ダイナミクス系エフェクター
こんにちはサカウエです。このページでは「音量に変化を加える」エフェクター、主に
- コンプレッサー(コンプ)
- リミッター
についてご紹介いたします(写真はアナログ式のコンプレッサー群)。
「ダイナミクス」というのは「音の強弱」を表す言葉ですが、ダイナミクス系エフェクトはここでは楽器、ボーカル等の音量をコントロールするエフェクターと考えてください。
コンプレッサー(コンプ)
コンプレッサーの役目
コンプレッサーは音をCompress「圧縮する」エフェクターですが、音量差を「圧縮」することで、大きい音と小さい音の差を少なくします。
コンプレッサーを使用する目的としては、
- 過大入力(または出力)を防ぐ
- 録音時に音量差を狭め「S/N比(えすねぬひ)を稼ぐ(※)
- 意欲的な音作り
※S/N比:シグナルとノイズの比率、この値が大きいほどノイズが少ない
が主なものになるでしょう。
レコーディング・スタジオやマニアの間では、今でも往年の銘器「1176」といったハード機材を使用する方も少なくありませんが、DAWを使用した音楽制作においては「ハードのコンプレッサー機器」をソフトウエアで再現した「コンプレッサー・プラグイン」を使用する場合が多いと思います。
1176LN Classic Limiting Amplifier
基本動作
コンプレッサーは単に音全体を圧縮するだけでなく、下図のように設定した「スレッショルド・レベルを超えたもの」を対象に、指定した比率(RATIO:レシオ)で圧縮することもできます。
2:1 だと「原音に対して2分の1のレベルに補正」され、∞:1の場合はスレッショルドレベル以上の音量は出力されないということになります。スレッショルドを最小にした場合は、入力された音全体が圧縮対象になるわけですね。
ではその他コンプレッサーの主なパラメーターを説明しながらそれぞれの目的・役割を説明してみたいと思います。
主なコンプレッサーのパラメーター
写真はBehringer(ベリンガー)のラックマウントタイプのコンプレッサー/リミッター「MDX1600」のフロントパネル。
コンプレッサーで抑えておきたいのは以下の4つのパラメーター。
- スレッショルドレベル(THRESHOULD LEVEL):しきい値、ここを超える音がコンプレッションの対象となる
- レシオ(RATIO):圧縮する比率
- アタック・タイム(ATTACK TIME):スレッショルドを超えてからコンプレッションを開始するまでの時間
- リリース・タイム(RELEASE TIME):スレッショルドを下回ってからコンプレッションが終了するまでの時間
目的1. 過大入力(または出力)を防ぐ
前述のように RATIOを「10~∞:1」するとコンプが「リミッター」として機能していることになります。リミッターは設定したスレッショルド以上の音量を出力しません。たとえばライブ等で、マイクをぶつけた際の「ゴン!」という過大出力を抑えてくれます。下図では∞:1のラインがそれに相当します。スラップベースでも使われたりしますね。
このリミッター機能が装備されているハンディーレコーダーもよく見かけます。
目的2. 「録音時に」音量差を狭めS/Nを稼ぐ
たとえばギターを録音する際にコンプレッサーをかける場合で考えてみましょう。
黒線が原音で、赤で囲まれた部分が録音の際にインターフェイス等から混入してくる「ノイズ」だとします(このノイズは、ギターを繋がなくても入ってきてしまうものと仮定します)
ノイズは周波数全域で均等に分布しているとすると、ギターの小さい音量の部分ではノイズにかぶっていることになります。つまりS/N比が低いことになりますね。S/N比を上げるためにはギターの録音レベルを上げればよいのですが、それには限界があります、上げすぎると入力で「歪」んでしまうのです。上記の図は歪む一歩手前ギリギリのレベルと考えてください。
ここでコンプの出番。スレッショルドレベルをゼロ、レシオを「2:1」にしてみると単純に原音全体が2分の1に圧縮されます。
これを図形にたとえてみると、上記の画像の波形の部分を、お絵かきソフトで「縦だけ50パーセント縮小」するようなイメージですね。
できた画像がこれ↓ 縦だけ半分のサイズに圧縮されています(あくまでイメージ)
全体の音量差が「圧縮」されてこのような形になっているわけですが、このままではノイズに埋もれたままです。
しかし先程よりは歪むまでにまだまだ上限に余裕があるのがわかると思います。そこで録音レベルを上げます(図はかなり適当)
ということで、演奏のダイナミックレンジ(信号の最小値と最大値の比率)は少々狭くはなりますがS/N比は稼ぐことができるようになるわけですね・・というイメージがなんとなくご理解いただければ幸いです。
注意:これはあくまで録音時の際の対処方法です。ノイズが入った録音テイクを後から修正するということではありません。
さて、ここではわかりやすくするためにスレッショルドレベルをゼロに設定しましたが「スレッショルドレベル=ゼロ」ということは、原音に対し常にコンプがかかりっぱなしになるということ・・・すると、原音との音質変化がありすぎて不自然に聞こえてしまう可能性が生じます・・・・したがって実際にはスレッショルドレベルを上げて、レシオも調節する必要があると思います。
目的3.意欲的な音作り
これには対象となる楽器ごとに非常に多くのテクニック、方法論があり、レコーディング・エンジニアの腕の見せ所でもあるわけです。ここではほんの一例を紹介します。
アタック・タイム(ATTACK TIME)
スレッショルド・レベルとレシオはご理解いただけたと思いますが、スレッショルド・レベルを超えた音に対し「圧縮」が始まるまでの時間がアタックタイムです。通常msec(ミリセカンド=1000分の1秒)という単位で設定します。
たとえばバスドラの音にコンプをかける場合、アタックタイム=0の場合はバスドラの「ドン」という「アタック部分」も「つぶれて」しまいます。しかしこのとき、コンプのアタックタイムをある程度あげてやると、バスドラの「アタック部分」はコンプがかからず、一定時間後のレベルは圧縮されることになります。
レシオ2:1の場合のイメージ
実際にはアタックタイム=0という設定はデジタルでは可能ですが、アナログ機器の場合は必ず誤差が生じ、それが機器ごとの特長にもなっています。
リリース・タイム(RELEASE TIME)
リリースタイムはスレッショルドを下回ってから圧縮が終了するまでの時間ですが、アタックタイムとの兼ね合いでまったくコンプが効かなくなるケースもあるので注意しましょう。コンプを自然な感じに聞かせるためにはこのリリースタイムの設定値が重要になってきます。