「知っておくと便利な用語」とは、普段なにげに使ったり聞いたりしているけれども、実はよくわかっていない用語達のことです・・逆に、ちゃん理解していれば音楽制作でも非常に役立つ便利な用語でもあるのですね・・・
さて今回は「音の強さ、大きさ、音圧、そしてdB(デシベル)」について。
はじめに
デシベル「dB」というのは音だけでなく、振動、電力、電流、電波など色々な分野で使われる単位ですが、ここで大事なことは、デシベルというのは、「g(グラム)やm(メートル)といった物理量を表す数字ではない」ということです。じゃあ何かというと、「ある基準に対して対数演算した相対値」であるということです。。。ここで???となる方もいらっしゃると思いますが、この時点では大丈夫です!。この記事では主として音楽制作などでもおなじみの音圧のレベルを表す「dB SPL」(ディービー・エスピーエル)についてご紹介いたします。
なおミキシング等でよく「音圧を上げる」という表現が使われますが、これはマスタリングやトラックダウン時の「曲全体の平均的な音の大きさ、派手さ」といったニュアンスで使用されているケースが多いようです。これはこれからご紹介する「音圧」とは若干意味が異なりますのでご注意ください。
【関連記事】
【今さら聞けない用語シリーズ】ダイナミクス系エフェクター:コンプ、リミッター
「音の強さ」と「音圧」の関係
それではまず基本をおさらいしましょう。ところどころ出てくる専門用語はなんとなく受け流して頂いて結構です~
さて、音は主に「空気の圧力」が変化する現象ですので、その強さを通常は「音圧」で表します。単位は「パスカル(Pa)」です。「パスカル」は天気予報でおなじみ「台風の中心気圧は905ヘクトパスカル (hPa) 」というアレですね(※)・・・ただそれがいったいなんぼのものなのか不明ですが・・・・
※ヘクト=100という意味
さて、「音圧」を表す「パスカル」ですが、人が何とか聞こえる最小の音圧を「20マイクロパスカル(μPa)」と定め、音圧を比較する場合はこれを基準としてどれくらい大きいかをdB(デシベル)という単位で表現します(実際は1KHzのサイン波で計測したもの)ちなみに20μPaは1気圧の100億分の2・・・どんだけ小さいねん!
1kHz(1,000kHz)のサイン波(正弦波)ピーという音です
マイクロ(μ)というのは「百万分の1」という意味で、もし長さで「1μメートル」だったら0.000001メートル・・すなわち0.001ミリメートル・・細かいことはさておき・・・とにかく「小さい数」であることがわかっていただければ良いと思います。
「音の強さ」は音圧のレベルが上がるに従い一定の割合で音が強く感じられるというのは理解できると思います。問題は音の強さの表し方なんですね。
音圧をそのまま音の強さに当てはめると大変なことに・・
さてさて音圧パスカルくんに話は戻りますが、人が感じることのできる音圧は「20μPa〜20Pa」と言われています。20Paと言われてもピンときませんが「要塞のごとく積み上げたマーシャル・アンプに囲まれボリューム全開でギターかき鳴らした音」とか「ジェット機エンジンの付近」といった耐え難い音です・・・ただそれでも1気圧と比較すると5万分の1くらいの「ごくわずかな(!)」空気振動にすぎないわけですが・・・・
さて最小と最大の音圧の比はどれくらいかというと
1:1,000,000
最大音圧は最小音圧のなんと「100万倍」・・人間はこれほどの音圧差を感じることができるのですね。ところで「音圧のレベルが上がるに従い一定の割合で音が強く感じられる」と書きましたが、
ちなみに「音の強さは音圧の2乗に比例する」という性質(音圧10倍で音の強さは100倍)があるので、音圧最小と最大の差を「音の強さ」で表現した場合は
「1:1兆」というとんでもない比になるわけですね
しかし、いざ音の強さを表現する際に「Aは389,923、Bは765,290・・・」とか言われてもそりゃー困るしものすごく不便、「1兆円でうまい棒いくつ買えるかな〜」みたいな話で現実的ではありません。
島村楽器うまい棒↑
このように「何々は何々の何倍である」といった表現では現実的でない場合、比の対数というもので表す「レベル表現」というものがあるのですね。
そしてその代表が「デシベル」という単位。音圧を比較する際に使われているのはその一種である「dB SPL」(ディービー・エスピーエル)というものです。SPLは音圧レベル(Sound Pressure Level)」の略語です。
もくじ
dB SPL 音の強さを「音圧レベル」で表す
さて色々数字が出てきて大変ですが、もう少し頑張れば「スミマセ〜ン、返しあと3デシ上げてくださ〜い」という禁句の意味がわかるようになるかも・・がんばろー・・
「dB」のdは小文字、Bは大文字です。音圧レベルを扱うのは正しくは「dB SPL」(ディービー・エスピーエル)いう単位ですが、SPLが省略される場合もあります(これが勘違いの元でもありますが)
「dB」は電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルにちなんだ「B(ベル)」という単位(電話線で送受信する電力を扱う際に使われたのが始まり)に、「十分の一」という意味の「d(デシ)」をくっつけた表記方法です。皆さんも「なんで” デシ “なんて使うの?」と思ったに違いない「デシリットル(dl)」のデシと同じでし・・(1dl=100mlです)
