新年あけましておめでとうございます!サカウエです。何卒本年もよろしくお願いいたします。
さて、昨年も各社から魅力的なハードウェアシンセサイザーが数多くリリースされましたね。今回は、これまで数百台のシンセを弾き倒してきた私が「2台目のシンセ」に最適な、10万円台で手に入る超おすすめモデルを3機種、厳選してご紹介します。
最初の1台として、ピアノやストリングスなど多彩な音色を網羅した、61鍵以上のワークステーションを選んだ方も多いのではないでしょうか。RolandのFANTOM、YAMAHAのMONTAGE、KORGのKRONOSといったフラッグシップ機や、JUNO、MODX、KROSSなどが、その代表格ですよね。
それらはまさに万能選手。ですが、そろそろ「自分だけの音」が欲しくなってきませんか?そんなあなたに、私がおすすめする「2台目」の選び方がこちらです。
- サウンドのキャラクターが際立っているモデル
- ノブやスライダーで直感的に音作りが楽しめるモデル
- 最初の一台とは異なる「音源方式」のモデル
せっかく2台目を迎えるなら、1台目とは全く違う個性を持つシンセの方が、音楽の幅がぐっと広がると思いませんか?
もちろんFANTOMとMONTAGEを買うという選択肢がないわけではありませんが、1台目の万能なワークステーションが楽曲制作の強力な土台となっている今だからこそ、2台目にはその対極にある「特化型」のシンセを選ぶ。それこそが、あなたの音楽表現を飛躍させるカギになるはずです。左手でエレピのコードバッキング、右手でシンセソロといったスタイルにバッチリだと思います。
こんなこともできるかも?・・スゴ
さらに今回は、ライブでメインキーボードの上に置いたり、自宅の制作スペースにもすっきり収まるコンパクトなモデルをセレクトしました。使い勝手の良さも、創作意欲を刺激する大切な要素です。
あなたの音楽に新たなインスピレーションを注ぎ込む、個性豊かな3台。さっそく見ていきましょう!
Moog Messenger

2025年のシンセ界隈で起きた“事件”といえば、やはりこれでしょう。あの憧れのシンセメーカー「Moog(モーグ)」から、なんと12万円を切るモノフォニックシンセ「Messenger」が登場したのです!
Moogシンセサイザーとは?
Moogといえば1960年代にロバート・モーグ博士が開発した、ARPなどと並んで歴史的に重要なシンセサイザーのブランドの一つです。当初は、様々なサウンド・モジュールをパッチングして音を作る「モジュラー」方式のシンセサイザーで、冨田勲氏やウォルター(現ウェンディー)・カルロスといったアーティストがいち早く音楽制作に導入して数々の名作をリリースしています。
日本では「ムーグ」と呼ばれていた時期もありますが、正しくは「モーグ」と発音します。今でも「ムーグ」と呼ぶ方もいらっしゃいますが、それはおそらくリアルタイムであの時代を過ごしてきたマニアックな方だと思います。
Moog モジュラー
1971年に冨田氏がアメリカから輸入した際は、税関で「軍事用精密機器」と疑われてしまい、通関するまでに1ヶ月ほどかかったという逸話は有名ですが、シンセサイザーなんて誰も見たこともなかった時代ですから楽器とは考えにくかったのは無理もないですね。
なおエマーソン・レイク・アンド・パーマー(EL&P)のキース・エマーソン(シンセサイザーを楽曲の中心に導入した先駆者)などは、なんとこれをステージに持ち込んで超絶パフォーマンスを行っていました。とにかく存在感のある音で、当時、今ままで全く聞いたことのない電子サウンドには皆驚愕したものです。ちなみに冨田氏のモジュラー通関の際、「キース・エマーソンがモジュラーを演奏している写真」が楽器であることの証明となったようです。
当時のEL&Pのライブ・・こんな感じの写真だったのでしょうか?
同じ頃、配線の不必要な鍵盤一体型のMiniMoogが発売されるやヒットし、ロックやジャズ、テクノ系の多くのミュージシャンがステージで使用するようになり、シンセサイザーの普及に大きな影響を与えました。MiniMoogはモジュラーほどの音作りの自由度はありませんが、コンパクトで演奏中に音色を変化しやすい明快なレイアウト、ピッチベンド/モジュレーション・ホイールを使った演奏表現などに優れたパフォーマンスシンセサイザーでした。今でも愛用者は多く、分厚いシンセベースやシンセリードなどをプレイされるケースが多いと思います。
下写真はMiniMoog復刻版ですが、今でもビンテージモデルは中古市場でも80万〜130万前後で取引されているようです。

