伝説的キーボード&シンセを復活させた究極のソフト音源バンドル” Arturia V COLLECTION X (10)” で「あのサウンド」を再現してみよう 〜 Moog(モーグ)編

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伝説的キーボード&シンセを復活させた究極のソフト音源バンドル” Arturia V COLLECTION X (10)” で「あのサウンド」を再現してみよう 〜 Moog(モーグ)編

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この記事ではフランスのArturia( アートリア )社の至高のソフトシンセ(ソフト音源)バンドル「V COLLECTION X」に収録された各ソフト音源(バーチャルインストゥルメント)と、それぞれのオリジナルとなるビンテージシンセ&キーボードの実機や、音作りについてご紹介していきます。※X=10

Arturia( アートリア )ってどんなメーカー?

「Arturia( アートリア )」社は、1999年にフランス/グルノーブルで設立されました。今では「MicroFreak」「Bruteシリーズ」などのハードウエアシンセや、MIDIコントローラー「KeyStep」シリーズ、ドラムマシン「DrumBrute」、オーディオ・インターフェース「Audio Fuse」等で日本でもおなじみのメーカーですが、当初はソフト音源やバーチャル・インストゥルメント・ワークステーション「Storm」といったソフトウエアを中心に開発・販売を行っていました。2003年に、シンセサイザーの父とも呼ばれるロバート・モーグ博士と共同で開発したソフト音源「Modular V」は、True Analog Emulation(TAE)技術を採用し、モジュラーシンセをソフトウエアで忠実に再現するという画期的な製品でした。

Storm

Modular V

以降、ARP 2600、YAMAHA CS-80、Minimoog、Roland Jupiter-8、といった数々のビンテージシンセサイザーをエミュレートしたソフト音源を続々とリリースしていきました。そして2009年にはハードウエアのシンセサイザー「Origin」をリリース。その後大ヒットとなった「MiniBrute」や、「MicroBrute」等の低価格でありながら本格的な(ハード)アナログシンセサイザーを次々と発表し、現在に至っています。

Minimoogを再現した「Mini V

V COLLECTION」は同社のルーツとも言えるソフト音源の集大成とも言えるバンドル製品で、最新バージョンの「V Collection X」では伝説のシンセ&キーボード39種類に加え、3つの専用拡張パック、数千種類ものプリセットが収録された製品となっています。

収録インストゥルメントとオリジナル機

(New)は V Collection X で追加されたインストゥルメント

カテゴリ製品名オリジナルモデル名備考
Arturia
Augmented WOODWINDS  (New)Arturiaオリジナル 
Augmented GRAND PIANO  (New)Arturiaオリジナル 
Augmented BRASS  (New)Arturiaオリジナル 
Augmented STRINGSArturiaオリジナル 
Augmented VOICESArturiaオリジナル 
Analog Lab VArturiaオリジナルサウンドコレクション
MiniFreak V  (New)Arturiaオリジナルハイブリッドシンセ
【アナログモノシンセ系】
Modular VMoog Modular 
Korg MS-20 VKorg MS-20 
Synthi VEMS Synthi AKS 
Buchla Easel VBuchla Music Easel 
Mini VMoog Minimoog 
ARP 2600 VARP 2600 
Acid V  (New)Roland TB-303 
【アナログポリシンセ系】
Jup-8 VRoland Jupiter 8 
CS-80 VYAMAHA CS-80 
Prophet-5 VSequential Circuits Prophet-5 
Jun-6 VRoland JUNO-6 
OP-Xa VOberheim OB-Xa 
Matrix-12 VOberheim Matrix-12 
SEM VOberheim SEM 
Solina VN.V.Eminent Solina String Ensemble 
【デジタルポリシンセ系】
SQ80 VEnsoniq SQ80実機はハイブリッド
CZ VCasio CZ-1 / CZ-101 
DX7 VYAMAHA DX7 
Prophet-VS VSequential Circuits Prophet-VS実機はDOC搭載
【サンプラー系】
CMI VFairlight CMI 
Synclavier VNew England Digital Synclavier 
Emulator II VE-mu Emulator II 
【オルガン】
B-3 VHammond B3物理モデル
Farfisa VFarfisa Organ物理モデル
VOX Continental VVOX 300 
【ピアノ&キーボード系】
Piano V12種類のピアノ物理モデル
Clavinet VHohner Clavinet物理モデル
CP-70 V  (New)YAMAHA CP-70 
Stage-73 VFender Rhodes Stage 73物理モデル
Wurli VWurlitzer 200, 200 Bass, 200a, 200a Bass物理モデル
【その他】
Vocoder VMoog 16 Channel Vocoder 
Mellotron VMellotron MKI / MKII / M300 / M400 

【関連記事】物理モデルとは?

