コード進行とメロディーはどちらが先?
こんにちはサカウエです。「海を見ていたら自然とメロディーが湧いてきた・・・」という方が羨ましいです。
今回は「歌モノ」の作曲方法についてです。作曲方法は人それぞれだと思いますが、リズム・パターンに触発されて生まれた曲も数多くあるでしょうし、リフを思いついた段階ですでに曲の大半ができてしまったり、シンセのプリセット音色にインスパイアされて生まれた曲もあることでしょう。
このようにコード進行やメロディーだけでなく、リズム、音色、等々、音楽を構成するすべての要素が作曲のきっかけになる可能性があるのではないかと思います
いくつか例を挙げてみましょう。
VAN HALEN / JUMP
昔は楽器店のシンセ・コーナーではみんなコレ弾いていたという、白鍵盤だけで弾けるキャッチーなリフです。イントロはOberheim(オーバーハイム)のシンセ「OB-Xa」によるものですが、基本のリズムは下記のような感じです(音程は無視して下さい)。
この曲のシンセ・パートはギタリストであるエドワード・ヴァン・ヘイレンが弾いておりますが、ギターのバッキング的なリズムが特徴ですね。
同様のリズムでJUMPっぽい曲をさらっと打ち込んでみました。ギターはINTEGRA-7、ギリギリセーフです(たぶん)!
あくまで想像ですが「JUMP」は最初にこのリフができて、サビとか歌詞なんかは後から取って付けたような気がします。きっとそう・・
なおこのリフはベース音(C音)が保持され、上にGやFのトライアドが乗っかっていますが、このように、ある音を保持して和音が連結することを「ペダルポイント(オルガンポイントとも)」とよびます。
トニックやドミナントのルートをベース・ペダルポイントとして使っている曲は多いですね。
炎のランナー / ヴァンゲリス
こちらはEbのペダルに、F△と裏コードのB△を交互に乗っけた大げさ系(△はトライアド)
Yngwie Malmsteen - Rising force
ライブでのアクシデント
なおVan Halenのライブではバックのシンセとギターが半音ずれるというシンセ(カラオケ)が約半音高く再生されるというハプニングも過去にあったようです(※注)。スタッフが再生装置のサンプル・レートを間違えたのでしょうか?エディーもスクラッチで「ド」の音弾いた瞬間はアセったでしょうね・・途中でさりげなく半音上げてるし・・
完奏しちゃうところにプロ魂を感じました。さすがに演奏中にチューニングなんてできないですね。
(※)追記:JUMPは発表当時はキーCで演奏されていますが、Sammy Hagar がボーカルの時はD、近年はC#で演奏していたみたいです。ということはギターのチューニングが間違っていたのでしょうか?どなたか詳しい方がいらっしゃったらご教示いただければ幸いです。
追記:どうやらスタッフがノーマルチューニングのギターを渡してしまったというのが原因のようです。修正しました。
続いてはこれ。
アントニオ・カルロス・ジョビン(ニュウトン・メンドンサとの共作)です。
曲名の通りAメロはワン・ノート(実際は2音)できている曲です。ここからはまたもや想像ですが、この曲のメロディーは、イパネマ海岸を散歩中にジョビンの頭の中に降臨した・・という類のものではなく、おそらくは順次進行のコードをピアノでポロポロ弾いていて思いついたのではないでしょうか。きっとそう・・
こちらはジョビンのオリジナル版をボカロで打ち込んでみたもの
コード進行のおさらいですが、オリジナルは Bm7 - Bb7 - Am7 - Ab7 - G というドミナント・モーションです(キーはGメジャー)メロの「レ、レ、レ、レ、レー」というD音ですが、それぞれのコードにおいてどんな立場かというと
というように「レ」は3rdやテンションにとなるそれぞれのコードの「共通音」ということになります。
共通音を使ったコード進行
One Note Sambaのように、ある音を軸としてコードを変えていくという手法は定番のアレンジで、たとえば高域でストリングスを持続させておいてコードを変えたりするわけですね。
Gino Vannelli - Brother To Brother
頭の4小節でストリングスがF音で伸びていますが、ここではベースも同様にFのペダルですね。テンション1音加わるだけでコードネームが変わるのであくまで一例ですが、
Cm7(9)(onF) - F#m△7(onF) - F69 - Fm7(b5,11)
という感じの進行です。
Scritti Politti - "Perfect Way"
