音楽制作(DTM)で必要なものといえば、パソコン本体(最近はスマホだけでもある程度の音楽は作れますが)、DTMソフト+(ソフト)シンセ、オーディオ・インターフェース(インターフェイス)そしてMIDIキーボードなどですね。「自分は鍵盤が弾けないから必要ないんじゃない?」と思う方もいらっしゃると思いますが「MIDIキーボードはあったら便利どころか、絶対に持っておくべき製品」なのです(個人の見解です)。この記事ではあらためてMIDIキーボードとは何か?そしてどうして買っておくべきなのか?を熱く語って見たいと思います。
MIDIキーボードとはなにか?
世の中には様々なキーボードがありますが、楽器の分野では鍵盤を用いて音を出す電子楽器の総称で、音源部と鍵盤部を一体化した機器をキーボードと呼んでいるケースが多いようです。(「ピアノ」「電子ピアノ」「オルガン」はキーボードと呼ぶかどうかの定義は非常に曖昧)
一方「MIDIキーボード」は音そのものを出す楽器ではなく「音を鳴らす命令(MIDI信号)を送るための鍵盤型コントローラー」です。もちろんシンセサイザーや最近の電子ピアノにもMIDI / USB端子経由でMIDI信号を送受信する機能はあるのですが、MIDIキーボードは単体では音は出ないというちょっと特殊なキーボードなんですね。
様々な種類のMIDIキーボードがある
下写真は数多あるMIDIキーボードのほんの一部ですが、大きさや見た目も多種多様ですね。折りたたみ式や足で演奏するタイプもありますね。

ここで話を整理するために、MIDIキーボードとシンセサイザー、電子キーボード/電子ピアノの違いをまとめてみましょう。
比較
種類 | 音が鳴る? | 内蔵音色 | スピーカー | 使い方の主目的 |
---|---|---|---|---|
🎹 MIDIキーボード | ❌ 鳴らない(信号のみ) | ❌ なし | ❌ なし | 音楽制作・ソフト音源の演奏 外部機器のコントロール |
🎛 シンセサイザー | ✅ 鳴る | ✅ あり(音作り可能) | ❌ スピーカーなしが多い | 音作り・実演・パフォーマンス / 後述する方法でMIDIキーボードとしての仕様も可能 |
🎼 電子キーボード/電子ピアノ | ✅ 鳴る | ✅ あり | ✅ 内蔵スピーカー付きが多い | 演奏練習・趣味・学習 / 後述する方法でMIDIキーボードとしての仕様も可能 |
このように「MIDIキーボード」「シンセサイザー」「キーボード(電子ピアノなども含む)」は、見た目は似ていますが中身と使い方が大きく異なります。
どうやって使う?
MIDIキーボードは単体では使い物になりません(指の練習くらいには使えるかも)。USBケーブル(または無線)などを使ってパソコンと接続します。そしてMIDIキーボードは、鍵盤を押すと、接続したパソコンやモバイルデバイス内のソフトウェア音源やDAW(音楽制作ソフト)に「この音をこの強さで鳴らせ」といった指示(MIDI信号)を送ることができるのです(※)。電源もパソコンから給電できるタイプも多いです。
接続イメージ(細かいツッコミは無しでお願いします)

モバイルデバイスに接続可能なモデルもある
パソコンだけではなく、iPhone / iPad / Android /などのモバイルデバイスに接続して音楽制作を行うことも可能です(※対応モデルの場合)。

※AKAI MPK mini MK3 のように音源・スピーカー搭載モデルにもかかわらずMIDIキーボードと呼ばれる製品もあります。
最近ではコンパクトなUSB接続モデルから、演奏性能に優れた88鍵モデル、さらにはモバイル環境に特化したBluetooth対応モデルまで、実に幅広いラインアップが登場しています。
なぜMIDIキーボードが必要なのか?
MIDIキーボードが必要な理由ですが、
- 効率的に音楽制作ができる
まずこれに尽きるのではないでしょうか?ではいくつかのポイントを詳しく見ていきましょう。
音符などの入力が素早くできる
DTMではピアノ、ギター、ベース、ストリングス、ブラス等々、様々なソフト音源を演奏させることができます。鍵盤は弾けるに越したことはありませんが、たとえばドラムの演奏をマウスでポチポチ打ち込む作業に比べると、指一本だけでも実際に鍵盤を「弾いて入力」することで、リズム感やダイナミクスのある自然な演奏データが収録できます。リアルタイムに演奏する代わりに、音符を一つずつ鍵盤で打ち込む「ステップ入力(ステップレコーディング)」を使えばどんなに細かくて速いフレーズも素早く入力することができるのです。
後半、フレーズを考えてるのでステップ入力ペースが遅くなりますが、出来上がったフレーズはタイムは正確に演奏されています。
パッド付属のMIDIコントローラであれば同様のことがパッド部分(下図黄枠の部分)を使って行うことができます。このあたりは好みですね。