まずこのdBは、「対数(たいすう)」といって「ある数=ある数の何乗である」という表現方法で使用される単位です。さて「対数」といわれても全くピンときませんが、たとえば
ですが、この「10を2乗すると100になります」を逆に「10を何乗すれば100になりますか?・・・そう、2ですね!」と言い換えたのが
・・・と、いきなり驚かせてスミマセン。
さてこの自乗する数字(底数といいます)が「log10」のケースは「常用対数」といいます。10進法と相性よくてよく使うから「常用」です(10を省いて単に「log」と表記される場合もあります)。
すると以下の表現ができるようになります。
- log1010 ⇒ 常用対数で表すと「1」・・101だから
- log10100 ⇒ 常用対数で表すと「2」・・102だから
- log101000⇒ 常用対数で表すと「3」・・103だから
すでに「???」という方も
ということがお分かりいただければけっこうです。
「dB SPL」
そして基準値p0(20μPa)に対するp(μPa)の比を表すのが B(ベル)という単位ですが、これだと使用頻度が高い10倍未満の数字が小数点表示になり使いづらいので、これを10分の一にしたdB(デシベル)を使います。基準音圧p0(20μPa)と対象となる音圧p(※)のレベル表現は
20×log(P/P0) [dB]
と表すことにして、これを「音圧レベル」と呼びます。するとAとBの強さの比は下記のように表現できるわけです。
AとBを比べて
- PがP0の1倍だったら:20×log101 =20×0=0デシベル (10の0乗は1)
- PがP0の10倍だったら:20×log1010=20×1=20デシベル
- PがP0の100倍だったら:20×log10100=20×2=40デシベル
- PがP0の1000倍だったら:20×log101000=20×3=60デシベル
- PがP0の10000倍だったら:20×log1010000=20×4=80デシベル
これで、先ほどの1:100万という音圧のべらぼうに幅の広い差も、この対数を使うことで少ない桁の数字で表現できるようになるわけですね。
なんだかよくわからないけど「対数」ってのは便利な感じがしませんか?ただし対数というのは単純に引き算足し算できません。
重要:40デシベルは20デシベルの2倍ではない!
ということを頭のなかにそっとしまいこんでください。
※騒音の測定等で使用されるdBでは、人間の聴覚特性(後述)を加味した「騒音レベル」が用いられます。
相対単位と絶対単位
「dB」は音圧以外にも電圧、電力等を扱う際にも使われますが、大事なのは「相対単位のdB」と「絶対単位のdB」があるということ。簡単に言うと
- 「AはBより◯dB」というのが相対単位
- 「Aは◯dB」というのが絶対単位
本来デシベルは2つの量の比を表すもので、相対単位なのですが、音圧レベルのように一方を基準となる値に定義することで、絶対単位としても使用することができるわけです。
ここでの音圧レベルの場合は絶対単位「dB SPL」となります。
絶対単位としてdBが使用される例
音の強さのめやす(あくまで「めやす」)
- 120:ジェットエンジン
- 100:ドリル工事
- 90:相当うるさいいやな犬
- 80:電車
- 70:賑やかな事務所
- 60:通常の会話
- 50:割と静かな事務所
- 40:図書館
- 20~30:ヒソヒソうわさ話
- 0:人が聞き取れる限界「20マイクロパスカル(20μPa)」
つまり人が聞き取れる限界「0dB」を基準にこれは何倍?という数値で表しているわけですね。
相対単位としてdBが使用される例(Wikipedia)
倍率(比) | 電圧・電流・音圧 | 電力比 |
---|---|---|
1倍 | 0.00dB | 0.00dB |
2倍 | 6.02dB | 3.01dB |
3倍 | 9.54dB | 4.77dB |
4倍 | 12.04dB | 6.02dB |
5倍 | 13.98dB | 6.99dB |
10倍 | 20.00dB | 10.00dB |
50倍 | 33.98dB | 16.99dB |
100倍 | 40.00dB | 20.00dB |
500倍 | 53.98dB | 26.99dB |
1000倍 | 60.00dB | 30.00dB |
5000倍 | 73.98dB | 36.99dB |
10000倍 | 80.00dB | 40.00dB |
なぜ電圧と電力で数値がちがうのか(倍)?は補足参照
もくじ
VUメーターやピークメーターのdB
プラグイン等で表示されるVUメーターやピークメーターで表示されている「dB」は本来電圧比を表現しており、音の強さを表現する「db SPL」とは異なります。数値はマイナス表示ですが、0dBを基準とし、それに対して何分の一か?という表示形式になっています。0dBを超えると音が歪むことになります。
VUメーター
ピークメーター
VUメーターは応答速度が300msec(ピークメーターは10~20msec)であり、人間の感覚に似ている表示といわれています。
クイズ「3dB上げる」ということはどういうことか?
