リペアマン遠藤の仙台リペアブログ~その9~ナット交換の巻!(フレット交換PART3)
皆さまこんにちは!
ギターリペアマンの遠藤です!
8月に入りすっかり夏ですね~
つい先日、運転免許の更新に行ったのですがその日がちょうど仙台の歴代最高気温を記録した日のようで免許センターに辿り着くまでにへばってしまいました…
長野に行く10年前まではギター製作の専門学生だったので今と同じ仙台に住んでいましたがあまり暑くなかった記憶があります。気候が変わってしまったのでしょうかね?
ここまで極端な気候はもちろんギターやベースに良くないのでいつもと何か様子がおかしいな?と感じたらお店へ持ってきてください!
では本題に入ります。
前回のブログで最後の方に変なクイズを出していたようですが…
答えはコレです!
白い物体…
そう、何を隠そうナットです。
これが無いと弦を張ることができませんね。
というわけで今回はナット交換の作業をメインにやっていきましょう~!
そもそもの疑問としてなぜフレット交換で一緒にナット交換が必要になるのでしょうか?
フレット交換をすると基本的に交換前より高さが高くなります(摩耗して高さが減ったフレットから新品になるため)
この状態でナット溝がそのままの状態ですと解放弦を弾いた時に振幅でフレットにぶつかってビビりが発生します。
なのでフレット交換をした際はナットも一緒に交換してそのフレットに合った新しい溝を切ることが必要となってきます。古いナットの溝を埋めて新しく溝を切るということもできますが音質面と耐久性的に良くないので基本的には勧めません…
これがフレット交換をする時にナット交換もセットになる理由だったのですね~
もう一つナット交換する例(というかこのパターンが圧倒的に多いです)としては長い間弾いててナット溝が弦によって次第に摩耗して低くなり解放弦を弾くと同じくフレットにぶつかってビビってしまうというパターンです。
ナットは基本的に削れる素材で作られているのである意味宿命ですがこちらも交換となります。ナットそのものが割れることもありますのでこの場合はもれなく交換です。
解放弦のビビりでもネックが逆反りを起こしてビビっている場合も多いのでまずはロッド調整で直るものなのかどうかを確認したほうが良いです。
ロッド調整してネックがストレートの状態でもビビるのであればそれは交換コースとなります。
最後にもう一つ、ナット交換をする例としてはナットの素材を変えることで積極的に音質改善を図る場合です。プラスチックと牛骨ではもちろん音の抜け感は変わってきますしブラスにすれば高域が出てきてサスティーンが伸びます。
ナットを変えると解放弦だけでなくフレットを押弦してる音も若干変わってくるのでなかなか奥が深いです…
なんだか長々と語ってしまいましたが早速作業に入りましょう。
フレット交換の冒頭でナットはすでに外していましたね。
上が元付いていたナット、下が新しく付けるナットです。
素材はどちらもオイル漬け牛骨です。
ノーマルの牛骨とオイル漬け牛骨では細かく分析していくと音質的に違いがあります。また、オイル漬けの方が弦とナットの摩擦抵抗が少なくチューニングが安定しナットの摩耗を抑えることもできます…マニアック!
