TLのサドルを削ってよ!
プロローグ
「ちょっとさ、ブリッジ削って欲しいんだよね。」
全てはこの一言から始まりました。
「えーと、アコギですか?」
「いや、こないだのテレキャス。」
「…テレキャスのブリッジ削るんですか?」
常連のお客様で、いつもこだわりの強い、予想の斜め上をいくご依頼をされる方ですが…。
どういうこと??
なるほどの気づき
お持ちのテレキャスターのブリッジに、Gotoh製のBS-TC1が搭載されていました。
こういうブリッジです。
見かけはオーソドックスな3-wayサドルのテレキャスターブリッジなのですが、サドルに特殊な弦溝加工が施されており、弦振動の支点がサドルの中心からずれるようになっています。
これにより、3-wayサドルの欠点である、オクターブチューニングのずれが大幅に改善できるという優れモノ。
「このブリッジさ、機能的にはすごく気に入ってんだけどさ、弦ピッチだけがすごく気になってさ。弦溝が切られてるから、普通のテレキャスみたいにくいっとずらすこともできないじゃん。」
なるほど。
このサドル、幅が21.5mmに対して、弦溝が10.8mmピッチで切られています。
サドルが全て同じ高さで綺麗に並ぶと、弦溝が10.8mm間隔で並びます。
ですが、実際には指板にRがついていますし、そのRに合わせて弦高調整を行います。
すると、サドルは少し斜めにセッティングされ、サドル自体はそれなりの太さのある円筒形ですので…、
互いに干渉して、サドルとサドルの間に隙間が空く!
ということは、
1-2弦間、3-4弦間に比べて、2-3弦間のピッチが広くなる!!
確かに。そういうことですね。
「テレキャスだしさ、そういうもんだと言われればそうなんだけどさ、削ってどうにかなんない?」
どう対処するか
弦ピッチを揃えるために必要なことは単純。
干渉している部分を削れば良いだけです。
ですが、削る相手は円筒形。安定感がありません。
また、弦高で横方向に斜めになりますが、オクターブチューニングで縦方向に傾きますし、3次元的に削る角度が決まります。
弦高を変えるとオクターブも変わり、そうすると削る角度が微妙に変わるし…。
やみくもに削ると、弦高調整用のイモネジ穴に干渉しますし…。
ブリッジについた状態で削ればいいんじゃない?
けれども、さすがに余計な傷がつくリスクと作業性の悪さのデメリットは大きい…。
ということで、作成しました。
ブリッジについた状態を疑似的に再現してサドルを削るための、この作業のためだけ治具。
行程的には、まずばっちりと調整を行って、弦高とオクターブを合わせます。
その時のオクターブ位置を計測し、その通りに治具にサドルをセットします。
これで調整済のサドルの状態を再現。
そして、はみ出た部分を削ると。
削って磨いては、ギターに戻して弦高とオクターブを微調整しつつ、弦ピッチを測定して、という流れの繰り返しです。
結果
結果は、
この通り。
ビタっとサドルがくっつきました。
弦を張るとこの通り。
弦ピッチは全て同じに。
「おー、いいね。見た目も弾く時も違和感がなくなった。」
「いやー、良かったです。専用の治具作ったり、結構大変だったんですよ。」
「同じブリッジのギター、あと何本かあるから持ってくるわ。全部お願い。」
「…マジっすか…。」
エピローグ
こういった些細な違和感、ちょっとした気になることでも解決に導くのがリペアの仕事。
どんなことでもまずはご相談下さい。
新しい可能性や解決方法が見つかるかもしれません。
あ、このサドルの加工は治具と工法ができてますので、いくらでも実施できます!!
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ギターの世界を渡り歩いてきた関西人が名古屋に見参!!インテリジェンス溢れるノリと勢いで今日もギターを蘇らせ、新たな命を吹き込んでいきます。