ピアノのためにできること:快適な環境づくりの基本ガイド

『ピアノに優しい環境づくり〜押さえておきたいポイントは?~』
ピアノは全体のほとんどが木で構成されており、環境の影響を受けやすい繊細な楽器の一つです。
また、ピアノは一度設置すると動かすことが困難な楽器でもあります。
そのため、
「自宅へ搬入する前にどこへ置くのが一番いいのか悩んでいて…」
「ピアノを設置した部屋はどんな環境にしたらいいのかわからない…」
とご相談を頂くことが多々あります。
今回は皆様のお悩みにお答えすべく、『アコースティックピアノに優しい環境づくり』についてご紹介していきます!
アコースティックピアノが好む環境その1『湿度・温度』

日本は四季折々の気候があり、時期によって変化が多い国です。
実はピアノは変化が苦手な楽器なので、できるだけ温度や湿度を一定に保ってあげると
ピアノにとって優しい環境となります。
例えば
湿度 50%±15%
温度 20℃±5℃
がピアノにとって優しい環境と言われております。
「季節が変われば、同じ湿度でも同じ環境ではなくなりますよね…?」とご質問頂くことがあります。
まさにその通りで、湿度は気温によって飽和水蒸気量が異なるため
気温35℃ 湿度40%と気温10℃ 湿度40%
では、同じ湿度でも空気中の水分量は異なります。
とはいえ、「気温が◯℃の時は湿度◯%で、気温△℃の時は湿度△%で………」
と常に気にして過ごすことは大変だと思います。
なので、ざっくりと
「上記の範囲内で人間が快適に過ごせる温度・湿度を一定に保てると良い」
と覚えていただければと思います。
アコースティックピアノが好む環境その2『設置場所』
ピアノは一度設置すると動かすことが困難な楽器の一つです。
そのため、部屋のどこに設置するか悩まれる方も多いのではないでしょうか?
ご自宅の中で避けることが可能であれば避けたい環境とピアノに優しい環境についていくつかご紹介いたします。
1・直射日光を避け、日陰に設置する

ピアノは全体のほとんどが木で造られた楽器です。
そのため、直射日光に当たり続けることで
木製のパーツが過度の乾燥状態になってしまい、動作のぐらつきや雑音
ひどくなると割れの原因となります。
設置場所は直射日光の当たらない日陰がピアノに優しい設置場所と言えます。
間取りの兼ね合いで窓際に設置する場合は、厚手のカーテンをかけるなどのひと工夫で直射日光を避けることで、ピアノに優しい環境に近づけることができるのでおすすめです。
2・エアコンなどの空調家電の直接風が当たらない場所に設置する

こちらも理由は上記とほぼ同じです。
エアコンや加湿器、除湿機、空気清浄機などの空調家電は、作動直後に最大出力で設定環境に近づけるよう動作するものが多いです。
このため、それらの家電から排出される風がピアノに直接あたると
ピアノは急激な変化についていけず、不具合が発生してしまうことがあります。
家電の直接風が当たらない場所がピアノにとって優しい環境と言えます。
どうしても設置場所がエアコンなどの動かすことができない家電の近くになってしまう場合は、
風向きの設定やルーバーを使用するなどで、風の通り道をコントロールすることで、ピアノに優しい環境に近づけることができます。
3・床暖房を避ける
床暖房は使用中、常にピアノを温めることになってしまいます。
そのため、ピアノの水分が飛びやすくなり、過度の乾燥状態になってしまう可能性があります。
できる限り、床暖房がない場所に設置することがピアノにとって優しい環境と言えます。
床暖房が既に導入されている場合は、ピアノに熱が伝わりにくくするための断熱パネルを導入したりすることでピアノに優しい環境を目指すこともおすすめです。
4・アップライトピアノを壁にべったりつける事を避け、少し距離を開ける

