慎重に作業を進めます。

旋盤で使っている鋸刃もマイスター茂木が色々調べて試したものを使っています。実は楽器の修理をするときは普段は殆ど使わなくてもここぞという時に必要な道具があり、より良いリペアをするためにも普段からアンテナを張って色々を調べて試していくことが必要です。作業をする前の道具を探したり作ったりする時から修理は始まっているともいえます。

クサビ作成

溝ができたら補強のクサビ材を作成します。クサビ材は弓と同じフェルナンブーコで作ります。割れの補強のため、弓のヘッドと木目が交差するように材料を用意します。溝にぴったりと入り、きつ過ぎず緩すぎず丁度いい均一の厚みにします。厚みの調整は0.1mm単位なので、薄くなりすぎない様に慎重に作業をしていきます。

厚みだしが終わったら実際にクサビを削って隙間なく入るように形を削ってフィッテイングをして接着をします。

クサビ成形、ニスリタッチ

クサビを接着したら元々の弓の形にあるように細かくチェックをしながら削っていきます。

弓を傷つけないように慎重に削っていきます。

削り終わったら折れたところとクサビのところを目立たないようにニスで補修をして完了です。

今回は欠けた破片なども殆どなかったので、綺麗に直すことが出来ました。
最後に、作業の際は毛を外す必要があるので、改めて毛替えをすれば演奏可能となります。
勿論リペアが難しいケースもありますが、もし弓が折れてしまった、楽器の縁が欠けてしまったなど何かありましたら、一度ご相談頂ければと思います。

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この記事を書いたスタッフ

シマムラストリングス秋葉原鍵主

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