JUPITER-X(左)とJUPITER-Xm(右)
こんにちはサカウエです。デジランドで先日「Roland JUPITER-X / JUPITER-Xm | 歴代銘機のサウンドを1台に凝縮したシンセサイザー」でもお伝えした、ローランドの超弩級シンセサイザーの小型モデル「JUPITER-Xm」がついに発売されました。(JUPITER-Xは2020年3月28日発売)
JUPITER-X / JUPITER-Xmは、アナログ・モデリングと高品質PCMを兼ね備えたローランドの最新音源「ZEN-Core(ゼンコア)」を搭載し、歴代の銘機 JUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101、 XV-5080、RD-700の音色もボタン一つで即材に呼び出して演奏する事が可能なすごいシンセサイザーです。
本日はそのJUPITER-X(m)の開発責任者の方の貴重なお話を伺えるということで、ローランドの東京オフィスにやってきました。一体どんな裏話が聞けるのか楽しみです・ワクワク・・
2台のJUPITER-Xmの背後には61鍵モデルのJUPITER-Xが鎮座!こちらも発売が待たれますね。
さっそく責任者の方が到着されたとのこと!
は?
おお!
もしかしてローランド三木純一社長?満面の笑みで登場です。
・・・と少々わざとらしかったですが、そうです!JUPITER-X(m)の開発責任者はなにを隠そう三木社長ご本人!今回は社長自らインタビューに答えてくれるとのこと!そりゃすごい!
実は三木社長はもともとローランドの開発部門のご出身。今回のJUPITER-X(m)は、シンセオタクマニアでもある三木社長の長年の想いと夢が詰まった製品ということなんだそうです。
実はワタクシは20数年ほど前、当時開発部署に在籍されていた三木社長とエクスパンションボードやサウンドライブラリー関連のお仕事をご一緒させていただだき、デモ曲など作らせてもらったのですが、こうやってじっくりお話させていただくのはかなり久しぶりのことで感慨深いです・・では早速お話を伺ってみましょう!
--その節は大変お世話になりました!まずはあらためて三木さんのプロフィールを教えていただけますか?
楽器との出会いに関しては、小さい頃、いやいやピアノを習わせられていた程度で、結局それもバイエルの終わりくらいでやめてしまいました。その後学生時代にはギターや鍵盤楽器をやっていましたがあくまで趣味の範囲。大学時代は電気・電子を専攻していて、就職の際も電気系のものづくりに携わりたかったという気持ちがありましたが、実はRolandという会社の存在は全く知らず、たまたま新聞の人材募集記事でみた電子楽器の新卒技術者募集に応募したんです(当時はローランドは6期目で初の新卒採用だったそうです)
電子技術で楽器が作れるなんてことはその募集記事で知った(!)のですが、なんだか面白そうだなと思ったのが入社のきっかけです。入社当時は製造部門でエコーマシンやリズムマシンを担当していました。当時は稼ぎ頭の部署だったと記憶しています。なお別のシンセ開発部門は、最先端の技術でSYSTEM-700といったフラッグシップシンセを開発する社内でも憧れの部署と言われていましたね。
その後、SR-JVシリーズ(1992~)というエクスパンションボードなどのサウンドライブラリー開発や、電子チェンバロやオルガンといったクラシック関連楽器の楽器開発を経て技術者時代に手掛けた最後のプロダクトは「V-Combo VR-09」というコンボオルガンだったと思います。
SR-JVシリーズ エクスパンションボード
V-Combo VR-09
--JVシリーズを始め、多くのミュージシャンが三木さんが関わった製品にはお世話になってきたんですね。それでは今回のJUPITER-X(m)の企画背景についてお伺いします。まずこのJUPITER-Xmですが、この小さな筐体はちょっと意外でした。
もともとシンセのゲームチェンジャー商品を作りたいという気持ちがあって、2年くらい前から前述のVR-09でやり残したことのリベンジ的な感じで、小さなボディーにオルガン、ピアノ、シンセといったエンジンを搭載して、かつ曲も作れるという製品の進化版というアイデアがありました。
一方で開発の効率化という課題も感じていて、今まではたとえばFANTOMが終わったら、次はJUPITERの開発・・といった具合にシリアルの作業だとどうしても時間がかかってしまうんですね。そこで、自動車メーカーのグローバルプラットフォームのように、共通した一つのプラットフォームからRVもセダンもハッチバックも作れてしまうようなシステムをシンセ開発でもできないかなと考えたわけです。そこで共通となるコア音源から複数のプロダクトを生み出すというアイデアに至りました。
--なるほど、そしてその結果生まれたのがFANTOMやこのJUPITER-X(m)ということなんですね?
