ボタン折れ修理とネックリセット 【弦楽器工房ブログ】
皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
当店の店長がとてもお酒に詳しいので時々お酒について話を聞くのですが、正直私はお酒を好んで飲むことが無いので知識が並以下です。
少し前まで焼酎と日本酒の違いは「熱いか冷たいか」だと思っていたことは内緒にしています。
そんな中、先日酒屋さんでお酒を試飲する機会がありました。
そこでいただいたお酒がアルコール度数35%とは知らずについ一気飲みしてしまいまして(苦手なものは早く処理したいというあれです)。
平然を装っていましたが一瞬意識が落ちかけました。
今回はボタン折れの修理、ネックリセットについて簡単にご紹介します。
ボタン折れ修理、ネックリセット
まずはこちらをご覧ください。
ネックが完全に外れてしまっていますね。
しかも残念なことに、ただ外れているだけでは無いのです。
こちらは裏板の上半身ですが、何かが足りません…。
何が足りないかと言いますと、「ボタン」と呼ばれる部位がぽっきりと折れてしまっています。
ネックのヒール部分に付いたまま折れていますね。
通常、ボタンは裏板と一体になっていますので、ネックが外れる場合はネックだけが外れる場合が多いです。
しかし、稀に衝撃や経年劣化により今回のようにボタンとネックが一緒に取れてしまうことがあります。
このような場合は修理方法が主に2パターンありまして、
- 「折れたボタンを再接着→裏面からパッチで補強→ネックリセット」
- 「断面を整え、新しくボタンを作り直す→ネックリセット」
大体このどちらかです。
当初の予定ではボタンの再接着だったのですが、よく観察したところ裏板のボタン部周辺に問題があったり腐敗している部位がありましたので、途中でボタン作り直しに路線変更しました。
オリジナルを少しでも残すことも大事なので、本当は可能な限り再接着の方が好ましいのですが…ボタン作り直しの方が強度を持たせることが出来るので、状況によってはこちらの方が良いのです。
ボタン折れ修理
裏板オープン
それでは修理に取り掛かりましょう。
まずは裏板を綺麗に外します。
ここは如何に楽器に損害を与えずに裏板を外せるかが最重要なので、時間を惜しまずに丁寧に作業を行います。
とても綺麗に外せたので満足です。
(大体90分かかりました)
ボタン部フィッティング、接着
とても大切な作業になりますが、写真を多く撮っていませんのでサクサクと進めます。
通常はボタン部周辺を整えて最低限の範囲で作り直しを行いますが、先ほど説明しました通り少々問題がありましたので、一部裏板のエッジ含めて作り直しを行いました。
フィッティング後、接着を行った状態です。
ちなみに、裏板が2枚板の場合はフィッティング材も2枚板仕様にする場合がほとんどですが、今回は予算の都合上1枚板でフィッティングを行っています。
(あとで線入れを行います)
こちらは表から見た状態です。
ネックリセット
続いてネックリセットです。
ネックリセットとは要するに「ネックの入れ直し」です。
これは特に難しいことはなく、以下の手順で作業を行います。
- 楽器本体のネック差し込み部をスプルース材で埋める
- ネック差し込み部に、必要に応じてメープル材を継ぎ足す
- ネック差し込み部に合わせて楽器本体のスプルース材を削り、隙間なくフィッティングを行う
- 接着
以上になります。
(接着中の写真です)
時間はある程度かかりますが、慣れてしまえば問題なく行える修理内容です。
ちなみに私はネックの側面は予めリタッチを行う派です。
やり方を間違えるとニスが接着の邪魔になるので危険ですが、慣れれば問題ないです。
ボタン整形
ネック接着後、ネックの形状に合わせてボタンを整形するとこのようになります。
あえてオリジナルと違う形状で整えています。
この段階で、2枚板に見えるように線入れを行いましょう。
完成
最後にリタッチを行い、完成となります。
リタッチは数ある修理の中で一番好きな作業なので、この時間がとても楽しかったです!
(好きなだけで得意とは言っておりません、あしからず)
見た目は少しオリジナルを参考にしています。
どうでしょうか…パッと見は分かりにくくなったのではないかと思います。
正面はもちろんのこと、どの角度から見ても違和感を感じないように意識して仕上げています。
あとは魂柱を作り直し、駒を立てれば完成です。
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弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!