Pat Methenyの「Last Train Home」のMIDIデータ再生中
こんにちはサカウエです。ローランドのハイブリッドシンセ「JD-Xi」コルグの「Arp Odyssey」「Moogモジュラー」の復刻、「Sequencial Prophet-6」・・などなど、The NAMM Show 2015では多くの新製品シンセが話題となっています。しかし、The NAMM Show 2015で発表されなかった、超話題の製品がこのiOSアプリ「SOUND Canvas for iOS」です!!
iPad版のスクリーンショット
iPhone版のスクリーンショット
「SOUND Canvas for iOS」は、1990年台にローランドから発売され大ヒットとなったDTM音源「SCシリーズ」をiOS版で復刻した製品です。今回はまもなく公開される「SOUND Canvas for iOS」を一足先に試してみることができましたので、そのレビューをお送りしたいと思います。
SCシリーズとは?
パート数16 、最大同時発音数24 、音色数317 というスペックで1991年に発売されたSC-55(¥69,800:当時)を筆頭に、SC-88Pro、SC-8820、8850と進化していったローランド社の音源モジュール「SCシリーズ」は当時のDTMの世界を変えたと言っても過言ではないでしょう(あくまで個人の感想です)
ローランドがSCシリーズで提唱した音源フォーマットを「GSフォーマット」といいますが、こんなちっぽけな箱から複数パートの高品位なサウンド(当時)が出てくるというのは非常に画期的で驚かされました。なお意外にも「GM(のちにGM2も提唱)」はGS以降に提唱されたフォーマットなんですね。
SC-88Pro(¥89,800:当時)
そんなSCシリーズの中でも、1996年に発売された「SC-88Pro」通称「ハチプロ」は、音色数1117+42ドラムキット、リバーブ、ディレイ、コーラス、インサーション・エフェクトを内蔵、表現力も格段に飛躍したおかげで記録的な大ヒット商品となりました。現在、中古市場やオークションなどでもいまだ人気となっているようです。
ここにもちゃんとGS、GM2のロゴが・・
ローランド社はハチプロ発売前の平成7年(1995)には「GS音源100万台突破記念キャンペーン」を開催していましたが、ハチプロの出荷数も相当なものになったと思います。あれから20年、シリーズ出荷総数はまったく想像できませんが、SCシリーズ・サウンドは後に「スーパーマーケットのBGM」という分野にまで大躍進を遂げることになったのは記憶に新しいところです。
SC-88Pro(下)とSC-8820(上)
こうして「GS音源」フォーマットに準拠したRoland家の「SCシリーズ」は、またたく間にDTMのデファクト・スタンダード音源となり、天下統一を目前といたしました。しかし平成六年(1994)に登場したヤマハ家のXG音源「MUシリーズ」の台頭により、その後数年に渡り両家間の壮絶な戦いが繰り広げられることになったのでございます。これが世に言う「遠州中沢細江町の戦い」でございます(嘘)
YAMAHA MU-2000 photo by Wikipedia
昔話はこれくらいにして閑話休題、それでは詳しく見ていくことにいたしましょう。
これがSOUND Canvas for iOS です(写真のデバイスはiPhone6 PlusとiPad mini Retina)
ハチプロを完全再現?
SOUND Canvas for iOSはユニバーサルアプリなので、iPad、iPad mini、iPhoneで動作します。1ライセンス購入でiPhone、iPadのどちらでも使うことができるのは嬉しいですね。まずはスペックから。
「SOUND Canvas for iOS」主な仕様
- 最大同時発音数:64音(ボイス)
- パート数:16パート
- 対応フォーマット:GS / GM2 / GM /
- 音色マップ:4種類(SC-8820, SC-88Pro, SC-88, SC-55)
- プリセット音色数:1600音色
- ドラムセット音色セット:63ドラムセット
- 音色互換:GS / GM2 / GM /
- 搭載エフェクト
- -Reverb:8種類
- -Chorus:8種類
- -Delay:10種類
- -2Band EQ
- -EFX:64種類
- Virtual MIDI 対応
- OPEN In 対応※動作条件:iPadAir以降、iPad mini 2以降、iPhone5S以降、iOS 8.1.2以降
「SOUND Canvas for iOS」はSC-88Proを再現しただけではなく、SC-55、SC-88、そしてハチプロの上位機種であるSC-8820の音色まで内蔵されているiOSアプリということになります。なお液晶ディスプレイに絵を表示するフレームドロー機能は現時点では非対応、Inter-App AudioとAudio Busは将来的に対応予定とのことです。