JUPITER-X(m)の誕生に至るまでは様々な変遷があるのですが、まず一言でいうと、食卓はもちろんどこにでも持ち出して使うことができるこんな「シンセオタクの夢のスタジオ」(笑)ですね。
--ウクレレにインスピレーションを得たというお話も聞きましたが、オールインワンでなぜ食卓でと思ったんでしょう?
今ウクレレが売れているのは、小さくてどこにでも持ち出せてメロも伴奏も鳴らすことができる「オールインワンモデル」だと思いませんか?そんなことを感じていた時に、たまたまとあるEDMのプロデューサーと話をしていて「いつも外に持ち出して音楽を作れるツールがほしいと思っている」と言われたんですね。暗いスタジオに詰めていると新鮮な発想が生まれないというんです。カフェや湖畔、ビーチといったオープンな環境で音楽を作りたいと。その話を聞いて、電源スイッチを入れたらすぐに音楽を楽しめる電子楽器ができないかと思ったわけです。
一方で、スマホの普及で変化したライフスタイルも考慮しました。今はみんな面倒がるようになってきて、例えば音楽を聞くにしてもわざわざヘッドホンを出してきたり、アンプに電源入れたりということすらしない。私も自宅に帰った時に自分の部屋ではなくてダイニングでスマホいじっている時間が多くなってます。じゃあこの食卓でシンセを弾こうと思ったらどうでしょう?あの写真のようなシステムは絶対に無理ですし、電源もつなぐのも面倒なんでバッテリー内蔵、スピーカーも付いてないと・・・でもこれ(JUPITER-Xm)さえあればそれが全部実現するんじゃないかと・・しかもBluetooth対応で、スマホから音楽を飛ばして自分の好きな曲に合わせて演奏もできます。
--今までお話を伺ってきて実はこれを一番欲しかったのは三木さんという気がしたのですが?
はい、これはまさに自分が欲しかった製品そのものです。今回は後述するチップや鍵盤、金型もすべて新規に作ったので、かなりの開発費がかかりましたが、社内では「社長のわがまま」と言われています(笑)
--コア音源から複数のプロダクトを生み出すというアイデアについて、新音源の「ZEN-Core」について教えて下さい。
まず共通音源コアとなるBMC(Behavior Modeling Core)と呼ばれる新しいSoC(System-on-a-Chip:装置/システムに必要な機能をすべて一つのチップに実装する方式)を開発するために膨大な時間と資金を投資しました。このハードウエアを共通基盤として様々な楽器を開発していくことができる様になりました。BMCには、DSPおよびCPUコアブロックの大規模な配列とハードウェアロジックが含まれています。
ZEN-Coreは、BMC上で動作する拡張およびカスタマイズ可能なシンセサイザーエンジンです。一つの音源システムから様々な楽器を出すことを可能にするために、PCM、VA(ヴァーチャルアナログ)、DSPシンセといったRolandがこれまで開発してきたすべての音源を統合しています。
またZEN-Coreの特徴として、エクスパンダビリティー(拡張性)があります。たとえばFANTOMにはV-Piano音源が、JUPITER-X(m)には往年の名機を再現するモデリング機能であるABM(Analog Behavior Modeling)が搭載されています。また発音数もVAだと32音ですが、PCMであれば256音というようにCPU負荷をリアルタイムに自由自在にアサインできるというスケーラブルという特徴もあります。
JUPITER-X(m)のダイアグラム
この他にもZEN-Coreには、将来的にSuper Natural、バーチャルトーンホイール、ヴォーカル音源なども乗せていくことができるわけです。そしてこれらがBMCチップというハードウエア上で動いているわけですね
将来的には、気に入った音源を選んで拡張したり、自分だけのパラメーター構成を作ったりすることも考えています。これにより、同じJUPITERでも一台一台のコンディションが異なった楽器をカスタマイズすることが出来るようになります。現時点ではJUPITER、JUNO、JX、SH-101、XV-5080、RD-700が選択でき、JUPITERとJUNOのブラスにPCMのブラスを足すと言ったハイブリッドな音色も簡単に作れますが、将来的にはこのモデルのバリエーションも増やしたいと思っています。
【関連サイト】ZEN-Coreについての詳細はこちら
--なるほど、ところでJUPITER-X(m)には新しい「I-ARPEGGIO機能」が搭載されていますが、これについては三木さんが実演してくれる(!)と話を伺いました・・
gattobusさんというJUPITER-Xmの音色も作成していただいている方のYouTubeを見ながら必死に練習したんですけど・・(といっておもむろに弾き出す)
これはプリセットの「Upside Down」というScene音色を使っています。実はこれしか弾けませんが(笑)私のように鍵盤が弾けない人でもこんな感じで楽しむことができるのがJUPITER-Xmの魅力でもあるんですね。
三木さんが使ったSCENE「Upside Down」