以上を踏まえてクイズです。
※ここでは「dB同志を単純に足したり引いたりしてはいけない場合がある」ということだけ覚えていただければ結構です。また絶対レベル値と相対レベル値を扱う場合で計算方法が変わります。
1)80dBで吠える犬が2匹で吠えたら何dBか?(現実にはありえないが話を簡潔にするため二匹は完璧に同じ吠えかたをする)
正解:約83dBになります。10×log10(108+108) ⇒ 1.4倍になるのですね。
2)会話60dBと図書館40dBの音の強さの差はどれくらい?(倍率)
3)「3dB上げてください」とPAスタッフにお願いするとどれだけ音圧が上がるのか?
DTMFトーン(プッシュホンなどで使われるピポパポ音)で試してみます。
なお常用対数の計算は関数電卓で可能です(log10)。これはiOSの電卓(iPhoneでは本体を横向きにするとこれに切り替わります)
【参考】人が感じる音の大きさは周波数によって異なる~ラウドネス~
わたしたちは同じ音圧レベルの音であっても、音の周波数の違いによって異なる大きさの音として認識します。
たとえばピアノを弾いた場合、わたしたちは「大きさ」「高さ」「音色」という「音の三要素」をトータルに聴く(感じる)ことになります。この感じる「量」は聴覚が感じる「音の強さ」であって感覚量(心理量)と呼ばれるものです。
感覚量というのは「味覚」「視覚」「嗅覚」といった主観的に感じる「強さ」の量のことで、たとえば海の水はだれでも「しょっぱく」感じるわけで、塩の濃度が上がるほど(個人差やその時の体調、気分の差はあるにせよ)さらにしょっぱく感じるという関係が成り立つわけですね。この感覚量である「音の大きさ」はラウドネス(loudness)と呼ばれます。
音の大きさの単位はsone(ソーン)音圧レベルが「40dBの1,000Hz」のサイン波の音の大きさを1soneとして、仮に大きさが倍に感じる音は2sone。
ただし周波数によって感じる音の大きさには変化があり「1000Hz 40dB」のサイン波と同じ大きさに聞こえるすべての、周波数と音圧をあらわし、特性をグラフにしたのが「等ラウドネスレベル曲線」です(下図)。
「1000Hz 40dB」と同じように聞こえる値を表す線(青色)は40phon(ホン)。昔は騒音を表す単位に使われていました。
1KHzから5KHzあたりは私達の生活の中で「身近な」音なのか、感度が高い(音圧が低くても聞こえる)というのがわかります(個人差はあります)
LKFS/LUFS
なおラウドネス値を測定するラウドネスメーター(元々放送業界向けに開発されたもの)で扱う単位には、LKFS/LUFSというものがあります。
- LKFS:Loudness K-Weighted Full Scale
- LUFS:Loudness Unit Full Scale
テレビなどでは、チャンネルを変えたときに極端な音量差が生じないよう、EBU(欧州放送連合)のラウドネス推奨規格である R-128 ではラウドネス、ダイナミクス、ピーク値の測定方法や基準値が定められています。
★
というわけでお疲れ様でした~
【補足】(あえて単位記号で表しております)元々B(ベル)は電力の伝送減衰の表現で採用されていました。デシベルを電力比として考えると10×log(W1/W2)ですが、電力と電圧、電流、抵抗には
電力(W)=電圧(V)×電流(A)、電圧(V)=電流(A)×抵抗(Ω)、W=V2/Ω という関係があります。すると
10×log(V12/V22)=10×log(V1/V2)2=20×log(V1/V2)
となり、電圧のデシベルは電圧比の対数に「20」をかけます。音圧も同様です・・・なんだかわかったようなそうでないような・・・・
もくじ