【録れコン2016 】リプロダクション・レポート~#5 リプロダクションを終えて

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録れコン2016 リプロダクション 5.リプロダクションを終えて

#5 リプロダクションを終えて

アーティスト 豊池竜彦氏

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この度は、録れコンのリプロダクションの機会を頂きまして、本当にありがとうございました。僕にとっての録れコンは、宅録暦とほぼイコールになります。宅録をなんとなくはじめて右も左も分からないころ、1曲ごとにアドバイスをいただけるということで編曲面でもレコーディングの面でも自分にプラスになるかなと思って参加しはじめました。返ってくるアドバイスシートを毎年眺めながら、自分に足りない部分を幾つも発見させられてきました。毎年提出して次の課題をみつけるのが恒例になっていたので今回このような機会を頂けてほんとうに嬉しかったです。

リプロダクションに至るまでには、メールでファイルをやり取りしながら、どのような形でリプロダクションを行うのがいいか何度も提案していただきました。その結果、打ち込み音源などは生っぽさを出すために山中さんに打ち込み直していただいて、さらに音を追加してという方向で、アコギはスタジオで録り直そうということになりました。最初はこの提案をされたとき相当悩みました。

普段、宅録はひとりでマイペースに何回も失敗しながら好きなだけ時間をかけて録っているので、決められた時間、大勢の人の中でレコーディングというものがこわくて他の方に依頼してちゃんと正確に弾いてもらおうかなと思っていました。そんな中、電話で「正確に弾くならプロに依頼したほうがいいけど、この曲のこの雰囲気は作曲者が一番分かっていると思うよ」と言われてハッとしました。それを聞いて、どれだけ見苦しい結果になってもこの曲は自分で弾きたいなと思えました。リプロダクション前から曲との向き合い方について考えさせられ、それだけですでにいい経験だったなと思えました。

リプロダクション当日、見たことも無いほど広いスタジオで驚きました。ここに住みたいなと思いました(笑)。顔合わせのとき、エンジニアさん、広報の方、編集者の方、カメラの方、大勢の人が目の前にいて、この曲にこれだけの人が関わってくれるんだなぁと本当に嬉しかったです。そして当日の流れと、自分の提出した音源を聞いて、アコギのレコーディングに取りかかりました。

この曲にあうアコギの音はどれだろうかと、島村楽器さんに用意していただいたアコギを3本弾きながら、すごいマイク4本に囲まれてレコーディングが始まりました。すごい贅沢な環境で至れり尽くせりでした。マイクの位置も「へ~、このへんで録るんだなぁ」と勉強になりました。そしてまだほとんど編集していない状態なのにアコギの音がすごく心地よくて感動しました。

アコギのレコーディングが終わり、エンジニアの鎌田さんによるミックス作業。その画面を見ながら隣りで中澤さんが分かりやすく今はこうしているんだよと解説をしてくれました。今さら人には聞けないようなコンプの初歩的なことも教えていただきました。意外とこういう機会がないので貴重な体験になりました。そして鎌田さんの音をつくっていくスピードにただただ、驚きました。ベース、ドラムで低音をつくって、音を重ねていって、、、

1番驚いたのは声に対するオートメーションの書き方でした。スピードにも驚いたのですが、声の1音1音にオートメーションがついているんじゃないか、というほど細かく書かれていました。そしてその1音にオートメーションを書くか書かないかで印象がこんなに変わるんだなと。1音に対する集中力がプロはこんなにすごいのかと思い知らされました。

そして山中さんに追加していただいた音色の使い方もとても勉強になりました。ひとつのフレーズを3種類の音色で再生して、ひとつの音色にするとう発想や使い方をはじめて知ったので今後の作曲にぜひ活用していきたいなと思いました。ミックス作業の合間に当日はお会いできない予定だった山中さんと、フェイスタイムで質問させていただいたり、アドバイスをいただいたり、本当にこのリプロダクションは1日通して貴重な体験になりました。

そして何より一番感動したのは、音源を最終確認した後鎌田さんに「いろいろと編集したけど、この曲の持つ頼りなさやか弱さは残しておいたから」と言われたことです。レコーディング技術のすごさに驚かされてばかりでしたが、この曲の世界観をこんなに考えてくれて、僕が1番大切にしたいところも汲んでくれていたなんてとても嬉しかったし、単純にすごいなぁと思いました。

リプロダクションを終えて、自分の未熟さっぷりに笑ってしまいそうでしたが、それ以上に早く家に帰って新しい曲をつくりたいなと思えました。このリプロダクションのことは一生忘れないと思います。録れコンに参加し続けていてよかったです。また新しい課題は山積みなのでこれからも一歩ずつこのリプロダクションでの経験を胸に頑張っていきたいと思います!

