こんにちはサカウエです。「エレクトリック・ピアノ(エレピ)」という楽器の名前は誰しも一度は聞いたことがあると思います。「エレピの音色」は「Electric Piano」「E.Piano」「FM piano」等の音色名で、最近のシンセサイザーにもプリセットされており、世界中のさまざまな音楽で使用されていますね。
エレピと聴いてピンと来ない方は以下の動画をぜひ御覧ください(冒頭部分だけで結構です)
代表的な音色
いかがでしょう?「ああこの音ね・・」という耳慣れたサウンドだったと思います。エレピはアコースティック・ピアノ(アコピ)とは異なり、厚みのある爽やかなサウンドが特徴ですね。
さて、アコースティック・ピアノはグランドとアップライトに大別されますが、実は「エレピ」には非常に多くの種類とそれぞれ独特のサウンドが存在します。
ということで今回はこの意外と知られていない「エレピ」についておさらいしてみましょう。バンド・キーボードの音色選びや音楽制作にも何かしら役立つと思いますよ~
「電気ピアノ」と「電子ピアノ」の違いって?
突然ですが「アコースティックでない」ピアノは「電子ピアノ」と「電気ピアノ」に大別されます。それぞれの違いを一言で言うと・・
- 電気ピアノ:打弦メカニズム等を持ち、電気的に増幅するもの(エレクトリック・ピアノ)
- 電子ピアノ:電子回路で合成するもの(エレクトロニック・ピアノ)
どちらも電気が必要なのは共通していますが、構造がまったく異なるわけですね。
「電気ピアノ」は弦などをハンマーで叩き、その音をピックアップで電気信号に変換し、アンプとスピーカーから音を再生する楽器です。一方、アコピの代用として普及しているいわゆる「電子ピアノ」や、RolandのRD、YAMAHAのC4といった「ステージピアノ」は「電子」になります。
典型的な電子ピアノ
一般的にはエレクトリック・ピアノは前者の「電気ピアノ」を指します。
そして「電子ピアノ」や「シンセサイザー」に内蔵されている「エレピ音色」は、実は「電気ピアノ」の音色を電子回路で合成したものなんですね・・・あーややこしくてすみません。
エレピ音色=電気ピアノの音色のこと
電気ピアノは生ピアノ同様、多くはハンマーアクション等の複雑な構造を持つ楽器ですので、チューニングなどのメンテナンスが必要となり、価格も割高、維持費もかかるわけです。
したがって今はシンセサイザーなどの「エレピ音色」を使用するケースのほうが多くなってしまいましたが、音にこだわるプロミュージシャンはもちろん、アマチュアでも電気ピアノの愛好家は現代でも多いのです。最近のJPOPのPVでもチラホラ見かける機会がありますね。
電気ピアノのメーカーは数多くありますがビンテージ系だと、ローズ、ウーリッツアー、RMI、ホーナー、、、といった海外メーカーが有名です。日本ではYAMAHAの「CP-80」、コロムビアの「エレピアン」あたりが有名です(古)
【関連記事】Rhodes MK8 | エレクトリック・ピアノの代名詞とも言える「Rhodes(ローズ)」ブランドの最新モデル(国内発売は未定)
ではそれぞれの特徴を紹介しましょう。
Rhodes(ローズ)
エレピといえばなんといってもローズですね。1974年まではフェンダー社が生産・販売していた「フェンダー・ローズ」が有名です。写真はフロントカバーを外した状態ですね。80年台は回路やペダル等を改造した「Dyno My Piano(ダイノマイピアノ)」というキラキラ系のローズ・サウンドが流行しました。
発音方式ですが、ハンマーで音叉(トーンバー)を叩いてピックアップで音を拾うタイプ。多くのミュージシャンがギタリストのようにコーラス、フランジャー、フェイザー、エコー、ワウといったエフェクターを接続して、さまざまなサウンドを作り上げてきました。シンセサイザーにプリセットされている「エレピ音色」といったら何はなくともまずはこれ。
ビリー・ジョエルの「素顔のままで」のイントロはフェイザーをかけたローズですね。
ハービー・ハンコックによるローズのデモ(これけっこうレアだと思います1970頃?)
ローズのスーツケース・モデルという機種では、本体前後のスピーカーをトランジスタ回路でスイッチングすることで生まれる「トレモロ」が有名ですが、ボサノバの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンのアルバムでは、マイクを前後のスピーカーに立て録音し、ディレイのような効果を生んでいる曲があります(エンジニアの巨匠ルディ・ヴァン・ゲルダーのアイデアでしょうか?)
