録れコン2022グランプリを受賞したMus'c氏の作品「Karst」(カルスト)のリプロダクションが、東京港区麻布台にあるレコーディングスタジオ「Sound City」M-studioで行われました。
リプロダクションって?
プロのエンジニアやミュージシャンに協力いただき、現場の空気感を感じながらプロの技術を体験、受賞者の方と相談しながら、どういう方向でどんな方達と創っていくかを決め「録れコン・グランプリ受賞曲」をブラッシュアップ(楽器の差し替えやリミックスなど)します。
録れコン2022グランプリ受賞作品「Karst」がプロの手によってどのように変化したのか、画像・動画を交えてお届けします。
01.打ち合わせ〜内容確定
授賞式も早々に、「リプロダクション」内容を決めるべく、Mus'c氏の意向や課題点を基に、審査会で交わされた審査員の皆さんの意見も踏まえ、エンジニアの鎌田氏、小久保(録れコン事務局)により作業内容を確定していきます。
総合的に検討した結果、今回のリプロダクションは
- ベースダビング(プレイヤー:清水玲氏)
- パーカッションダビング(プレイヤー:岡部洋一氏)
- ギターダビング(プレイヤー:今堀恒雄氏)
- ミックスダウン(エンジニア:鎌田岳彦氏)
といった内容で実施することになりました。
PERSONAL ※敬称略
Mus'c(むすく)
エンジニア:鎌田岳彦(かまだたけひこ)
ギタリスト:今堀恒雄(いまほりつねお)
ベーシスト:清水玲(しみずれい)
パーカッショニスト:岡部洋一(おかべよういち)
PLACE
Sound City/M-studio
今年も豪華な内容となったリプロダクション。
いきなりですが、オリジナルの音源とリプロダクション後の音源を確認してみましょう。
▼ オリジナル
▼ リプロ後
かなりの違いを感じることが出来たのではないでしょうか!?
一体どうすればここまで変化するのか!
それでは早速、リプロダクション当日の模様をお届けします!
02.ベースダビング(事前収録)
豪華すぎる内容のため、1日ですべての楽器をダビングすることは難しいということで、ベースダビングは清水玲氏の自宅スタジオにて収録していただきました。
どんなポイントを意識して収録されたかなどは、裏話を踏まえてレポート後半に出てくるリプロダクション終了後に行われたONLINE座談会にて説明されています。是非ご視聴下さい。
03.パーカションダビング
2022年6月28日(火)リプロダクション当日。
一日の流れを確認し、早速パーカッションダビングの準備に取り掛かります。
【使用楽器】
(1枚目:ジャンべ 2枚目 :コンガ(左)、カシシ(右))
それでは早速、レコーディングの様子を動画で見てみましょう!
岡部さんの凄まじいテクニックの数々!
このビートが原曲にどのような影響を与えるのか!?
これにて、パーカッションダビング完了。岡部さんお疲れさまでした。
04.ギターダビング
続いては、ギターダビング。
こちらも、テキパキ準備を進めていきます。
【使用楽器・機材】
こちらもレコーディングの様子を覗いてみましょう!
溢れ出てくるフレーズの数々、流石の一言ですね!
ギターダビングも完了。今堀さんお疲れさまでした。
05.ミックスダウン
素材も揃い、ここからはいよいよミックスをしていきます。
匠の技術によりどのように変化していくのか楽しみですね。
ミックスのポイントなどはこちらもONLINE座談会にて説明されていますので要チェックです!
06.最終確認
ミックスも終盤に差し掛かり、スタジオのスピーカーだけではなく、コンポも使用し細かく確認。
最後の最後までアーティストの意向も取り入れながら最終調整をしていきます。
07.お疲れさまでした!
全てが終了し、最後は鎌田氏とのツーショット。
お二人とも、お疲れさまでした!
ここまで来たら、もちろん「Karst」のフルサイズのオリジナル楽曲とリプロダクションバージョンを聴き比べたいですよね?
「Karst」の各バージョンは各種配信サイトにて視聴できます。
※下記バナーをクリックすると各配信サイトをお選びいただけます。
08.ONLINE座談会
リプロダクション終了後に、清水玲氏、岡部洋一氏、鎌田岳彦氏、小久保昌彦の4名によるONLINE座談会が実施されました。
“リプロダクションの内容が決まった経緯”、“各楽器のレコーディングをする際に意識したポイント”や裏話などをお届けします!
09.Mus'c氏のコメント
最後に、Mus'c氏のコメントにて、リプロダクションレポートを終了したいと思います。
それでは、また録れコン2023でお会いしましょう!
