前回までは「フィルター(音の明るさ)」や「ADSR(音の時間変化)」についてお話ししましたが、今回はもっと根本的な部分。
そもそも「何の音を鳴らすのか?」を決める 『オシレーター(OSC)』 について解説します。
オシレーターとは?
前回までで、ADSRとフィルターで「音をどう加工するか」は説明済みですが、肝心の「何の音を加工するのか」という部分が必要です。料理に例えると、「何(材料)をどう調理するか?」の「何(材料)」の部分です。シンセではその部分がオシレーター(発振器)と呼ばれるものです。
オシレーターにはシンセサイザーの種類によって様々な種類があるのですが、今回は基本となるアナログシンセの波形を使って見ることにします。
基本波形にはノコギリ波(Saw)、パルス波(Pulse Wave)、三角波(Triangle)などがありますが、まずはそれらの違いや特徴について説明していきたいと思います。今回はArturia( アートリア )のPigments というソフト音源(ソフトシンセ)を使って解説していくことにいたします。
音の高さを表す単位「Hz(ヘルツ)」に関しては最低限押さえておきましょう。
Arturia( アートリア )のPigmentsを使ってみよう
このPigmentsはデモ版(無料※)も用意されているのでそちらをダウンロードしていただければ本記事と同じことを試すことができます。
PigmentsはDAWのプラグインとしてだけではなくスタンドアローンモード(DAWを立ち上げずに単独のアプリケーションとして起動できるモード)でも使えますので、シンセの仕組みを学習するのにも最適なソフト音源だと思います。バーチャルキーボードでも音を出すことができますが、スムースに体験ができるようにぜひパソコンにMIDIキーボードを接続して準備してください。

※体験版の制限:インポート/エクスポートは無効。連続20分間使用可能
Pigmentsをインストール後、起動します。ルックスはDarkとLightを選択できますが、下記はLightデザインです。

モードによって様々な画面が表示されますが、ここで右上の「SYNTH」メニューを選択してみましょう。すると下記のようなシンセサイザーのパラメーター画面になります。

Pigmentsには白紙の状態からプログラムできるようにテンプレートというプリセットが用意されています。
ではそのテンプレートプリセットを呼び出してみます。中央上部にある音色名の部分をクリックすると、音色カテゴリーが選択できますので、スクロールすると「Template」が現れますので、そこで「Default」を選択してください。(下図、黄色枠の部分)

すると下記のような音色セッティングが呼び出されます。これは最小限の音作りから始めることができるプログラムです。

左上のセクションがシンセエンジンのセクションで、3系統のシンセエンジンが用意されています。この状態ではENGINE 1だけが発音する状態です。Pigmentsは3つのエンジンスロットに複数の音源方式を割り当て可能な、マルチエンジン構成を採用しています。このプリセットのENGINE 1は、「Wavetable」というものが選択されているので、これををアナログシンセに切り替えてみましょう。
左上のENGINE 1をクリックして「Analog」を選択します。

すると以下のような画面に切り替わります。

このEngine 1には3つのオシレーターが用意されていますが、オシレーター2と3のボリュームが0になっていますので、鍵盤を弾いてもオシレーター1の音しか聴こえない状態です(上図黄色の部分)。鍵盤を弾くと「ブー」「ジー」のような味気ない音が聞こえると思います。これはノコギリ波と呼ばれる波形です。
下図の黄色枠の部分で波形を選択することができますので聴き比べてみましょう。(図はサイン波)

Pigmentsのアナログエンジンでは以下の5種類の波形を選択可能です。
サイン波

三角波

ノコギリ波(右下がり)

ノコギリ波(右上がり)※Pigmentsではランプ波と呼ばれています

パルス波

それぞれの音響学的な説明はここでは詳しく触れませんが、それぞれの音色には特徴があります。それでは各波形の特徴をざっくり説明していきましょう。
サイン波(正弦波:Sine Wave)

非常にシンプルな「ポー」という音です。口笛や超低音のサブベースなどに使われますが、他のオシレーターを変調(モジュレーション)する場合などに使われる場合が多いようです。(ビブラート、トレモロなどの効果)シンプルゆえサイン波が搭載されていない機種もあります。
440Hz(ラの音)のサイン波を鳴らして周波数分布をiZotopeのOzoneで見てみると、下図のように表示されます。山になっている部分が440Hzですが、その他に倍音は含まれていません。※サイン波は自然界にはほぼ存在しない音です。
倍音とは基音(ここではラ:440Hz)の他に含まれる、整数/非整数倍の様々な周波数のことですが、倍音の含まれ方によって音色の特徴が決定されます。※同じラの音でもピアノとストリングスを区別できるのは、倍音構成が異なることも一つの理由です。

三角波(Triangle Wave)

矩形波より倍音が少なく、正弦波に近い丸い音色です。上昇する部分と下降する部分が同じ傾斜を持っています。エレクトリック・ピアノや音程の高い木管楽器などで使われる場合があります。
奇数倍音(3倍、5倍、7倍…)が含まれているのがわかります。440×3=1300(1,3)KHz、440×5=2200(2.2)KHz・・・・