2015/3/11:バージョン1.1.0より、Inter-App AudioとAudio Bus対応しました
プレーヤー機能を使ってMIDIファイルを再生
SOUND Canvas for iOSはSMF(スタンダードMIDIファイル)プレーヤー機能を搭載していますので、まずはSMFをインポートして鳴らしてみることにします。
画面を二本指でスワイプするとプレーヤー画面に切り替わります。
アプリ内にMIDIデータ(SMF)を取り込むには、iTunes経由とOPEN In機能を使うという2つの方法があります。
iTunesで転送
Kindleなどと同様、iTunesを立ち上げ、SOUND Canvas for iOSのアプリを選択し、MIDIファイルをドラッグ・アンド・ドロップ、または「追加」で曲選択すればOK
OPEN In機能を使い、Dropboxでデータ転送
「OPEN In」というのはiOSデバイスでファイルを任意のアプリで開くことのできる機能です。SOUND Canvas for iOSはこのOPEN Inに対応していますので、たとえばDropboxやGoogle Driveといったクラウド・ストレージ・サービスを介してMIDIファイルを読み込むことができるのです。
パソコンとiOSデバイスにDropboxをインストールして同期設定を行い、パソコン側でSMFをDropboxに放り込んでやると、同期したiOSデバイスのDropboxでもSMFが見えるようになります。ここでOPEN In機能を使い「SOUND Canvasで開く」を選択することで、SOUND Canvas for iOSに曲が転送されプレーヤーで演奏することができるわけですね。
同期したDropBox内のMIDIファイルを選択します・・・18年前、20年前というファイル作成日に涙を禁じえません・・
読み込みが行われSOUND Canvas for iOSのリストにコピーされます。
SC-55データを鳴らしてみる
では、はるか昔にワタクシが手がけたMIDIデータ集パット・メセニー・コレクションの中から「Last Train Home」「Third Wind」などをSC-55モードで聴いてみました(データは今でも購入できるようです)
「Last Train Home」
なんと原曲は最近TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険~スターダストクルセイダーズ」のエンドテーマに採用されているんですね、パット・ファンとしては少々複雑な心境です...メロディーを奏でるエレクトリック・シタールは、ジャズギター音色とレゾナンスを上げたフレットレスベースを組み合わせて再現しています。
SC-55はディレイが非搭載だったので、メロパートを他のトラックにコピーして、後ろにズラし(2拍3連分程度)、音量を下げ、パンをランダムにして「擬似ディレイパート」を作っています・・SC-55実機と比べるとシェーカーやハイハット系が少々前面に出すぎてしまいますが、これは音質が良くなってるからでしょうか?シタールはもっとミャンミャン鳴って欲しかったですがまあこれは欲張り過ぎかと・・
「Third Wind」
10分超の大作(238kB)です。原曲はハイテンポの超絶ギターソロは出てくるわ、中盤アフリカンビートにタイムチェンジするわ、ギターシンセはでてくるわ・・もうなんともすごい曲ですが、よくこんなのを耳コピしたなあと我ながら感心いたしました(耳コピは数人のスタッフにも手伝ってもらっていました)。
データを覗いてみると随所でプログラム・チェンジやコントロールチェンジの嵐で、Patのギターのフレーズですが、スライド、ハンマリング&プリング等は全部ピッチベンドでシミュレーションしてました・・いったいどれだけの時間がかかったのはもう忘れましたが、今思うと耳コピで色々な発見ができてとても勉強になったと思います・・残念なことに、SOUND Canvas for iOSの55モードだと、後半のGR-300(ギターシンセ)をシミュレーションしている音(シンセブラス)が全く変わってしまったのでこれは最適化が必要なようです。8820だとGRの音が使えるのでそれに差し替えれば大丈夫かと思います。
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発音数について
