ワールドスタンダードマイク NEUMANN U 87 Ai その理由とは?
以前「低価格ながらもU 87 Aiに迫る高性能マイク TLM 102とTLM 103 のどちらを買えば良いのか比較してみた」という記事で紹介したNEUMANN ( ノイマン )の U 87 Ai。U 87 Aiといえば誰でも一度は見たことがあると言っても過言ではないワールド・スタンダードですね。
1967年に真空管マイクのU 67に置き換えられるようにU 87 iがデビューし、1986年にU 87 Aiに進化。現代でもそのまま販売され続けている伝説的なマイクです。ここで改めて、3つの側面からU 87 Aiを紹介してみたいと思います。
憧れのマイクNEUMANN U 87 Ai
スペックに見るU 87 Ai
マイクを含む音響機器のスペックは、様々な情報を与えてくれます。U 87 Aiをスペックという側面から見てみると、最も特徴的なのは感度の高さになるでしょう。
説明書に記載されているSensitivityという項目が「感度」
マイクの感度というスペックはマイクから出てくる音の大きさ、電気信号の大きさを表す数値で、U 87 Aiは「28mV/Pa ± 1 dB」と表記されています。後半の「± 1 dB」は誤差範囲を示していますので、前半の「28mV/Pa 」がスペックです。これは1Pa(パスカル=気圧)の音をマイクに入力した時に28mVの電圧が出力されるという意味です。
マイクの感度はU 87 Aiで使われているmV/Paの他に、dBVという単位で書かれている場合もあります。NEUMANN以外のブランドではdBV表記が多くなっているようです。dBVの場合は1Vという電圧を基準(=0dB)とした時に、出力がどのくらいの電圧になっているかという意味です。相互に変換することができ、0dBV=1V/Paということになります。
詳細な計算は割愛しますが、U 87 Aiの28mV/Paは約-31dBということになります。基準値から31dB低い値ということになります。
この感度:-31dBという値は他社のマイクを含めても群を抜いて高い値で、U 87 Aiはとても音が大きい(出力が大きい)マイクであるというということになります。大きければ良いというものではないのですが、著しく感度が低いマイクは使いにくいことも事実です。U 87 Aiがこれだけプロに愛されているところを見ると、感度が高いことは悪いことではないと考えられますね。
参考までに先代のU 87 iの感度は8mV/Pa(約-42dBV)でした。エンジニアさんで先代のU 87 iを好んで使う方がいますが、その理由は感度に起因していることが多いようです。
高出力・低ノイズのU 87 Aiカプセル部
その他では等価ノイズというマイク本体にどのくらいノイズがあるかを示す数値が非常に低く、12dB-Aとなっています。この数値は低い方がノイズが少ないので、10dB-Aより1dB-Aのほうがノイズが少ないということになります。20dB-Aを下回っていれば十分高性能で、12dB-Aは近年の高額マイクと遜色ない数値です。なお、開示されていない場合はノイズが多いと考えて良いでしょう。
このように1986年のマイクですが、現在でも通用するどころか、最上位のスペックを持っていることがわかります。
機能・構造に見るU 87 Ai
続いては機能と構造面です。機能という意味では3段階の指向性切り替えと-10dB PAD、ローカットフィルターを備えています。機能面はベースは1967年のU 87 iからほぼ変わっていません。
前面のスイッチで指向性を切り替える
近年のマイクと比較して注意が必要なのは、大音量時に音量を下げる機能である「-10dB PAD」を使用した場合でも耐音圧は127dB SPLと、近年のマイクと比較するとやや低めの数値で、超大音量音源では歪む可能性があります。ドラムなどを至近距離で録音する場合は注意が必要でしょう。
指向性は三段階切り替えで、近年のマイクに多いスーパーカーディオイドは搭載されていませんから、余計な音が入らないよう、マイキングには十分な注意が必要です。また、ローカットフィルターについても1段階のみでかなり低域がカットされますから、特性をよく理解して使用する必要があります。
指向性ごとの周波数特性
別の部分では、近年は録音環境の変化にあわせて「トランスレス」という構造のマイクが増えてきましたが、U 87 Aiはトランスレスではなく、トランスありのマイクです。
トランスありのマイクはケーブル引き伸ばし距離や耐ノイズ性能においてトランスレスマイクより優れています。一方で低域の質感や歪みという観点ではトランスレスが優れています。近年は機器が高性能化して機器ノイズが減少、自宅録音等が増えケーブル引き回し距離が減ったことで、トランスレスの音質が注目されるようになりました。
とはいうものの、音のことを十分に理解したプロフェッショナルにあっては、機能や仕様を理解した上で使えば実用上なんら問題ないことも事実です。U 87 Aiはプロ向きのマイクということになりますね。
ワークフローに見るU 87 Ai
スペック的側面ではなく、ワークフロー、使われ方という側面からもU 87 Aiを紹介しておきましょう。
現在ではボーカル録音では様々なマイクが使われますが、ナレーションや声優さんの録音では今でもU 87 Aiが圧倒的なスタンダードになっています。特に1日で終わらない場合や、複数のスタジオをまたいで録音が行われる場合は間違いなくU 87 Aiがブースに立てられています。
これは、異なる環境、異なる日時に録音した場合でも音質差を極力小さくするためなのです。U 87 Aiはどのスタジオにもあるので、U 87 Aiで録音すれば異なるスタジオでも、異なる日程でも音質差を最小限に留めることができるのです。
音楽のレコーディングにおいても、どのスタジオにもあることから、誰でも音を知っているという理由で基準として扱われるマイクになっています。使うマイクを決める場合にU 87 Aiの音を基準として、どのマイクにするか、どのような録音をするのかを決めていくわけです。これは過去にスタジオのスタンダードモニタースピーカーであったYAMAHA NS-10M STUDIOが使われ続けた理由とも似ています。
U 87 Aiは基準ではありますが、音が悪いことはありません。むしろ音は良いので、そのまま最後までU 87 Aiで録音してしまうことも多いです。時間がなければなおさらでしょう。
このように、U 87 Aiを使っておけば「問題ない」という信頼感がスタンダードである理由でしょう。「U 87 Aiなら大丈夫」という安心感は、1967年以来長い年月によって培われたもの。そう簡単には覆らない不動の理由と言えそうです。
指定がなければブースにはU 87 Aiが立っている場合が多いようです
U 87 Aiについて3つの面から紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。いまでもプロフェッショナルに愛される理由がわかる一方で、プロフェッショナル向けであることもまた理解できたのではないかと思います。レコーディングや音響機器に関する知識に詳しくなってきたら、ワールドスタンダードNEUMANN U 87 Aiの購入を検討してみてはいかがでしょうか。
販売価格
U 87 Ai
¥539,000(税込)
JANコード:4006087070222
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