ソフト音源の演奏表現の入力も楽々
ノブやスライダー付きモデルの場合、ソフト音源の音量や音色調整やエフェクト(リバーブやディレイ等)などもリアルタイムで直感的な操作と入力が可能になります(下記はArturia KeyLab mk3)。ただこれらコントローラーは、使う人には超便利だけど、使わない人にとってはあまり意味はありません。

音楽ソフトと連携ができる

DAWやソフト音源との連携機能に対応しているモデルの場合、再生/録音、各パートの音量、定位(パンポット)、エフェクト、ミュートのON/OFFなどなど、パソコンの画面で行う様々なことをMIDIキーボード側でコントロールすることが可能になります。慣れてくればパソコンのキーボードやマウスで操作するより素早い対応が可能になるので、非常に効率的でクオリティーの高い音楽制作が可能になるかもしれません。(使わなくてもすごい曲つくる人はいるので個々のスタイルの違いですが)
MIDIキーボードのスライダーやツマミをDAWの任意のパラメーターにアサイン(割り振り)できます。

次の動画ではNKS(Native Kontrol Standard)という規格に対応したMIDIキーボードでソフト音源をコントロールする様子が見れます。
シンセサイザーや電子ピアノもMIDIキーボードとして使える
シンセサイザーもパソコンとUSB接続すれば、立派なMIDIキーボードになります。ただ鍵盤を弾くとシンセサイザー本体の音源も鳴ってしまうのでボリュームを絞る必要があります。
USB端子がついている電子ピアノの場合、同様にMIDIキーボードとしても使用可能です。ただし電子ピアノの場合は外部音源のコントロール機能はほとんどついていない場合が多いので、鍵盤のON/OFFやペダルだけのシンプルな演奏データのやり取りになります。

なお本体にUSB端子がなくてもMIDI端子があれば、下記のようなUSB-MIDIインターフェースなどを使用してパソコンのUSB端子と接続することができます。

お持ちのオーディオ・インターフェースにMIDI IN端子があれば、シンセサイザー/電子ピアノのMIDI OUT端子とMIDIケーブルを使って接続が可能です。
MIDI端子の例

【番外編】ライブパフォーマンスでも活躍
MIDIキーボードは「コンパクト&低価格」ということから、ライブステージなどでMIDIキーボードでパソコンのソフト音源を演奏するスタイルは近年増えています。ハードウエアシンセを凌駕するクオリティーのソフト音源も多く発売されていますし、持ち運びやセッティングも楽で何千という音色をパソコンで演奏できる魅力は大きいですね。
ソフト音源を演奏する上でよく使用されているのはApple社の発売している「MainStage」というアプリ。Mac OS上で動作し、Audio Units(AU)というプラグイン形式のソフト音源を演奏することができる、ライブパフォーマンスを念頭に置いて設計されたアプリです。最初から多くのソフト音源が入っていますが、もちろん別途購入したお気に入りのソフト音源(AU対応)を使うこともできます。ピアノとストリングスを重ねたり、左手でベース、右手でオルガンといったように鍵盤上に自由に複数のソフト音源を割り振ることができるので、使い方次第ではキーボーディスト数人分の仕事をたった一人で行うこともできます。
MainStage

Roland RD-2000exというステージピアノでは、高品位な内部ピアノ音源とMainstageのような外部ソフト音源を組み合わせて一緒に演奏できる機能を備えています。

ソフト音源だけを使うアーティスト
すべてソフト音源だけで演奏するアーティストも珍しくはありません。昔は演奏中にパソコンがフリーズすることを考えると怖くてできなかったのですが、パソコンの性能が格段に進歩して動作も安定しているからこそ実現したスタイルですね(それでも万が一のことを考え、ハードウエアのシンセをバックアップとしてセッティングしている人もいます)
下の動画はボーカル、ドラム以外はすべてソフト音源を使用しているMoonchild(※)のパフォーマンスです。二人のキーボーディストが弾いているのはすべてMIDIキーボードで、下段がRoland A-88、上段がNovation Launchkeyのようですね。ソフト音源はSpectrasonics社のTrilian、Keyscape、Omnisphereを使用し、それぞれベース、エレピ、パッド音色&シンセリード等を演奏しているようです。
※日本にも同名のグループがありますがアメリカのR&B系のユニットです
通常はパソコン内のソフト音源の音を外部に出力するにはオーディオ・インターフェース(パソコンを使って高音質で入出力する機器)が必要になります。しかしオーディオ・インターフェース機能付きのMIDIキーボード(下記はKORG Keystage 61)があれば、それとパソコンだけでライブパフォーマンスが可能になります。この場合は、パソコンのソフト音源の音がKeystage 61のオーディオ出力端子から出力されることになります(Keystage 61は音源は内蔵していません)。

このようにMIDIキーボードは音楽制作だけでなく、ライブパフォーマンス等でも活躍するアイテムなのです。別記事では皆さんのスタイルに合ったMIDIキーボードの選び方や、オススメ製品をご紹介していますので、ぜひ御覧ください。
MIDIキーボードの選び方はこちら
【2025版】MIDIキーボードおすすめ9選はこちら
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この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。