オリジナル音源を作ってみよう #3 | 曲のアレンジって何?

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オリジナル音源を作ってみよう #3 | 曲のアレンジって何?

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アレンジ(編曲)とは楽器の構成、リズム、曲の展開などを変化させて、曲のスタイルの印象を大きく変える手法です。

クラシックの交響曲などでは、現代のポップスで言う「作曲」と「アレンジ」は分かれていません。メロディ、ハーモニー、リズム、オーケストレーションの全てを作曲家が行いスコアに書きます。すなわち「すべてが作曲であり、すべてがアレンジである」と言えるのかもしれません。

しかしクラシックの世界にも「アレンジ(編曲)」という概念は存在します。例えばムソグルスキーのピアノ曲「展覧会の絵」は多くの編曲版が存在します。有名なのはモーリス・ラヴェル編曲版ですね。

原曲:ピアノ

ラヴェルのオーケストラバージョン

せっかくなのでロックバージョン

シンセバージョン

ポピュラー音楽における「作曲」と「アレンジ」とは?

ポピュラー音楽における作曲とアレンジは、昔は以下のような分業も行われていました。

  • 作曲家(ソングライター)
    • ピアノやギター等を弾きながら、メロディと基本的なコード進行、そして歌詞(作詞家と兼ねる場合も多い)を作ります。この段階では、まだ「弾き語りのデモテープ(古)」のようなシンプルな状態です。
  • アレンジャー(編曲家)
    • そのデモ音源をもとに、ドラムのビート、ベースライン、ギターリフ、シンセサイザーの音色、ストリングスなどの入れ方などを考え、曲全体のサウンドを構築します。

このように昔は、頭の中にあるサウンドを具現化するために、編曲家が楽譜を書き、優秀なスタジオミュージシャンを集めて演奏してもらう必要がありました。しかし、現代ではDAW(音楽制作ソフト)と高品位なソフトウェア音源があれば、作曲家自身が頭の中で鳴っている音を、直接DAWに打ち込んで再現できます。

壮大なオーケストラの響きも、リアルなドラムのビートも、最新のシンセサイザーの音も、一人で作り出せる。これにより、「メロディを考えながら、同時にドラムパターンとベースラインを打ち込み、ストリングスを重ねてみる」といった、作曲と編曲が同時進行する制作スタイルが当たり前になりました。

また作曲・編曲・演奏・ミックスまで、楽曲制作の大部分(あるいは全て)を一人で完結させる「トラックメイカー」の存在や、コライトといった新しい分業スタイルが誕生し、音楽制作をよりパーソナルで、スピーディーで、自由なものへと変えました。

しかし今でも生演奏のレコーディングや専門の編曲家、ミキシングエンジニアの役割が重要であることに変わりはありません。しかし、その中心にDTMがあり、クリエイターが自身の裁量で「どこまでを自分でやり、どこからを専門家に任せるか」を柔軟に選択できる時代になった、とも言えるでしょう。

以上を踏まえて具体的なアレンジについて考えていくことにします。

音楽ジャンルを変える

総合的には「ジャンルを変える」というのがわかりやすいですね。

ポップスをジャズ風アレンジにする、ロックをオーケストラ(クラシック)アレンジにする、バラードをEDM風にするなど。先程のEL&Pの展覧会の絵はその逆でしたが、ジャンルが変われば、通常は後述するリズムや楽器編成なども変わるでしょう。

下記は音楽ジャンルを変える場合に、関わってくる要素です。

バンド編成

楽器の編成を変えることです。 4ピース(ボーカル、ギター、ベース、ドラム)のバンドから、アコースティックギターとボーカルのみのシンプルな構成(アンプラグド・バージョン)にするとか、管楽器や弦楽器が加わるなど、様々なスタイルがありますね。

少々極端な例ですが、ドラマーが3人!サックス、ベース、ギター×2編成。

各楽器の音域や役割、特徴を知ることが必要

ベースは低域、ドラムはリズムを演奏するという程度はなんとなくわかっていると思います。ではそれにギターとキーボードが加わった場合はどういった役割すればよいでしょう?たとえばギターがコード弾いているところに、キーボードも単純にコードで演奏したらどうなるでしょう?もちろん多くの場合同じコードを弾いているなら、バンド全体のアンサンブルは破綻はおきないでしょう。しかしギターもギターも同じリズムと同じ音域でコードを弾くよりも、もしかしたらキーボードはストリングスの高い音域でオブリを入れたほうがさらに効果的になるかもしれません。

