ライブハウスのステージで演奏してみると、リハーサルスタジオで作り上げたはずのアンサンブルと、大きく違って聴こえることがあります。
ボーカルは自分の声が聴こえずにピッチが不安定になり、リズム隊のグルーヴも噛み合わない。ライブ経験者であれば、一度はこのようなステージを経験したことがあるのではないでしょうか。
原因はさまざまですが、その大きな要素のひとつが、ステージ上のモニター環境です。
どんなに優れたプレイヤーでも、演奏に必要な音が聴こえにくい環境では、実力を十分に発揮しにくくなります。
とくに初心者が陥りやすいのが、「自分の音が聴こえないから」と、安易に自分の楽器アンプの音量を上げたり、モニターの返しを大きくしてもらったりすることです。
すると、隣のメンバーも自分の音が聴こえにくくなり、さらに音量を上げる。こうした音量の上げ合いは、ステージ上の音を濁らせるだけでなく、客席に届く音にも影響することがあります。
大切なのは、「自分の音が大きく聴こえるか」だけではありません。
自分たちの演奏を聴きに来てくれたお客さんに、どのような音で届いているのか。そして、その音楽を楽しんでもらえているのか。そこまで意識することが、ライブ全体のクオリティにつながります。
そのためには、自分だけでなく、メンバー全員が「演奏に必要な音」を聴けているかを確認することが重要です。
この記事では、イヤモニの基礎知識をおさらいしながら、各パートがどの音を基準に演奏しているのか、そして個人やバンドでできるモニター調整の考え方について解説します。
演奏の基準になる音を知る:パート別モニターの考え方
ライブハウスや小規模イベントのPAでは、客席に届ける音と、演奏者がステージ上で聴くモニター音を同時に考える場面が多くあります。
PAやモニターを調整する際に大切なのは、各プレイヤーが演奏の「基準になる音」を聴き取れているかどうかです。この記事では、その基準になる音を「アンカー」と呼びます。アンカーとは、演奏のタイミングや音程を判断するための手がかりになる音のことです。
モニター調整では、自分の音だけを大きくする「足し算」の発想になりがちです。しかし、全員が同じように音量を上げていくと、ステージ上の音はどんどん濁ってしまいます。
大切なのは、「何を上げるか」だけでなく、「何を下げるか」という引き算の考え方です。
自分以外のパートが何を重視して聴いているかを知っておくと、バンド全体のモニター調整もしやすくなります。ここでは、楽器別にモニターで確認したい音の目安を紹介します。
ボーカル:自分の声とコード感を中心に聴く
聴きたい音の目安:自分の声、コーラス、コード楽器、必要に応じてリズムの基準になる音
ボーカルにとって最も重要なのは、自分の声がはっきり聴こえることです。自分の声が聴こえないと、音程や声量のコントロールが難しくなります。
次に大切なのが、ピッチの基準になる音です。たとえば、キーボード、ギター、アコースティックギターなどのコード楽器があると、今鳴っている和音の響き、つまり「コード感」をつかみやすくなります。コード感とは、曲の中で鳴っている和音の響きのことです。ボーカルはこの響きを手がかりに、自分の音程を合わせやすくなります。
ただし、コード楽器を大きく返しすぎると、今度は自分の声が埋もれてしまうこともあります。自分の声を中心に、歌いやすい程度にコード楽器を加えるのが基本です。また、キーボードやアコースティックギターは、DIなどを通して直接PAへ送られることが多い楽器です。ステージ上にアンプがない場合、モニターに返さないと他のメンバーにはほとんど聴こえないことがあります。
