NEUMANN TLM 102はU 87 Aiにどこまで迫れるのか検証してみた

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NEUMANN TLM 102はU 87 Aiにどこまで迫れるのか検証してみた

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。


別記事「ワールドスタンダードマイク NEUMANN U 87 Ai その理由とは?」で紹介したとおり、NEUMANN U 87 Aiは誰もが憧れるワールドスタンダード・コンデンサーマイク。予算が許せばぜひ購入したいマイクですが、なかなか買えないという方がほとんどでしょう。

もちろんNEUMANNにはU 87 Ai以外のラージダイヤフラムマイクがあり、近年注目されているのは機能を絞って価格をおさえたTLM 103とTLM 102です。この記事ではNEUMANNで最も手に入れやすいマイクであるTLM 102がU 87 Aiにどこまで迫れるのか、スペックの面から検証してみます。

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U 87 Ai、右:TLM 102

TLM 102とは?

最初にTLM 102を紹介しましょう。

TLM 102は2009年に発売されたラージダイヤフラム・コンデンサーマイクで、NEUMANNの中でも最もコンパクトであり、最も手に入れやすい価格のマイクです。スタジオの小規模化、自宅録音需要の増大、ナレーション録音等、個人レベルでもNEUMANNマイクを使いたいという需要にあわせて発売されたマイクで、NEUMANNで唯一の個人向けマイクと言えるでしょう。

モデル名となっている「TLM」はトランスレスマイクロホンのことで、NEUMANNは1983年に発売したTLM 170以降、トランスレス型マイクのラインナップを拡大しています。トランスレス型マイクはトランスありのマイクと比較してケーブルの引き回し距離などにデメリットがありますが、特に低域において歪みの少ない豊かな音が得られることが特徴です。自宅や小規模スタジオで長距離のケーブル引き回しは行われませんから、現代の低ノイズ需要にマッチしたマイクということができます。

なお、写真でよく見る専用サスペンションEA 4は別売りとなっており、TLM 102本体には付属しません。また、NEUMANNといえば木箱が代名詞なのですが、TLM 102は木箱入りではありません。

EA 4は別売りで、本体にはスイベルマウントSG 2が付属します

U 87 AiとTLM 102の外観(サイズと重量)

TLM 102はとにかくコンパクトであることが最大の特徴。外観について2機種を比較してみましょう。

外径はU 87 Aiの56mmに対しTLM 102は52mm。見た目ほど細くないことが数値からわかります。手にとってみると明らかにTLM 102が小さいため、U 87 Aiの半分くらいの太さに感じます。

長さについてはU 87 Aiが200mmと、多くのマイクの中でも比較的長いマイクに分類されるのに対しTLM 102は116mmしかありません。ブラックモデルについてはWebカメラと間違えてしまうような外観です。重さについてはU 87 Aiが約500g、TLM 102は210g。

小さなボディに収められたトランスレス回路

ラージダイヤフラムとスモールダイヤフラムを比較すると、ボーカル等の用途ではラージダイヤフラムにメリットがあるために、ボーカル用マイクはラージダイヤフラムのものがほとんどです。しかし、実際はマイクのサイズは小さい方が使いやすいのです。

TLM 102はラージダイヤフラムの性能を保ちつつ極限までコンパクトにしたマイクということができそうです。

U 87 AiとTLM 102のスペック

続いてはスペックの面から2機種を比較してみましょう。

U 87 Aiのひとつの特徴とされるのは感度の高さです。同じ音を入力した時にどのくらい大きな音(電気)が取り出せるのかを示す数値が感度で、あまりに小さすぎるとマイクプリアンプを最大にしても音量が不足しますが、-60dBV/Paよりも大きい値であれば実用上問題はありません。U 87 Aiはなんと約-31dBV/Pa(28mV/Pa)という非常に大きな感度を持っています。著名なダイナミックマイクの感度が-56dBV/Paなのですが、実に約18倍に相当する大音量です。

超高感度を誇るU 87 Aiのカプセル部

これに対しTLM 102の感度は-39.17dBV/Pa(11mV/Pa)となっており、U 87 Aiと比較すると一回り音が小さいことがわかります。しかしU 87 Aiはそもそも大音量なので、比較対象としては最も厳しい相手。TLM 102の実用上マイクプリのゲインが不足することは無いでしょう。実際、先述のダイナミックマイクに対しては約7倍の音量が出力されます。

感度以外のスペックも見てみましょう。

等価ノイズレベルはマイクが持つノイズの少なさを示し、数値が低い方がノイズが少ないとされています。15dBを下回れば優秀と言われており、U 87 Aiは12dBと、近年のマイクと比較しても低い数値です。TLM 102も同じく12dBという数値であり、低価格ながらもU 87 Aiと同等のノイズ性能を持っていることがわかります。

最大耐音圧はどのくらい大きな音に耐えられるかという数値で、大きいほうが大音量に耐えられるということになります。ドラムの生音が120dB SPL程度、スネアドラムを至近距離で聞くと140dB SPL程度だと覚えておけば良いでしょう。U 87 Aiは117dB SPLなので、ドラムに使う時はちょっと気を使う必要があります。ボーカルでも近すぎると歪んでしまいます。一方でTLM 102は144dB SPLと、NEUMANNのコンデンサーマイクの中でもトップクラスの数値を誇ります。

TLM 102はドラムを至近距離で録っても歪まない

レコーディング・エンジニアが使う場合は、それぞれの音源の音圧やマイクプリの適正を判断しながら使用することができます。U 87 Aiのスペックはエンジニアにとっては全く問題ないのですが、知識の少ない個人ユーザーが使う場合は問題になる可能性があります。TLM 102は個人ユーザーが使うことが念頭に置かれているため、どんな使い方でも歪みにくく、気軽に使うことができるマイクになっているようです。

U 87 AiとTLM 102の機能と音質

機能面においてはかなり違いがあります。TLM 102は自宅での個人ユース需要にあわせることで機能を簡略化し、低価格化を実現しているのです。具体的には指向性の切り替えがありません。U 87 Aiは単一指向性、無指向性、双指向性の3パターンですが、TLM 102は単一指向性のみです。また、低域をカットするローカットフィルターもU 87 Aiのみです。

しかしこの機能は、事実上なくても問題ないと言えます。自宅はレコーディングスタジオではなく、かつボーカルやナレーション用途では単一指向性しか使用しません。また、低域についてはマイクプリやDAW側でカットできます。

音質については客観的に比較しにくいのですが、さすがに同じ音質とまではいかないのも事実ではあります。しかし相手はワールドスタンダードですから、相手が悪いとも言えます。TLM 102で録音すると、同価格帯のコンデンサーマイクと比較して、明らかにクリアで質感の高い音を聞くことができます。また、使う人が音が作れるエンジニアではないことを考慮し、録音してそのまま使える音質に予めチューニングされていることも特徴です。

このように、U 87 Aiの価格を考慮するとTLM 102のコストパフォーマンスが高いことは疑う余地がありません。

ポップガードも内蔵しているのでとにかく気軽に使えるTLM 102

U 87 Aiはどこでも、何にでも使えるマイクとして有名です。U 87 Aiに対し、TLM 102はとにかく自宅での個人ユースに絞って作られていることがよくわかります。自宅でボーカルやナレーションを録音する人にとって、U 87 Aiは使い切れない可能性があるとも言えます。

自宅でとにかくNEUMANN品質の録音を楽しみたい人にはうってつけのマイクと言えそうですから、U 87 Aiに手が届かない人はTLM 102を検討してみてはいかがでしょうか。

販売価格

TLM 102
¥100,100(税込)
JANコード:4582505170069

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