電子楽器や打ち込みサウンドをバンド演奏の中に取り入れて、コンピューターを制御することが「マニピュレーション」で、それを担当する人が「マニピュレーター」と呼ばれます。
マニピュレーターはライブで何をしているのでしょう?
それぞれのバンドのスタイルによってマニピュレーターの役目は若干異なりますが、共通している事は、「シーケンス(自動演奏)のスタート、次に演奏する楽曲データのロード、ドラマーへのクリック音(DAWと同期させるためのガイド音)の送信や、サウンド素材のエフェクティブな操作」のようです。この他にはシーケンスをリアルタイムに変化させたり、即興でドラムループを乗せるといったプレイスタイルもあるようですね。オーディオファイルをパソコンで手軽に扱えるようになった、現在ならではのスタイルですね。
他にもバンドの生演奏をパート別にDAWに録音しておけば、万が一ベースが遅刻しても大丈夫!!(^^;
バンドサウンドの中にコンピューター(電子楽器、打ち込み)を取り入れ、マニピュレーターがステージに立ってライブパフォーマンスをするバンドも年々増えてきています。最近では
が、代表格ではないでしょうか。
SEKAI NO OWARI / スターライトパレード
MAN WITH A MISSION / Smells Like Teen Spirit (Nirvanaのカバー!)
冒頭のリズムやボイスサンプル、そしてスクラッチ音などがコンピューターから出ているようですね。それとバンドサウンドを合わせることによってミクスチャーバンドとしての存在感が増しているのがお分かりいただけると思います。
ライブでの、あの分厚いサウンドはマニピュレーターの存在があってこそだったんですね。
両バンドともにコンピューターをセットして、バンド演奏と打ち込みサウンドが共存していますが、MAN WITH A MISSIONはマニピュレーションに加え、DJ的なスクラッチをその場でプレイしているのがわかりますね。
マニピュレーターはいつからステージに立つようになったのでしょう?
今からさかのぼること35年前、既にマニピュレーターがステージに立ってプレイをしていた先進的なバンドがありました。そうです。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)です。巨大なモジュラーシンセに初期のデジタルシーケンサー、Roland MC-8(※)を接続して自動演奏を行い、メンバー全員にクリック音を送信して、「コンピューターに合わせて」演奏していました(メンバーがヘッドフォンをしているのはそのためです)ちなみに、コンピューターなどの演奏に合わせてバンドが演奏をする事を「同期」演奏と言います(なにと同期するかは、テープ、CD、などさまざまでした)
YMO - Behind The Mask (Budokan 1980)
この曲はエリック・クラプトンもカバーしていますね。ステージ中央にズドンと構えたタンスのようなモジュラーシンセ、それをコンピューターで操るメンバーこそ「四人目のYMO」と呼ばれたマニピュレーターの草分け的存在、シンセサイザー・プログラマーの松武秀樹さんです。
(※)Roland MC-8 MicroComposer :Wikipedia
メーカーの開発者からも「まさかMC-8をステージで使うとは想像もしなかった」と言われるほどテクノロジーを追求し、それをやってのけたバンドがYMOだったのですね。当時のコンピューターは熱や電圧の差にとても弱く、暴走してしまうといったトラブルもあったようですが「ライブでコンピューターを使う」というYMOのコンセプトは、以後、世界の音楽に多大な影響をあたえました。
このようにコンピューターとレコーディング、ライブは、実は昔から切っても切り離せない関係性だったのです。時代を経て、音素材をコンピューターで柔軟に扱えるようになった今だからこそ、マニピュレーターがバンドの可能性を広げさせてくれる重要な存在になっているようです。
「クリック」や「同期」については別記事にてご紹介いたします。
マニピュレーターの機材を導入するために必要な機材
マニピュレーションをするために最低限、必要なものは以下の2つ。
・オーディオ・インターフェース
マニピュレーションを行うには上記の二つが最低限、必要になります。DAWにオーディオ素材やクリック音を用意し、オーディオ・インターフェースを経由して音を出します。マニピュレーションを行うにあたって、どのような用途に使うのかは、使うDAWによって異なってきます。
実際はどんなDAWを選べば良いの?
ポップス、ロックなどのいわゆる「シーケンスのスタートや、楽曲のロード」に使用する場合
DAWの再生とクリック音の送信ができれば、バンドメンバーは演奏できますので、CubaseやSONAR、Pro Toolsなどの、普段使用しているDAWをそのまま使用することができます。
※これからDAWソフトを購入しようとしている方は右記の記事を参考にしていただければと思います。音楽制作のすゝめ 002 DTM(DAW)ソフト選び
Steinberg CUBASE
こちらは最新版のSteinberg CUBASE Pro 10
クラブミュージック系や、打ち込みモノを派手に聞かせたい場合
DAWから出る音を、その場でエフェクティブに加工したり、ボイスループやドラムループなどを即興的に扱いたい場合には、オーディオデータを柔軟に扱うことができるDAWが必要です。
「再生だけではなく、自分もパフォーマーとして加わりたい!」という考えをお持ちでしたら、AbletonのLiveが秀でているのではないでしょうか。
Ableton Live
オーディオ・インターフェース
音を出力する際、コンピューターのオーディアウトから音を出すことも可能ですが、ノイズや音のズレなどの問題がありますのでオーディオインターフェースは必須と言えるでしょう。前述のクリック音を使う場合は、複数の出力を持ったマルチアウトタイプのオーディオ・インターフェースが必要になります。オーディオ・インターフェースの記事についてはこちらを参照下さい。
Steinberg UR44
Steinberg UR22 MkII
なお、Ableton Liveのように音素材やパラメーターをリアルタイムに変化をさせる事のできるDAWを使う際には、MIDIパッドやMIDIキーボードなどのコントローラーがあると非常に便利です。
Ableton LiveとNovation Launchpadを組み合わせれば、こんなパフォーマンスもできちゃいます!設定さえしっかり行っていればあとは叩きまくるのみ!「音を自由自在に変化させる」という感覚が分かりやすい動画です。
Novation Launchpad - New controller for Ableton Live
novation Launchpad Pro
novation Launchkey 25
最新のDAWソフト、Bitwigも注目ですね。
BITWIG STUDIO BITWIG
Ableton Liveの元スタッフが開発に携わっており、オーディオデータの編集が非常に柔軟に行える最新鋭のDAWになっています。
いかがでしたでしょうか。このように「バンドサウンドに厚みを出したい」「楽器では表現できないエフェクト効果を加えていきたい」と考えている方々はマニピュレーターという存在に注目してみるのも良いかもしれませんね。
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・MAN WITH A MISSION