島村楽器さん、関係者の皆様、ありがとうございました!


エンジニア:鎌田岳彦氏

Torecon2016RP_16

豊池竜彦さん今回のグランプリ受賞、おめでとうございます。リプロダクションお疲れさまでした。

「宅録」が、特別な事ではなくなって来たきたのはいつの頃からだったでしょうね?毎年のように録音環境の、スペック・操作性が向上し、録音機材の開発のスピードには驚くばかりです。ひと世代前までは、プロでも簡単には手を出せないシステムが、ここ最近はより扱いが簡単になり、ほぼプロと同等なスペックでの環境が、自宅で構築でき、しかも、コストパフォーマンスには本当に驚かされます。そして、何度でも「やり直し(録り直し)」ができて、「タイミング」や「音程」を修正できる環境は、プロもアマチュアも同じですからね。

さて、例年通り受賞作品のデータを受け取り、我々スタッフでトラックのクオリティーや、より詳細なトラック情報を確認しました。リプロダクションに向けての大まかな方向性を決める予定でしたが、まずリズムトラックのパラ分け(音源ごとにトラック分け)がちょっと上手く行っていなかったようで、まずはそこの復元の段取りになりました。また、2ミックスを聞いた段階では、ピアノを生にしたり、管楽器や弦楽器とかEGを入れる等、楽器を足すアレンジのイメージでしたが、『もしかして豪華になってしまうと、楽曲の「テーマ」、「世界観」からズレて、「普通の楽曲の印象」になってしまうかも…』と思い軌道修正しました。昨年同様(今回はちょっと役割が違いますが)山中氏にご協力頂き、MIDIトラックからの、打ち込みトラックの分析・復元・補強をお願いする流れに。また、音色やコードの修正をした方がより良くなる方向が見えたので、AGパートを録り直しをする事に。プレイヤーも何人かの候補も考えつつ悩んだ末に、本人に弾いてもらう方向でまとまり、当日の流れがほぼ決定しました。

さて、リプロダクション当日、先ずはギターの録り直しからはじまりました。本人が実際に録音に使ったギターと、島村楽器が用意した「HISTORY」と、マイクを数本用意し、楽器・マイク・マイクアレンジ(マイクセッティングの距離・角度・向き)を決めて、録音スタート(詳しくは本文参考)。豊池さんのギターの腕前が若干心配でしたが、テスト録音の演奏で、心配も吹き飛び順調に録音。パートによりアクセントの位置を変える事で、「ノリ」が変わったり、リズムトラックとの相性やグルーブ感も良くなりました。無事、ギタートラックが録れた段階で、山中氏のバックトラックの解説・説明の間に、大急ぎでギタートラックのまとめと、ボーカルトラックをメロダインでのピッチ直しを行いました。

そして、最終段階ミックス行程へ。ギターやリズムトラックのトリートメントを含めて、今回は楽曲の最大音量時に、トータルでのコンプ・リミッターが丁度良く掛かるレベルに合わせて、全体の音量感を決めるべく、音量のコントロールを考えてのミックスでした。元の作品のミックスでは、サビパートにかなり強くコンプが掛かっていて、特にバックトラックの楽器やコード進行が聞こえない状態でした(苦笑)。特に今回の楽曲のアレンジは、最初ギター1本で始まり、サビではリズムを含めた楽器数が多く、強くなり、全体の音量感も上がる。そして最後もギター1本で終わりますからね。最後のサビ前のパート前に、何か「大仕掛け」したかったのですが…いかんせん、スタジオにあるプラグインと時間が足りなかった。実は、スタジオに入る前に自宅でちょっと試して見たのだが『古いレコードやラジオから聞こえる様なサウンド』ちょっと普通のアプローチ過ぎて、今ひとつの感じでした。その「大仕掛け」はやめようかと思いつつ、現場でのトライをしてみたのが、今回のミックスです。一応イメージした物は『場所・時代・時間・季節…を限定しない、匂いの様な曖昧なサウンド』かな。言葉で書くと言い訳の様ですね(笑)

ここ数年の録れコン審査会でも、時間を掛けて作り込まれた作品が数多く出されていて、歌を補正するのは、もう当たり前の時代になって来ている事を痛感します。ただ、それらの技術は「音楽の要素の中の大切な幾つかの要素のひとつ」だということです。リズムや音程は、ズレているよりも合っている方が良い。音量もバラついているよりも揃っている方が良い。とは言え、それだけだと「ただ優等生な正確なだけの作品」になりがち。印象に残る作品と言うのは、「上手い下手」を超えた「もう一度聞きたい」とか、「なんだか凄い」とか、何か気になり引っかかる「プラスアルファーの何かが潜んでいる作品」ですね!