ボーカルモニターでは、リバーブ、いわゆるエコーを返してほしいという要望もよくあります。少量のリバーブは歌いやすさや安心感につながることがありますが、深くかけすぎると音程や言葉の輪郭がぼやけ、自分の声の芯をつかみにくくなる場合があります。モニターでは、リバーブの気持ちよさだけでなく、ドライな声の輪郭も確認できるバランスを意識するとよいでしょう。
ボーカルは楽曲全体の中心になるため、モニターでも優先して返されることが多いパートです。だからこそ、「もっと大きく」だけでなく、他の音とのバランスにも配慮することが大切です。
ギター:リズムの輪郭とボーカルを聴く
聴きたい音の目安:スネア、キック、ボーカル、自分のギター
ギターは、スネアやキックを聴くことでリズムの位置を合わせやすくなります。特にスネアのバックビートがはっきり聴こえると、カッティングのタメやフレーズの入り方を合わせやすくなります。
歌モノであれば、ボーカルも重要です。歌の入りや曲の進行を把握しやすくなるためです。もちろん、必要な音は曲調や編成によって変わりますが、まずは「リズムの基準」と「曲の進行がわかる音」を意識するとよいでしょう。
自分のギターが聴こえにくいと感じたときは、すぐに「ギターを上げてください」と伝える前に、アンプの向きや立ち位置、ほかの音とのバランスを確認しましょう。
自分の音そのものが小さいのか、スネアやボーカルが聴こえないことで演奏しづらいのかを切り分けることが大切です。
ベース:キックを基準にグルーヴを作る
聴きたい音の目安:キック、スネア、自分のベース、ボーカル、必要に応じてギター
ベーシストにとって、キック、つまりバスドラムは非常に重要なアンカーです。キックを基準にすることで、自分のリズムの揺れを確認しやすくなり、ドラムと一体になったグルーヴを作りやすくなります。
モニターでキックを聴くときは、低い「ドン」という成分だけでなく、音の出始めの輪郭である「アタック成分」も大切です。アタック成分とは、音が鳴り始める瞬間の輪郭のことで、キックでいえば「コツッ」「ペチッ」と感じる高めの成分を指します。
低音ばかりを大きく返すと、ステージ上でモワついて、かえってタイミングが取りづらくなることがあります。キックのアタックが少し聴こえると、ベースの入りや音の長さを合わせやすくなります。
また、曲の構成を把握するためにボーカルを聴くことも大切です。ギターとのユニゾンやキメがある曲では、必要に応じてギターも少し返してもらうと演奏しやすくなります。
ドラム:キックを中心に、ベースとボーカルを確認する
聴きたい音の目安:キック、ベース、ボーカル、クリック
ドラムは生音が大きい楽器ですが、ステージ上では低音の回り込みや他の楽器の音によって、自分のキックの輪郭が意外とわかりにくくなることがあります。モニターがある場合は、まずキックを確認できるようにし、その上でベースを少し返してもらうと、リズム隊の一体感を作りやすくなります。しかし、ベースを返しすぎると低音が膨らんでタイミングがぼやけることがあるため、まずはキックの輪郭を優先し、ベースは必要な分だけ足していくと扱いやすいでしょう。
また、ボーカルが聴こえると、曲の展開や歌の入り、ブレイクのタイミングを把握しやすくなります。
同期音源やオケに合わせて演奏する場合は、クリックも非常に重要です。クリックとは、テンポを合わせるためのメトロノーム音のことです。同期演奏では、ドラマーがクリックを基準に演奏することで、バンド全体が打ち込みや映像とズレにくくなります。
小規模なライブハウスでは、ドラム専用のモニターを置かない場合もあります。その場合でも、ベースの音がある程度聴こえる配置にしておくことが重要です。ベースアンプの位置や向きによって聴こえ方が大きく変わるため、リハーサル時に確認しておくと安心です。
キーボード:自分の音とボーカルを確実に聴く
聴きたい音の目安:自分のキーボード、ボーカル、クリック、必要に応じてリズムの基準になる音
