
こんにちはサカウエです。突然ですが音色当てクイズです。
第一問:これは何の楽器の音でしょうか?
このEmのサウンド…どこかで聴き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。そうです、かつてアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」のエンディングテーマにも使われた、Yesの名曲「ラウンドアバウト」のイントロのコードです(この音源は打ち込みによるものです)。
さて、実はこの印象的な音、ある身近な楽器の音を加工して作られたことをご存じでしたか?(プログレファンには常識かもしれませんが…)
正解はこれ。
なんとこれ、実はピアノの和音を逆回転再生させた音だったんです。
昔、ビートルズをはじめとする多くのバンドが、実験的に「逆回転サウンド」を取り入れていた時期がありました。もちろん当時はサンプラーのような便利な機材はなかったので、アナログテープを逆再生させ、別のレコーダーにダビングするという、手間のかかる作業を行っていたのです。
さて、このピアノ・サウンドを波形編集ソフトを使用して波形で見てみましょう。音の波を表す波形の場合は、横軸が時間的な変化を、縦軸が量(大きさ)を表します。音が大きいほど縦軸の値は大きくなります。
ノーマルなピアノ
逆回転(リバース)
この二つの音、違いが分かりましたか?
通常のピアノは、最初に「バーン!」と強い音が鳴り、そこから徐々に音が消えていきます(減衰)。しかし逆回転させると、無音からだんだん音が大きくなり、頂点で「バスッ」と急に途切れるようなサウンドになるのです。
この音の始まり方(アタック)が違うだけで、全く別の楽器のように聞こえるのが面白い点ですね。
ちなみに、ジャズ・ピアニストのライル・メイズは、ソロアルバムでピアノの順再生と逆再生を巧みにつなげたサウンドを使用しています。
冒頭で鳴った「カーン」というピアノの音が消えかけたかと思うと、今度はその音が逆再生で戻ってきて、そのままイントロへ繋がっていくのです(動画の0:00〜0:15あたりがそれ)。もちろんこれはテープの逆再生ではなくデジタル録音を行ったDAW上で編集していると思われます。
粋なアイデアですね。
「シンセ音作のコツ」まずはプリセット音色を変えてみよう
それでは本題に入りましょう。
近年のシンセサイザーには、ピアノやギターといったアコースティック楽器から、シンセならではの電子音、効果音まで、膨大な種類の音色が最初から入っています(これを「プリセット音色」といいます)。機種によっては1000以上の音色を収録していることも、今や当たり前になりました。
これだけの音色が用意されていればどんな音楽ジャンルでも対応OKという気がしますが・・・実はそんなに甘い話ではないのです。
これだけ音色があればどんな音楽にも対応できそうですが、実はそう簡単な話でもないのです。
例えば、コピーバンドをやっている方なら、プリセットの中から「あの曲のイントロの音」に一番近いものを選んで使っていると思いますが、
- 「なんだかちょっとイメージが違う…」
- 「本物はもうちょっと明るい感じなのに…」
- 「何かが違うけど、それが何なのか分からない」
と感じた経験が、誰しもあるのではないでしょうか。
――そんなあなたに朗報です!
実は、ちょっとしたコツさえ掴めば、プリセット音色を元にして、イメージ通りの音や全く新しいオリジナル音色を簡単に作り出すことができるのです。これも立派なシンセの音色作りと言えるでしょう。
しかも、この「音作りのコツ」は大部分の機種に共通する基本なので、ぜひこの機会にマスターしてください。
それでは今回は、まず「音の出だし」について解説します。
重要なアタック音
では第二問!
この音は、とあるシンセサイザーのプリセット音色です。さて、何の音色か分かりますか?
ヒントは「アコースティック楽器」です。
オーボエ? それともファゴット(バスーン)でしょうか?
残念、どちらも違います。
実はこの音、シンセ本体にあるたったひとつのツマミを回しただけの音色なのです(作成時間はわずか5秒!)。
それでは正解発表です。演奏しながら、そのツマミを徐々に元に戻してみましょう…。
すると…。
…いかがでしたか?
正解は「三味線」でした(沖縄の三線(さんしん)に近い音ですね)。当たった方は、良い耳の持ち主です!
このように、音の鳴り始め、つまり**「音の出だし」を少し変えるだけ**で、全く違う楽器のように聞こえるのは面白いですよね。
普段私たちは、音の明るさや高さといった様々な要素を無意識に聴き分け、「これは〇〇の楽器の音かな?」と判断しています。そして今回のクイズが示す通り、その判断において「音の出だし(専門用語でアタックと呼びます)」がいかに重要であるかが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
どのツマミを触れば良いのか?
シンセサイザーは「パラメーター」と呼ばれる色々な値を、ツマミやスライダーを動かすことによって音色を作成することができます。膨大な数のパラメーターを持っている下図のような機種もありますが、マニアは喜びそうですが、多くの方は尻込みしてしまいそうですね。