「Augmented」シリーズと、MiniFreak V はArturiaのオリジナル版になりますが、ARP、Sequential、Buchlaといった、シンセ好きならどこかで一度は聞いたことがあるネーミングばかりですね?

歴史を作ってきたこれらの銘機たちは、現在は入手困難だったり、中古品が高額で取引されているものも多いと思います。しかしソフトウエアであればメンテナンスも不必要ですし「あの名曲のあの音」をPC上で再現できるのですから、ファンにとってはまるで夢のような製品とも言えるのではないでしょうか? (もちろんハードにはハードなりの良さはあるのは言うまでもありませんが・・)

さらにV Collection Xには高品質で革新的な9000以上の膨大なプリセットが収録されていますので、単に昔のサウンドを鳴らして懐かしむだけではなく、最先端の音楽シーンでも大活躍することは間違いありません。

というわけでこの記事ではこのV Collection Xに収録されているインストゥルメントについてご紹介していきたいと思います。今回取り上げるのは、シンセの草分け的な存在である「Moog(モーグ)」です。

Moog(モーグ)

Moogは、ロバート モーグ博士によって1953年、ニューヨーク州のトルーマンズバーグに設立されました。当初は「R.A.モーグ」社という名称でしたが、1972年に「Moog Music」に改名されています。初期のモジュラー型のシンセサイザー「Moog Modular」シリーズは、その巨大な風貌と高額ゆえ販売芳しくなかったようですが、バッハの曲をモーグモジュラーで演奏したWendy Carlosの「Switched-On Bach」の大ヒットにより経営も立ち直り、その後ライブでも使えるMini Moogなどのヒット商品を生みだしていきます。

しかし1972年以降はARPなどのライバル会社の台頭や、経営陣の交代などもあり、結果的に1987年には破産しています。1994年にMoog Musicの商標が消滅してしまいますが、数々の出来事を経て2002年にはモーグ博士のもとに変換され現在のMoog Music社が復活。その後「アナログ回帰」ブームが起きMoog Musicは数々の新製品を発売しましたが、2005年にモーグ博士が逝去されるとMoog Music社は従業員所有権企業となりますが、2022年にinMusicに買収され現在に至っています。

MoogMusic

V Collection Xに収録されているのは「Moog Modular System」と「Mini moog」をそれぞれエミュレートした「Modular V」と「Mini V」の2つとなります。

Modular V

まずはモジュラーシンセとは?とりあえずこちらをご覧ください。

上記は創業50年を記念して2014年に公開された動画ですが、登場人物の後ろにそびえ立つ、ツマミとケーブルだらけの物体がモーグ・モジュラー・シンセサイザーです。サムネールはモーグ博士(左)とキース・エマーソン(右:後述)。モジュラーシンセは、音を作るうえで必要な発振器やフィルター、その他数々の部品がモジュール化され独立してラックマウントされています。それらの各モジュラーをケーブルでパッチングして音声信号やコントロール信号の流れを作り音を作成していくわけですね。ArturiaのModular Vの画面で見てみましょう。

初期状態のパッチングしていない状態では音は出ません。

モジュラーの配置と役割

音を出すためには各モジュラーをケーブルでパッチングして行く必要があります。

このようにモジュラーシンセは、信号の流れを理解していないとそもそも音が出なかったり、操作が複雑という側面もありますが、逆に「非常に自由度の高い音作りが可能」であるということだと思います。

当時の実機には基本、メモリー機能はありませんでしたので、パッチングをメモったり写真を取って保存していた人もいたようです。しかし後日、同じパッチングとツマミ位置を再現したとしても、各ツマミの誤差の総和や、湿気等で抵抗値も変わるので、完全に同じ音の再現は不可能だったと言えるでしょう。そこがアナログ、まさに「一期一会」。

