Nordブランドを手掛けるClavia社が、創業以来一貫して追求してきたもの。それは、徹底した「ステージで使うための楽器」であることです。 1983年の創業から現在に至るまで、その形や技術は進化しても、根底にある哲学は決して揺らぐことはありませんでした。プレイヤーの直感を刺激し、ライブパフォーマンスを支え続けてきた40年の革新の軌跡を見ていきましょう。

Nordの歴史

1983年~

Nordブランドは、スウェーデンを代表するシンセサイザー・メーカー、Clavia社のブランドです。1980年代から約40年にわたり、革新的なシンセサイザーを作り続け、現在ではトップパフォーマーやプロデューサー、さらには次世代を担う若手ミュージシャンにまで世界中のアーティストから揺るぎない地位を築いています。

多くの方はNordをシンセサイザーの会社として認識しているかもしれませんが、Claviaが最初に発表したのはキーボードではなく、先駆的なデジタル・パーカッション製品でした。これが成功を収め、その後、ddrumという電子ドラム/トリガーのブランドが確立。赤を基調とするデザインはのちのNord製品群に引き継がれることになります。なお、ddrumブランドは2005年に売却され、現在は別会社のもとで電子ドラムのみならずアコースティック・ドラムも含めた製品を開発・製造しています。

1995年~

1995年、Claviaは同社初のキーボード「Nord Lead」を発表。サンプルを使わずDSPで波形をリアルタイム生成するバーチャル・アナログ方式(No Samples)を掲げ、シンセサイザー分野におけるNordの認知を一気に高めます。

ヴィンテージ・アナログ再評価の流れの中、アナログの操作感とデジタルの安定性を両立させる設計を採用。ノブ中心で即応性の高いパネル、ベロシティやホイールで複数パラメータを連続変化させるモーフ機能、独自のピッチスティックなどにより、演奏表現とリアルタイム操作に強みを発揮しました。
4パート・マルチティンバー構成や、ライブでの視認性に優れた赤い筐体も相まって、スタジオとステージの双方で支持を獲得し、ワークステーション中心だった市場に新たな選択肢を提示しました。

2001年~

2001年、ヴィンテージ・エレクトリックピアノのサンプル音源とトーンホイール・オルガンのモデリングを搭載した初代Nord Electroを発表。LEDで可視化した仮想ドローバー、ロータリー・スピーカー・シミュレーター、ウォーターフォール鍵盤、フラッシュメモリーに格納したピアノ音色の差し替え対応など、コンパクトな筐体にライブ向け機能を凝縮し、現場で存在感を示します。
初期世代には一部機能の制約もありましたが、OS更新や後継機で改良が重ねられ、プロ現場の定番として定着していきます。

2005年にはNord Stageをリリース。Electro由来のオルガン/ピアノ・エンジンにバーチャル・アナログ系シンセとエフェクト群を統合し、パネルA/Bの二層構成やモーフ機能を備えたフラッグシップとして圧倒的な存在感を示し、幅広い現場に浸透しました。

2007年~現代

2007年、サンプルをメモリーに格納してオシレーターとして扱えるNord Waveを発表。バーチャル・アナログとサンプルを同一パッチ内で組み合わせ、2スロット構成と内蔵エフェクトによりレイヤーや分割が柔軟になりました。Mellotronなどを収めたNord Sample Libraryとの連携で表現の幅を広げ、ブランドのレンジを拡張する転機となります。

2010年には88鍵ハンマーアクションのステージ・ピアノNord Pianoを発売。ストリング・レゾナンスやダンパー/ペダル・ノイズ、USB経由で差し替え可能なNord Piano Libraryとの連携により、ピアノ専用モデルのシリーズを確立しました。

その後もStage 2/3/4、Electro 3/5/6、Lead 4やA1、Wave 2、Nord Grand、Piano 2〜5へと展開し、シームレス・トランジションや分割/レイヤーの柔軟化、拡張されたサンプルメモリーや鍵盤アクションの選択肢拡大など実演志向の改良を重ね、赤いNordは現在までステージで定番の地位を保ち続けています。

現役ミュージシャンによるハンドメイド。演奏者の魂が宿るものづくり

作り手はミュージシャンによる手作業

現代の電子楽器が大規模工場で量産されるなか、Nordは自社拠点でのものづくりにこだわります。

Nordの工場はストックホルム南部セーデルマルムのソーフォ地区、音楽店街に近いレンガ造りのビルにあります。すべての製品はこのストックホルム工場で、献身的で熟練したクルーにより手作業で組み立てられています。工場はリラックスしつつ集中した雰囲気に包まれ、スタッフの多くは現役のミュージシャン。社内バンドを組めるほどのメンバーが在籍しています。演奏者の視点を持つ作り手が、日々のものづくりに反映されています。

全数に48時間のヒートテストを課す品質管理

品質管理は最初の生産ステーションから始まります。部品が組み合わさった段階で各個体にIDが付与され、生涯にわたる履歴が自動的にデータベースで管理されます。出荷前には全数を対象に48時間のヒートテストを実施。内部コンポーネントに潜むごくわずかな不具合の可能性さえも洗い出します。さらに、専用の品質検査装置を用いて、すべての鍵盤、ノブ、ボタンを複数回動作させてチェック。こうして厳格に検証された個体だけが、世界各地へ送り出されます。

ツアーミュージシャンにとって本番中のトラブルは致命的です。演奏経験を持つスタッフが多いという背景も、この厳格な体制を支える一因となり、最高のパフォーマンスを求められるアーティストに確かな安心を届ける設計と検証につながっています。