1970〜75年頃のMiniMoogの国内価格は50万程度(※)で、私には高嶺の花でしたが、確か当時は日本楽器(現在のヤマハ)が輸入代理店だったと記憶しています。
※1970〜75年頃は1ドル=300〜360円前後、大卒初任給は4〜8万程度
MiniMoogをはじめ当時のアナログシンセは、メモリー機能もなく、さらに湿度や温度でツマミの抵抗値が変わるため、厳密には同じ音は二度と再現できない、まさに一期一会のサウンドだったと言えるでしょう。ただしその不安定な音程や音色の揺れなどによって有機的なサウンドが生み出せていたとも言えるかもしれません。
冨田氏の作品を聴けば理解できますが、現代のシンセでは再現不可能とも言える非常に有機的なサウンドに驚かせられます。どうやったらあんな音が出るのか、、2026年の現在に聞いても常に新鮮な驚きを感じさせてくれる作品です。ぜひ「月の光」(ドビュッシーの作品をシンセでリメイクしたアルバム)は聞いてほしいですね。
Mini Moogの歴史動画
Messengerとは?

さて、ついつい前置きが長くなりましたが、このMessengerは、そのMoog伝統のアナログ回路が生み出すサウンドはそのままに、現代の音楽シーンに即した革新的な機能が満載。特筆すべきは、伝統のラダーフィルターに搭載された「RES BASS」スイッチです。レゾナンスを上げた際の低域の痩せという、ある種の“味”でもあったMoogにあらたなサウンドを付加できるようになりました。往年のビンテージサウンドと、音圧を保ったモダンなベースサウンドを一台で両立することができるようになっています。

さらに驚くべきは、Moogとしては異例の「ウェーブフォールディング」機能。ブランドイメージである温かなサウンドに加え、金属的で過激な倍音を持つアグレッシブな音作りまで可能に。創造性の幅が、規格外に広がっています。
個人的には、しっかり弾けるフルサイズ鍵盤という点も高評価です(欲を言えば37鍵ほしかったですが…!)。元祖MiniMoogと比べるとオシレーターのキャラクターは異なりますが、プリセット機能や前述のRES BASSスイッチがもたらす新しいサウンドは、まさに現代のMoog。唯一無二のシンセベースを追い求めるなら、最高の選択肢です。
アフタータッチ対応の鍵盤、豊富な接続端子も備え、あらゆる制作環境にフィット。セミモジュラーを除けば、「あのMoogサウンドがこの価格で手に入る」という事実だけで、選ぶ価値は十二分にあるでしょう。
2台目のシンセはもちろん、ベーシストが演奏する「シンセベース」としてもオススメの一台です。
Sequential Fourm

Moogの衝撃に続き、10月にはSequentialからも注目のコンパクトシンセがリリースされました。その名は「Fourm」。4ボイスのアナログ・ポリフォニックシンセサイザーです。今は亡き伝説的シンセ開発者、Dave Smith氏の魂を受け継ぎ、進化させた一台と言えるでしょう。
スリムタイプの37鍵盤に搭載されているのは、ブランドの象徴である「Prophet-5」のサウンド・アーキテクチャ。さらに、和音の一つ一つの音に異なる表情を加えられるポリフォニック・アフタータッチまで融合させました。

1977年にリリースされたシーケンシャル・サーキット社(当時)のポリフォニックシンセ。ポリ・モジュレーション機能によって生み出される複雑な倍音が特徴で、当時は170万という高額にも関わらず、YMO、坂本龍一、ハービー・ハンコック等々、内外の多くのアーティストに愛用されました。
下写真は2020年に復刻発売されたRev.4モデル。¥669,800(税込)