まず最初にする作業としてはナット溝のクリーニングからです。
こんな道具を使います。
マイクロチゼルという刃物です。
分かりやすく言うとノミのめっちゃ小さいやつです(厳密には違いますが…)
使い方としてはナット溝の底面や側面に残っている接着剤のカスなんかをノミのように削り取って平面を出していきます。
こんな感じですね。
これをしないとナット溝(接着面)はボコボコな状態ですのでこのままナットを接着しようとしてもうまくくっつきません。非常に大事な作業です。
ナット溝がキレイな状態になりましたらナット自体の整形に入りましょう。
まずはナット溝にナットをはめ込みたいので厚さをペーパーで削っていきます。
平面が出ている台にペーパーを固定して作業します。このナットはちょっと削っただけでOKでした。
ぴったしハマっています。
次はナットの横幅が思いっきりはみ出していますので糸のこ盤を使って切断します。
若干余裕を持たせて罫書いてから切断します。
そしてペーパーで削りながら追い込みます。
良いですね。
そういえばこの指板、ナット溝の底面には指板Rと同じRがついてます。ということは…
元のナットの底面にはRがついています。新しいナットにはまだありません。ここの加工もしていきましょう。
指板修正の時に活躍したRゲージがここでも登場しています。
がっつりと削っていきたい時は卓上ベルトサンダーが活躍します。
#100程度の粗いサンドペーパーが帯状になっていてこれが高速回転するという機械です(写真では止めてますが)
丸い部分では写真のようにR加工ができますし平らな部分では厚さ・平面出しも出来ますし非常に優秀な機械です。
…余談ですが以前まで働いていたギター工場の木工の現場ではありとあらゆる様々なサンダーが使われていました。
ベルトサンダーにしても名前は同じですが工場にあるものは写真のものとは全く別モノでペーパーの長さが数mもある巨大なサンダーでギターやベースのボディの木工生地研磨をサクサクこなしていたものでした。3点式ベルトサンダーで検索すると出てくると思います。
写真のタイプに一番近いサンダーだとこのまま横に倒したようなユニバーサルサンダーというものがあります。こちらも興味があれば検索してみて下さい(笑)
完全に横道にそれましたが本題に戻しましょう。
パットの丸いR部分で微調整をしている図ですね。このパット、専門学生の時から使ってますが未だに現役です。色んな作業に使えます。
底面もきっちりハマってくれたので接着をしたいところですがその前に余分な部分を落としてしまいましょう。元のナットを参考に罫書いてベルトサンダーで削ります。
おおよそナットの整形が済んだら鉄工用アロンで接着します。
つける量としてはナット溝の底面にちょんちょんちょんくらいで大丈夫です。
あまりたっぷりつけると次回ナット交換する時に全く外れなくて非常に苦労することになります…
接着したら元のナット溝を参考に罫書きます。ピッチを変えたい場合は計算して罫書く場合もありますね。
罫書きの線のド真ん中を狙うように目立てヤスリで溝を切っていきます。慎重に…
正確に切込みが入りました。ホッと一息
ここで仮に弦を張ってみてこの状態で進めて大丈夫か判断します。
ちょっとズレてるなと感じたらこの時点で修正していきます。
この場合はバッチリでしたのでこのまま作業を進めていきましょう。
目立てヤスリの他に各種ナットヤスリを使ってそれぞれの弦に合った溝を切っていきます。
ここからは熟練の技が要求される作業になります…
実はナット溝切りも最初に働いていたギター工場で組み立てにいた頃メインでやっていたりするので割と得意です(笑)
このような感じですね。
ある程度溝を切って弦を張れるようになったら一旦ここでチューニングをして、ロッド調整、弦高調整等のセットアップをしてしまいます。
セットアップを出してからじゃないとナット溝を完全に追い込めないのです。
これは工場の現場でも同じ手順で最後にナット弦高を出していました。
ナット弦高が出せたら最終的なナット整形に入っていきます。
弦が半分くらい出るくらいまで高さを落としなおかつ両端を丸め込んでいきます。
ここで自作のパットが登場します。
ナット周りをマスキングでガードしてまずは#150で粗く削っていきます。
サイドも加工した木片にペーパーを付けて削っていきます。
マスキングの上にガムテープ貼ってガードすると破れなくて済みます(最初から貼っておけという話…)
この後はフレットすり合わせと同じように順次ペーパーの番手を上げていき最後はバフで磨き上げます。
ピカピカですね。
基本はこのようなツヤ有り仕上げですが要望によってはバフ掛けせずにペーパーだけで終わるシックなツヤ消し仕上げもできますのでお気軽に相談下さい。
マスキングを剥がしてナット仕上げ終了です。
弦を張って改めてセットアップの確認。
バッチリです。
これにてようやくフレット交換全工程、完了しました。
お客様にも喜んで頂けました。嬉しい!
このような感じで全3部作に分けてシリーズでお送りしましたがようやく完結しました。
次回からも様々なリペアを分かりやすくマニアックにご紹介していきますのでお楽しみに!
以上、リペアマン遠藤でした!
またお会いしましょう~
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宮城県出身。長野県でギター製造に携わった後2017年から島村楽器仙台イービーンズ店の店頭リペアマンとなり、現在の仙台ロフト店に至ります。仙台のリペアは遠藤にお任せ下さい!