弓の革巻き 【弦楽器工房ブログ】
皆様、こんにちは。
弦楽器技術スタッフの高瀬です。
昨日は人生初のお米購入イベントのはずでしたが、(間違えて)もち米を購入致しました。
本来は白米を購入予定だったのですが、パッケージをしっかり読み込まなかった事、悩んだ末1番安いお米を購入した事が敗因のようです。
炊飯後、3口程食べた時にもち米だと気が付きました。
(よく見ると、パッケージに小さく「もち米」の表記がありました)
腹持ちが大変良いです。
本日は
■ 毛替え
■ 革巻き
■ ニス補修(コーティング)
■ 楽器点検
を行わせていただきました。
ご来店いただき、ありがとうございます。
弓の革巻き
皆様がお持ちの弓には「革」が巻いてあると思います。
この革は、毎日の練習での使用頻度、使用している革の耐久性により、日に日に摩耗してしまいます。
毎回の演奏で指が当たる所ではあるので、消耗パーツと思っていただいても問題ありません。
今回のお客様も、使用期間は数か月と短期間ではありますが、革巻きが摩耗しています。
お子様が使用(分数サイズ)されたとのことなので、きっと一生懸命練習されたのでしょう。
革を外してから撮影を始めましたので、少々分かりにくいと思いますが、、、
革の下部分が摩耗しているのがお分かりいただけますでしょうか。
弓を構えた時、ちょうど人差し指が当たる所です。
革巻き交換
基本的にはオリジナルの寸法、重さ、質感で仕上げるのが良いのですが、今回は「寸法」を1mm変更します。
一度革巻きを外してしまいましたので、マスキングテープで固定した画像です。
こちらはスクリューを最大に緩めた状態なのですが、フロッグと革巻きの間に隙間があるのがお分かりいただけますでしょうか。
毛替えのタイミング、毛詰めでも少し触れましたが、フロッグと革巻きの隙間が大きければ大きいほど、親指が弓の竿に直接触れてしまいます。
触れる状態が数か月数年続くと、弓竿が抉れてしまいます。
今回の弓は最初から隙間が大きくあるので、弓を演奏可能な状態まで張ると、親指が弓竿に触れてしまいます。
なので革の長さを1mm伸ばし、弓を緩めた時にほぼピッタリ(厳密には0.02mm程度隙間を作ります)になるように設定します。
革をフロッグ側に伸ばす分、銀線側を短くすれば良いのでは、、、
と思う方もいらっしゃると思います。
そのように修理する選択肢もありますが、今回のお客様は「演奏時に人差し指が革巻きに当たる」という持ち方で演奏しています。
人によって、人差し指が銀線に当たったり、半分だけ銀線に当たるという方もいたりと、持ち方は人により様々です。
あまり意識している方はいないかもしれませんが、普段慣れている位置に革巻きがあるのと無いのとでは、感覚が全く異なります。
以上の理由から、出来る限り持ち心地に違和感を感じないよう、革巻きはオリジナルの位置に設定するようにしています。
そして、ここで問題となるのが「弓の総重量」「重心位置の変化」です。
革を1mm伸ばせば、伸びた分弓が重くなります。
革巻きが重くなるということは、弓の持ち手部に重さが傾くことになるので、重心が変化します。
重心の位置がズレると弾き心地が別物になってしまいます。
なので、今回のような場合は、「革巻きの寸法を伸ばし、代わりに革そのものの重量を減らす」という方法で交換を行います。
オリジナルの革重量は0.21gです。
若干摩耗しているので、摩耗分も考慮します。
(接着剤も含んでいます)
新しく交換する革は、多少薄くなっても丈夫な素材が良いので、今回は山羊革を使用します(質感もオリジナルのものと似ています)。
革を規定寸法に切り出したままの状態だと0.31gとかなり重いので、ナイフで均等に削り落としていきます。
0.21gと、オリジナルと同じになりました。
ここから更に革の4辺を削るのですが、そうすると0.08g程軽くなります。
なのでオリジナルの革より軽くなってしまいますが、、、
今回はあえて軽くしています。
通常、革巻きを行う際には、銀線との段差を無くすために紐等を竿に巻いています。
(高価な弓だと、革巻きの下まで銀線が巻かれていることもあります)
今回の弓にはこの処置が施されていませんでしたので、段差を埋める素材を0.06g分使用します。
更に接着の時に使用する接着剤の重さも考慮すると、これで問題無く仕上がる計算です。
完成後
接着後、仕上げを行い乾燥させた状態です。
フロッグと革巻きの隙間も改善されているのがお分かりいただけると思います。
交換前、交換後の弓の総重量(馬毛は切ってあります)も変化はありません。
(1枚目が交換前、2枚目が交換後)
最後に
お客様がお持ちの弓の革は健康な状態でしょうか。
定期的に確認していただき、抉れや摩耗がございましたらご相談ください。
同じ材質の革、グリップ性の異なる革、カラフルな革等、事前にお伝えいただければ最適なものをご用意致します。
(工房に無い物は直接買いに行くので、お時間を頂く場合がございます)
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弦楽器技術者の高瀬です。楽器の調子が悪い、音をもっと良くしたいと思いましたら、ぜひご来店ください。皆さまをお待ちしています!