キーボードは、ステージ上にアンプを置かず、ラインでPAに送ることが多いパートです。そのため、モニターに返さないと、自分の音がステージ上で聴こえないことがあります。
まず大切なのは、自分の音量や音色がきちんと確認できることです。特にピアノ、エレピ、オルガン、シンセパッドなど、音色によって聴こえ方や必要な帯域が変わります。自分の音色がモニター上で埋もれていないか、リハーサル時に確認しておきましょう。
また、歌モノではボーカルも重要です。ボーカルを聴くことで、歌の入りや展開、コードチェンジのタイミングを合わせやすくなります。同期音源を使う場合は、ドラムと同じくクリックも必要になります。
キーボードでよくある悩みのひとつが、ギターと中音域が重なりやすいことです。自分の音が聴こえにくいとき、単純にキーボードの音量を上げるだけでは、ステージ上の音がさらに混雑してしまうことがあります。そのような場合は、モニター内でギターの音量を少し下げてもらったり、キーボードの音色やEQを調整したりして、音のスペースを作ることが有効です。
「足りない音を上げる」だけでなく、「邪魔になっている音を少し下げる」ことも、アンサンブルを崩さないための大切な考え方です。
パートごとの聴き方に、正解はひとつではない
ここで紹介した内容は、あくまで代表的な考え方のひとつです。
人によっては、「私はハイハットのほうがリズムを取りやすい」ということもあるでしょう。
あるいは、「自分はギターの音で楽曲の進行を把握している」という方もいるかもしれません。
もちろん、それで問題ありません。
大切なのは、「このパートは必ずこの音を聴くべき」と決めつけることではなく、メンバーそれぞれが何を頼りに演奏しているのかを知ることです。
たまには、リハーサルの中で「今、何を聴いて演奏している?」と確認し合ってみる。必要であればPAとも相談しながら、演奏しやすく、そしてお客さんにも気持ちよく届くライブをつくっていく。
そういったやり取りも、ライブの楽しみ方のひとつだと思います。
イヤモニとウェッジモニターの違い
前章で触れた「自分に必要な音を、演奏しやすいバランスで聴く」ために、ステージではいくつかのモニター方法が使われます。その中でも代表的なのが、足元のスピーカーで聴く「ウェッジモニター」と、耳に装着して聴く「インイヤーモニター(IEM)」です。
ウェッジモニターとは?
ウェッジモニターとは、ステージ上の足元に置かれる斜め向きのスピーカーのことです。日本のライブ現場では「転がし」と呼ばれることもあります。ライブ映像などで、ステージ前方の足元に置かれているスピーカーを見たことがある方も多いでしょう。
ウェッジモニターは、演奏者が自分の声や楽器、ほかのメンバーの音を確認するために設置されます。

ウェッジモニターのメリット
ウェッジモニターの大きなメリットは、多くのライブハウスやイベント会場にすでに用意されていることです。演奏者側が専用の機材を持ち込まなくても使えるため、導入しやすいモニター方式といえます。
また、イヤホンで耳をふさがないため、ステージ上の空気感や他のメンバーの生音、観客の反応を自然に感じやすい点もメリットです。音を身体で感じる「ライブ感」を得やすいのも、ウェッジモニターの特徴です。
ウェッジモニターの注意点
一方で、ウェッジモニターはステージ上に音を出すため、隣のメンバーのモニター音や楽器の生音と混ざりやすくなります。人数が多いバンドやステージが狭い会場では、音が濁って聴こえる原因になることがあります。
また、マイクの向きや音量バランスによっては、ハウリングが起きることもあります。ハウリングとは、マイクがスピーカーから出た音を拾い、その音が再びスピーカーから出ることで「キーン」「ボー」といった音が発生する現象です。
インイヤーモニター(IEM)とは?