リプロダクションの作業は、プロの現場ではそれぞれの色々な行程を「駆け足・大急ぎ」で進めている感じです。時間的には十分ではなかったですが効率良く効果的に、より作品の音楽的部分、音質的部分などを、ブラッシュアップをする作業ですね。

今回の豊池竜彦さんのグランプリ受賞曲『彼女は歌う』とてもパーソナルで印象的・個性的な作品。その独特な世界観を魅力が詰まった作品をリプロダクション作業で、より印象深く個性的なサウンドに仕上がったかな?豊池竜彦さん、スタッフの皆さん、大変お疲れさまでした!


エンジニア:中澤 智氏

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今年も審査会から参加させて頂き、数多くの優秀作品を聴く事が出来ました。グランプリを取った、「豊池竜彦さんの「彼女は歌う」は、楽曲に説得力が有り、リプロダクションで、更に世界観が広がるべく、何をどうしたら良いか思案しました。

打ち合わせの段階で、DATAを頂き、ProToolsのプロジェクトに変換しました。そしてご本人が録音したDATAを1トラックづつ検証。最初に特に気になっていたのが、サビの飽和しているように聴こえることでした。潰れている感じが何で起きているのか?ひとつひとつのトラックを見てみるとトータルコンプや個々のEQ、バランス等の要因が有りましたが、素材であるドラムの打ち込み、音色が気になりました。打ち込みに関しては、細かい部分で他にも気になる所が有り、結果、昨年のリプロダクションに続き、今年も山中氏に諸々手直し、+αをお願いする事になりました。

また、曲全体でも、アコギのEQが私は気になっていました。ハイ上がり過ぎかと。よりクオリティーの高いものをめざし、アコギを録り直す事になりました。検討した結果、自分自身でRecすることとなり、ご本人にとっては大きなプレッシャーだったのではないでしょうか?エンジニアサイドからもリプロダクションという、スタジオでの限られた時間の中で録音することは、多少の不安が有りました。他にもVoのテイクごとの繋ぎが甘かったりと、ばらしてみないとわからない一面もありました。

何度か山中氏とのやり取りを行い、オリジナルの楽曲がもっている良さを生かす方向で、作業を進めて貰う事になり、グルーブ感、音の積み等、大変ご苦労頂きました。

リプロダクション当日は、オリジナルDATA、山中氏のDATAを鎌田氏が大まかに整理して、スタジオに持ってきて頂きました。まず、スタジオ環境でオリジナルを聴いて頂きました。ご本人感想は、EQの無理矢理感がわかると。特にアコギ。

アコギのレコーディングではご本人、島村楽器さんから数本アコギを持ってきて頂き、弾きやすさ、楽曲にあっているか検討し、1本はベーシック、もう一本はサビのダブリング用と使い分けるため2本選びました。同じギターを使っても広がりの効果はでますが、今回は、あえて違うギターによる広がりを選びました。このあたりは好みになると思います。マイクに関しては、スタジオ所有の物から、鎌田氏の持ち込みマイクを数本立て、実際に曲中で4本のマイクにしぼりました。リプロダクションと言う事も有り実験もかね、アルペジオ用、ストローク用などシーンンごと分け、Mixを考慮し4本Recしました。唄は生かしてのRecでしたが、自分の曲と言う事も有り、楽曲のノリとマッチしたテイクをさくさく録れたと思います。

次に行ったのはシンセの検証。本人はまだ聴かされていないトラックなどもあり、要望を聞き、山中氏とFaceTimeでやり取りし一部フレーズを変更して貰い、ネット経由で送って頂きました。全トラックが揃ったところでMixを開始。今回はPro Tools10、サミングバッファーとしてSSL6000G+を16ch程使用しました。

※サミングバッファーは、一旦DAWの音を、外に数チャンネル出力する方法ですが、専用機も発売されてますし、卓を利用する方法もあります。好みになります。

ここで、豊池竜彦さんにMixの流れを説明していきました。まずはドラム、ベースの土台作り。これがとても重要で、ここをしっかり作らないと上物が乗って来ません。勿論、何回も調整はしますが。とても重要です。

