一昨年より続くコロナ禍の中、録れコン2021グランプリ受賞作品「IN THE CUBE」(METALLIC BLUE)のリプロダクションが、結果発表後の昨年2021年5月から打ち合わせを始め、セッションデータの受け渡し~内容確認、ご自身の制作過程での課題など何度かのリモートミーティングを重ねました。
緊急事態宣言への対応や関係スタッフの健康管理など様々な要因を考慮し、ご本人の意向も踏まえ「完成時期にこだわらず安心安全な状態でこの企画を進める」を前提としたため、完成~公開までに時間を要する事となりました。
リプロダクションって?
プロのエンジニアやミュージシャンに協力いただき、現場の空気感を感じながらプロの技術を体験、「録れコン・グランプリ受賞曲」をリプロダクツ(楽器の差し替えやリミックスなど)します。グランプリ受賞作品が決まった段階で受賞者の方と相談しながら、どういう方向でどんな方達と創っていくかを決めていきます。
今年のグランプリ受賞作品「IN THE CUBE」がプロの手によってどのように変化したか、画像・動画を交えてお届けいたします。
01.打ち合わせ
グランプリ特典である『リプロダクション』を実施するにあたり、数度に渡りご本人との打ち合わせを重ね方向性を決めて行きます。
そこで聞き出した、制作時に「したかったが出来なかった事」や「人の手を加わるとしたら?」などのご本人の課題だった点や意向を基に、審査会で交わされた審査員の皆さんの意見なども踏まえ、何をどうすれば「IN THE CUBE」がより良くなるかをエンジニアの鎌田さん・中澤さん、録れコン事務局が更に打ち合わせます。そのやり取りを幾度も続けご本人と協議の上、作業内容が確定していきます。
その結果、今回のリプロダクションは、『ご本人以外でのJazzアプローチのギターを部分的にダビング』『ベースの差し換え』を実施することになりました。
各種ダビングにはM-FUNK STATION(録れコン審査員でもある宮脇俊郎さん、ベーシスト宮下智さんによるユニット)を招き行われることに。
また、ご本人の悩みであった「バッキングのギターサウンドが飽和してしまう」点についても、セッションファイル内(ドライの)ギタートラックを宮脇さんによりMIX DOWN前に新たなサウンドに調整。より楽曲にあったトラックにブラッシュアップしていただく方向で作業が進んでいきます。
今年も豪華な内容となったリプロダクション。
作品がどのように生まれ変わるのか?
まずは、オリジナルの音源とリプロダクション後の音源を確認してみましょう!
▼ オリジナル
▼ リプロ後
かなりの違いを感じることが出来たのではないでしょうか!?
一体どうすればここまで変化するのか!
それでは早速、リプロダクション当日の模様をお届けします!
02.事前準備
まずは、ご本人より送られてきた80以上のオーディオファイルよりProToolsのセッションファイルを作成します。
事前に打ち合わせで決まったギター・ベースのダビングに向けラフミックスを作成し、録音当日に備えます。
03.ギター・ベースダビング〜ギターサウンドメイク
2021年8月26日(木)東京港区麻布台の「Sound City」C-studioでギター・ベースのダビング作業が行われました。
※C-studioの詳細はこちら
今回のセッションは未だ収まらない感染状況での移動距離なども考慮し、ご本人はご自宅よりリモートでセッションの模様を確認していただきました。
スタジオ音声とセッション風景をご自宅よりリアルタイムで受信。
テイクの確認やチョイスは、現場での実際の作業と何ら変わらない状況でセッションが進行します。
無事にレコーディングも終了し、宮脇さんへのギターサウンドについての質問タイムもありました。
その流れで「やはりギターの歪み調整が必要」との結論になり、後日鎌田さんによりギタートラックのサウンドメイクのためステム(ラフミックス)を作成いただき宮脇さんへ送られ、宮脇さんにより楽曲にマッチしたサウンドに各種プラグインを用いて調整され(下の画像はプラグインの一部)、MIX DOWNに向けての準備も整いました。
宮脇俊郎氏 プロフィール
その後「究極のギター練習帳」「最後まで読み通せるジャズ理論の本!」など教則本や教則DVDを多数手がけ、近年では中国、台湾など海外でのセミナーやデモ演奏などにも力を入れている。
現在、3台のカメラを切り替えながらのオンラインレッスンや、下北沢での音楽教室、YouTube配信など多方面で活動中。
宮脇俊郎HP
宮下智氏 プロフィール