SC-55の場合は最大同時発音数24音(ボイス)という厳しい制限がありました。この「ボイス」というのは内蔵音色を構成する音の基本単位で、中にはピアノとストリングスのレイヤー音色のように、2ボイスを使っている贅沢な音色もあります。その場合は例えばドミソの和音を弾くとそれで6ボイス消費してしまうのです。全体の同時発音数が24を超えると「音切れ」という現象が発生して正常な演奏ができなくなってしまうのですが、でもシンプルな楽器構成の曲であってもドラム、ベース、ギター、キーボードといったパートを重ねていくと24音なんてあっという間にオーバーしてしまうのですね。
音色リストの例:ボイスで2と表示されているのが贅沢音色
したがって演奏を完コピできたとしても、完全再現はまず無理。そこでデータが密集している箇所などでは泣く泣く「ピアノの左手はカット」「アコギのローコードのストロークは3音のみで表現」「スネアと重なるハイハットはカット」「ベースと重なっている部分はカット」・・・といったケチケチ対応をせざるを得ませんでしたが、これも今となっては良い思い出です・・・ちなみに省略する部分というのは機械的ではなく、あくまで音楽的な観点から優先順位を付けて判断しなくてはいけないのです。
「SOUND Canvas for iOS」の発音数はSC-55の倍=64ポリなので、音切れは気になりませんが、タンバリンなどの金物系は若干派手目に聞こえてしまう傾向があるように思いました。リバーブもクリアになっていますが、浮動小数点演算のおかげなのでしょうか?ピアノの音はさすがに時代の流れを感じますね、、今聴くとハッキリ言ってチープです・・・ただ音がチープな分、演奏を緻密にプログラミングしないとさらに聴くに値しないレベルになってしまうのがこのGSデータ制作の恐ろしいところですが・・それにしても・・・まあこれはいたしかたありませんね。
SC-8820で作ったデータを鳴らしてみる
SOUND Canvas for iOSはSC-88Proはもとより、SC-8820音色も内蔵されているということなので、これまたメセニー先生の「Follow Me」を8820音色に差し替えたデータを再生してみました。今度はリバーブ、コーラス、ディレイ、そしてオーバードライブ(ギターパート)とロータリー(オルガンパート)を並列で使用するインサーションエフェクトを使用しています。
まだ制作過程で打ち込みが粗く、少々出力が歪んでしまっていますが、SC-8820と聴き比べてもほとんど違いがわかりませんでした。このデータは元々128音ポリ仕様で作成したものだったので、SOUND Canvas for iOSの同時発音64音で再生できるように音を間引いてケチケチ対応をしています(泣)。
なおこの曲は膨大なMIDIコントロールチェンジ、エクスクルーシヴ・メッセージを使用しておりましたが、こうしたデータの密集が大きいと、インポートに時間がかかったり、まれに曲中でデータの取りこぼしが生じる場合があるようです。これはおそらくiOSの処理能力の限界から起こる現象のようですが、その際は楽曲制作過程でデータの密集を避ける処理(なるべく同一時間軸に多量のメッセージを置かない、連続データを間引く・・等)といった対応でなんとかなると思います(これ、昔は当たり前の様にやってましたが)
ハチプロデータの再生に関してはローランドさんの動画をご覧ください(いくつかワタクシの打ち込んだ曲もあります)
SOUND Canvas for iOS Sound Catalog #1
SOUND Canvas for iOS Sound Catalog #2
SOUND Canvas for iOS Sound Catalog #3
再現性は合格?
さて作った本人がいうので間違いないですが「再現性」という点ではほ合格点を進呈したいと思います。なぜ「ほぼ」なのかを説明する前にSCシリーズの音色互換性について触れておきましょう。40代未満の方は読み飛ばして下さい。
GS音源用に楽曲データを作成する場合、各パートのフィルター、エンベロープといったパラメーターは各種MIDIコントロール・チェンジを打ち込んで変更していました。本体でも各パートの音色変更は可能ですが、再生ごとに毎回手動で設定するのも大変ですし、曲中で音色を変更したりすることができません。そこでデータの再現性を保つために、音源のリセット情報、エフェクト設定、各パートの音色選択や音色設定・・等をデータに仕込んでおくというマナーが一般的になりました。
たとえば「フィルターのカットオフを-4」にする設定は
- CC99 1
- CC98 32
- CC6 60
といった呪文(NRPNといいます)を使い、リバーブをホール・リバーブに設定する場合は
F0 41 10 42 12 40 01 30 04 0B F7
という、おまじない(システムエクスクルーシブ・メッセージといいます)をDAWで打ち込んでいたのです。チェックサム(データを送受信する際の誤り検出のための数値)の計算は大変だったなあ~(さらに遠い目・・・)
