ヤマハアップライトピアノの特徴

学校のピアノはYAMAHAだった!
子供の頃はYAMAHA以外のピアノを知らなかった…そんな方もきっと多いはず!
こちらのページでは、ヤマハについての歴史と日本の社会状況を確認すると共に、ヤマハアップライトピアノについて迫っていきます!
日本のピアノの歴史については、前回私が担当した「ヤマハグランドピアノの特徴」ページにも記載がございます!ご興味のある方はそちらもご覧いただけますと幸いです。
ヤマハの歴史と日本社会
まず、ヤマハのピアノメーカーとしての歴史を確認いたしましょう。
ヤマハの歴史は、1887年に修理工の山葉寅楠が壊れたオルガンを修理し、国産オルガンの製作に成功したことから始まります。
1897年にヤマハの前身となる「日本楽器製造株式会社」設立、1900年にアップライトピアノ、1902年にグランドピアノの製造を開始!
1930年代までに国内にはヤマハ・河合楽器以外に20社を超える楽器メーカーがあり、そのとき既にヤマハは国内最大の楽器メーカーでありました。
戦後1954年にはヤマハ音楽教室の前身となる音楽教室が開始。
その後もヤマハのピアノ出荷台数はほぼ右肩上がりに増え、1979年には出荷台数のピークを迎えました。
創業100年の1987年に現在の社名「ヤマハ株式会社」に名称を変更しています。
以上、前回ご紹介した内容です。
今回はそこから更に一歩踏み込み、ピアノが普及していった当時の日本に焦点を当てつつ、ヤマハというメーカーについて考えていきましょう。
ピアノ需要、最初は学校教育現場において
明治期に生産が始まったピアノは、そもそもどのように広がりを見せたのでしょうか?
1868年からの明治時代は、日本人の生活が大きく変化する契機となった時代です。
音楽の分野でも、西洋音楽が入ってきたのがこの時代でした。
近代教育に力を入れていた明治政府は、1872年に学制を発布、1879年に音楽取調掛という部署を文部省内に設置しました。
国民教育という点から、全国の小学校にピアノを普及させようとしており、ここに学校教育分野における西洋楽器需要が生まれます。
山葉寅楠がオルガン製作に成功した1887年は、少しずつ学校教育の制度が整えられていった時期、唱歌が学校教育の現場に登場した時期です。
当時国内にはピアノを生産できる企業はまだなく、高価な輸入楽器を取り入れるのは難しかったため、国産オルガンが代替品として広く使われました。
その後徐々にピアノを設置するようになっていきます。
山葉寅楠は、オルガン製作開始当初から学校教育分野における楽器販売に目をつけていました。
ヤマハが国内最大のピアノメーカーとなった理由は??
さて、気になるのが、ヤマハが国内最大のピアノメーカーとなった理由です。
文面の関係上詳しい説明は省きますので、田中智晃著『ピアノの日本史』(2021、名古屋大学出版)をご覧いただきたいです。
その中で挙げられていることを少しだけご紹介したいと思います。
田中氏は著書の中で次のように述べ、ピアノの歴史を紐解いています。
「ヤマハの製造会社としての強みは、生産コストを引き下げつつ、品質を高め、量産を試みるという近代的な大量生産を楽器という手工品に適用したことであった」(田中智晃,2021,P110)
日本で本格的に一般家庭にピアノが普及していくのは、高度経済成長期。
この背景にはミッチーブーム、顧客の所得上昇、ピアノの製品価格の相対的低下、1961年から実施の学習指導要領により、オルガンが生徒が弾かなければならない楽器となったことなどがあります。
戦前から、学校教育の場に需要を見いだし、生産体制の効率化を図ってきたヤマハですが、ピアノの大量生産を可能にし、学校教育ルートに早くから目をつけていたことが台頭した理由の1つです。
ヤマハのハイブリットピアノ
ヤマハは、日本の住宅事情など社会の変化に合わせて色々なピアノを作ってきました。
目立つのが、1980年代以降のアコースティックピアノと電子技術のかけ合わせ、「ハイブリットピアノ」です。いくつかの種類がございます。
まず、1982年発売の自動演奏ピアノ「ピアノプレーヤ」。
奏者なしにひとりでに鍵盤やペダルが動き、ピアノ音楽を奏でる姿はとても印象的です。
消音機能を搭載するなど機能を拡充させ名称を変えながら現在の「ディスクラビア エンスパイア」に至ります。
次に、1993年発売の「サイレントピアノ」。
ヘッドフォンを使って音を消すことができるこのアコースティックピアノは画期的でした。
それまでの騒音対策といえばアップライトピアノ中央のマフラーペダル(弱音ペダル)くらいでした。
一般家庭へのピアノの普及と、日本の都市部ならではの住宅事情を背景とした騒音問題への取り組みとして開発されました。
さらに、2015年発売のトランスアコースティックピアノ。響板で音を響かせる、という本来のピアノの仕組みはそのままに、響板から出る音量調整ができるようにしたものです。
この他、電子ピアノの分類のアバングランドを含めハイブリットピアノとしており、弾き心地と音の問題解決の両立を目指す商品を多数発売しています。
アップライトピアノのラインアップ
ここで、現在販売されているものに絞って、ヤマハアップライトピアノのラインアップを整理しましょう。概要をご案内いたします。
bシリーズ
2010年11月発売。コンパクトさとお求めやすさが魅力のbシリーズ。
高さ113㎝のb113、高さ121cmのb121があります。
発売当初よりサイレントピアノシリーズも販売されている他、2016年以降、カラーバリエーションモデルとしてb113DMC、b113PWHがラインアップに加わりました。
2023年以降は各色トランスアコースティックピアノ(型名末尾にTC3)も発売されています。
音色は軽やかです。
YUシリーズ
2006年3月発売。
ヤマハアップライトピアノの伝統的な音色・設計を引き継ぐ、スタンダードなシリーズです。
高さ121cmのYU11(希望小売価格:880,000円税込)、高さ131cmのYU33(希望小売価格:1,100,000円税込)の2機種があります。
2022年9月以降、トランスアコースティック™ピアノTA3タイプ、サイレントピアノ™ SH3タイプも発売されています。
YUSシリーズ
2006年9月発売。ヤマハアップライトピアノのシリーズの中で一番人気。
バリエーションも豊富です。ハンマーフェルトとミュージックワイヤーに、ヤマハ最上位グランドピアノ「CFX」と同等の素材が用いられており、整音作業にも特にこだわりがあるシリーズです。
YUS1(希望小売価格1,210,000円税込)、YUS3(希望小売価格1,386,000円税込)、YUS5(希望小売価格1,793,000円税込)、そして其々のカラーバリエーションモデルがございます。
上記すべてでサイレントピアノ(SH3)、トランスアコースティックピアノ(TA3)、ディスクラビア(ENST)モデルが販売されています。
以前YUS5と同等にあたる中古YU50を弾いたところ、グランドピアノを弾いているような音の厚み・奥行きと広がり感があり、非常にいいピアノだな、ほしいなぁと思った記憶がございます。人気があるのも納得です!