インイヤーモニター、通称「イヤモニ」は、耳に装着して使うモニター用イヤホンのことです。IEMは「In-Ear Monitor」の略です。テレビの音楽番組などで、アーティストが耳に装着しているイヤホンを見たことがある方も多いでしょう。
イヤモニでは、PAミキサーから送られたモニター音を、ワイヤレスシステム、または有線ケーブルを使って、演奏者の耳元に直接届けます。

イヤモニのメリット
イヤモニの大きなメリットは、必要な音を耳元で確認しやすいことです。イヤーピースが耳に合っていれば、外部の大きな音や他の楽器の音をある程度遮断できるため、ウェッジよりも細かい音を聴き取りやすくなります。
また、演奏者ごとにモニターミックスを作りやすい点もメリットです。
モニターミックスとは、ボーカル、ギター、ドラムなどを「誰が何をどれくらい聴くか」に合わせて調整した、モニター用の音のバランスのことです。たとえば、ボーカルは自分の声とコード楽器を多めに、ドラマーはキックやクリックを多めに、といったように、パートごとに必要な音を整理しやすくなります。
さらに、ウェッジから出す音量を減らせるため、結果としてステージ上の音量を抑えやすくなります。ウェッジモニター由来のハウリングリスクを減らせる点も、大きなメリットです。
適切な音量で使えば、外部の大きな音に対して耳栓のような効果も期待できます。ただし、イヤモニ自体の音量を上げすぎると耳への負担になるため、音量管理は重要です。
イヤモニの注意点
一方で、イヤモニを使うには専用の機材や事前準備が必要です。イヤホン本体だけでなく、有線ならヘッドホンアンプや小型ミキサー、無線なら送信機・受信機なども必要になります。
ライブ本番で急に使い始めると、音が出ない、片耳しか聴こえない、音量が大きすぎるといったトラブルにつながることがあります。また、イヤモニで聴けるのは、基本的にミキサーへ入力されている音です。そのため、ギターアンプやドラムの音、客席の反応などもイヤモニ内で聴きたい場合は、マイクで拾う必要があります。
それと、本番では、観客の歓声やメンバーの生音が遮られ、ステージ上の空気感が薄く感じられることもあります。人によっては、客席との距離が遠くなったような疎外感を覚える場合もあります。その対策として、会場の空気感や観客の声を拾う「アンビエントマイク」を立てることもあります。
補足:イヤモニ使用時にウェッジが置かれている理由
テレビ番組や大きなステージでは、イヤモニを使っているにもかかわらず、ウェッジモニターが置かれていることがあります。
これは、実際に音を出して補助的に使っている場合もあれば、視覚的な演出としてダミーのウェッジを置いている場合もあります。そのため、「イヤモニをしているのにウェッジがある=必ず音が出ている」とは限りません。
ウェッジモニターとインイヤーモニター(IEM)の比較表
| 比較項目 | ウェッジ(床置きモニター) | インイヤーモニター(IEM/イヤモニ) |
|---|---|---|
| 基本的な仕組み | ステージ上の床に置いたスピーカーから、演奏者に向けて音を出す。 | イヤホンを耳に装着し、ミックスされたモニター音を直接耳に届ける。 |
| 音の明瞭度 | ドラム、ギターアンプ、客席用スピーカーの音などと混ざり、音が濁ることがある。 | 耳元で直接鳴るため、細かい音程やリズムを確認しやすい。遮音性が高いほどクリアに聴こえやすい。 |
| 音量管理 | 音量を上げすぎるとハウリングが起きやすく、他の演奏者もさらに音量を上げる流れにつながることがある。 | ステージ上のスピーカー音量を減らせるため、全体の音量を下げやすい。ハウリングのリスクも減らしやすい。 |
| 聴覚の保護 | 大音量のドラム、アンプ、モニタースピーカーの音を直接浴びるため、耳への負担が大きくなりやすい。 | 遮音性により、小さめの音量でも細部を確認しやすい。ただし、IEM自体の音量を上げすぎると耳を傷める危険がある。 |
| 自由な動き | スピーカーの正面から外れると聴こえ方が変わる。立ち位置にある程度制限がある。 | ワイヤレスIEMなら、ステージ上のどこにいても比較的一定したモニター音を聴ける。※電波状況や電池残量の管理が必要。 |