これを全部理解できるあなたは只者ではありませんね↓↓ 画面はMOTU DP8
一番上の呪文(青)は音源を初期化しますよーというGSリセットというメッセージです
実は同じSCシリーズであっても機種ごとに微妙に音色や音質が異なるのです。そこで心血を注いでプログラミングしたデータであっても、たとえばSC-55でチューニングしたデータをSC-88ProのSC-55mapで鳴らした場合、微妙にバランスも異なりまったく同じ出音にはなりません。
収録波形、ベロシティーカーブやエンベロープ、フィルターの特性などの相違がその主な理由ですが、おそらく制作した本人にしか解らないだろうという微妙な差が生じてしまうのですね。
SOUND Canvas for iOSにはSC-8820, SC-88Pro, SC-88, SC-55という4種類のマップの切り替えが可能となっています。
メセニー・コレクションは「SC-55」に最適チューニングしておりますので、実は実機のSC-55で聞かないとワタクシの意図した音色にはならないのですが、それでもSOUND Canvas for iOSの SC-55、8820 map で再生したメセニー先生のデータは合格点をあげてよいと思います(ギターシンセの音だけはなんとかしていただきたいですが・・・)。ほんとうに開発ご担当者様はお疲れ様でした。
外部音源として使ってみる
MIDIインターフェースで鳴らす
つづいてパソコンに接続したMIDIインターフェイスからMIDIケーブルで IK Multimediai のMIDIインターフェイス「Rig MIDI 2」につなぎ、iPad mini Retina を外部音源として使用できるようにセッティングしてみます。SOUND Canvas for iOSはCoreMIDI対応なので、これでiPad(iPhone)を外部MIDI音源として使うことができるようになるのです。
追記:Cubase8でも無事再生できました。
もちろん各パートの音色切り替え、各種設定、エフェクトセンド、ソロ、ミュート、システムパラメーター、インサーション・エフェクト、EQなどは画面でマニュアル設定することができます(プレーヤー機能を使用した場合も設定可能です)
システムメニュー
各パートの音色選択画面
ミキサー画面で各種エフェクト・センドをパートごとに設定。
エフェクターのパラメーター変更もOK
Wi-Fi MIDIで使ってみる
さらにWi-Fi MIDIを使用することで、SOUND Canvas for iOSをワイヤレスで外部音源として使用することが可能です。例としてMacからSOUND Canvas for iOS(iPad版)をワイヤレスで鳴らす設定を紹介いたします。
Macの、アプリ>ユーティリティーで「Audio MIDI 設定」を選択、起動します
ウインドウ>MIDIスタジオを表示を選択
ネットワークをダブルクリック
MIDIネットワーク設定が開きます
- 画面左上のセッションで「+」を押し
- 右上の「有効」をチェック
- ローカル名(Bonjour名)は自由に変更可能です。ここではSC4iOSとしました。
- iPad mini側でSOUND Canvas for iOSを起動するとMIDIネットワーク設定の左下ディレクトリにiPad miniが表示されます
- 接続をクリックします
右中央、構成の部分に名前とレイテンシ調整のところにデバイス名が表示されたら接続成功!これでMacとiPadがWi-Fiネットワークでつながりました。
あとはDAW側でMIDIトラックの出力先を「ネットワーク」にすればOK。ワイヤレスでiPadがハチプロ音源に変身します。若干のレイテンシーが生じますが、DTM音源として十分に使えるレベルだと思います。
Virtual MIDI 対応
SOUND Canvas for iOSはVirtual MIDI にしていますので、たとえばiPadアプリのCubasisで打ち込ちこんだデータをSOUND Canvas for iOSを使って鳴らすということができます。
iOSデバイスひとつでハチプロを鳴らすDTM環境が整ってしまうというのは凄い時代になったものですね。
SOUND Canvas for iOSのVirtual MIDI設定画面
SOUND Canvas for iOSとCubasisを起動して、Cubasiaのトラックの出力先をVirtual MIDIにすればSOUND Canvas for iOSを鳴らすことができる!
ミュージックデータも購入可能
この他にもRoland MusicData Browser(App Storeで無料ダウンロード可能)を使い、ローランドの電子楽器向けミュージックデータを試聴・購入・転送することができます。カラオケ、ピアノレッスンなどのコンテンツを楽しむことができます。
MIDIデータの優位性とは?