4弦ジャズベースというスタイルであらゆるプレイスタイルを弾きこなすマルチな実力は、国内外から高い評価を受けている。
これまでにEXILE、RIP SLYME、ゴスペラーズ、Misia、上戸彩、片瀬那奈、TRF、globe、V6、嵐、奥村愛子など、さまざまなアーティストのレコーディング・ライブを行い、音楽シーンに多大な影響を与えているベーシストの一人である。
また最近では声優の今井麻美、原由美のレコーディング・ライブや教則本の執筆など幅広く活動している。
宮下智HP
04.MIX DOWN開始前には
感染状況を見極めながら、延ばし延ばしとなっていた最終のMIX DOWNも関係者一同の「年内には実施したい」との総意により、年末の2021年12月23日(木)に「Sound City」A-studioにて行われました。
まずは恒例のスタジオ案内です。METALLIC BLUEさんは国内屈指の規模に興味津々。
質問や撮影など、作業前に一通りの事を終えて作業に集中するための準備も整えていきます。
床の切れ込みに注目!ブースを仕切った際に振動が伝わらないようにアイソレートされているんですね。
スタジオ内の撮影に余念のないMETALLIC BLUEさん
コントロールルームに向かい、エンジニアの鎌田さん・中澤さんと進行について軽く打ち合わせます。今回のセッションは実施当日までに充分期間があったため、鎌田さんが自宅スタジオでほぼほぼ仕上げて来て頂いています。その内容を確認しながら、気になった箇所の調整などを行い完成を目指します!
※A-studioの詳細はこちらをご確認下さい。
05.MIX DOWN
いよいよここで初めて、鎌田さんによって再調整された音を聞くことになります。
セッションがどのように進められるのか、モニターで逐一確認できるのです。
作業を進めながら途中では宮脇さんとリモートを繋げ、より明瞭になっていく「IN THE CUBE」のギターサウンドについて、質問タイムが設けられました。
様々なタイミングで、サウンド処理について鎌田さん直々の解説もリプロダクションの醍醐味です。
06.最終確認
アーティストの意向を取り入れながら様々なディスカッションを重ね、MIXも完成に近づきます。
楽曲の最終確認を各種再生装置で行い、いよいよ完成です。
コンポでも確認します!
METALLIC BLUEさん自前のヘッドフォンでも最終確認。
改めての質問に最後までお答えします!
07.お疲れさまでした&METALLIC BLUEさんコメント
全てが終了し、鎌田さんとMETALLIC BLUEさんのお疲れ様ツーショット!!
「IN THE CUBE」のリプロダクションバージョンは各配信サイトにて配信中!!
※下記バナーをクリックすると各配信サイトをお選びいただけます。
最後に、METALLIC BLUEさんのコメントにて、リプロダクションレポートを終了したいと思います。
この度はグランプリ、そしてリプロダクションという大変貴重な機会を頂きまして、本当にありがとうございます。
今回の受賞作品”IN THE CUBE”は、普段制作しているハードロック系のバンドサウンドを取り入れつつ、シンセ系やジャズ的な要素をAメロ、間奏、アウトロ等に取り入れ、少し趣向を変えた楽曲となりました。
前半Aメロのシンセ主体の部分、ハードロック調のバンドサウンド主体のサビ部分、間奏、ジャズ調のアウトロ部分に大まかに分かれますが、事前打ち合わせの際、最後のジャズ的な要素を、曲全体に生かしていく方向性で、進行していく運びとなりました。そこで今回は、宮脇さんのクリーンギターがシンセ主体の部分、間奏、アウトロに加わり、ベースラインを新たに宮下さんにアレンジ、演奏して頂き、ジャズ的な要素をより引き立たせ、楽曲をブラッシュアップするといったリプロダクションとなりました。
以前より、ロック主体の楽曲へ、ジャズ等他のジャンルの要素を加えることは時々あり、その際音楽の引き出しをもっと増やせたらと感じておりましたので、ジャズ的なフレーズでブラッシュアップをする今回のリプロダクションは、大変興味深いものがありました。また、もともとバンドでギター担当であったこともあり、ベースに関してもより深く学びたいと考えておりました。
レコーディングの際、お二人の素晴らしいフレーズが加わっていく毎に、曲に潤いと生命力が加わっていき、曲が次第に完成へと向かっていきました。
Aメロ前半が終わった後に、シンセパートが入ってきますが、そこへ、宮脇さんのお洒落で繊細なジャズフレーズが空間を満たしていき、ふわっと開けた雰囲気の間奏へ変化していく瞬間がたまりません。思わずその続きを聴きたくなるような間奏で、とても好きです。
