こんにちはサカウエです。今回は楽しい「分数コード」についてご紹介してみたいと思います。分数と言っても数学や算数の知識は必要ありませんのでご安心ください〜ちょっと長いので時間のあるときにでもじっくり読んでいただければと思います。皆様の作曲・アレンジ・プレイの何かのヒントになれば幸いです~by サカウエ
注)本記事の内容は和声法の見地からは正しくない部分もありますがご了承ください。
分数コードとは?
「分数コード」とはその名の通り分数で表記されたコードのことです。
のように、さまざまな表記方法があります。上が分子、下が分母・・お母さんが子供をおんぶしているわけですね。例えば
「C/D」の場合はCが子供(分子)、Dがお母さん(分母)となります。
しかし表記方法は統一されているわけではありません。例えばC/DをC(onD)と表記する場合もあるわけです。ここで少々気をつけなくてはならないことがあります。分子は「和音」というのは皆さんご存知と思いますが、では分母はどうでしょうか・・・・?実は
- 分母は、単音の場合と和音の場合がある
のです。
表記方法が統一されていいないということは、同じコード表記であっても人によっては異なった解釈で演奏してしまう危険があるわけですね。特にギタリストの方とキーボーディストの間では認識の違いが大きい傾向にあるようです。
分数コードの種類
さて分数コードをまず以下に大別することにしましょう。
- ベース指定コード
- アッパー・ストラクチャー・トライアド(UST)
- その他
ではそれぞれについて、表記方法の定義と特徴を説明していきます(あくまでこのページでの定義であることをご理解いただきたく存じます)
1) ベース指定コード
これはルート以外の音を「ベース音=最低音」とするコードを指します。普通Cメジャーコードだったら最低音はC音(ド)ですが、ベース指定コードの場合は、「ド」以外の音を最低音にするわけですね。構造は
- 分子:和音
- 分母:単音
となります。Bb/Cのようにアルファベット一文字ずつで表記される場合もありますが、これだと分母「C」が和音かそれとも単音なのか不明瞭ですね。そこでここではBb(onC)というように(onX)で表記することにします。なお分子はアルファベット1文字でも和音とみなすことにします。
ベース指定コードが使われるケース その1 ベース順次進行
バッハ「G線上のアリア」、「パッヘルベルのカノン」、山下達郎「クリスマスイブ」、プロコル・ハルム「青い影」・・・のようにベースが下降順次進行する曲では、このベース指定コードが多用使われるケースが多いですね。※順次進行:音階の隣り合った音に移動していく進行
プロコル・ハルム「青い影」(荒井由実の「ひこうき雲」はこの曲にインスパイアされたとのこと)
例えば青い影では
のようにベースが「ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド~」のように滑らかに下降するラインで演奏されるように、ベース音が指定されています。このパターンの特徴は
- ベース音がコード・トーンである
という点です。上記のコード進行におけるベース指定コードでは、すべてコードの5th(5度)の音がルート音として使用されているのがわかると思います。この順次進行は「安心感」と「安定感」を感じる(という人が多い)ので、定番のコード進行ということができるでしょう・・・逆に言えば・・非常に聞き慣れた進行であり、メロディーやアレンジのセンスが問われるのではないかと思います。古今東西このコード進行を使った曲は数え切れないことでしょう。
ベース指定コードが使われるケース その2 ペダルポイント
これはベース音(最高音の場合もある※)がずーっと同じ音をキープし(持続音)、上部に異なるコードが変化していくというパターン。
ヴァン・ヘイレンの「JUMP」のイントロは有名ですね。
最初に「C pedal」と表記しておき(onX)を付けないケースもあります。
※バロック音楽での「通奏低音」はまったく異なるものなので注意してください。
※最高音が持続されるケースは「ソプラノ・ペダル・ポイント」とも呼ばれます。
Propaganda - Dream Within A Dream ・・・5分間ずーっとベース音はCですね
ベース指定コードが使われるケース その3 IV(onV) ≒ IIm7(onV)
ポピュラーで最もよく使用されるのが IV(onV) ≒ IIm7(onV) というタイプのベース指定コードです。
和音部分はサブドミナント(IV)、ベースはドミナント(V)のルートというコードは、ドミナントに比べると若干浮遊感のあるサウンドになります。
なおIV(onV) ≒ IIm7(onV) ⇒ トニック(主和音I)という進行は
ドミナント(V)⇒トニック(I)