アップライトは構造上、音の出口である響板が背面にあります。
そのため、壁にべったりとくっつけて設置すると音の通り道がなくなってしまい
こもった音の原因となります。
設置の際は少し壁から離して音の通り道を確保できる場所に設置しましょう。
こうすることで、ピアノ本来の音が聴こえるようになり、ピアノと演奏者双方にとって優しい環境となります。
5・空気の流れがない空間を避け、風通しの良い場所に設置する
ピアノ内部のパーツは木材や羊毛、金属のパーツ等複数の素材で構成されています。
空気の流れがない環境に長期間設置していると、虫食いや錆・カビの原因ともなってしまいます。
そのため、風通しのよい場所に設置することがピアノにとって優しい環境と言えます。
また、定期的にカバーを外して、屋根や鍵盤蓋を開けた状態でピアノ内部に風を通してあげると内部にこもった湿気を追い出し、空気の入れ替えができるのでおすすめです♬
設置場所のポイントをいくつかご紹介しましたが、ざっくりとまとめると
『家電の直接風などの影響を受けない風通しのよい日陰』
が、ピアノにとって優しい環境と覚えていただけたらと思います。
番外編 設置環境によって起こり得るトラブル
最後に設置環境によって起こり得るトラブルを紹介します。
1・カビ、サビ

湿度が過度に高い環境に設置していた場合、発生リスクが高まります。
サビはパーツの表面がざらついてしまうため、内部パーツの動きが鈍くなったり、雑音の原因にもなります。
ひどくなるとパーツが動かなくなってしまうことも…。
また、カビが生えてしまうほどパーツに湿気がたまった状態だと、動作や音色が悪くなってしまったり、パーツの寿命を縮めてしまう場合があります。
2・動作不良

湿度が過度に高い環境に設置していた場合、発生リスクが高まります。
ピアノの内部では複数の回転運動を組み合わせることで、発音しています。
湿度の影響で木やフェルトが膨張し、回転運動の軸を圧迫してしまうことで、動きが鈍くなってしまう原因となります。
状態がひどくなると、鍵盤を離したのに内部パーツが元の位置に戻らず発音できなくなってしまいます。
3・雑音

湿度が過度に低い環境に設置していた場合、発生リスクが高まります。
ピアノ全体でグランドピアノは約10,000個、アップライトピアノは8,000個ものパーツが緻密に組み合わさって発音しています。
過度の乾燥によって、木やフェルトが収縮してしまうことで、余計な隙間が生まれてしまい、楽器の振動に共鳴し雑音が発生する原因となります。
4・ガタツキ

湿度が過度に低い環境に設置していた場合、発生リスクが高まります。
ピアノの内部では複数の回転運動を組み合わせることで、発音しています。
湿度の影響で木やフェルトが収縮することで、回転運動の軸に余計な隙間が生まれてしまい、パーツの動きが安定せずフラフラとぐらつく原因となります。
ぐらつきが発生してしまうと、演奏者の意図が正しくピアノに伝わらずコントロールが難しくなる他、各パーツを動かすエネルギーが逃げてしまう原因となり、弱弱しい音の原因にもなります。
5・割れ

湿度が過度に低い環境に設置していた場合、発生リスクが高まります。
乾燥状態が続き、木の収縮がすすむと最終的に割れてしまいます。
木が割れてしまうと、適切な動作が出来なくなったり、音の伝達がうまくできなくなる原因となります。
6・虫食い

設置環境によってはピアノ内部に住みつく虫たちにとって快適な空間になってしまい、内部のパーツを食べられてしまうことがあります。
パーツの一部を失うことで本来の役目を果たせなくなってしまう原因となります。
最後に…
ピアノは生き物に例えられることもあるほど、環境の影響を受けやすい楽器です。
さらに、大きな楽器で簡単に動かすこともできません。
そのため、設置した環境をいかに整えるかを考える必要があります。
しかし、100%ピアノファースト!な環境を常に作り出すことは非常に困難です。
それに、ピアノファーストを貫いた結果、人間が調子を崩してしまっては元も子もありません。
基本的には
「人が快適に過ごせる気温と湿度を一定に保つ」
ことを基準として覚えていただければと思います。
日本は四季の変化に加えて、地域によって環境に差が大きくあります。
「日本全国どこでだってこれをやれば絶対に大丈夫!!」
という方法はありません。
どれだけ注意していても、トラブルが発生してしまう事はあります。
そんな時はいつでも島村楽器までご相談ください。
私たちが全力で、一人一人に寄り添い皆様の音楽ライフが快適になるお手伝いをいたします。
この記事を書いたのは…
島村楽器 大阪ピアノ工房 藤岡
関西を拠点とする技術者が所属する工房
お客様の自宅へお伺いしてピアノのメンテナンスや修理、
お客様のピアノを工房へお預かりして、ご自宅ではできない修理やクリーニング
関西圏の島村楽器に展示しているピアノのメンテナンス等を行っております。