先日コルグさんがアナログ・シンセサイザーの銘機 ARP Odyssey(アープ・オデッセイ)を「新規開発」しているという衝撃の発表を行いましたが、今回取り上げるのはそのARP社が1972年に発売したプリセット式のモノフォニック・シンセ「Arp Pro Soloist」です。
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「Arp Pro Soloist」を使っていたキーボードプレイヤーといえばまず真っ先に思い出すのがGENESIS(ジェネシス)のトニー・バンクス!そしてアルバムはコレでしょう!
「月影の騎士」原題"Selling England by the Pound" 1973年リリース
EMI Europe Generic (2009-03-05)
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この当時(70年代)はまだ日本ではまださほど有名ではなかったのですが、本国イギリスでは「ライブアクト部門で常に第一位」という非常にメジャーなバンドだったと記憶しております。本アルバムは演奏もさることながら、練りに練られた楽曲構成、ウィットに富んだ、しかし深~い歌詞、等々まさに世界遺産級の作品に違いありません。なおメトリックモジュレーションとか変拍子、ペダルトーンを多用した変なコード・・・といったプログレ独特の作法(?)がわざとらしくなく、あくまで音楽的であることはこのバンドの特徴だと思います。陰影の濃い、文学的でお上品で牧歌的な大英帝国というイメージです・・意味は自分でもよくわかりません。
さて本アルバムでトニー・バンクス使用しているキーボードですが
- アコースティック・ピアノ
- ハモンド・オルガン(Tシリーズだと思われます)
- メロトロンM400
- エレクトリック・ピアノ(RMIエレクトラピアノ、Hohner Pianet N)
- Arp Pro Soloistシンセサイザー
トニー・バンクスは本作から本格的にシンセを導入し始めたのですね。それがArp Pro Soloistだったわけで、その後もしばらく使い続けています。本作の7曲目の「 The Cinema Show」では8分の7拍子のリズムにあわせ、約5分間延々と続くArp Pro Soloistのソロを聞くことができます。左手のメロトロンによるコードワークいいですね~
ちなみにフィル・コリンズのドラムフレーズを耳コピして打ち込んでみました。ドラムのプラグイン・ソフトはBFD3を使用しています。
右手と左手のコンビネーションはこんな感じになっています
一番下の音から順にバスドラ、スネア、ハイハット(クローズ、ペダル、オープン)の順です。完全ジャストタイミングですが、ベロシティー(強弱)は細かく設定してあります(耳コピ制作時間5分)。
1973年のライブ
24分くらいからトニーは12弦ギターも弾いてますが、ロックバンドのくせにリードギター(スティーブ・ハケット)が座って弾いているのがいいですね(キングクリムゾンのロバート・フィリップもそうでしたね)・・スティーブ・ハケットはすでにこの時代(1973)でライトハンド、タッピング、スイープという当時は革新的なテクニックを駆使していますが、実はヴァン・ヘイレンのライトハンドより数年早いのですね。
さて話はシンセに戻りますが、モノフォニック・シンセ「Arp Pro Soloist」はMini Moogや ARP Odysseyとは異なるプリセットタイプのシンセです。
前モデルSoloistの改良版という位置づけの本機は、37キー、1オシレーター、24dB/oct ローパス・フィルターといったスペック。特徴的なのはアフタータッチで、ワウ、フィルタービブラート、そしてピッチベンドをかけることができた点です。見てお分かりの通りパッチングやツマミというものは見当たらなく、30種類のプリセットを手軽に使用できる設計となっています。
オルガンやピアノの上において演奏にバラエティーをつけるといった使用方法を想定したのか、パフォーマンス重視のソロシンセといったコンセプトだったのでしょうか、音色もフルート、バスーン、オーボエ、ブラス、ストリングス等の音色がメモリーされ、ライブでも瞬時に音色を切り替えて演奏することができました(今では当たり前ですが・・・)前述の「The Cinema Show」のソロでもトニーさんは頻繁に音色切り替えをしております。
キーの左側にある4本のスライダーはボリューム、タッチセンシティビティー、カットオフ、ポルタメントをリアルタイムコントールでき、レバーはオクターブ切り替えで上下1オクターブの切り替えが可能です。音色は正直いって「しょぼい」です・・が何故か表現力に富んでいます。それは何故かというとやはり「アナログ」ゆえの音の揺れであったり、微妙な音程の変化、リアルタイムにコントロールするテクニック・・といった要素によるものだと思います。
というわけで今回は「チープな音に表現力を加えるための音色作成方法」にテーマを絞ってみたいと思います。
Retrologueで試してみる
スタインバーグCubase7.5に付属のバーチャル・アナログシンセ・プラグイン「Retrologue」でチープながらも味のある音色を作ってみたいと思います。原曲で使用されている音色とは異なりますが、応用例としてご覧いただければ幸いです。
まずはオシレーターむき出しのノコギリ波「うーんしょぼい!」
ポルタメント(アナログシンセには必須!)をかけます。音と音が滑らかにつながり、シンセらしくなってきます・・
ディレイをかけます・・少々大げさですが・・ここで違いはハッキリお分かりいただけると思います。
フィルター(LP24dB)を少々修正、エンベロープのアタックも若干ゆっくり目に・・アタック感が変化しました。
フィルター・カットオフグリグリさせると「ウネウネ」感のある有機的な感じが出せます。それをLFOを使って自動「グリグリ」・・わかりやすくするため少々極端にしています。
ここで重要な事は「ディレイがかかっている」ということ!音色変化の有無でディレイの効果は歴然。原音とディレイ音が徐々に重なっていく際、微妙に異なった音色が重なっていくので厚みが増すわけですね。フィルターとディレイの組み合わせはクラブ系音楽のシーケンスフレーズなどに非常に効果的です!
最後にコーラスエフェクトもかけてみました。
いかがですか、一番最初と最後をもう一度聴き比べていただければおわかりいただけると思いますが、全く別の音色に聞こえると思います。
☆
ということで今回試した方法は、最新式のデジタルシンセでも応用ができるシンセ音色エディットの一例でした。プリセット選んでそのまま使うだけでなく、ぜひ自分だけのシグニチャーサウンドをみつけてください。でわ。
☆
この方のデモはわかりやすいですね
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GENESISはボーカルのピーター・ゲイブリエル(ガブリエル)を中心としたイングランドのプログレッシヴ・ロック・グループ。「プログレって何?」という方もいらっしゃると思いますが、とにかく黙ってこのアルバムを聞いてみてください。損はしないと思います・・というより聞かないと人生損します・・・というくらい名盤中の名盤だと思います。ピーター・ゲイブリエルが脱退した後のジェネシスはポップバンド(?)としてその後大成功したのは有名な話です。