ということで、このローズ=エレピの代名詞といっても過言ではありません。ちなみに今でもRhodes Musicで生産・販売されています。
おまけ:ドアーズ(ベーシストがいないバンドです)のレイ・マンザレク(kb)が弾いているのは「Fender Rhodes Piano Bass」
Wurlitzer(ウーリッツアー)
ローズと並んで有名なのがこのWurlitzer(ウーリッツアー)。薄い金属片(リード)をハンマー叩き、ピックアップで音を拾うタイプ。ローズと比較するとちょっと丸っこい感じの音です。
Hohner (ホーナー)
ホーナーといったらハーモニカやアコーディオンで有名なドイツのメーカーですが、これは少々変わり種。写真は「Horner Pianet T」
ウーリッツアーと同じく金属片(リード)を使用しているのですが、ハンマーで叩くのではなく、鍵盤に取り付けた粘着性のあるゴム製の吸盤がリードにくっついて離れる時に生じる「ペコン」という音を拾うタイプです・・少々ややこしいですね。
リードがサビてしまうと吸盤がくっつかなくなり、うまく音が出せなくなってしまうという欠点もありました。
ビートルズのこの曲ではホーナーのエレピが使われている・・という説もあります。
ホーナー社の鍵盤楽器でおそらく一番有名で、今でも必ずと言ってよいほどシンセサイザーのプリセットでシミュレーションされているのが「Clavinet(クラビネット)」通称「クラビ」
写真はD6というモデル
これはクラヴィコード(弦を金属で叩くチェンバロに似ている楽器)のような構造を持ち、電気ピックアップで音を拾うタイプ。広義にはエレピの仲間に分類される場合もありますが、これをエレピと呼ぶのは個人的には抵抗ありますが・・・ファンキーなプレイで多用されます。
クラビの構造(wikipedia)
1.チューニング 2.ダンパー 3.タンジェント(これで叩く) 4.アンヴィル(金床) 5.鍵盤 6.弦 7.ピックアップ 8.テイルピース(止め板)
有名なのはなんといってもスティービー・ワンダー(「チャカ」というミュートのプレイがシンセだとすごく難しいです)
YAMAHA
写真の「CP-80」は通常のピアノと同様で弦をハンマーで叩き、弦の振動をピックアップで電気信号に変換するタイプ。今回紹介しているエレピの中では最もアコピに近いサウンドです。グランドピアノ同様のアクション機構を採用しておりキータッチもグランドピアノに近いのが特徴。
本体がツアー仕様になっていてアコピと比較すると運搬しやすいという利点もありました(セパレート式・・・とはいっても120kg超ですが・・・)
ヤマハさんのサイトでも紹介されています( 生産完了品 )
http://jp.yamaha.com/product_archive/keyboards/cp80/
シャカタクの「ナイトバーズ」これはCP-70かな?
ブラジル系のアーティストにも愛用者は多いですね。
最近発売されたステージピアノ「CP4 STAGE」はこのCPシリーズの流れをくむ「電子ピアノ」です。
【レビュー】ヤマハのステージピアノ『CP4 STAGE』 を試す(動画あり)
番外編
以下は電子ピアノにもかかわらず「エレピ音色」と呼ばれる時もある機種。
RMIエレクトラピアノ(RMI Electra Piano)
電子発振式。ジェネシスのトニー・バンクス、リック・ウェイクマンといったキーボーディストが使用したことで有名です。持続音として演奏できるモードを備えているのも特徴。
Yes在籍時のリック・ウェイクマンのソロプレイ(RMI、アコピ、後半はミニモーグ、メロトロンといった各種キーボードを縦横無尽にプレイしています)
DX7
YAMAHAの「DX7」はFM合成という仕組みを持ったシンセサイザーなのですが、1983年の発売と同時に「プリセットの11番のエレピ音色」が世界中で大ブレイクし、無数の曲で使われたという経緯があります。文字通り「だれでも持っている」シンセになりました。
「DX エレピ」「FMエレピ」といった名前でシンセサイザーなどにプリセットされているエレピサウンドは、実はこの「DX7」をモチーフにしています。
デビッド・フォスターはアコピとDXを重ねた「レイヤー・サウンド」を多用しています。
当時誕生間もなかったMIDI規格にいち早く対応したこの「DX7」の出現によって、それまでエレピの定番だったローズが駆逐されかかった時代もありましたね・・電車でもなんとか持ち運べる14kgという重量・・決して軽くはありませんでしたが・・
2015年に復活!
YAMAHA reface DX
YAMHA Reface DXを少しだけ弾いてみた
いかがでしたか?エレピといってもさまざまな種類があることがお分かりいただければ幸いです。こうして現在は入手困難な銘器たちのサウンドも、ハード、ソフトを問わず多くの現役シンセサイザーで再現することができるのは嬉しい限りです。
それでは~
★
究極の鍵盤コレクション ソフトシンセ「Spectrasonics / KEASCAPE」