【作曲少女Q】最終回 その12『私の曲の存在価値、の話』

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番外短編集『作曲少女~曲を作れるようになった私が気になったことの話~』

『私の曲の存在価値、の話』

「珠ちゃん、寝た?」

「ん? まだ起きてるぞ」

「…………」

「なんだ、顔にラクガキするつもりか」

「あはは、しないよそんなこと」

「え、しないの? あたしはやろうと思って油性ペン用意してるのに」

「……やめてねそれ。しかもなんで油性なの」

今日は珠ちゃんが家に泊まりに来てる。以前作曲合宿で珠ちゃんちに泊まったから、そのお返しじゃないけど、じゃあ今度は私んちに泊まりにおいでよみたいな流れで。

作曲の話したり関係ない話したり、まぁなんかいつもどおりそんな感じに過ごして、今夜。明日は日曜日だからってつい深夜2時まで起きちゃったけど、実は昨日あんまり寝てないらしい珠ちゃんの限界がそろそろきたっぽかったので就寝タイムになって10分経過したのが今だった。

「……っていうか珠ちゃん、眠かったんじゃないの?」

「眠くてもいろはにラクガキするのはあたしの務めだからな」

「……何の使命感なのそれ」

「あはは、嘘嘘、やらないやらない。っていうかもう寝よう」

「……絶対やるよね?」

「ぐー」

「絶対寝てないよね?」

「……」

「珠ちゃん?」

「…………」

あれ、ホントに寝たのかな。まぁ、寝てないよね多分。珠ちゃんのことだもん、どうせ起きてて、私が寝るやいなや額に肉とかなんかそういうのを書くに決まってる。しかし油性ペンって鬼だよ。せめて水性でしょそこは。

「たまちゃーん」

「……」

寝たのかな。寝てないのかな。

「ねぇ、これはひとり言なんだけど」

「……」

私は、寝てるか寝てないかわからない珠ちゃんに向かってというか、天井に向かって、小さな声で喋る。ことのほか、真面目な話。最近思ってること。

「……作曲、楽しいんだけど、私たまに思うんだ。私が曲を作るのって、意味あるのかなって」

「…………」

「起きてる?」

「…………」

どうやら寝てるらしい。まぁ、いっか。

「……私よりうまい人なんてそれこそ数え切れないくらいいるし、もし私がうまくなっても、たぶんそれはそのままなんだろうし。だったら、私が曲を作る理由ってなんなのかな。私が曲を作っても、作らなくても、明日の世界はなにも変わらないじゃない? そう考えるとなんか、ちょっと虚しくなるっていうか……なんで曲作ってるんだろうって、ちょっと思っちゃって」

「……」

「……なに言ってるのかよくわかんないよね。私も寝よ」

「そんな当たり前のこと、わざわざ答えるまでもないことだけどさ」

「わっ。やっぱり起きてた」

「それは "いろはのため" だろ。どう考えても」

「私のため?」

「たとえばいろは、いろはにとって"完璧な音楽"って、聴いたことあるか?」

「え、えーっと、完璧な音楽?」

「そう。"自分にとって" 完璧な音楽だ。そんなもの、たとえいろはの大好きなアーティストや作品の音楽だったとしても、実はないだろ? 好きな部分は多いだろうけど、ほんのちょっとズレてるっていうか」

「あー……うん。そうだね。ものすごく好きなのもあるけど、そう言われてみれば私の好みと100パーセント一致してるっていうわけではないかも」

「その100パーセントを作ることができるのが、この世で唯一、いろはだけなんだよ。作る技術がまだおぼつかなくても、でも、誰よりそれに近い。あたしより断然近い」

「……そうだね。それはなんていうか、たしかにそうかも。……でも」

「――でも、の続きを言おうか」

「え……」

「人に褒められたり、求められたりしないと、自分のやってることは意味がないんじゃないかと思ってしまう。とか、そんな話だろ? 多分」

「……えっと……うん」

「最近はネットとかでもよく目にするようになったけど、承認欲求ってやつだな。承認欲求の意味はわかるか?」

「うん。イイネが欲しい気持ちとか、いっぱい共有されたいとか、そういうのだよね?」

「まぁ、そういうのだな。でも、考えてみろよいろは。誰かが "人に褒められたい、求められたい!" と思って作ったものを、いろはな『良いな』って思ったか?」

「……いや、どうだろ。全部かどうかはわからないけど、あんまり良いとは思わない気がする、かも?」

「逆説的な話だけどさ、世間で評判になってる人――つまりいろはが羨ましいと思う人のほとんどは、周りの顔色より自分らしさを貫いたから、褒められたり求められたりしてるんだ。大事なのはね、"褒められるのが好きなのか、それとも自分らしいものを作るのが好きなのか"、このふたつとどう付き合っていくかだ。