このたびは、島村楽器「録れコン2022」グランプリ・インストルメンタル部門優秀賞と、リプロダクションの機会をいただけましたこと、たいへん嬉しく思います。リプロダクションに際して、さまざまな協力や助言、そしてプレイ・リミックスしてくださった方々のお力によって、あらためて本作は最高傑作といえる楽曲になれたと感じます。
この作品「Karst」は、石灰岩台地ともいわれる「カルスト地形」の印象から着想された標題音楽です。地表を境に、地上に石灰岩塊のあらわれる平原と地下に形成される鍾乳洞がある地質について、音像やフレーズを照らし合わせてみたり、また“石をたたくように”打楽器を多用したりしました。結果的に複雑さを増しながら、何度も調整を繰り返してようやくまとまりが見え、追求を尽くしたところで、(自身の中で)本作の「きわめて完成度の高い」オリジナルが出来上がりました。
私ごとながら、打ち込み音楽(DTM)は学生の頃からほのかに興味があり、しかし2019-2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響――ステイ・ホームの状況と、当時のあまり良くなかった精神状態(じつは一時的な“ひきこもり”状態にありました)から、家でひとりで本格的につくれる音楽に手をつけ始めました。趣味で集めたオーディオ機器があったので、ハード面でとくに難しいことはありませんでした。
ピアノは上手く弾けないものの、オーケストラの打楽器奏者の経験があり、それからよく音楽を聴くほうでもありました。あたまの中には作曲のアイディアで満ちていたし、想像上の音楽と想像上の編成のイメージをキーボードを通して具体化したり・・・ときに思ってもいなかったフレーズやリズムが出てきてはコラージュしてみたり、そこから新曲をつくり出したりもしました。
どのようにすれば音がリアルになるか、それぞれが見えたり聴こえたりするようになるか。いわゆるアレンジメントやミックスも、絵画における色彩やパースなどの構成や技能を考えるように(独学で)研究したりもしました。
そのなかで、録れコンのようなコンペティションは自身の作品の立ち位置を俯瞰できるかもしれないと思い、応募した次第です。
そして今回のリプロダクション。アマチュアからプロフェッショナルへ、より大きな視点で作品を相対化してみられる貴重なチャンスとして、結果多くを学び、また自分自身の見えづらい欠点を発見でき、これ以上ない有機的で有意義な機会になったと感じております。
リプロダクションの初期フェーズにて楽器の差し替えと追加を検討している中、「この完璧さをいかに崩せるか?」と自問していました。さらに複雑になってしまわないか、差し込めるような余白があるか、そもそも演奏可能なのか。かなりこだわったオリジナルだったがゆえに、なんだか完璧な城塞を最初につくってしまったような気分でした。
自分自身でつくりあげた世界(といってもいいもの)と、一流の経験豊富なプレイヤーやエンジニアの価値観とは当然段差があり、お互いが納得するほうへと進む段取りの困難もあります。
アレンジや楽器の差し替えも初めてだったので、「作られた」フレーズに対する根本的な違和感もありました。
実は、これが今回の経験から学べた最大の所感です。
不安がありながらも思い切ってミュージシャンに想いを託すと、短い期間ながらも、ラフミックスや差し替え版を聴き込むほどにそうした違和感が音楽的アドバンテージになってゆく楽しさを知り、同時に携わった方々の本作への理解と姿勢の強さを痛感できたことも、リプロダクションなくして得られなかった体験でした。
リプロダクションが進み新しいバージョンを聴き込むと、オリジナル版の牙城のような完璧さはいつの間にか良い意味で崩れて、自分の作品や作りかたを初めて見渡せるようになったと思います。
本作の基礎となった作品のひとつに、トニーニョ・オルタの「Vôo dos Urubus」(1980)という楽曲があります。「Karst」の中〜後半あたりの、Maj7とMin7のコードが交互に半音ずつ移動するフレーズでは特に引用感が強く出ていると思います。フルートやラテン・パーカッションを多く使ったことも、その曲に影響されているといえます。
「Vôo dos Urubus」が収録されたトニーニョ・オルタのアルバム「Toninho Horta」は、MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)の名盤であることに加えて、パット・メセニーも参加していました。実はこのメセニーも、今回のリプロダクションの方向性を決めたひとつの要因でした。「Karst」の原曲にはギターが無い(わたし自身がギターに疎いためである)ため、リプロダクションでギターを入れる提案には初め驚き、そして理にかなったものであると、ひとり興奮していました。
どういう印象であれ、自身の楽曲に自分の知り得ない楽器やニュアンスが入ると、先に記した「より大きな視点で作品を相対化してみられる」実感を特に強く感じることができます。わたしの手もとから作品が発つような経験は、多くは無いにしても、それらは作家冥利に尽きるといえる感慨をもたらしてくれました。
ひとりのあるひとつの作品から、今回の機会を経て、多くの方とのコミュニケーションをとおして完成したプロジェクトなのだと、振り返って思っています。
作品のレコーディング/ミックスからアレンジ、音楽的なアプローチと今後についてもアドヴァイスしてくださったエンジニア・鎌田さん。製作中、特に「このベースは演奏可能か?」と思いながらも、超絶的プレイで作品のベース/地盤を再構築してくださったベーシスト・清水さん。打楽器多めの曲ながら、これ以上ない効果的な音とフレーズで最高のグルーヴと雰囲気を作り出してくださったパーカッショニスト・岡部さん。ギターの知識と経験のないわたしとその作品に、想像を上回るテクニックと色彩感、そしてギターの概念をも変えてくださったギタリスト・今堀さん。レコーディング/ミキシングの補佐から工程や設備の説明もしてくださったサウンド・シティのスタッフの方々。
イベントのスケジューリングから総括まで、わたしが道に迷いながらも道標を示してくださった小久保さん。本リプロダクションの取材と各種コンテンツを作成してくださった島村楽器の福田さん。昨年度の録れコンからたいへんお世話になっている島村楽器 津田沼パルコ店の數面さん。
作品の審査・アドバイスコメントをいただきました内藤さん・審査員の方々。そして聴いてくださった方々に、心より感謝申し上げます。
Mus’c 上野悠河
もくじ