別記事「ワールドスタンダードマイク NEUMANN U 87 Ai その理由とは?」で紹介したとおり、NEUMANN U 87 Aiは誰もが憧れるワールドスタンダード・コンデンサーマイク。予算が許せばぜひ購入したいマイクですが、なかなか買えないという方がほとんどでしょう。
もちろんNEUMANNにはU 87 Ai以外のラージダイヤフラムマイクがあり、近年注目されているのは機能を絞って価格をおさえたTLM 103とTLM 102です。この記事では比較的手に入れやすいTLM 103がU 87 Aiにどこまで迫れるのか、スペックの面から検証してみます。
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左:U 87 Ai、右:TLM 103
TLM 103とは?
最初にTLM 103を紹介しましょう。
TLM 103は1997年に発売されたラージダイヤフラム・コンデンサーマイクで、現代版のU 87、「モダンクラシック」と言われています。モデル名となっている「TLM」はトランスレスマイクロホンのことで、NEUMANNは1983年に発売したTLM 170以降、トランスレス型マイクのラインナップを拡大しています。
トランスレス型マイクはトランスありのマイクと比較してケーブルの引き回し距離などにデメリットがありますが、特に低域において歪みの少ない豊かな音が得られることが特徴です。自宅や小規模スタジオで長距離のケーブル引き回しは行われませんから、現代の低ノイズ需要にマッチしたマイクということができます。
なお、写真でよく見る専用サスペンションEA 1は別売りとなっており、TLM 103本体には付属しません。
EA 1は別売りで、本体にはスイベルマウントSG 2が付属する
U 87 AiとTLM 103の外観(サイズと重量)
外観について2機種を比較してみましょう。
外径はU 87 Aiの56mmに対しTLM 103は60mmとなっており、わずかにTLM 103の方が太くなっています。しかし実際手にとってみるとTLM 103はずっしりと肉厚で、数値以上に太い印象を受けます。
U 87 Aiの長さは200mmと、多くのマイクの中でも比較的長いマイクに分類されます。対してTLM 103は132mmとかなりコンパクト。U 87 Aiをギュッと縦に縮めたようなサイズ感dです。
重さはU 87 Aiが約500g、TLM 103は450g。TLM 103はコンパクトで軽そうに見えますが、450gとなかなかの重さ。サイズと重さからみるとただの廉価版ではなく、中身や品質を保ったままコンパクト化したマイクであることが伺えます。
ポップガードと比較するとサイズ感がわかる
実際に使ってみると長さが短いことは想像以上に優位性があり、マイクの設置自由度を飛躍的に高めてくれます。どちらのマイクもサスペンションEA 1に取り付けて使用するため、垂直以外の角度ではマイクが傾いてしまいます。TLM 103はU 87 Aiよりも短いため、垂直以外の角度でも使いやすくなっています。
マイクの取り回しという観点ではTLM 103に分があると考えて良いでしょう。
U 87 AiとTLM 103のスペック
続いてはスペックの面から2機種を比較してみましょう。
U 87 Aiのひとつの特徴とされるのは感度の高さです。同じ音を入力した時にどのくらい大きな音(電気)が取り出せるのかを示す数値が感度で、あまりに小さすぎるとマイクプリアンプを最大にしても音量が不足しますが、-60dBV/Paよりも大きい値であれば実用上問題はありません。U 87 Aiはなんと約-31dBV/Pa(28mV/Pa)という非常に大きな感度を持っています。著名なダイナミックマイクの感度が-56dBV/Paなのですが、実に約18倍に相当する大音量です。
これに対しTLM 103の感度は-32.5dBV/Pa(23mV/Pa)となっており、U 87 Aiよりは音量の小さなマイクであることがわかります。しかしU 87 Aiとの差はわずかに1.18倍であり、一般的なマイクとしては非常に大きな感度に分類することができます。実用上マイクプリのゲインが不足することは無いでしょう。
感度以外のスペックも見てみましょう。
すると、ノイズ性能(等価ノイズレベル)と最大耐音圧という2つのスペックにおいては、TLM 103がU 87 Aiを上回る性能を持つことがわかります。
等価ノイズレベルはマイクが持つノイズの少なさを示し、数値が低い方がノイズが少ないということになります。15dBを下回れば優秀と言われており、U 87 Aiは12dBと、近年のマイクと比較しても低い数値です。しかしTLM 103はさらに下回る7dBという数値を達成しており、トップクラスにノイズの少ないマイクであることがわかります。
最大耐音圧はどのくらい大きな音に耐えられるかという数値で、大きいほうが大音量に耐えられるということになります。ドラムの生音が120dB SPL程度、スネアドラムを至近距離で聞くと140dB SPL程度だと覚えておけば良いでしょう。U 87 Aiは117dB SPLなので、ドラムに使う時はちょっと気を使う必要があります。ボーカルでも近すぎると歪んでしまいます。一方でTLM 103は138dB SPLとなっており、ほとんどの楽器にオンマイクで使用することができます。
低ノイズなので時計の針の音さえもクリアに聞こえる
TLM 103は低ノイズであり、高入力に耐えられるので、結果的に扱うことができる音量がU 87 Aiよりも広いマイクであるということになります。
U 87 AiとTLM 103の機能と音質
機能面においてはかなり違いがあります。TLM 103は小規模スタジオや自宅使用という現代の需要にあわせることで機能を簡略化し、低価格化を実現しているのです。具体的には指向性の切り替えがありません。U 87 Aiは単一指向性、無指向性、双指向性の3パターンですが、TLM 103は単一指向性のみです。また、低域をカットするローカットフィルターもU 87 Aiのみです。
U 87 Aiは正面に指向性切り替え、背面にPAD/LCFを備える
しかしこれらの機能は事実上なくても問題ないと言えます。自宅など、レコーディングスタジオほど広くない環境ではほぼ単一指向性しか使用しません。また、低域についてはマイクプリやDAW側でカットできます。
音質については客観的に比較しにくいのですが、TLM 103はU 87 Aiに対して同等の質感と言って過言ではない、極めて繊細で高品位な音を備えています。特にU 87 Aiで評価されている質感の高い中低域は同じようなニュアンスを感じることができます。
高域は質感こそ同じですが特性はやや異なっていて、周波数特性にも現れています。TLM 103は5kHz付近にピークを持っているため、イコライザー等で加工をせずともクリアに聞こえる音です。U 87 Aiで録音した場合でも録音後に高域をブーストすることが多いので、最初から高域がブーストされていると考えれば良いでしょう。
U 87 Aiの価格を考慮するとTLM 103が価格を大きく上回るパフォーマンスを持っていると言えます。
U 87 Aiに遜色ない音を出力するTLM 103のカプセル部
以上のように、価格差は大きいのですが、価格差ほどの差はない、むしろTLM 103が上回る部分もあるということがおわかりいただけたと思います。これはTLM 103が現代の需要をターゲットに作られているため、その分だけU 87 Aiより有利だったと言うことができるでしょう。しかしU 87 Aiがリリースされたのは1986年。基本設計が行われた先代のU 87は1967年ですから、現代でも全く問題なく使えるというだけでも驚異的なマイクということができますね。
U 87 Aiが手に届かない人は、TLM 103を検討してみてはいかがでしょうか。
TLM 103
¥168,300(税込)
JANコード:4006087084304
TLM 103 mt BK
¥168,300(税込)
JANコード:4006087084311
TLM 103 studio set(ショックマウント付き)
¥191,400(税込)
JANコード:4006087085455
TLM 103 mt studio set(ショックマウント付き)
¥191,400(税込)
JANコード:4006087085448