「うん。ちょっとわかるかも」

「あたしだって、褒められたらそりゃ嬉しいけどね。こんな風に、誰でも両方持ってるんだよ。ただ、その割合が違う。どんな天才芸術家だって、実はほんの一欠片くらいは承認欲求を持ってる。ただし、それが自分らしさの邪魔になることを知ってる。……この部分はまぁ、自分がどういうものを作っていきたいかで決まる部分だろうね」

「……なんかハイレベルな話だね」

「ハイレベルかな? 『曲を作りたい』のか『チヤホヤされたい』のか、どっちなんだっていう話だよ。その部分をたまに見つめ直す癖をつけたら、作ってる途中で変な雑音に惑わされることはだんだんなくなっていくよ」

「……ねぇ珠ちゃん、承認欲求とは違うものなら、珠ちゃんはなんで作曲してるの? 曲を作りたいからって言うけど、ホントにそれだけ?」

「え?」

珠ちゃんの声色は、何を聞かれたんだ?っていう感じのキョトンとしたものだった。でも、質問の意味がわかったらしい珠ちゃんは、ゆったりと答える。

「……あたしが聴くためだよ。誰をおいてもまず、あたしが聴きたいから作ってるんだ」

「…………」

「あたしが作曲をやめちゃったら、あたしが困るじゃないか」

「そういうもの、かな」

「あたしが作ってる曲は、あたしが聴きたい曲だ。誰も作ってくれないから、あたしが作るしかない。あたしがあたしのリクエストに答えて作ってるんだよ。どんなにうまい一流のプロだって、あたしの好みに完全一致してる曲なんか作れないからな」

「そうだね。そう言われてみれば、そうかも」

「曲を作る意味を忘れそうになったら、思い出すんだ。誰がそれを楽しみにしてるのか、ほかでもない自分が一番それを楽しみにしてるっていうこと。もし、自分の作る音楽がいつのまにか自分の好きなものじゃなくなってたら、そんなやり方はすぐにやめろ。それこそ、何の意味もない」

「……プロでもそう思うの?」

「プロだからこそそう思うんだよ」

「でも、プロってあれじゃない? お金稼がなきゃいけないから、好きな音楽だけってわけにはいかないんじゃ……?」

「好きな音楽を作ってない人は、求められなくなるよ。何が好きで、何を作っていきたいか、自分が好きなものをまっすぐ見る。それがクリエイターの姿勢だ。それ以外は気にしなくていいよ。そうやって作ったものが、自分みたいな似てる好みの人の心に届く。きっと届く」

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それからしばらくして、どうやら珠ちゃんは本当に寝た。眠気があったとは思えない珠ちゃんの話を頭の中で何度か巡らせてみつつ、私は私なりに考える。

自分の曲の存在意義、それは、まずは自分を楽しませるもの、かぁ。言葉の意味はよくわかるけど、でも、私もいつかそうやって、人の顔色より自分の気持ちを大事にできるようになるのかな。

喋るたびに、その女子高生離れした考え方に圧倒される。もうそろそろ慣れた気がしてたけど、やっぱり珠ちゃんは普通じゃない。……って言ったら、また『いろはと同じだ』って言われるのかな。

「……ねぇ珠ちゃん、私、今考えてることあるんだけど」

寝てる珠ちゃんに言いかけた言葉を、私は飲みこむ。私が今考えていること。もっともっと、作曲を楽しくする方法がある気がする。それは珠ちゃんから教えてもらうんじゃなくて、今度は私から。

……あ、油性ペンは隠しとこう。一応。

今夜はここまで!

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あとがき


仰木日向です。島村楽器デジランドさんとご一緒させていただきました『作曲少女Q』の連載はここでひと区切りです! みなさんのおかげで書くことが出来たいろはと珠美のその後の様子、楽しんで頂けていましたら嬉しいです。著者は書いてて超楽しかったです。まだまだ話し足りない沢山の物語、これから起こるもっと大変な "作曲の奥の話" にぶつかっていく二人のことを色々考えながら、今回はここまで!ということで。お読みいただいた皆さんに、今日も楽しい作曲の一日がありますように!

仰木日向

P.S.お力添え頂きました島村楽器デジランド様、ありがとうございました! デジランドのみなさんも是非作曲やってみてくださいね!

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