そうした各楽器の演奏フレーズやリズム、音域や音色などを工夫することで、更に効果的な演奏ができるようになるかもしれません。

例えば次の動画のイントロでは、ギターとキーボードはお互いどんなリズム、音域、音色で演奏しているでしょう?

著作権に触れない範囲で、似たようなデータを打ち込んでみました。楽譜と下のDAWのピアノロール画面は、どちらも同じデータを表しています。原曲は少しハネていますがデータはベタ打ち。

ピアノロールの部分、赤がギター青がエレピです。ピアノが白玉、ギターはリフの刻み、ギターの休みのところ(2小節目の3,4拍)にエレピのコードバッキングに動きがありますね。音域的にも奏法的にも異なった演奏になっているのがわかるでしょうか。このようにお互いの役割を明確にした効果的なアレンジと言ってよいでしょう。

楽器・音色

同じ楽器でも表現を変える。 ギターをクリーンな音色からディストーション(歪み)の効いた音色に変えてロック感を出す。ピアノの音を明るい音色から柔らかいパッドのようなシンセの音色に置き換えるなど。ピアノがエレピになっただけで雰囲気はガラッと変わりますね。

アンプラグドバージョンの例

原曲はこちら

リズムとグルーヴ

ドラムやベースなどのリズム隊(リズムセクション)を変えることで、曲のノリ(グルーヴ)を変化させます。

ドラムパターンの変更

ノリやジャンルを変化させる。 8ビートをシャッフルやハーフタイム(半分のテンポに感じるリズム)に変える。キック(バスドラム)とスネアのリズムパターンを複雑にするなど。曲によってはAメロ、Bメロ、サビで緩急をつける必要も出てきますね。Aメロはリムショットだけど、サビはスネアになる等々。

テンポ(速さ)や拍子の変更

スローなバラード風にする、アップテンポなEDM風にするなど、テンポも重要な要素ですね。

また元々3拍子の曲を4拍子で演奏する(その逆も)なんてのもよくあります。おなじみの「ミッションインポッシブル」のテーマ曲は、オリジナルはラロ・シフリン(「燃えよドラゴン」でも有名な大作曲家)作曲です。

この1960年代のTV番組時代のオリジナルは5拍子ですが、のちのトム・クルーズ主演のリメイク作品では4拍子にアレンジされた曲も使われていたときもあります。

リメイク後のテーマの一つ。最初は5拍子ですが、テーマ部分は4拍子にアレンジされています。

何作か前からは、5拍子の緊張感のあるアレンジに戻っていますね。やはりこの曲は5拍子があってる気がします。

ハーモニー(和音)の変更

コード進行の雰囲気はそのままに(ときには全く変えてしまう)、和音の響きをより複雑にしたり、明るくしたりします。

コードボイシングの変更

音の響き(色彩)を変える。 ギターやピアノのコードの押さえ方や構成音の順番を変えて、響きに変化をつける。例えば、ただのCコードではなく、Cadd9やC△7(9)といった少し複雑な響きにする。CをEm7に変えるなど、コード(和音)を意図的に変更・再構成する(リハモナイズ)などなど。

コード進行と曲ジャンルを選択すると自動で伴奏を付けてくれる機能をもつDAW(Cubaseなど)やアレンジャーキーボード(KORG Pa5Xなど)があります。各ジャンルのエッセンスをキャプチャーしたデータが豊富に収録されていて、それらを使うという手もありますが、結果を聞いて良し悪しを判断するセンスは必要になるかと思います。