| ライブ感・観客の空気感 | 観客の声、会場の響き、他の楽器の空気振動を自然に感じやすい。 | 耳を密閉するため、そのままだと観客の反応や会場の空気感が薄くなりやすい。 |
| 演奏の安定感 | 音が聴き取りにくい環境では、ピッチやリズムが不安定になることがある。 | クリック、同期音源、コーラス、自分の声などを正確に聴きやすく、演奏の安定につながりやすい。 |
| ミックスの自由度 | 複数人で同じウェッジを共有する場合、個別の要望に対応しにくい。 | 各メンバーごとに「自分専用のモニターミックス」を作りやすい。 |
| ステージ上の音かぶり | ウェッジの音がボーカルマイクや楽器用マイクに入り込み、客席側の音作りに影響することがある。 | ステージ上のスピーカー音を減らせるため、マイクへのかぶりが少なく、客席向けのミックスを作りやすい。 |
| 導入コスト | 会場に備え付けのことが多く、追加コストが少ない場合がある。 | イヤホン、ワイヤレス送受信機、ミキサー、分配機材などが必要になり、初期費用が高くなりやすい。 |
| セッティングの難しさ | 比較的シンプルだが、ハウリング対策や音量バランスの調整が必要。 | イヤホンの装着、ミックス作成、ワイヤレス周波数、リミッター設定など、管理項目が多い。 |
このように、ウェッジモニターとイヤモニには、それぞれメリットと注意点があります。特にイヤモニを導入する場合は、「有線にするか、ワイヤレスにするか」も重要な選択になります。
有線IEMとワイヤレスIEMの選び方
イヤモニを導入するときに迷いやすいのが、「有線にするか、ワイヤレスにするか」です。
どちらを選ぶべきかは、ステージ上でどれくらい動くか、予算、セッティングのしやすさ、トラブルへの強さによって変わります。
基本的には、定位置で演奏するパートは有線IEM、ステージ上を動き回るパートはワイヤレスIEMが向いています。
有線IEMが向いているケース
有線IEMは、ケーブルを使ってミキサーやヘッドホンアンプからイヤモニへ音を送る方式です。ドラム、キーボード、パーカッションなど、ステージ上で定位置からあまり移動しないミュージシャンに向いています。
有線IEMの大きなメリットは、比較的安価に導入しやすいことです。ワイヤレスシステムに比べて必要な機材が少ないため、そのぶん予算を自分の耳に合うイヤホンやイヤーピースに回しやすくなります。また、電波を使わないため、混信や電波干渉による音切れの心配がありません。同じ予算で比べた場合、音質面でも有利になりやすいです。ワイヤレス機器による遅延や音切れを気にしなくてよい点も、有線IEMの安心材料です。
一方で、ケーブルの取り回しには注意が必要です。足元の配線が増えるため、引っかけたり、演奏中に抜けたりしないように固定しておきましょう。特にドラム周りやキーボード周りでは、ケーブルをまとめて安全な位置に逃がしておくことが大切です。
ワイヤレスIEMが向いているケース
ワイヤレスIEMは、送信機から受信機へ電波で音を送り、演奏者の耳元にモニター音を届ける方式です。一般的には、演奏者が腰などに受信機を装着し、そこにイヤホンを接続して使います。
ボーカリスト、ギタリスト、ベーシストなど、ステージ上を自由に動きたいミュージシャンには、ワイヤレスIEMが有力な選択肢になります。ケーブルに縛られないため、ステージ上を移動しやすくなり、パフォーマンスの制限を減らせます。
ただし、ワイヤレスIEMは有線に比べて機材費が高くなりやすく、電池管理や電波管理も必要です。受信機の電池切れ、電波干渉、設定ミスなどがあると、本番中の音切れにつながることがあります。
複数人でワイヤレスを使う場合の注意点
複数人でワイヤレスIEMを使う場合は、使用する電波の数が増えるため、混信や音切れのリスクが高くなります。
電波干渉とは、複数のワイヤレス機器や会場設備の電波がぶつかり、ノイズや音切れ、音が出ない原因になる現象です。会場によっては、ワイヤレスマイク、ギター用ワイヤレス、他バンドの機材、施設側の無線機器など、さまざまな電波が飛んでいます。そのため、ワイヤレス機器を使う場合は、使用前に空いているチャンネルを確認する必要があります。