シンセのオシレーターの周波数特性は、メーカーや機種によって若干の違いが生じます。それがまた個性と言えるでしょう。
ノコギリ波(Sawtooth WAVE)

「ジー/ジャー」という鋭く太い音。ヴァイオリンのような弦楽器や、Van Halen『Jump』のイントロのようなド派手なシンセブラス音を作る際に使用されます。またEDMやトランスで多用されるSuper Sawと呼ばれる分厚い音もこのノコギリ波が使われている場合が多いです。Pigmentsでは右上がりと右下がりが用意されていますが、聴感上は区別できません。使い方によって様々な効果を得ることができます。
ノコギリ波には奇数倍音(3倍、5倍、7倍…)と偶数倍音(2倍、4倍、6倍…)の両方が含まれています。440、880、1300、1760・・・

なおArturiaのソフト音源Jup-8000VのSUPER SAW音色はこのような特性になっていました。

SuperSawサウンドは下記Jup-8000V動画のBGMでも確認できます。
パルス波(Pulse Wave)
パルス波は四角い波形ですが、上部の幅が全体の何%になっているかを示す値をパルス・ウィズ(PW)といいます。パルス・ウィズパラメーターで上部と下部の幅を調節することができます。その幅の比率をデューティ比といいますが、デューティー比が1:1またはパルス・ウィズ50%のものをSquare WAVE(スクエア波:矩形波)と呼びます(下図)。

パルス波は「ピコピコ」「プープー」といういわゆる電子音的な音で、チップチューン風のサウンドでお馴染みです。スクエア波は奇数倍音のみが含まれ「ポー」といった丸みのある音で、クラリネットなどの木管楽器っぽいサウンドを作る際に使われます。
スクエア波は三角波と比較すると倍音の音量が大きくなっているのがわかります。

下図のWidthでパルスウィズを変えてみると音色の変化がわかります。

デューティー比が50%を超えると偶数倍音を含むようになり、だんだん「ジー」といった感じになります。ダブルリードのオーボエ風のサウンドに近いかもしれません。
パルスウィズを変化させてみると、スクエア波には含まれなかった偶数倍音が含まれてきます。

なおパルスウィズをLFO(後述:低周波オシレーター:ビブラートやトレモロ効果などを生み出す)でモジュレーションすると、コーラスのかかったようなうねりのあるサウンドを作ることができます。
チップチューン以外の音楽でアナログシンセを使う場合、これらの波形を剥き出しのまま単独で使うのは稀で、フィルターを通したり、時間的な音量・音色変化をつけたり、複数の波形を重ねたり、異なる波形を組み合わせたりして使用される場合が多いです。
例えばアタック部分はベル的なサンプル波形を使い、持続音にはファットなアナログ波形を使う等といったアイデアは古くはRolandのD-50(1987年)などでも使われています。また最終的にはディレイやリバーブ、コーラス等のエフェクターなどを使用して加工されているケースが多いと言えるでしょう。
下記はソフト音源として復活したRoland Cloud版D-50。有名なプリセット「Fantasia」はPCM(サンプリング波形)のベルとアナログ波形のパッドサウンドで構成されています。

Fantasiaの生みの親!D-50のサウンドクリエーターでもあるミュージシャンのEric Persig氏(現Spectrasonics代表)のデモ。
LFO
LFOとはLow Frequency Oscillator(低周波発振器)のことで、耳には聴こえないくらい(※)の低い周波数を生み出す部分です(機種によっては可聴域の音を発信するものもある)。※人間の可聴範囲は20Hz~20,000Hz(年齢・個人差あり)
LFOは、オシレーターやフィルターといった他のパラメーターを変調(モジュレーション)することで様々な効果を生み出すことができます。そのアイデアははぼ無限ですが、基本的なものとしては以下のようなものがあります。
① オシレーターの音程(Pitch)にかける → 「ビブラート」
- 動作: LFOがピッチを変調します。
- 効果: 音程が上がったり下がったりします。
- 音のイメージ: 歌声やバイオリンのような「アーーー〰〰〰」という、心地よいビブラートになります。
② フィルター(Cutoff)にかける → 「ワウ / ワブル」
- 動作: LFOが明るさ(カットオフ)を変調します。
- 効果: 音がこもったり明るくなったりを繰り返します。
- 音のイメージ: 「ワウワウ」「ミョーンミョーン」という音。ダブステップでよく聞く「ワブルベース」にも使われています。
③ 音量(Amp)にかける → 「トレモロ」
- 動作: LFOがボリュームを変調します。
- 効果: 音が大きくなったり小さくなったりします。
- 音のイメージ: エレピや、ビブラホン、ギターアンプなどでよく使われる効果です。
※ギター界では慣例的にアーム操作を「トレモロ」と呼んでいますが、「トレモロアーム」はビブラートがかかるもので、技術的にはトレモロではありません。
④ パルス幅(Pulse Width)にかける → 「PWM(パルスウィズモジュレーション)」
- 音のイメージ: コーラスがかかったような、独特のうねりと厚みが出ます。
- 動作: 前述の「パルス波のデューティ比」のツマミを揺らします。
- 効果: パルス波の幅が広くなったり狭くなったりします。
Pigmentsでこれらの効果を確かめることもできますが、PigmentsのLFOによるモジュレーション設定は少々特殊(画期的でもある)ですので、その方法を説明します。
オシレーターの音程(Pitch)にかける → 「ビブラート」
LFOのタブを選択すると3つのLFOが見えます。