サブドミナント(IV)⇒トニック(I)
という進行とは雰囲気が異なりますが現在は非常に一般的なコード進行として使われています。
なお IV ≒ IIm7のとなるのは Dm と Fはコードの構成音が似ているからですね。ちなみに Dm7(レ、ファ、ラ、ド) は F6(ファ、ラ、ド、レ) となり構成音はまったく同じになります。
F
F△7
Dm7
よってキーCにおいては Dm(IIm)≒ F(IV)として扱うことが可能です・・というか、ポップスでは当たり前のように使われていますね。
では次にベース音をドミナント(V)のルート音にしてみます。
例:F(onG) ⇒ Fのトライアド(ファ・ラ・ド)でベースは単音のソ
例:Dm7(onG) ⇒ Dm7(レ・ファ・ラ・ド)でベースは単音のソ
The Beatles - The Long And Winding Road イントロの「ジャッジャー、ジャッジャー」がIV(onV)です
なおドミナント、サブドミナントって何?という方は下記記事をご覧いただければ幸いです。
音楽力をアップする「耳コピのすゝめ 」第7回 コードのお話その2
音楽力をアップする「耳コピのすゝめ 」第8回 ダイアトニック・コード
これもオススメ。
「ハイドンの名によるメヌエット」ラヴェル
この曲ではこんな和音が出てきますが、左手の5度重ねと右手の音の重ね方がとてもオシャレだと思います(いつの間に G ⇒ D に転調していますね)
ちなみにエンディングにはこんなハーモニーが使われています(もちろん原譜にはコードネーム表記はありません)下段のE音は抜くかもしれません。
Eb7(9,13)のあたりは完全にジャズのハモ、ビル・エバンス的サウンドですね(もちろんラベルが先ですが)オシャレです。
Dm(IIm)≒ F(IV)について(補足、読み飛ばし可)
たとえばKey=Cの場合 (△7はメジャーセブンス)
- F(onG)
- F△7(onG)
- Dm7(onG)=F6(onG)
はすべて同じ機能を持っていることになります。
構成音の比較
したがってどれもルートがG音の場合、これらのコードは同一の機能を持つ=同じと考えて良いのではないか?という理屈が成り立ちます・・一番シンプルなのがF(onG)ですね。
なおこれらは実は下記のように書き換えることができます。※omit=除くという意味
- F(onG) = G7(9)sus4 omit5th <<何じゃこりゃ!
- F△7(onG) = G7(9,13)sus4 omit5th
- Dm7(onG) = G7(9)sus4
すなわち
IV(onV) ≒ V7sus4
であるというわけですが、どちらの表記が理解しやすいかとえば圧倒的に左側の表記ですね。コード表記は「直感的に理解しやすい」ものが好ましいと考えられますので、上記のような表記がされるわけですね。
ベース指定コードが使われるケース その4 省エネ(?)コード
省エネコードを説明する前に、ここでテンションについて軽く触れておきましょう。
音楽ジャンルによっては「コードの機能を損なわなければ自由に音の重ね方を変えてもOK」という暗黙のルールがあったりします・・ジャズなどはその最たるものですね。例えばよく使われるコード進行でイチログニーゴー(I-VI-II-V)という進行があります。キーがCの場合は
C | Am | Dm | G |
となりますが、これを
Cmaj7 | Am7| Dm7 | G7 |
Cmaj7 | A7 | D7 | G7 |
と弾いたり、さらにこれにテンション(後述)を加えて
Cmaj7(9) | A7(b9,13) | Dm7(9) | G7(b9,13) |
と演奏することが(あるジャンルでは)当たり前のように行われるわけですね。下図では最初の2小節がベタな基本形~後半はテンション入りのボイシングの例。
響きは異なりますが、各コードの機能には(ほぼ)変えていないのでこうしたアレンジが許されるわけです。ただし、ジャズでは許されるかもしれませんが、これをシンプルなポップス、ロックなどでやってしまうとまず間違いなく「浮き」ます、叩かれます(泣)
世の中にはハードロックのように、テンションはもちろん、3rdや7th入れただけで途端にカッコ悪くなる音楽ジャンルもあるわけでして、TPOをわきまえるのは非常に大事です。もしあなたがアレンジャーで、ここは絶対こう弾いてほしいという希望があるのであれば、五線紙に音符を書き込むのが確実でしょう。
さて以上を踏まえ「省エネコード」について。たとえば上記の
Cmaj7(9) | A7(b9,13) | Dm7(9) | G7(b9,13)