小規模なライブハウスやアマチュアバンドでは、全員がワイヤレスIEMを使うよりも、まずは本当に動きが必要なメンバーだけをワイヤレスにするほうが現実的です。動かないパートは有線IEMを選ぶことで、費用を抑えられ、電波トラブルのリスクも減らせます。
迷ったときの基本方針
迷った場合は、次のように考えると選びやすくなります。
- ドラム、キーボード、パーカッション:有線IEMが向いている
- ボーカル、動き回るギター・ベース:ワイヤレスIEMが向いている
- 定位置で演奏するギター・ベース:有線IEMやウェッジでも対応しやすい
- 予算を抑えたい場合:まずは有線IEMから検討する
- 複数人で導入する場合:ワイヤレスは必要最小限にする
有線とワイヤレスは、どちらが絶対に優れているというものではありません。大切なのは、演奏スタイル、ステージの広さ、予算、トラブル対応のしやすさに合わせて選ぶことです。
バンドでイヤモニを導入するなら誰から?パート別の優先順位
現代のライブ現場では、クリックや同期音源への対応、ステージ上の音量管理、安定したモニター環境づくりのために、イヤモニが使われる場面が増えています。
とはいえ、アマチュアバンドがいきなり「全員でワイヤレスイヤモニを導入しよう」と考えると、予算面でも運用面でも負担が大きくなります。人数分のワイヤレスシステムをそろえると数十万円規模になることもあり、さらに電波の混信、音切れ、電池管理、セッティング時間といった問題も出てきます。
そこで大切なのが、バンド内で優先順位をつけることです。
ここでは、小規模なライブハウスやイベントで演奏するバンドを想定し、アンサンブルへの影響と予算対効果から、イヤモニ導入の目安を紹介します。
もちろん、最適な順番はバンドの編成、曲調、同期音源の有無、ステージ上での動き方によって変わります。あくまで「限られた予算でどこから整えるか」を考えるための参考として見てください。
優先度1:ボーカル|動きが多いならワイヤレスIEMの効果大
ボーカルは、バンド全体の印象を大きく左右するパートです。自分の声が聴こえにくい環境では、ピッチや声量のコントロールが難しくなり、曲全体の安定感にも影響します。
また、ボーカルはギターやドラムに比べると生音が小さく、基本的にマイクとモニターに頼るパートです。さらに、ステージ上で移動する場面が多い場合、ウェッジモニターの音が届きにくい位置に入ってしまうこともあります。
ワイヤレスイヤモニを導入すると、ステージ上を移動しても、自分の声やピッチの基準になるコード楽器を安定して確認しやすくなります。特に、動きの多いボーカリストや、ピッチに不安を感じやすいボーカリストにとっては、導入効果の大きいパートといえるでしょう。
ただし、ステージ上であまり動かず、ウェッジモニターで十分に歌いやすい環境が作れている場合は、必ずしも最初からワイヤレスIEMが必要とは限りません。まずは「自分の声が安定して聴こえているか」「ピッチの基準になる音が返っているか」を確認することが大切です。
優先度2:ドラム|同期やクリックがあるなら有線IEMを優先
同期音源やクリックを使うバンドでは、ドラマーのイヤモニやヘッドホン環境は非常に重要です。
クリックとは、演奏者がテンポを合わせるために聴くメトロノーム音のことです。同期音源とは、打ち込み、効果音、シンセ、映像用の音など、生演奏と同時に流す音源を指します。こうした音源に合わせて演奏する場合、ドラマーがクリックを安定して聴けることは、バンド全体の演奏を支えるうえで大切なポイントになります。
また、同期がない場合でも、キックの輪郭やベースを確認しやすくなることで、リズム隊の一体感を作りやすくなります。特に小規模な会場では、低音の回り込みによってキックやベースのタイミングがぼやけて聴こえることもあるため、モニター環境を整える効果は大きいです。
ドラマーは基本的に定位置で演奏するため、多くの場合はワイヤレスではなく有線IEMやヘッドホンで十分です。ミキサーからのモニター出力、ヘッドホンアンプまたは小型ミキサー、イヤホンやヘッドホンを用意すれば、比較的低コストで導入しやすいのもメリットです。