このI-ARPEGGIOですが、演奏情報に応じてフレーズを生み出すという機能を応用したもので、複数のパートに複数のアルペジオをアサインして演奏に応じてパターンが変わるようになっています。もちろん音楽ですから、バックグラウンドのテンポやキーの破綻は起きないようになっています。正直言ってプロトタイプでは使えるようになるのか?と不安だったんですが、最終的には非常に音楽的なアルペジオが生まれるようになっていると思います。さすが我社の開発チームは優秀だと感心しました(笑)
デモ演奏中の三木社長「予測は難しいですが、しばらく弾いていると癖を掴むことができるよになりますよ」とのこと
このアルペジオ機能は、MIDI出力もしますし、実は裏でこっそり録音も行っています。「さっき弾いたフレーズ良かったけど!」という場合でもちゃんとキープしてくれているのです(遡れる時間制限はあるとのこと)先日ヨーロッパのEDM系のプロデューサーには「ハッピーアクシデント」といわれて喜ばれました。なお今回JUPITER-X(m)にはシーケンサーはあえて搭載していませんが、この小さい画面での操作は流石に無理だろうし、DAW機能はZenBeatsなどのスマホで良いんじゃないかと・・本当は直感的操作を優先してディスプレイもつけたくなかったくらいですから。
--先日リリースされた最新バージョンで機能改善されたAging機能について教えて下さい。
開発陣には「本体に温度センサーをいれてくれ」と無茶振りリクエストしたんですね。昔のアナログのJUPITERは、温度が変わるとピッチが変わったりしましたけど、それをどうしても実現したかったのです。JUPITER-X(m)ではチップ内部の温度を感知するようになっています。電源投入時から10分立つとピッチが安定するモードや、比較的短時間で安定するモードなどもついており、ディスプレイには温度表示もできます(笑)
アコースティック楽器は毎回弾くたびに異なった音程、音色になりますが、シンセで毎回同じ音になるのはつまらない。またアナログシンセの場合、一台一台のコンディションはすべて異なっていて音が違う。プレイヤーによっては少しチューニングが甘いほうが良いといった好みもありますが、それを実現するためにコンディションパラメーターで製造年数による経年劣化も再現できます。これでアナログ独特の有機的なサウンドを生み出すことができます。
--かなりのこだわりですね?ちょっとやりすぎのような気もしますが(笑)
もちろんこのパラメーターはOFFにすることもできますからご安心ください(笑)
この他にも3種類のフィルターモード(R:M:S)を搭載していますので、JUPITERにラダーフィルターの名機のフィルタリングを施すなんてこともできます。
--JUPITER-Xを含め、デジタルではモデリングで過去のビンテージ機器を復刻されていますが、今後はそれらをアナログでは作らないのでしょうか?
なぜRoland はアナログをやらないんだ!という方の意見はよく耳にしています。ヴィンテージモデルの復刻版、たとえばTR-808やJUPITER-8をアナログで再現するということは技術的には可能ですが、それは「Chaising the Ghost(ゴーストを追いかける)」ことになると思っていますのでやりません(キッパリ)。それに複数のメーカーが同じ復刻モデルを作るのは最終的には価格競争になってしまいますし、違いはRolandのロゴがあるかどうか?なんてことにもなりかねないですよね?
昔のJUPITER-8のときもそうでしたが、その時代時代でRolandにしかできないことを追求したいですね。JD-XAのようなハイブリッドシンセのように、アナログの良さも生かしつつ、デジタルにしかできないことを追求したいと考えています。デジタルならできることも変わってくるし、未来にもつながる。確かにまだまだアナログにかなわないところはあるが、それは将来的に実現できる自信があります。
したがってギターアンプもおそらく真空管モデルは作りません。デジタルにこだわることでローランドにしかできないゲームチェンジャー商品が必ず生まれると思っているからです。
--今後のローランドについて
これまで電子ピアノ、ミュージくんなどのDTM、ハードディスクレコーダー、といったように当社の製品は新たな市場を生み出してきたと自負しています。これからも、価値訴求であらたな楽器人口を増やして行けるようなゲームチェンジャー製品を開発していきたいと思っています。私が社長に就任したときのテーマは楽器の再生であり、楽器は軸。当社のリアルタイム音色合成技術などは、住宅関係、健康、自動車といった他業種でも応用可能ですが、事業のメインはあくまで楽器ですね。
--本日はどうもありがとうございました!
お約束のツーショット
JUPITER-Xmを試してみた
発売日
JUPITER-Xm
発売中
JUPITER-X
2020年春頃を予定
販売価格
JUPITER-X
(税込) ¥297,000 (税抜 ¥270,000)
JANコード:4957054516277
JUPITER-Xm
(税込) ¥176,000 (税抜 ¥160,000)
JANコード:4957054513474
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