また、ギターメインの私のベースラインは、どことなくギター的なニュアンスが出てしまいます。今回のセッションで初めて宮下さんの技巧的なベースラインを聴いた時には、改めて自分の目標を見つけることができました。また大サビ前のスラップが登場した時なども驚きを隠せず、宮脇さんと微笑み交わしたことも良い思い出です。
この曲で最も好きな部分は、ギターソロ後のオリジナルバージョンより小節数を拡張した、お二人のパートが大活躍する部分です。とてもかっこいいセクションで、後に2mixを頂いた後、つい何度も聴き返してしまいます。
原曲はロック主体で、ジャズにあまり精通していない私の”イメージによるジャズ”が加わった楽曲でした。ここへ新たなフレーズが加わったことにより、ロックとジャズが完璧なまでに融合された楽曲へと変化し、新鮮で斬新な雰囲気に仕上がっていきました。
ミキシング当日、トップクラスの大きさを誇るレコーディングスタジオ、Sound City A Studioへお伺いした際には、中澤さんより親切で丁寧にスタジオのブース等をご案内頂きました。初めて訪れたレコーディングスタジオの規模は圧巻で、大変興奮いたしました。ドラムは、中央の天井の最も高い場所では、オーバーヘッドに多くの残響が入りすぎる傾向があり、横の少し天井の低い部分にドラムを設置し、アンビエントマイクを中央の広い場所に設置することが多いそうです。実際にオーケストラやドラム等がレコーディングをしているところをイメージしながら、ブース内の見学を満喫いたしました。
そして、いよいよミキシングへと移っていきます。夏のレコーディングからミキシング当日までの間、少し時間に余裕がありましたので、エンジニアの鎌田さんが、ミックスを進めて下さいました。スタジオのYAMAHA NS-10Mで最初にそのミックスを聴いた時は思わず息を飲みました。
Aメロにシンセを多用する部分がありますが、とても同じ素材とは思えない程、広い空間を感じました。2本のスピーカーの外側、場合によっては斜め後ろあたりまで広がり、目を閉じると風景までもが浮かんでくるような音像定位でした。
空間がとても広いのですが、ヴォーカル等の主役のパートは、ぴたっとフォーカスが合い、あたかも目の前で歌っているかのように聴こえてきました。
宮下さんのベースの厚みが素晴らしく、音数の多いセクションにおきましても分離が良く、はっきりとベースラインを感じることができます。
普段、ベースラインがどことなく埋もれがちな私が、今後の音創りで特に学んでいかなければならない箇所であると思います。
歪みギターのバッキングを、今回宮脇さんにリアンプしていただきました。以前から、ギターのコード感がうまく聞き取れず、ノイズのようになってしまうことがずっと気になっておりました。それに関しまして、歪みが少し多すぎることが原因の一つではないかとのアドバイスを頂き、最適なセッティングでのリアンプをしていただきました。演奏は全く同じですが、セッティング、歪み量等の違いでここまでコード感がはっきりしてくるのかと驚きました。次の作品から、この点にも気を配りながらリアンプをしていきたいと思います。
また、ギターの音が左右に振られていますが、私の場合Lch、Rchに張り付いたような、スピーカーから鳴っている感が否めませんが、鎌田さんのミックスはスピーカーの存在が消え、少し後ろにサウンドステージが広がって聴こえ、新たな発見へとつながりました。
鎌田さんによりますと、僅かにハーモナイザーを加えてあるとのことで、それも0.1dB単位程度の非常に微妙なさじ加減で調整をされていらっしゃるとのことですから驚きです。
その後、中澤さんらと共に意見を出し合い、金物のバランス、ヴォーカルのロングトーン等の細かい部分を微調整していき、ミックスはいよいよ終盤を迎えていきました。
最後は質問コーナーにて、エンジニアの鎌田さん、中澤さんより、空間表現における位相の扱い方、モノラル環境について、今後のサラウンド事情等、大変興味深いお話を伺いました。
この度の貴重な経験で、とても多くのことを学ばせて頂きました。
このリプロダクションに関わって下さいました鎌田さん、中澤さん、宮脇さん、宮下さん、スタッフの皆さん、そして楽曲をいつもお聴き頂き応援をして下さる皆さん、この度は本当にありがとうございました。
今後も、心を込めて楽曲を制作していきたいと思います。(METALLIC BLUE)
パーソナル ※敬称略
METALLIC BLUE(Rayによるプロジェクト名)
エンジニア:鎌田岳彦 / 中澤智
ギタリスト:宮脇俊郎
ベーシスト:宮下智