JUMPの場合は低音が持続音でしたが、このように高域の場合はソプラノ・ペダルポイントともよばれます。コツとしては3rdやテンション等の「オイシイ音」になるようなトップノートとコード進行にすることでしょうか。ルート音と同じ音を使うのはあまり向いていないようですね。
試しにG音をソプラノ・ペダルポイントとして適当にコードを変えてみましょう(キーボードはRoland FA-08)これは極端な例なので、あくまで参考ということでご覧ください(即興なので途中何を弾くか迷ってます・・)
撮影&録音 by ZOOM Q8
このコード進行におけるG音のそれぞれのコードでの役割を表にしてみましょう(テンション省略)
コード | Fm7 | Db7 | Cm7 | F7 | Bb7 | E7 | Em7 | Am7 | Dm7 | C△7 |
G音 | 9th | #11th | 5th | 9th | 13th | #9th | 3rd | 7th | 11th | 5th |
この参考動画で E7-Em7 のところは転調しているのですが、共通音を持続させておいて転調という手法は(良い意味でリスナーの期待を裏切ってくれるので)場合によっては劇的な効果を得ることができるかもしれません。
次の曲のキーはGmですが、エンディングにメロが「ソ」伸ばしでトニックのGmで終わるところをあえてEm7(9,11)で終わっているのでハッとさせられるわけです。
Regression 退行/菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール
絶妙のラテンアレンジ、洗練の極みという感じです。この曲のコード進行は同氏の別楽曲「京マチ子の夜」とまったく同じコード進行が使用されています。ちなみにイントロの弦楽四重奏はウラ拍始まりというのがミソ。
Eb△7 - Bb△7 - Am7(b5,9) - D7(#9,#11)
そういえば山口百恵さんの「いい日旅立ち」にも似てますね。たぶんそのままメロも乗るのではないかと思います。
共通音にSus4(サスフォー)を使う
冒頭のJumpの後半、シンセソロの終わりに「ソドレソ、ソドレソ・・」というsus4の速弾きが出てきますが、右手は「ソドレソ」のままルート音が Bb - A - Ab と下降していきます。
これも比較的よく使うテクですが、コードトーンは同じでもルート音を変化させることで結果的におしゃれなコードになったりするわけですね。この Gsus7(onBb) -Gsus7(onA) - Gsus7(onAb) という進行は、次のように表すこともできます。
原曲では使用されていませんが、Gsus4とノンコードトーンのベースとの組み合わせでよい感じの響きになるコードを下記に挙げておきます。
- Gsus4(onF) ⇒ F69(no 3rd)
- Gsus4(onE) ⇒ Cadd9(onE)
- Gsus4(onEb) ⇒ Eb△7(13)
このようにベース音の取り方次第で色々なコードになることがお分かりいただけると思います。
なおsus4の速弾きアルペジオは比較的運指も楽(のように感じられる?)ですし、少々リズムがずれていてもなんとなく華やかに聞こえるので重宝します・・そういえば原曲も少々もつれてます 🙂
応用として単音、または4度系のアルペジオを継続しながらバックのハーモニーを変えていくというアレンジも多いです。
WORLD ORDER / WORLD ORDER・・「レ・ラ・ミ(Asus4)」のシーケンスフレーズ
この曲を初めて聞いた時は鳥肌たちました。いい曲です・・基本は
という進行なのですが、内声に共通のsus4が保留されていたり、それぞれのコードの9th、11thにあたるシーケンス等が鳴っていたりするので非常に力強く浮遊感のあるハーモニーとなっています。
コードネームを無理やりつけると
みたいな感じになってしまいますが、通常はここまでのような表記は行いません・・あくまで参考ということで。
コード進行をなめらかに聴かせるボイシングをするためには、この「共通音」を意識することも大事かと思います。
sus4については【関連記事】音楽力をアップする「耳コピのすゝめ 」第10回 マイナーでもメジャーでもないコード
作曲のアプローチ
この曲ですが、ハーモニー無しで最初にメロができたとは考えにくいですね。
Desafinado by Joao Gilberto
「音はずれ」「調子外れ」という原題からも分かる通り、バッキング無しでメロディーだけを聴くと非常にへんてこなメロディーに聞こえます。出だしのメロはともかく、途中は明らかにギターやピアノで色々なコードを当てはめながらメロディーも作っていったのだと思います。推測ですけども・・・