さて現在に目を向けてみましょう。どんなに緻密なプログラミングがされた完コピMIDIデータであっても、原曲オーディオ・データにはかないっこありませんね、何しろ本物ですから。ではオーディオと比較した場合のMIDIデータの存在意義、優位点とは何でしょうか?だいたい以下のようなものだと思います。
- 容量が少なくて済む
- マイナスワン演奏ができる
- 楽譜表示が可能・演奏が見える
- 演奏する楽器の差し替えも自由自在
「容量」に関しては、32GBのUSBメモリー等が数千円で買えるこのご時世、もはやアドバンテージには成り得ないでしょう。
2のマイナスワンですが、オーディオの場合はマルチトラックデータが必須ですが、SOUND Canvas for iOSのプレーヤー画面にはミュート機能が備わっており、ドラムレス、ギターレス等のマイナスワン演奏が可能となっています。またMIDIデータですので、テンポの変更も容易ですから、例えばレッスンなどにも応用が効くと思います。
3の楽譜表示に関しては、SOUND Canvas for iOSにはその機能はありませんが、DAWや各種アプリを使用した場合は楽譜を表示させたりピアノロール画面で演奏を「見る」ことができます。完コピMIDIデータであれば、演奏や奏法の研究などに使えます。
4の楽器差し替えに関しては、オーディオの場合はマルチトラックデータが必須で、かつ録音し直さないと不可能ですが、MIDIの場合は瞬時に変更が可能です。
こうしたMIDIのアドバンテージの多くはSOUND Canvas for iOSでも生かされてくると思います。
膨大なGS楽曲ライブラリーを活用できる
ここで再び昔の話になります。
昔のパソコンはハードディスク(HD)は40~100MB(メガバイト)メモリ256kB(キロバイト)と、現在とはケタ違いの非力スペックでCPUも超低速でした。当時主流だった記憶媒体は「3.5インチ・フロッピーディスク」で容量は1.44MB(2HDの場合)。したがって現在の様にオーディオ(wav、mp3等)をパソコンで扱うことは普通のユーザーには高嶺の花でした(iTunesのリリースは2001年)
※ちなみに昨今の「1テラバイトHD」という単位は当時の約1万倍の容量となります。
フロッピーディスク photo by Wikipedia 一番右が3.5インチ
こうした背景も手伝って、SCシリーズやMUシリーズを使って完コピ曲やオリジナル曲を打ち込んで楽しむというユーザーが爆発的に増え、古今東西の名曲を完コピしたMIDIデータを聴くという「リスニング用SMF」という商品まで発売されました(現在も主にオンラインで流通)。楽曲MIDIデータ1曲の容量はせいぜい50kB~150kB程度ですので、フロッピー1枚に10数曲程度は収録することができたのですね。
昨年末に出土したMIDIデータ集の化石群
2015年現在、昔のパソコン通信(懐かしい)のフォーラムにアップされていたクラシック曲や、通信カラオケ対応データなども含めると、この世にはSC-88Pro対応のMIDI楽曲データはおそらく数十万~百数十万という規模で存在するのではないかと推測されます。
この膨大なGS楽曲ライブラリー資産をiOSデバイスで活用することができるということだけでも、SOUND Canvas for iOSの価値があるように思えます。
VST、AU版は発売されるの?
さてこうなってくるとユーザーの中には「VSTやAUといったプラグイン・ソフト版」の登場を待ちわびる方も出てきそうですね。かくゆうワタクシもその一人。使い慣れたマルチティンバー音源をプラグインで使えることになれば、たとえば所有している「ハチプロ・データ」を読み込んで再生し、こだわりのパートを最新の高品位ソフトシンセに差し替えてグレードアップ・・・といったことも簡単にできるわけですね。ローランド開発担当の渋谷さんにお尋ねしたのですが「現時点では未定、でも技術的には可能」とのことでした。今回のリリースでどれだけ売れるか次第・・といったところでしょうか。
★
というわけで駆け足でSOUND Canvas for iOSをチェックしてきたわけですが、ここまでで「単なる懐古趣味ではないの?」「現在の音楽制作で使用しないし、リバイバルの意味はあるの?」と思う人もいるかもしれません。たしかに最新のソフト&ハード・シンセと比較した場合「音色クオリティー」という視点ではまったく比較にならないでしょう。でも、現在リバイバル流行中?のビンテージ・シンセだって「いまどきアナログシンセなんて時代錯誤でしょ・・」と思う人もおられるわけですから・・・人それぞれですね・・ワタクシはどちらも大好きですけど・・
SCシリーズは非常にバランスの取れたマルチティンバー音源であり、多くのデータ製作者とともに独特のコミュニティーを育んできたことはれっきとした事実。音色クオリティーの優劣という狭い視点ではなく、プラットフォームとしての利便性、汎用性という側面からも語られるべきなのかなあと思いました。ところで、こうした音源を使って作りこむというのはなんだか「箱庭」の世界と似ているような気がします。
ではワタクシももうすこし使い込んでみます。それでは~
SOUND Canvas for iOS
発売日(App Storeでダウンロード)
2015年1月29日
販売価格(App Store)
※7/16追記
Version 1.1.1 アップデートが公開されました!iPodTouch(第6世代)にも対応。
- 外部音源MIDIとして使用する際に便利な、パートの音色設定等のセーブ、ロード
- 手軽にマイベストソングリストが作れる、ソングリスト複数セーブ、ロード
- SMFデータのセットアップ小節にもカウントインできる、EXTRA COUNT機能
- 曲名の検索機能を追加
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https://itunes.apple.com/jp/app/sound-canvas-for-ios/id952549036?mt=8