弓のスライド交換 【弦楽器工房ブログ】

皆様、こんにちは。

弦楽器技術スタッフの高瀬です。


昨日、私のブログを見てくれている友人から連絡がありました。

「ぽっち(前回のブログ内容)のせいで、途中から話が頭に入ってこなくなった」とのことです。

前回のブログを見るとお分かりいただけると思いますが、ブログ内で「ぽっち」というワードを連発しております。

友人曰く、途中から「ぽっち」というワードを見る度に頭がゲシュタルト崩壊してきたそうです。

数えたところ34回「ぽっち」と書いてありました。

多すぎでしょうか。


本日は

■ ニス補修2件

■ スライド交換

■ 毛替え

を行わせていただきました。

楽器をお預けいただき、ありがとうございます。


弓のスライド交換


弓のスライドについて

今回は「弓のスライド交換」について書かせていただきます。

東京の工房に勤めていた頃は、スライド交換の依頼は1度しかありませんでした。

しかし福岡へ来てからは、なんと半年足らずで既に5回スライド交換をしています。

(大変ありがたい事ではあるのですが、なぜでしょう…)


スライドとはどこのパーツかと言いますと、フロッグの上部に付いているパール装飾(安価なものだとプラスチックを使用する場合もあります)のことです。

このスライドと呼ばれるパーツは、名前の通り「スライドさせて」取り外しができます。

毛替えの際は、スライドの下に馬毛を通らせることにより、馬毛にまとまりをもたせます。

そして、実はスライドは全てパールから作られている訳ではありません。

普段私たちには見えていませんが、パールの下には黒檀が貼ってあります。

正確には、黒檀のスライドにパールが貼ってある、という方が正しいですね。

もしパールだけでスライドが構成されていた場合、下手したら数回の毛替えで破損してしまうでしょう。

それほどパールは壊れやすいです。

では、なぜパールがスライドに付いているかと言いますと…

「装飾」のためです。

前回のブログで紹介した「ペグのぽっち」と同じです。

パール無しの黒檀スライドでも問題なく機能しますが、美しさを追求するとやはりパールが付いていた方が見栄えが良いです。

下の画像は当店の弓ですが、パールの種類によっても見た目が異なります。

黒檀スライドの状態は良いが、表面のパールがボロボロに…

という場合は、パールのみの交換で問題ありません。

しかし、今回お預かりした弓はパールだけではなく黒檀にも損傷があります。

表面のパールも破損や痛みがありますが、

黒檀部にも亀裂があります。

(上の画像は、スライドをひっくり返して黒檀側を見ている状態です)

以前修理された痕跡がありますが、接着面が荒れてしまっています。


黒檀スライド、パール交換

では、黒檀スライドとパールを作成していきましょう。

以下、毎度お馴染みのざっくりとした修理手順です。

1.パールはオリジナルと似た模様のものを選び(オリジナルが大破していたので、完璧には合わせられませんでしたが)、黒檀もオリジナルと同じ寸法、厚さのものを作ります。

上画像はそれぞれ加工前の切り出した状態です。


2.まず黒檀スライドを完成させ、フロッグとスライドに隙間が無いか入念に確認します。

ここで隙間があると、毛替えの際にスライドの隙間に馬毛が入り込んでしまいます。


3.黒檀スライドに問題が無ければ、パールを正確な位置に接着させます。

上下左右、0.01mmでもズレると隙間が出来てしまい、見栄えが悪くなってしまいます。

4.パールのみを削り、フロッグとの最終フィッティングを行います。


5.フィッティング完了後、パールの高さをフロッグと合わせます。

この時、フロッグの黒檀と一緒にパールを削ると完璧に高さが合いますが…

弓を傷つける行為になるので、間違っても行えません。

なのでスライドを外して少し削り、フロッグに戻して高さを確認して…

をひたすら繰り返します。


職人により手順は全く異なりますが、私は上記手順で行っています。

フィッティングと高さ合わせ完了後はパール表面を磨き、光沢を出して完成となります。

(オリジナルとの比較)

最後に

スライドを交換する機会は滅多に無いと思いますが、年単位で弓を使用し続けると、いつかはパールが痛みます。

今回お預かりした弓はかなり重症な状態でしたが、お客様のスライドにも

・ パールがぽろぽろ剥がれてきた

・ パールに垢や汚れが溜まり、拭いても落ちない

・ パールが割れた

・ スライドが緩くなってきた

これらの症状が出始めましたら、ご相談ください。

また、スライド交換を行うと毛替えのやり直しも必要になりますので、気になる方は毛替えが必要なタイミングで一緒にいかがでしょうか。

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この記事を書いたスタッフ

岩田屋福岡店高瀬

弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!

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