Cubase Pro 15

曲の構成(展開)の変更

曲の中で聴かせたい部分や、盛り上がりのパターンを変化させます。

曲の構成要素の追加・削除

全体の流れを大きく変える。 原曲にはなかった長めの間奏(ソロパート)やDメロを追加する。サビから始まる「サビ入り(サビ出)」の構成に変更するなど。

セクションごとの変化

聴き手を飽きさせずに展開を作る。 2番のAメロを1番より静かにして(トラックの音を減らす)、その後のサビに向けてより盛り上がるようにする。落ちサビで全楽器を減らし、ボーカルとピアノ(またはギター)のみにして、曲のムードを大きく変えるなど。

というわけで枚挙に暇がないのですが、これまで挙げてきた様々な要素を駆使して行われているアレンジ例を紹介します。

カバー曲のアレンジ例

Moon River(ティファニーで朝食を)

1961年公開の映画『ティファニーで朝食を』で、オードリー・ヘプバーンが劇中で歌ったヘンリー・マンシーニ作曲の永遠の名曲です。

このテイクはキーFですが、ファから9度上のソまでの比較的狭い音域内でメロディーが作られています。プロのシンガーではないオードリーの声に配慮して作られたのかどうかはわかりませんが、素晴らしいメロディーですね。ちなみにビートルズのWith a Little Help from My Friendsもリンゴ・スターがボーカルということもあり狭い音域でも歌えるメロになっています。

Moon Riverには数多くのカバーがありますが、ブラジルのギタリストToninho Hortaのカバーはちょっと意外でした。

Toninho Horta – Moon River (1994)

トニーニョ・オルタはパットメセニーにも多大な影響を与えた偉大なギタリストですが、この曲ではギターシンセ(GR-300かな?)も弾いていますね。キーはAからF、最後はB♭に転調していきますが、メロ自体のコード進行にはさほど大きな違いは感じません。とても疾走感のあるアレンジです。

Amapola(初のボーカル版:1925)

スペインのテノール歌手ミゲル・フレタが1925年に初めてボーカル録音を行ったおよそ100年前の音源。原曲は楽器演奏でした。これが次のようなアレンジでは全く違った印象になります。

Andrea Bocelli – Amapola(2006)

アンドレア・ボチェッリのレイク・ラス・ベガスリゾートのライブ映像。お客さんセレブばかりのようでチケット高そうですが、出だしの「ア〜マ〜」ですでに落涙。アルバム「Amore」(2006年)に収録されています。

プロデュースはDavid FosterとHumberto Gatica。ストリングス、木管、ピアノの編成です。ステージ上は木管やコントラバスとか見えないし、この曲だけやけに分厚いので、ひょっとしたらオケ音源も使われているのでしょうか?それとも最初はスタジオ盤、途中からライブ音声に繋いでいるのかな?キーはB♭⇒G♭⇒E♭と転調しています。

なお、このときのステージのクライマックスは、日がすっかり暮れたころ数人のダンサーが松明を手に湖へ飛び込むわ、花火は上がるわと、豪華な演出で幕を閉じます。

(映画版)West Side Story: Somewhere

Somewhereはブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」の主題歌として書かれた作品。作曲はレナード・バーンスタイン、作詞はスティーヴン・ソンドハイム。

Barbra Streisandのカバーではこれまたディビッド・フォスターよる非常にエレクトリカルなアレンジが施されています。

Barbra Streisand – Somewhere(1985)

バックはYAMAHA DX-7などのシンセ、サンプラー、リズムマシン等による打ち込みオケのようです。1985年当時は世界中のポピュラー・ミュージックでDX-7のFMサウンド全盛の頃ですが、冒頭のFMエレピのペンタトニックのシーケンスはおそらく手弾きだと思います(下図:正確ではありませんあくまで雰囲気)。深めのディレイをかけてPVで見られる宇宙感を演出しているようにも聴こえます。なぜかラヴェル「ダフニスとクロエ〜夜明け」を思い出しました。「There’s a place〜」のD△7(onA♭)はデビフォスらしいですね。

ストリングス・シンセは Kurzweil かもしれません。当時「セント・エルモス・ファイアー」のイントロのストリングスでも使っていたようですが、デイヴィッド・フォスターはインタビューで「あのストリングスの音は大嫌いなんだ」的なことを言っていました。シンセの音色に関しても「自分は創作に集中したいので音色づくりに時間は費やしたくない」とも発言しており、本作でもシンセサイザー・プログラミングで当時売れっ子のマイケル・ボディカーがクレジットされています。