歌モノの楽曲を作る場合であれば、おそらく多くの方はギターやピアノなどの和音楽器でコードを鳴らしながら、
- コード進行を最初に作ってからそれに乗るメロを作る
- メロとコード進行を同時に作る
という方法で行っているのではないでしょうか?そして後から細部のコード進行を変えてみたり、アレンジを加えたりするわけですね。
まず進行を作って後からじっくり考えてメロ入れただろうと思われる例
Steely Dan - Gaucho (outtake) 完成前〜ピアノとドラムだけで音楽になってるのがスゴイです。
完成トラック
ちなみにこの曲はキース・ジャレットのパクリでは(?)・・という指摘で後にジャレットも作者としてクレジットされたという逸話があります
Keith jarrett - Long As You Know You're Living Yours (たしかにクリソツ・・ですね)
なおSteely Danのドナルド・フェイゲン(Vo、Key)の作風はブルースと密接な関係があって、コード進行にも如実に現れています。たとえば同アルバム収録の「Glamour Profession」のピアノソロで使用されている12小節のコード進行と、キーCの定番ブルース進行を比較してみましょう(矢印はドミナントモーションを表しています)
Glamour Profession(ピアノソロは3:34~)
これは伝統的なブルース進行の応用ということができるのかもしれません。後半のSteve Khanのギターソロ、超クールです!
そんなわけで、おそらく多くの方は楽器をいじくりまわしながら、悪戦苦闘しながらカッコイイ「リフ」とか「コード進行」とかを日夜模索していると思います。
昔、Lyle Maysさん(パット・メセニー・グループのキーボーディスト)にお会いした際、ご本人から「海を見てメロディーが浮かぶ・・という人がこの世には確かにいるのだろうけど、僕は毎日ピアノを弾きながらあーでもない、こうでもないって、産みの苦しみを味わってるんだ・・」みたいなことを伺った事があります。こうしたミュージシャンを一言で「天才」で済ませてしまうのはご本人の努力を蔑ろにする気がして非常に申し訳ない気がします。
最後に実験的な思惑で作られた曲をご紹介します。
Sunlight / Pat Metheny
さらっと聞いた感じは、非常にポップですが、めまぐるしい転調の嵐!まさに羊の皮をかぶった狼とでも申しましょうか・・・演奏者にはなんとも恐ろしい曲ですね。
メセニー先生曰く
「ポップな曲調でどれだけ転調できるかチャレンジしてみたよ・・」
とのこと。最初のモチーフ(キーB)をもとにガンガン転調していくわけですから、コード進行とメロディーを同時進行しながら作っていったのだと思います。
いずれにせよ気に入った曲のコード進行を耳コピして分析することは、作曲のヒントにもなるのではないかと思います(パクるのはダメ)。なおここで重要なのは以前にもご紹介した「II-V-I」のようにコード進行を体系的に理解するということだと思います。たとえばある曲のサビのコード進行を耳コピした場合、全部で12のキーのコード進行に応用することができるわけですね。
メセニー先生監修のソングブック(本人のコメント付き)
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★
メロディーはリズムやハーモニーとは切っても切れない関係にあるわけで、メロディーとコード進行もまた非常に密接に結びついています。第一回目で紹介した同じメロディーで異なるコード進行なども参考にしてみてください。
なおどうしてもカッコイイコード進行が思いつかないという方には下記の書籍をおススメします
【ザ・スペシャル・インタビュー】で紹介した篠田元一氏(作曲家・編曲家、ピアノ&キーボーディスト)の新書が8/24に発売されます。コード進行のネタ帳の決定版ですよ~
それでは~
もう4年前のパフォーマンスですが感動的です WORLD ORDER in WPC 2011
Gino Vannelli - Brother to Brother ( Live Montreal 1991 )
ベースとシンセはカラオケ!の同期ライブ。Ginoの大げさなアクションは笑っちゃいますが・・・マイク・ミラーのギターソロ痺れます!!
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