駒交換 ~ローハートタイプ~ 【弦楽器工房ブログ】
皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
10月と言えばハロウィンですね。
周りの人に特に公表はしていませんが、カボチャをくり抜いて作る「ジャック・オ・ランタン」作りが密かなマイブームでして、実は毎年一人で楽しんでいます。
通常はじっくりと2時間~5時間かけて大物を仕上げるのですが…
練習を兼ねて休憩時間の10分程を利用し、ミニジャックを製作してみました。やはり小さいと加工が簡単で、抉りやすいです。
本日は
- 弓チップ交換
- 横板割れ修理
- 毛替え
を行わせていただきました。
ご来店いただき、ありがとうございます。
今回は駒の種類『ローハートタイプ』について、簡単にご紹介させて頂きます。
ローハートタイプの駒
ローハートとは
まず、『ローハート』とは何のことかをご説明しますと、読んで字の如く『ハートの位置が低い』駒です。
駒のハート…?
と、どこの事を指しているのか分からない方も多いと思いますので、こちらの画像をご覧ください。
どうでしょうか。
鉛筆で四角く囲った所がハートなのですが、見ようによっては潰れたハートに見えなくもないと思います。
これが駒の『ハート』であり、ローハートタイプになると、このハートの位置が下へズレるという訳です。
画像左がローハートタイプで、右が通常の駒です。
並べるだけだと分かりにくいので…
定規を当ててみました。
ローハートタイプの方が、ハートと定規の接する距離が短いことがお分かりいただけると思います。
ローハートの役割
では、なぜローハートタイプが存在するかという話になりますが…
やはり一番の役割は『ネックの下がった楽器に使用する為』でしょうか。
楽器を長年使用していると、弦の張力や環境要因(温湿度)により、段々とネックが下がってくることがあります。
(=指板の先端が表板に近づいてしまう)
下がってくると問題になるのは「弦高の上昇」です。
指板とネックが下がると弦と指板の間隔が拡がってしまうので、弦高(指板からの弦の高さ)が上がってしまいます。
プレイヤーの方なら想像しやすいと思いますが、弦の高さが高いほど、弦を指で押さえた時に力が要るので痛いですよね。
当工房基準では、画像のように指板から弦までの距離(弦高)を測った時に
G線:5.0~5.5mm
E線:3.0~3.5mm
の間であれば問題は無いと判断しています。
ただし、プレイヤーの好みや楽器の状態によって値は変動しますので、あくまでも基準程度に考えています。
修理事例
今回お預かりしたお客様の楽器も、ネック下がりが著しく…
本当はネックの入れ直しや簡易ネック上げ修理を行った方が良い状態です。
響板のアーチ形状によって値は大きく変わるのであまり参考にはなりませんが、響板から指板まで9mm程しかありません。
通常のアーチであれば、1.0~1.1mmが多いです。
(9.5mmで正常な楽器もあります)
専門的な内容になりますが、プロジェクションと呼ばれる数値も適正ではありません。
しかし、楽器の状態も全体的に良いとは言えず、予算の問題もありましたので、今回はローハートタイプへの交換で可能な限り適正値へ近付けることになりました。
修正前の弦高は
- G線:9.0mm
- E線:6.6mm
でしたが、駒交換で修正した後は
- G線:6.2mm
- E線:4.2mm
まで落とすことが出来ました。
これ以上削ると駒の耐久度に問題が生じるので無理ですが(これでもかなり際どい所です…)、オリジナルの状態よりは断然弾きやすくなったはずです。
もし通常タイプの駒でここまで削ってしまうと、ハートと駒頂点の距離が更に狭くなります。
そうすると、ハート上部の耐久力が低下するので演奏中に折れてしまうかもしれません。
あまり使用頻度は多くないですが、いざという時に頼もしい存在ですね。
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弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!