当時はこのオーケストレーションを本物のオケだと思っている人もいたようですが、本人はそれを聞いて、してやったりと喜んでいたそうです。ドラムマシンは流石に時代を感じさせるサウンドですね。

ともかくアレンジもさることながらバーブラの歌唱力は圧巻です。3:00〜あたりは鳥肌たちました。

ところでSomewhere同様、ジャズのスタンダード・ナンバーは元はミュージカルや映画の主題歌、ポップス、ボサノヴァなどで有名になった曲を共通レパートリーとして演奏されている曲のことですが、セッション等では各パートが譜面になっている場合は稀で、大まかな構成と、コード進行、キメ等をキメておいてあとは即興という、まさに一期一会な音楽ですね。もちろん上記のようにしっかりアレンジされて譜面になっている作品も多いですが。

My Favorite Things(私のお気に入り)」は、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の一曲。下記の映画にもなりました。

ジャズだとなんといってもコルトレーンが有名ですね。ミュージカルが映画化される前に、真っ先にレコーディングしていたようです。凄まじい演奏ですね。

そうだ 京都、行こう。」でもおなじみです。

(原曲)宇多田ヒカル – Automatic

1998年の宇多田ヒカルのデビューシングルですが、これをDirty Loopsがアレンジすると、、、

Automatic / Dirty Loops(2014)

ネットで検索されやすいアデル、ブリトニー・スピアーズ、ジャスティン・ビーバーなどの有名曲をカバーし、超絶技巧バージョンをインターネットでリリースするという戦略が大成功した「Dirty Loops」。コード進行はもはや原曲の面影は微塵も感じられません。ボーカル抜いたらなんの曲かわからないかも。

(原曲)Tom Waits – “Foreign Affair” (異国の出来事)

ダミ声でおなじみのトム・ウェイツ。オーケストラも含めて一発録りだそうです。心に染みますね。

The Manhattan Transfer – Foreign Affair(1979)

4人組のコーラスグループ「The Manhattan Transfer」のアカペラバージョン。トム・ウェイツの歌詞の素晴らしさを昇華した見事なアンサンブルですね。ヴォーカルアレンジは1950年代から1960年初頭にかけて一斉を風靡したコーラスグループ The Hi-Lo’sのジーン・ピュアリング、ボーカルアレンジの大御所です。コンダクターはクレア・フィッシャー。コーラスはおそらく数回はダビングしていると思われます。

(原曲)Yesterday Once More / Carpenters

Redd Kross – Yesterday Once More

今回一番の問題バージョン(?)でしょう。賛否両論あるかと思いますが、まるで結成まもない学生アマチュアバンド風のパフォーマンス。しかしなんだか気になるのが不思議です。

ダニーボーイ(ロンドンデリーの歌)/ キース・ジャレット

アイルランドの民謡である「ロンドンデリーの歌」に歌詞を付けた「ダニーボーイ」は多くのカバーバージョンが存在します。このキースのピアノソロは原曲の哀愁を何倍にも際立たせ、聴衆の心に深く染み渡ります。FからAbに転調した後、再びFに戻り、テーマ後のエンディングまで涙無しには聞けません。最初の拍手はない方が良かったなと思いました。


ここまで、ポピュラー音楽における作曲とアレンジの関係、そして具体的な手法について見てきました。

記事内でも触れた通り、現代はDAWの進化によって、たった一人でオーケストラからエレクトロサウンドまでを構築できる魔法のような時代です。かつて分業されていた「作曲」と「アレンジ」の境界線は溶け合い、私たちは頭の中で鳴っている音をダイレクトに具現化できるようになりました。しかし最後に重要になるのは「どの機材を使うか」ではなく、「どのような解釈(センス)を選ぶか」という点に尽きます。

ツールが便利になった今だからこそ、先人たちが築き上げてきた理論やアイディアを知ることは、あなたの音楽をより豊かにする強力な武器になるでしょう。本記事が、皆さんの制作活動における新たなインスピレーションの種になれば幸いです。

この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)

学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。

その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。

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