ご本人は、wavesを使っている事もあり、プラグインに対する抵抗感はない様子でした。コンプのアタックタイム、リリースタイムに関して理解があいまいだったので、鎌田氏のMixを参考に解説。音量をそろえる使い方、音色に癖を持たせる使い方など説明しました。例えば私の場合、ドラム等はあまりアタックを早くしません。リリースは早めです。キャラを付けたい時はアタックは早めにします。アコギはアタックが無くならない程度に少し早め。リリースも早めです。ボーカルは、アタックは遅めに、リリースは早め。これは素材や楽曲に左右されるので、皆さんも色々トライしてみてください。

EQですが、鎌田氏はマイナス方向を良く使います。入らないところを大きなQ幅で削り、キャラを持たしたい所をQ幅を狭くして強調。全トラックの絡みがあるので、個々の音をソロにして調整しても中々旨く行きません。ある程度トラックを出しながらの調整が、重要だと思います。

ご本人が一番感動していたのは、アコギの音です。オリジナルは、やはりEQに頼っていたそうです。更にトータルコンプ、特にマキシマイザーにバランスを頼る所があったそうで、ナチュラルな全体感に感動してました。鎌田氏は、アルペジオ用、ストローク用とシーンごと数本のマイクのバランスを、使いわけていました。また、あるシーンでは、マイク2本のパンニングを少し広げ空気感のある定位感を持たせてます。現場では、よくこの方式が利用されます。ミックス終盤で鎌田氏のギミックも足され、新たな「彼女は歌う」は完成しました!

リプロダクション後の「彼女は歌う」は、オリジナルのテイストを残した、すばらしい作品が出来上がったと思います。オリジナルとどちらが良いと言う事ではなく、聞き比べて、隅々まで違いを楽しんでください。

皆様、お疲れ様でした!来年も皆さんの作品に出会えるのを楽しみにしてます!


アレンジャー:山中剛氏

山中剛氏

豊池竜彦さん、録れコン2016グランプリ受賞おめでとうございます。スケジュールの関係で現場に立ち会うことはできませんでしたが、一流のプロ・エンジニアと一緒に大きなスタジオでのギター・ダビングはかなり緊張したでしょうが、マイキングやコンプ、EQの使い方などのテクニックが学べるだけでなく、何よりも録音の面白さ楽しさをあらためて体験できたのではないでしょうか。

僕がこの『録れコン』に初めて関わったのは2006年のことで、それから今回で通算4回目になります。録音によって作品を作る基本的なプロセスは変わりませんが、録れコンで僕が関わった皆さんのDAWの使い方などには10年という歳月の機材の進歩による変化を感じます。個人的には新し物好きなので技術の進歩は大歓迎なのですが、道具のポテンシャルが上がりできることが増えた分だけ使い手は習得しないといけないことも多くなり、使いこなすというよりは「とりあえず触っているうちになんとなく形になってしまう」、そんなところがDAWを取り巻く状況には少なからず増えてきているようにも思います。また昔に比べるとネットや雑誌などで多くの断片的な情報も入手できますが、それらを有機的に結びつけるためにはある程度の知識が必要となるのも事実で、特にビギナーにとっては少し敷居が高くなっているような気もします。

そこで一つ簡単で有効なアドバイスがあります。膨大な情報を漠然と眺めるのは意識的に控えるようにして、その分もっと自分自身の「好き嫌い」を明確に意識してみるのです。今はプラグインやインストゥルメント(音色)にしても容易に膨大な量を手に入れることができます。それらの中から選択するだけでも大変な作業になり、ついつい「これでいいや」という感じで使っていませんか?

似ているようで全然違うのが「これでいい」と「これがいい」です。まずは手持ちのものを丹念に吟味して、もし「これがいい」と思えるものが見つかったらそれをとことん使ってみます。そうすることによりプラグインにせよ音色にしても、それらの得手、不得手などを少しずつ感じられるようになります。そうすれば次に自分が必要とするものもはっきりしてきます。好きなものや嫌いなものをはっきりさせることが実は個性的なサウンド、ひいては個性的な音楽を作る道に繋がっていくように思います。まだ10年ほど前までは「手に入れる」ことが重要だったのですが、手に入れることが容易になった現在ではその中から「必要なものを見つけ出す(=はっきりさせる)」ことが大切になり、さらにそこに個性やエネルギーを宿す作業や時間が必要なのではないでしょうか。もしよければ明日からでもぜひ実行してみてください!!


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