SU7
2005年2月発売、希望小売価格3,300,000円(税込)、ヤマハアップライトピアノの最高峰です!!
鍵盤にはアイボライトと黒檀を使用しているなど、厳選された最高級素材のみが用いられています。
ぜひとも弾いてみたい1台です。
インテリアピアノ
bシリーズのカラーバリエーションモデルの他、インテリアピアノには、YF101WとYF101C(ともに2003年3月発売・現在希望小売価格:1,210,000円税込)がございます。
114cmとコンパクトなサイズ感と猫脚が魅力です。半艶仕上げでお部屋になじみやすいデザインです。
ヤマハアップライトピアノの特徴
ここまでヤマハの歴史や現行機種を押さえてきました。
特徴として、やはりラインアップの豊富さと、製品のばらつきが比較的少なく耐久性に優れたメーカーであるという点が挙げられると思います。
音に関してはYAMAHAらしさという点に集約されるのではないでしょうか?
同期で島村楽器豊川店ピアノインストラクターの藤井さんと話したところ、YAMAHAピアノの音のイメージに関してかなり印象が一致しておりました。
ここでは藤井さんの言葉をご紹介させて頂こうと思います。
藤井さん「YAMAHAのピアノは年式かかわらず、ブランドとしての音色・タッチのイメージが強めですね。
「ヤマハのピアノはこういう音!」みたいな…。
『素直な音』を持っていると感じます。
音を伸ばしても響きの膨らみが程よいというか、直線的な音で馴染みやすい。
音の立ち上がりはパキッとハッキリ、高音がキラキラしてる。
タッチは鍵盤を下まで押したときカツっとしっかり底に当たる感触がします。
また、学校の音楽室や体育館に置いてあるのを覚えている方も多いと思いますが、そういった懐かしさを思わせる音色もあわさって、聴いていて心地よいです!
ピアノ経験のあるなしに関係なく、誰もが「ピアノらしい音」にふれられるメーカーだと思います。」
これらを踏まえ、最後にヤマハグランドピアノC3をお持ちだという藤井さんの演奏動画で、ヤマハの音を楽しんで頂けたらと思います。→https://www.youtube.com/watch?v=DGhdjkdLXww
終わりに
入社以来ピアノに関わる中で印象深いことの1つが、調律師の方との会話です。
1980年前半と1990年代のヤマハ中古ピアノを比較した際に、方向性の違う音だよねという話になりました。一方は重厚、もう一方はスッキリした感じ。調律師の方が「時代によって求められる音、流行りの音があるから」と仰っていて、音楽とそれを奏でる楽器の関係性は面白い!と感じました。
個体差もある楽器ですので選ぶのは非常に難しい作業ですが、同時にとても楽しい時間でもあります。
ぜひ、色々な楽器を触って、お気に入りの1台を見つけてください!皆様とピアノ選びの時間を共有できることをとても楽しみにしております!
*この記事を書いた人*
イオンモール天童店ピアノ担当 松本夏歩(まつもと かほ)
2023年新卒入社。ピアノが大好きで、図工のモチーフと言えばピアノでした笑
たまに天童店のxアカウントに登場してピアノを弾いている場合もございます。
大学時代に出会った恩師の専門が近現代日本の音楽史でしたので、音楽・楽器と歴史というテーマに関心があります。色々な角度から、皆様の楽器選びをお手伝いできれば幸いです!
【参考】
- 田中 智晃(2021)「ピアノの日本史」名古屋大学出版
- 倉田 喜弘(2015)「日本史リブレット 近代歌謡の軌跡」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/1-1-1.html
https://www.gasmuseum.jp/guide/gaslamps/07/
https://www.meijimura.com/about/history/
https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202207/202207_01_jp.html
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2211/28/news009.html
https://diamond.jp/articles/-/126662
https://download.yamaha.com/files/tcm:39-1124093/
https://jp.yamaha.com/products/contents/pianos/about/way/index.html
https://www.yamaha.com/ja/news_release/2022/22083101
https://jp.yamaha.com/sp/myujin/13001.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000010701.html