しかし、
実はキモとなるパラメーターはある程度決まっているので、4~5種類のパラメーターを覚えるだけで最初はOKなのです(これホント)
例えば、Rolandの「JUNO-D」。パネル上の目立ったツマミとスライダーはこの程度です(もちろん、内部にはより細かい編集機能もありますが)。ですが、これだけでも十分にクリエイティブな音作りが楽しめるのです。


プリセット音色を分類してみましょう
先ほど、「音の出だし」が音色のイメージを大きく左右するという話をしました。
今回は、この 時間による音量の変化をコントロールして、実際に音作りをしてみましょう。
その前に、「音が鳴ってから消えるまで」の流れに注目し、シンセのプリセット音色をグループ分けしてみます。実は、楽器の音は発音の仕組みによって、大きく次の2種類に分類できるのです。
1)減衰音系:音がやがて消えていくサウンド
鍵盤を押さえたままでも「音が消えていく」音色
- 特徴: 鍵盤を押さえたままでも、音はやがて消えていく。
- 代表的な楽器: ピアノ、ギター、ベース、ベル、木琴などの打楽器
ピアノやギターのように、何かを「叩く」、あるいは弦を「はじく」ことで発音する楽器がこのグループに属します。ギターの場合は、弦をピックや指で弾くと弦が振動して音になるわけですが、いずれは徐々に音が消えていきます。この現象を「減衰」と呼び、このような音の特性を持つ楽器を、ここでは「減衰音系」と呼びましょう。
木琴のように「コンッ」と鳴ってすぐに消える、減衰が非常に速い音もこの仲間です。
ディケイとサステイン
シンセサイザーでは、この減衰の様子を専門用語で表現します。
- サステイン・レベル (Sustain Level) :
- 音が減衰した後に、最終的に落ち着く音量のこと。減衰音系の場合、音は最終的にゼロになるため、「サステイン・レベルがゼロ」と表現します。
- ディケイ・タイム (Decay Time) :
- 音が出た頂点から、サステイン・レベル(この場合はゼロ)に到達するまでにかかる時間のことです。
2)持続音系:音が鳴り続けるサウンド
- 特徴: 鍵盤を押している間、音は鳴り続ける。
- 代表的な楽器: ストリングス(バイオリンなど)、オルガン、管楽器(※)
ストリングスが弓で弦をこすり続けるように、あるいは管楽器奏者が息を吹き込み続けるように、エネルギーが供給され続ける限り音を持続できる楽器がこのグループです。
鍵盤を押している間は音が鳴り続けるため、音量がゼロではない一定のレベルで持続します。そのため、これらの音は「サステイン・レベルがゼロではない」と言えます。
【補足:シンセの管楽器の音】
人間の息には限界があるため、実際の管楽器の音は厳密にはどこかで途切れます。しかし、シンセサイザーに収録されている管楽器の音色は、演奏のしやすさから、多くが鍵盤を押している限り鳴り続ける「持続音系」として設定されているものが多いです。
(ちなみに「循環呼吸」という特殊な奏法(呼吸法)を使えば、人間も息継ぎなしで音を出し続けることも可能です)
音量の時間変化を決める4大要素「ADSR」
ここまでの話を整理し、さらに新しい要素を加えていきましょう。
先ほど登場した「ディケイ・タイム」と「サステイン・レベル」の他に、シンセサイザーでは主に以下の2つの時間もコントロールできます。(機種によっては名称や役割も変わったりします)
- アタック・タイム (Attack Time) : 鍵盤を押してから、音が最大音量になるまでの時間
- リリース・タイム (Release Time) : 鍵盤から指を離した後、音が完全に消えるまでの時間
- そうです。冒頭の音当てクイズで三味線の音を変えたのは、このアタック・タイムを調整したからなのです。
これで、音量の時間変化をコントロールする4つの基本要素が出揃いました
- A:ATTACK TIME(アタック・タイム)」⇒鍵盤を押してから音が最大になるまでの時間
- D:DECAY TIME(ディケイ・タイム)」⇒最大音量からサステイン・レベルまで減衰する時間
- S:SUSTAIN LEVEL(サスティーン・レベル)」⇒鍵盤を押し続けている間の音量レベル
- R:RELEASE TIME(リリース・タイム)」⇒鍵盤を離してから音が消えるまでの時間
シンセサイザーの世界では、これらのパラメーターの頭文字をとって「ADSR(エーディーエスアール)」と呼びます。これは音作りの基本中の基本となる、非常に重要な概念です。
そして、このADSR(=音量の時間変化)を作り出す機能のことを「エンベロープ・ジェネレーター (Envelope Generator)」(略してエンベロープ、またはEG、ENV)と呼びます。
今回は「音量」の時間変化について解説しましたが、実はエンベロープは音量(アンプ)だけでなく、「音色(フィルター)」や音程(ピッチ)などを時間的に変化させるためにも使われます。この応用編については、後の「フィルター」の回以降で詳しくご紹介しますね。
イメージ
ポイント1: 「タイム」と「レベル」
ADSRのうち、**S(サステイン)だけが音量(レベル)で、残りのA, D, Rは時間(タイム)**をコントロールする、という違いを覚えておきましょう。
- A, D, R ⇒ 時間(Time)
- S ⇒ 音量(Level)
ポイント2: 「変調」という仕組み
では、どうやって音量の時間変化が生まれるのでしょうか。
それは、エンベロープ・ジェネレーター(EG)が作り出したADSRの変化信号が、シンセの音量担当セクションであるアンプ(AMP)を「変調」する(=コントロールする)ことで実現されています。
※補足:
「タイム」や「レベル」は省略され、単に「アタック」「ディケイ」のように呼ばれることも多いです。
イメージ