その上にある部分でLFO1をクリックしてそのままそれを掴むイメージでマウスで図の位置(Fine)までドラッグ&ドロップします。

これでFine(音程の微調整を行うパラメーター)をLFOで変調するセッティングが完了します。

MIDIキーボードを弾くと音程が周期的に揺れる「ビブラート」効果が生まれます。
揺れの周期の速度(Rate)は下記のつまみを動かすことでコントロールできます。5Hzだと1秒間に5回の揺れがうまれます(Pigmentsは200Hzまで設定可能)。LFO1の波形を変えると音程の変化がかわります。

ビブラートの深さは、Fineのつまみの下に現れるLFO1の効果の深さを調節できるバーチャルツマミで変更することが可能です。

LFO1のFineへの変調を解除したい場合は、上記のバーチャルツマミをダブルクリックすると接続が切れます。次のフィルターへの変調を試す場合は一旦解除しておいたほうがわかりやすいです。
フィルター(Cutoff)にかける → 「ワウ / ワブル」
先ほどと同様の方法で今度はFilterのCutoffというツマミにドラッグ&ドロップします。

Cutoffつまみを左側に回して12時くらいの位置にして、Cutoffの隣りにあるResonanceを上げると更にワウの効果がわかりやすくなると思います。スピードと深さ(デプス)の調節はビブラートの時と同じやり方でできます。
トレモロとPWM
ここまでである程度コツは掴めたのでは無いかと思います。LFOで変調したい任意のパラメーターを選択して設定してあげればよいので、同様に「トレモロ」と「PWM」を試す場合は、どのパラメーターなのかがわかればよいわけですね。
トレモロの場合は音量をコントロールするAMP MODです。すでにVelocity(鍵盤を叩く強さ)がアサインされています。強く打鍵するほど音量が上がる設定がすでにされていたわけですが、これにLFOでトレモロが追加されます。LFO1の波形を変えると色々な種類のトレモロがうまれます。

PWMの場合はOSCILLATOR 1の「Width」です。波形はパルス波を選択してください。Cutoffが絞られていたら右に回すと効果がわかりやすいです。LFO1の周波数は1Hzくらいが良いかもしれません。

いかがでしょう?LFOの基本的な役割が理解できましたでしょうか?
音楽的な音色にするには?
基本のオシレーター波形とLFOについて説明してきましたが、しかし実際の音色づくりではもっと音楽的な効果を生むためにもうひと工夫する必要があります。上記で試した方法では、鍵盤を弾くと同時に効果がかかってしまうわけで、なんだか機械的で味気ないサウンドに聴こえませんでしたか?
実際の演奏では、例えば「モジュレーションホイールを上げるとビブラートがかかる」とか「鍵盤を弾くと徐々にビブラートがかかる」といった自然な音楽表現が必要とされるわけです。これらの設定方法は機種によっても違いがありますので今回は詳しくは触れませんが、各パラメーターの意味を理解することで方法論が自ずと生まれてくるのではないかと思います。
Pigmentsのプリセット音色にはこうした様々な工夫が施されたプリセット音色が収録されていますので、ぜひ試してみてください(下記はPigments7製品版)。

その他の合成方式について
今回はシンセサイザーの心臓部である「オシレーター」と、そこに含まれる「倍音」について解説しました。
シンセサイザーの世界は非常に奥深く、今回ご紹介した古典的なアナログシンセサイザー(減算合成)以外にも、金属的な響きが得意な「FM音源」や、実際の録音波形を使う「ウェーブテーブル」、粒子のように音を扱う「グラニュラー」など、多種多様な合成方式が存在します。特にFM音源などは、その仕組みの特殊さゆえに「難解だ」と思われている方もいるのではないでしょうか?
下はYAMAHA DX-7を復刻したArturiaのソフト音源「DX-7 V」

しかし、今回学んでいただいた「基本波形の特徴」や「倍音の豊かな・少ない」といった感覚は、どんなシンセサイザーを触る上でも共通する、いわば「音作りの共通言語」です。
たとえ複雑なデジタルシンセサイザーであっても、「この音は少し倍音を削って丸くしよう」「LFOで動きをつけてみよう」という思考プロセスは、アナログシンセの基礎が土台となって初めて生まれるものです。
このアナログの基本さえしっかり体に染み込ませておけば、今後どんな新しいシンセに出会っても、「あ、基本の応用だな」と恐れずにツマミを回せるようになるはずです。ぜひ、この基礎を武器に、自由な音作りを楽しんでください。
以下記事もぜひお読みいただければ幸いです。
この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。
| 品名 | 販売価格 | リンク |
|---|---|---|
| Pigments 7 JANコード:4959112235588 | ¥25,960(税込) | オンラインストア |