Fourmのサウンドの核となるのは、もちろんProphet-5譲りの温かく存在感のあるアナログオシレーターとフィルター。そこに、名機Pro-Oneから着想を得た直感的なモジュレーションと多彩なアルペジエーターが加わります。
Fourmは、1ボイスあたり2基のデュアルオシレーターと4ポールローパスフィルターを搭載。フィルターには低音補正機能が組み込まれ、高共鳴セッティングでも厚みのあるサウンドを再現します。Prophet-5らしい温かみと存在感あるトーンはそのままに、より現代的で力強い響きを提供し、クラシックシンセと最新のサウンドデザインを両立させています。
Fourmは、スリムタイプの37鍵盤ながら、ポリフォブックアフタータッチに対応しています。アフタータッチ機能には大別するとチャンネルアフタータッチとポリフォニックアフタータッチの2種類があります。どちらも鍵盤を弾いた後に「押し込む」ことで様々な効果を得ることが出来ます。
たとえば鍵盤を押し込むことによって、フィルターの開閉や、ビブラートなどを変化させることができるセッティングで説明します。
チャンネルアフタータッチの場合、ドミソを弾いてドの音だけを押し込んだとするとすべての音に「均一に」効果がかかることになります。一方ポリフォニックアフタータッチではドミソを弾いてドの音だけを押し込んだとすると、ドの音だけに効果がかかります。
すなわち、ポリフォニックアフタータッチの場合は、各鍵盤ごとに効果の深さをコントロールすることができるので、より表現力豊かな演奏が可能になります。つまりドとミの鍵盤の押し込む深さで、それぞれの音色変化を個別にコントロールできることになるわけです。※鍵盤だけでなく音源側でもポリフォニックアフタータッチに対応していなくてはなりません。
他にも後述の動画でも見られますが、押し込むことでピッチベンドがかかるセッティングにすれば、和音を弾いて「任意の音だけをピッチベンドで一音上げる」なんてことも可能になります。複弦を弾いて1弦だけチョーキングするなどのギターっぽいフレーズも演奏可能になるわけですね。
シンセサイザーのスペックを見て「アフタータッチ対応」という記述がある場合は、大抵がチャンネルアフタータッチに対応という意味になります。
ミニ鍵盤の採用は好みが分かれる点ですが、このコンパクトな筐体に伝説のサウンドと革新的な演奏性を凝縮したFourmは、新時代のスタンダードとなりうるポテンシャルを秘めています。ポリシンセだけに、分厚いシンセブラスやパッド、アンビエント風のサウンドなどが演奏に生きるシンセという印象を持ちました。
カスタムメイドのMIDIコントローラーでベースとドラムのパートを同時に演奏するパフォーマンスでも有名なGLASYS氏のデモ。
詳しいレビュー&スペックは下記記事を御覧ください。
Arturia AstroLab 37

3機種目は、日本でも絶大な人気を誇るArturia社の「AstroLab 37」です。前述の2機種が純粋なアナログシンセだったのに対し、こちらは最先端のソフトウェア音源をハードウェアに凝縮した、新世代のステージキーボードです。
ソフト音源技術をハードウエアに搭載したAstroLabシリーズは、サンプル、バーチャルアナログ、FM、グラニュラーなど10種類のサウンドエンジンを搭載し、内蔵サウンドは1300種類以上。専用ソフトを使えば、その数は1万音色を超えます。(数字はバージョンによって異なる)
そんなモンスターマシンのAstroLabシリーズに、2025年末、待望の37鍵モデルが加わりました。

61 / 88鍵盤モデルと比較するとかなりコンパクトなことがわかりますね。

上位モデルの強力なサウンドエンジンはそのままに、圧倒的なコンパクトさを実現。最大の魅力は、PCなしで、Arturiaが誇るソフト音源の集大成「V Collection」の伝説的サウンドを演奏できること。しかも、重量わずか約2kgという驚異的な軽さで、スタジオクオリティの音をどこへでも手軽に持ち出せます。
独特のディスプレイも高品位で美しいです。