では減衰音系と持続音系の音色のイメージを図で確認してみましょう。(図はiZotope社のソフトシンセirisの画面を使っています)
減衰系の場合(サスティーン・レベルはゼロになる)
※表示されている数値は目安の秒数と考えてください
1) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:短い
例)マリンバ、ピアノ、ギター等。ディケイタイムで減衰時間が決まります。自然の摂理で音域が低くなるに連れ減衰時間は長くなっていきます。
2) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:長い
例)ベル、チャイム、打楽器等
3) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:短い
生楽器ではあまりないですねこのパターン
4) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:長い
これも。ゆっくり聞こえてきて、鍵盤を離すと余韻が残るタイプ。
持続音系の場合
1) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:短い
2) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:長い
上記の図の場合は、鍵盤を離してから音が消えるまで30秒かかるということですね。
3) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:短い
4) アタック・タイム:遅い、リリース:長い
例)フワッとしたシンセパッドなど
というわけで、色々な楽器のエンベロープがなんとなくイメージできればここではオーケーです。
機種が変わっても機能は共通
さてエンベロープが何となく理解できたら機種が変わっても大丈夫!どのメーカーのシンセでもエンベロープの機能はほぼ共通なので心配ご無用!
StudiologicのSledge:表記はENV。FilterとAmplifierの2箇所にあります。

NORD LEAD A1:これもENV
Rolandのソフトシンセ SH-2
応用編:ストリングス音色をブラス音色に変化させてみよう
では実際にADSRを変えて音作りをやってみましょう。たとえばこうしたリッチなストリングス音色があったとします。たいていのシンセには「synthe strings」のような音色名でプリセットされていると思います。
この音色の音量エンベロープはこんなイメージですね
アタック遅めで、サスティーンはゼロではなく、リリースは少々長め。したがって鍵盤を弾いてからゆっくり立ち上がり、抑えている間は持続し、鍵盤を離したらちょっと余韻が残る・・といったタイプの音色です。
ではこれを素早く立ち上がり、抑えている間は持続し、鍵盤を離し瞬間に音が切れる・・というシンセブラスに適した音量エンベロープに変えてみましょう。さてどうすればいいでしょうか?
そうです、この様に
「アタック早め」「リリース短め」という2つのパラメーターだけを変更すればよいのです。ヴァン・ヘイレンのJUMPのイントロで使えそうな感じです(古)。
音の立ち上がりと余韻だけでも全くイメージの違う音作りができるのがお分かりいただけたと思います。エンベロープの中でもアタックとリリースは音を特徴付ける大事なパラメーターですが、この2つを変更するだけでも多くのバリエーションを生み出すことができるのです。
機種が変わってもOK
というわけで、キモになるパラメーターさえ覚えてしまえば、機種が変わっても怖気づくことはありません。
YAMAHAのMODX Mの場合は

下図の4つのノブですが。4種類の機能が振り分けられていますが、ランプが点灯している段のパラメータ列の「CUTOFF RESONANCE PPAN PORTAMENTO」の役割が選択されている場合は、各ノブがそのパラメーターをコントロールする事ができるというわけです。落ち着いて考えれば難しくはないですね。


というわけで音の鳴り始めと鳴り終わりをコントロールするだけでもかなりのことができるようになります。今回は時間的な音量変化をエンベロープでコントロールしてきたのですが、音質、すなわち「音のカラー」に関してはあえて触れていませんでした。
シンセ特有のあの「ビヨーン」とか「シュワーん」というのは音量が変わっているのではなく、音色が時間的に変わっているのです。ではそもそも明るい、暗いといった音色を変更するときはどのツマミを回せばよいのでしょうか?
それは「フィルター」と呼ばれるパラメーターになるのですが、フィルターについてはまた次回。それでは~
【関連記事】
【初心者のためのシンセ音作り】 その2 音色を変えるフィルター
【初心者のためのシンセ音作り】その3 ADSR+フィルターまとめ
【シンセサイザー 定番プリセット音色と種類】キーボード(ピアノ、オルガン、エレピ、クラビ)編
この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。