ただし、イヤモニやヘッドホンは耳に直接音が入るため、音量を上げすぎないよう注意が必要です。リハーサルの段階から、クリック、キック、ベース、ボーカルのバランスを確認しておくと安心です。
優先度3:キーボード|基本は有線、動くならワイヤレスも検討
キーボードは、ステージ上にアンプを置かず、ラインでPAへ送ることが多いパートです。そのため、モニターに返さないと、自分の音が聴こえない場合があります。特に、同期音源やクリックを使うライブでは、ドラマーと同じく、キーボーディストにも安定したモニター環境が必要になります。
また、音が出ない、片側しか鳴らない、音色のバランスがおかしいといったトラブルを確認するためにも、イヤホンやヘッドホンを持っておくと安心です。
複数台のキーボードを並べた固定位置で演奏するスタイルであれば、電波由来の音切れがない有線IEMが現実的です。一方で、ショルキー、つまり肩から掛けて演奏するショルダーキーボードを使う場合や、ステージ上を大きく動くプレイスタイルであれば、ワイヤレスIEMも検討する価値があります。
また、キーボードはギターと中音域が重なりやすいパートです。個別にモニターミックスを調整できる環境であれば、単に自分の音を上げるだけでなく、ギターの音量を少し下げて、自分の音を聴きやすくすることもできます。
このように、キーボードはモニター環境を整えることで演奏の安定感が変わりやすいパートです。
優先度4:ギター&ベース|まずはアンプとウェッジ、必要に応じてIEM
ギターやベースは、ステージ上で自分のアンプの音を聴けることが多く、ウェッジモニターと組み合わせることで演奏に必要な情報を得られる場面も多いパートです。そのため、限られた予算でイヤモニを導入する場合は、まずボーカルやドラム、キーボードを優先し、その後で導入を検討してもよいでしょう。
また、バンド全員がワイヤレスIEMを使うと、費用だけでなく、電波管理の難易度も上がります。複数のワイヤレス機器を同時に使う場合、混信や音切れのリスクが高まるため、必要なパートから段階的に導入するほうが現実的です。
ただし、ギターやベースの優先度が常に低いという意味ではありません。
アンプを使わずにアンプシミュレーターやDIでPAへ直接送る場合、同期音源やクリックを聴く必要がある場合、コーラスを多く担当する場合、ステージ上を大きく動く場合などは、ギターやベースでもイヤモニの優先度は上がります。
まずはアンプの音量や向き、ウェッジモニターのバランスで対応できるかを確認し、それでも必要な音が聴こえにくい場合に、IEMの導入を検討するとよいでしょう。

まとめ:良いモニター環境が、良い演奏と外音につながる
ステージのモニター環境を整えることは、単なる「聴こえやすさ」の問題ではありません。
演奏者が必要な音を聴ける状態を作ることは、バンド全体のアンサンブルを安定させ、観客に良い音楽を届けるための大切な土台です。
初心者が陥りやすい音量の上げ合いから抜け出し、各楽器のアンカー、つまり演奏の基準になる音を見つける。そして、必要な音を上げるだけでなく、不要な音を下げる「引き算」の考え方を持つ。
それだけでも、ステージ上の聴こえ方は大きく変わります。
また、かつてはプロ現場のイメージが強かったインイヤーモニター・システムも、現在ではアマチュアバンドが導入を検討しやすい価格帯の製品が増えてきました。今では「ボーカルは無線、ドラムやキーボードは有線」といったように、パートごとの動き方や役割に合わせて選ぶことで、以前よりも現実的にモニター環境を整えやすくなっています。
大切なのは、バンドの中で「誰が何を聴けていないのか」を整理し、演奏への影響が大きいところから順番に整えていくことです。
まずは、歌いやすさやピッチの安定に課題を感じているボーカリスト、あるいは有線で比較的導入しやすいドラマーから、イヤモニの導入を検討してみてもよいでしょう。
必要な音がきちんと聴こえる感覚と、バンドのアンサンブルがピタッと噛み合う瞬間を、ぜひステージで体感してください。
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