AstroLab 37は、Jupitar-8、JUNO、Prophet-5、Mini Moog、MS-20、DX-7、ARP2600等々、歴史を造ってきた数々のビンテージシンセをエミュレーションしたサウンドエンジンを搭載しています。前述のMini MoogやProphet-5の音も出るならこれで良いのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。大きな違いはハードかソフトか?という点ですね。そこがこだわりのポイントになるのではないでしょうか?
以降、本物の実機のハードシンセとソフト音源を弾いた経験上の両者の違いを述べます。
サウンド(音)
近年のソフト音源の進化はめざましいものがあり、単に音色だけで比較するとブラインドテストでは専門家でも聴き分けるのが困難なレベルに達していると思います。ただし、ハードの場合、アナログ回路特有の「非線形性(ノンリニアリティ)」が、デジタルでは再現しきれない独特の質感を持ちます。また実機の偶発性や、複数のパラメーターが複雑に絡み合って生まれる有機的な変化を完全に再現するのは、まだ難しい領域です(時間の問題かもしれませんが・・)。シンセではありませんがハモンド・オルガンはあのハードウエアがあってこその演奏表現とサウンドがあるので、ソフト音源とキーボードだけでは再現は難しいと思います。
操作性
ハードの場合、ツマミを回す、フェーダーを動かすという物理的な行為が、創造性を刺激してくれます。これはつまり偶然の発見(ハッピーアクシデント)が生まれやすい環境です。ソフト音源の場合、同時に複数のパラーメーターを動かすためにはMIDIコントローラー等が必要になります。AstroLabの場合は各ツマミに任意のパラメーターをアサインできますが、機能は限定的なので自分の意図したパラメーター設定にするには作業が必要になります。
音楽制作等で、DAWとの連携を考えた場合、ハードシンセをいくつも用意してレコーディングするのは正直いって本当に大変です。ソフト音源をプラグインで立ち上げてぱぱっとレンダリングすればあっという間にビンテージシンセ(らしい)のトラックが出来上がってしまいます。MiniMoogを和音で弾くことだって出来るんですから・・・・
またライブでMoog ModularやHammond B-3(有名なオルガン)をセッティングするのは超大変です(そもそも実機を持ってないですが)、とはいえ本物のサウンドもさることながらその存在感は何者にも代えがたいものがあります。
さて以上をまとめると、「ハードにはハードの、ソフトにはソフトの良さがある」という極めてありきたりな結論になってしまいます。現代の音楽制作や演奏において、ソフト音源は必要不可欠なツールとなっています。Arturia V Collectionシリーズなどのクオリティは驚異的で、ほとんどの場面でヴィンテージ実機の代わりを十分に務めます。しかし、ヴィンテージアナログシンセに触れた時のインスピレーション、ツマミを回した時の音の変化の生々しさは、何物にも代えがたい特別な体験です。かといってステージにそれを用意するのは一部の方を除いて難しいですね。
というわけで、本当はハードを持ちたいけど、重いし、メンテは大変だし、場所は取るしセッティングも一苦労。というのが正直な感想です。最近のはあえてビンテージ機材を取り入れているバンドも少なくないですが、お金と手間がかかることには間違いありません。
総合的に、アフタータッチ対応の表現力豊かなスリム鍵盤、アルペジエーターやコード機能、豊富な接続端子に加え、Wi-FiやBluetoothまで内蔵。制作からライブまで、あらゆるシーンをシームレスに繋いでくれるAstroLab 37は、11万円という価格であれば買って損はないと思います。SNSで絶賛の嵐となっているのも頷けます。
「どうしてもアナログの質感が欲しい!」というこだわりがなければ、これは最高の「2台目」かもしれません。あらゆるジャンルに対応できる、まさに万能のセカンドシンセです。本物のMiniMoogもほしいですけど・・・
MIDI IN/OUT はもちろん、USB-A(ホスト)、USB-Cにも対応。バランスマイク入力も装備しています。

機能比較

あとがき
さて、注目の3機種をご紹介してきましたが、気になる一台は見つかりましたか?
サウンド、演奏性、携帯性。それぞれに強みを持つ3台は、自分の音楽スタイルに合わせて選ぶ楽しみがありますね。
スペック表を眺めるのも大切ですが、最終的には「この楽器でどんな音楽を作りたいか」というイメージが、最高のパートナーを見つける一番の近道なのかもしれません。
音作りにじっくり向き合いたいのか、ライブで即戦力として使いたいのか、それともフットワーク軽く色々な場所で音楽を楽しみたいのか。自分のスタイルを想像すれば、自然と相性の良い楽器が見えてくるはずです。
もし少しでも気になるモデルがあれば、ぜひ島村楽器の店舗(※)で実物に触れてみてください。カタログだけでは分からないツマミの感触、鍵盤の弾き心地、そして何より「音」そのものが、きっとあなたに何かを語りかけてくれるはずです。
この記事が、あなたの音楽ライフをさらに豊かにする、新しいパートナーを見つける一助となれば幸いです。
- 対象製品の試奏は、一部店舗にて実施しております。ご希望の際は、事前に必ず店舗へお電話等でご確認ください。
販売価格
| 品名 | 販売価格 | リンク |
|---|---|---|
| Moog Messenger JANコード:0694318026717 | ¥119,800(税込) | オンラインストア |
| Sequential Fourm JANコード:4580646115666 | ¥149,800(税込) | オンラインストア |
| Arturia AstroLab 37 JANコード:3760033532240 | ¥110,000(税込) | オンラインストア |
この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。