キース・エマーソンとMoogモジュラー

このモーグモジュラーをロックの世界でライブでも本格的に使い始めたのはエマーソン・レイク・アンド・パーマー(EL&P)のキース・エマーソン。1970年のデビューアルバムでも数曲で使用されていましたが、シンセをアグレッシブに使い始めたのが、何と言っても有名な「TARKUS(タルカス)(1971年)」ではないでしょうか。架空の怪物タルカスを巡る組曲の冒頭で聞くことのできる、咆哮のようなシンセフレーズは特に有名です。

TARKUS(タルカス): 1:11〜で聞こえるシンセがモーグモジュラーのサウンド

なおこのTARKUSでは、執拗に4度堆積(フォース・インターバル・ビルド)が使われており、当時のロックでは非常に斬新だったと思います。ベースとオルガンのオスティナート(音楽的なパターンを続けて何度も繰り返す事)や、メロディーも完全4度を中心に演奏されています。当時小学生で「ドミソはCメジャーコード」程度の知識しかなかった私には全く理解不能でした(完全4度堆積:例1)。

冒頭の左手4度フレーズ。キースは頭のF音と最後のGb音は小指で弾いているようです。後述するハモンドオルガンのパーカッションを確実に鳴らするためだったのでしょうか?

Modular Vでタルカスのシンセリードに挑戦してみました。3VCOでポルタメントに加えENV1でピッチEGをかけています。音声信号が左下のVCOから左上のFILTERのINへ、FILTERのOUTから右下のVCA INに流れているのがわかると思います。

最終的にMOTUのDAW、DP11上でスプリングリバーブをかけてみました。

それっぽくなったでしょうか・・?

このようにモジュラーシンセでは、各モジュールの役割を理解しないと思った通りの音色を作ることが困難だったわけですが(たまたま偶然ですごい音色ができる場合もあるかもしれませんが)これをライブで使い倒していたというのは本当にすごいことです。

1973年のライブ。ハモンドC-3の上にMoog Modular System(カスタマイズされていると思われます)

基本モジュラーシンセは音色メモリー機能はありませんが、ソフトウエア版のModular Vには膨大なプリセットが収録されています。プリセットを選んで、フィルターつまみを動かすなどして好みの音色にエディットするなどして楽しむことができます。プリセットの中には「Tech police」「Knives」「Tomita Ring」といったあの音色も収録されています。

Arturia Mini V

MiniMoogを再現したArturia Mini V

モジュラーシンセは高額で大型ゆえ、当時ライブで使用していたのはEL&PやYMO、タンジェリン・ドリーム、エンジェルなどの一部のミュージシャンでした。しかし1970年に発売された「MiniMoog」は、3VCO+VCF+VCAといったモジュールが内部結線され、パッチングの必要もなく手軽に使えるポータブルタイプのシンセ(モノフォニック)で、瞬く間にジャンルを超えた多くのミュージシャンに愛用されました。EL&Pはもちろん、YESのリック・ウエイクマン、クラフトワーク、チック・コリア、等々、世界中で1万2千台以上販売されたといわれています(正確な数字は不明)。なお当時の日本では日本楽器製造株式会社(後のヤマハ)が輸入販売していました。価格は当時四十数万ほど。

MiniMoogは、ライブで使用することを考慮して設計されたため、鍵盤左側にはピッチベンドとモジュレーション・ホイールが装備されています。ジェフベックとの共演でも有名なヤン・ハマーのギターライクなベンドプレイには皆驚愕したのが懐かしいです。

Rick WakemanとMiniMoog

LFOでビブラートをかけたい場合は3番目のVCOをLFOで使用することになるため、2VCOで音作りをすることになりますが、Minimoogのオシレーターは2つでも十分にファットなサウンドを生み出します。
Chick Corea、return to foreverでのプレイ〜ギターライクではなく、管楽器に近いニュアンスのベンドとモジュレーションが特徴

一方、このMinimoogをエミュレートしたArturia Mini Vは、ルックスはご覧の通り実機をほぼ忠実に再現しており、パネルの左側にあるVCOから右側にミキサー部、そしてフィルター部というように音の流れが視覚的にもわかりやすい配置になっているのがわかると思います。しかし機能面では実機とは異なり、専用LFOや、モジュレーション、アルペジエーター、エフェクトなどを装備しています(それに和音も出ます)。これでサウンドメイクの幅がぐんと広がりますね。

前述のEL&Pのキース・エマーソンは、モジュラーシンセの3つのオシレーター(発振器)を「ド・シb・ファ」の音程で重ねたサウンド(譜例2:ドを弾くだけで同時にシbとファも鳴る)で演奏することもありましたが(「Aqua Tarkus(ライブ盤)」など)、ここではMini Vを使って再現してみました。

