図解でわかる!~オクターブチューニング編~
よくいただくお問い合わせの一つに「押弦時のピッチ(音程)が合わない」というものがあります。
どんな症状かというと、「開放音でチューニングをしっかり合わせても、押弦したフレットの音がズレる」というものです。
(例:6弦5フレットはAのハズがA#になってしまう、等)
そんな時に行うのが「オクターブチューニング」と言われる調整です。
そもそもオクターブチューニングって?
オクターブチューニングは一般的に各弦の開放音に対して12フレットを押弦した時の音が、開放音の丁度1オクターブ上(うえ)の音に合うよう調整することを指します。
なぜ12フレットなの?
ギターやベースの場合、スケール(0フレットからサドル駒頂点までの距離)に対して一定の規則性を保ってフレットが打たれています。
最も一般的なのは十二平均律を利用したものです。
そして、この規則を利用した際、スケールの丁度半分の距離に位置するのが12フレット目。
12フレットからサドル駒頂点までの距離は"理論上"だと、スケールの丁度半分になるのです。
そして、スケールが半分になると音階は1オクターブ高くなります。

“理論上”…?
なんで理論上?と思いませんか?
理論がそうなら実際もそうなんじゃないの?って思いますよね。
開放音では0フレット(ナットの指板側)からサドル駒の頂点までの距離間で弦が揺れて音を出してます。
当たり前ですが、弦ってフレットに対して浮いた状態で張られていますよね。
つまり、距離に加えて、弦高=高さ、という要素が増えているんです。更に言うと弦の張力(テンション)も…!
押弦したら弦はフレットに押さえつけられますよね?

そうなんです…押さえた事で距離がコッソリ変わっているんです…!
数学に強い方は弦を斜辺に当てはめて三平方の定理を想像するとわかりやすいですね!

距離が変わる、だから合わせる
簡潔に言うと“押弦した時の12フレットからサドル駒頂点までの距離がスケールの半分になるようにする”調整をします。
その計測方法は音!
開放音のチューニングをしっかり合わせた状態で12フレットを押弦し実音を鳴らします。
この時、開放音の丁度1オクターブ上(うえ)の音と合っていれば、調整は完璧です。
12フレット押弦時の音程が高い場合
距離がスケールの半分よりも短い、という事になるので、サドル駒をボディエンド側に寄せて距離を伸ばします。

12フレット押弦時の音程が低い場合
距離がスケールの半分よりも長い、という事になるので、サドル駒をネック側に寄せて距離を縮めます。

見落としがちなコト
弦
弦の劣化が進むと張力(テンション)が一定に保てなくなり、オクターブチューニングに狂いが出やすくなります。
特になかなか切れる事がない、巻弦やナイロン弦(ガット弦)は劣化に気付きにくいので注意が必要です。
セッティングは全く変わってないのに妙に押弦時のピッチがズレるな、という時はまず、弦を新しいものに張り替えてみましょう!
ネック反り
ネックの反り具合が変わると、弦高も変わります。季節の変わり目や弦ゲージを変えた時など、ネック反りが変わりやすいタイミングがあるので、オクターブチューニング前にネック反りを適正値に調整しましょう。
参考資料:図解でわかる!~ネック反り編~
カポタスト
意外と盲点なのですが、カポ着けると何が変わるって、スケールが変わるんです。
ここまで読んできた皆さんはお気付きだと思います。これまで基準にしてきた開放音の距離(スケール)がカポを装着することで根本的に変わっています。
前述の通り、フレットの位置は0フレットからサドル駒頂点までの距離を基準に設計されています。
カポをつけた状態では、カポを装着したフレットからサドル駒頂点までがスケールになります。
すると、12フレットがスケールの丁度半分になる、という条件に該当しなくなります。

こうして理屈で考えてみると、合わないのも当然ですよね。
とっても便利なカポタストですが、意外な弱点が判明しましたね。
ローポジションでの押弦
単純な距離だけであれば、理論上はどのフレットを押弦してもピッチ(音程)は合うはずなのですが、弦高という要素がある以上、オクターブチューニングには限界があります。
それは基準にしている12フレットから離れたフレットほど弦高の影響が目立つ、ということ。
特にローポジションはハイポジションと比較して12フレットから遠くなります。その分、ピッチ(音程)のズレも目立つことに…。
ミディアム〜ハイポジションはあまり使用せず、ローポジションのコードを多用する!という方は、よく使うフレットを押弦した時の実音でオクターブチューニングする、という手もありますよ!
ただし、基準にしたフレットから離れるほどピッチ(音程)のズレは大きくなります。
おまけ
全ポジションでのピッチ(音程)ズレに対応したTrue Temperamentフレット(通称:TTフレット)と呼ばれる仕様の楽器もあったりします。
※ネック反りや弦高、使用する弦のゲージなど条件により誤差が生じる場合もあります。
フレットレスの楽器はフレットという距離の制約がないので押弦時のピッチ(音程)ズレと無縁だったりします。
フレットという基準がないので、押弦するプレイヤーのテクニックが基準になる、ということです。
注意点
各弦ごとにサドル駒頂点の位置を変えられない楽器や、アコースティック楽器ではサドル駒自体の位置を変えられない仕様のものが多くあります。
基本的には十二平均律に合わせた設計がされており、セッティングに大きな狂いがなければ、12フレット目を基準としたオクターブチューニングはある程度合うように作られています。
ですが、使用する弦や、プレイヤーの押さえ癖、その時の楽器コンディションなど、様々な要因により多少のズレは出てしまいます。
特にウクレレなど民族楽器としての側面が強いものや、大元になった楽器の製造年代が古い楽器は、近代に設計された楽器(各弦調整が可能な仕様の楽器)ほど音の精密さを求めて設計されていません。
100%完璧なピッチ(音程)を求めるのであれば、デジタルサウンドに頼る他ないのです。
そして、ピッチ(音程)のブレがあるからこそ、音色に豊かさが生まれるのです。
プレイヤーの捉え方次第ではありますが、とても表情豊かで、面白味のある楽器だと、個人的には考えています。
図解でわかる!シリーズ一覧はこちら
- 図解でわかる!~ネック反り編~
- 図解でわかる!~ナット交換編~
- 図解でわかる!~ネジ取付編~
- 図解でわかる!図解でわかる!~ビビりの原因編~
- 図解でわかる!~「すり合わせ」と「リフレット」 その違い編~
- 図解でわかる!~ネックのハイ起き編~
- 図解でわかる!~パーツの名称・ネック編~
※修理費用は同じ症例でも楽器の種類や形状・仕様によって異なる場合があります。
ご不明な点はお近くの島村楽器にぜひともご相談ください。
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