は一見「オシャレ」っぽい感じになるのですが、例えば「シレミソ」といったメジャーセブンスの響きや、G7のところのシ(3rd)とファ(7th)で構成されるトライトーン(三全音、増四度)のサウンドは長年この手のボイシングを聞いていると少々陳腐な響きに聞こえてくるものです。どんなにテンションを入れたとしてもトライトーンの響きが残るわけで、これが少々気になるのですね(個人差あります)
トライトーン
←三全音(半音で6コ)の隔たりがある
※トライトーンと言うのは、不協和⇒協和 すなわち V ⇒ I 進行の概念で現れる非常に不安定であるとされる音程。上記の場合はファがミ、シがドへと「解決」することで安定するとされているわけですね。V7というセブンスコードにはこのトライトーンが含まれますので「次に進みたい・・安定したい」という現象の根拠?となる響きです。
ただこれはあくまで西洋音楽(クラシックを起源とする)理屈であって、世の中には色々な音楽がありますので・・・例えばブルースなどではこの音程ばかりですが・・・あくまで一つの理屈と考えてよいのではないでしょうか。
さて、先ほどの進行からさらに一歩進んで、各コードの機能を破綻させること無く、必要最小限の音でオシャレ効果を出すコードを考えてみます。それが省エネ分数コード(仮称)です。省エネ分数コードとはワタクシが勝手に命名したのですが、必要最小限で広がりのある効果を生み出すコードとここでは定義しておきます。たとえば
このボイシングですが、それぞれのコードを下記のように書き換えてみると、それぞれのコード機能が明確になります
- G(onC) ⇒ Cmaj7(9)から3rdをオミット(除く)したもの ⇒ I△7
- F#(onA) ⇒ A7(b9,13)から7thと5thをオミット ⇒ VI7
- F(onD) ⇒ Dm7です、ここではあえてF(onD)としました ⇒ IIm7
- E(onG) ⇒ G7(b9,13)から7thと5thをオミット ⇒ V7
これはイチロクニーゴーの変形と考えても良いと思いますが、冒頭の G(onC) はコードの機能を決定する「3rd音」が省略されています。そのせいで調性感から浮遊している存在のような感じがしますね。3rd の「ミ」を入れると台無しな感じに聞こえてしまうのはワタクシだけでしょうか・・・
なおこのコード進行では上声部がすべてトライアドなのでスッキリした響きとなるのが特徴で独特の広がりが生まれるボイシングではないかと思います。また上声部のトライアドが G ⇒ F# ⇒ F ⇒ E と並行半音下降している点にも注目してください。ただし、これらはまだ調性という重力圏内での運動に過ぎないとも言えますが・・
なお C△7(9) のようなテンションを含んだコードでも、内声にsus4が生まれる様に配置することで、普段聞き慣れたサウンドから抜け出すことができるかもしれません。下図ではドレソの部分。
俗にカンタベリー系と言われる「Hatfield&The North」というバンドのアルバム「The Rotter's Club」はこうしたハーモニーのあくなき探求を堪能できるアルバムだと思います。YESなどもそうですが、ドミナント7thコードの特徴であるトライトーンはほとんど使われていないのではないでしょうか。必聴です。
ベース指定コードが使われるケース その5 ドミナント転回形、その他
7th(V7)の7thをルートとするケース
例:C7(onBb)など
一瞬緊張感が生まれるのでなんとも言えない気持ちよさが生まれますね。下記の進行はチャイコフスキーのピアノコンチェルト#1(原曲は半音上)を参考にしたものですが、ベース音のなめらかな進行を生み出す過程で生まれたベース指定コード F(onEb) が特徴です。
下図は V(on7th)⇒I(on3rd) の連結でベースがなめらかに半音下降していくパターン。上部のトライアドはドミナントモーションですね。永遠に循環するコード進行です
C(onBb):ドミナント7thコードの第三転回型(7thをルートとする)と考えられます。
正体不明なベース指定コード
これは一見するとなんだかよくワカラナイ非機能的なコード。前述の省エネコードの考え方を拡大していくことにより非常に刺激的なサウンドを生み出します。理屈や根拠はいくらでもあとから説明することができそうですが、シンプルなロックの世界では楽譜の誤植以外は絶対にお目にかかることはないでしょう。
例:C(onEb), C(onAb), C(onDb)など
ブルーノート時代のハンコックはこの手のカッコイイボイシング多いですね
プログレバンド「UK」のDanger Moneyオープニングは「C#(onE)」という変態コード!短9度(b9)という古典音楽理論では「禁則音程」をあえて使っているわけです。
・・さてだんだんとややこしくなってまいりましたが、以上が「ベース指定(オンベース)」コードのまとめでした。
それでは次章は和音の上に和音が乗るコードについてご紹介することにいたします~