Mini Vの3つのオシレーターをそれぞれ「ド」「シb」「ファ」に鳴るように設定しています。

下記は、同じフレーズを3回繰り返しているだけですが「①1VCO、②2VCO(+5度下)、③3VCO(+2度下)」となっています。※少々チューニングは甘く設定しています。4度フレーズを弾くと効果的かもしれません。

そういえばリック・ウェイクマンはオシレーターを「ド」「ミ」「ソ」のメジャートライアドに設定して弾いていた曲もあったよなあ?と思ったら「Close Edge Lead 1 3 5」という音色がプリセットにしっかりありました(笑)

他にもオシレーターを使わずフィルターの自己発振で作られた「Tomita Synth Whistle」やVCS3風の「Any Synth You Like」など「あの音」が盛りだくさん。

オルガン

少々話はそれますが、キース・エマーソンが演奏する楽器といえばこれらシンセの他に何と言ってもハモンドオルガン。キースが使っていたのはL-100とC-3(ジョン・ロードや、リック・ウェイクマンなども愛用)というモデルですが、なんと「V Collection X」にはC-3と中身は同じ「B-3」というモデルをエミュレーションした「B-3 V」が収録されています。

B-3 V

C-3はキャビネットだけを教会向けにデザインしたモデルなので、ちゃんとキースの「あの音」も出すことができます。プリセットの中には「ELP Tarkuss」というオーバードライブのかかった音色がちゃんと用意されています。

他にも「Yes is No Disgrace」「Whiter Shade」といったブリティッシュロックファンにはおなじみの音色や、ジャズオルガンに最適な「Mr.Jimmy Smith」といったプリセットも用意されています。もちろんキャビネットや各種エフェクター、ルームのアンビエントなど様々なカスタマイズも可能です。

V Collection Xには他にも「VOX Continental V」「Farfisa V」といったオルガンが収録されています。B-3 Vだけでなく各種インストゥルメントはArturiaのサイトからデモ版がダウンロードできるので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
※デモ版ダウンロード⇒https://www.arturia.com/products/software-instruments/b-3-v/overview

【参考サイト】C-3とB-3、どこが違うの?(鈴木楽器製作所さんのページ)

というわけでいかがでしたでしょうか?憧れの銘機をソフトウエアで再現して現代に蘇らせたArturiaの「V Collection X」ですが、39インストゥルメントが収録されて¥63,250(1インストゥルメントあたり税込¥1,622程度)という大変オトクな製品と言えるでしょう。この他にも古今東西の歴史を作った銘機の数々が収録されています。今後も機会があれば色々と紹介していきたいと思います。

それではまた!

V Collection X の特長

-V Collection X インストゥルメント用の新しい3つの専用拡張パック
-9,000 以上の高品質で革新的なプリセット。
-Analog Lab Pro: V Collection のすべてのプリセットは、単一のインターフェイスから参照および編集できます。
-すべてのインストゥルメントは、参照、編集(保存、インポート、エクスポートなど)のための共通のインターフェイスを共有します。
-すべての楽器を簡単に理解できる新しいアプリ内チュートリアル。
-高解像度グラフィックインターフェイス、大型ディスプレイとの互換性。
-あらゆるキーボードコントローラーへの簡単なMIDIマッピング。
-Arturia Software Center による簡単なインストールとアップデート

動作環境

-Windows
–Win10+ (64ビット)
–4GB RAM
–4コア CPU、3.4 GHz (4.0 GHz ターボブースト)
–32GBのハードディスク空き容量
–OpenGL 2.0互換GPU
–ARM プロセッサは Windows ではサポートされていません
–スタンドアロン、VST、AAX、Audio Unit、NKS* (64 ビット DAW のみ) で動作します。

-Mac
–Mac OS 11.0以降
–4GB RAM
–4コア CPU、3.4 GHz (4.0 GHz ターボブースト) または Apple Silicon CPU
–32GBのハードディスク空き容量
–OpenGL 2.0互換GPU

発売日

2023年12月21日(木)

販売価格

V Collection X 【ダウンロード版】
¥63,250(税込)
JANコード:4959112238497

時期によってはセール特価対象の在庫もあるのでぜひチェックしてみてください!


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この記事を書いた人

デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)

学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。

その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。

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