【作曲少女Q】その11『作った曲の変なトコを見つける方法の話』

記事中に掲載されている価格および仕様等は記事更新時点のものとなります。

© Shimamura Music. All Rights Reserved. 掲載されているコンテンツの商用目的での使用・転載を禁じます。

番外短編集『作曲少女~曲を作れるようになった私が気になったことの話~』

『作った曲の変なトコを見つける方法の話』

「何かがおかしい……」

何かがおかしいんだ。具体的にどこっていうとウ~ンって感じなんだけど、この曲はなんだか……何かが、何かがおかしい……。なんていうかこう、”ちゃんとしてない”。

……珠ちゃんから教わったやり方で、なんだかんだで3曲を仕上げた私。それだけを見ると半端じゃない成長ぶりだし、自分でもちょっとビックリするけど、4曲目に差し掛かった私は自分の曲に違和感を覚え始めていた。

「私の曲、たぶん変だこれ……」

さっきから漠然としてるこの悩み。悩みの正体も曖昧なんだけど……でも、そうとしか言いようがない……。

*~*~*~*~*~*~*

「お、これはもしかして、採点ミスだな?」

「え? あ、ホントだ」

授業終わり、お昼休みでお弁当を食べようと机をくっつけた珠ちゃんは、なんだかいぶかしげにさっき配られた歴史の小テストの答案用紙を見ている。ちなみに私は78点で、珠ちゃんは82点。

「言ったら点増えるんじゃな…………いや、珠ちゃんこれ、間違いじゃない?」

「え、嘘? 合ってるだろ? ほら、『徳川慶喜』だろこの答え」

「いや、答え自体は合ってるんだけど……」

珠ちゃんの答案用紙は確かに一瞬正解っぽく見える。けど、よくよく見てみるとその『慶喜』の慶の字がなんかグチャグチャってなってて、どういう漢字なのかよくわからない。

「珠ちゃん、この慶喜、なんかグチャグチャで誤魔化してない?」

「いや、今いろはも読めてたじゃん。答えはヨシノブだろ。だったらこれで正解じゃないか?」

「いやいや、漢字間違ってるしバツだよ?」

そう言うと、珠ちゃんはちょっと不満そうに反論する。

「これは歴史のテストだろ? 漢字じゃなくて、歴史のテストだろ? だったら、いろはもあたしもヨシノブだってわかる文字だったんだから、これで正解じゃないか?」

「いや、それは屁理屈じゃない……?」

「屁理屈なもんか。歴史の授業は歴史を学ぶ授業で、歴史のテストは歴史についてどれくらい覚えてるのかを確認するためのテストだろ。これじゃ漢字テストの立場がない! 漢字テストのアイデンティティがおびやかされているぞいろは! こりゃあとで先生に直談判だな!」

「……なんかもう、言ってることめちゃくちゃだよ珠ちゃん……」

すごい理屈でことのほかプリプリしていた珠ちゃんは、お弁当の中の卵焼きを食べた瞬間にもうこの件をすべて忘れたような顔になった。気分の上下激しいなぁ……。

「そうだ、そういえば珠ちゃん、私、またもう一曲書いてみたんだけど」

「お? へぇー、もうすっかり一人前だな。いよいよ作ってなきゃムズムズしてしまうところまで来てしまったか」

「あはは、まだそこまでではないと思うけど……でもちょっとその感じはあるかも」

「ここまでくりゃもうあとは気持ちのおもむくままいくだけだ。難しいことは考えずにドンドン作ればそれでいいと思うぞ!」

「いや、うん。それもわかるんだけど、ちょっと今引っかかってて……なんかね、私の曲、どこがっていうとちょっとわからないんだけど、何かがおかしいんだ……」

「何かがおかしい?」

「何か?」

「うん。でも、おかしくないのかなとも思うし……でも、おかしいような気もするような……すごい曖昧な話なんだけど、なんかざっくり “ちゃんとしてない” 気がするんだ」

「……あーーー。なぁる……それね」

珠ちゃんに話してみると、意味わからんって言われるかと思ったら意外にどうやらその件についてピンときたらしい。

「何が原因だとおもう? 違和感の正体は……?」

「そもそも曲聴かせてよそれ。何かが変……でまぁどういうことかは大体わかるけど」

「あ、うん」

私は、昨日いいところまで作ってスマホに入れておいた未完成の自分の曲を珠ちゃんに聴いてもらう。イヤホンを聴きながら珠ちゃんは(あ~、なるほどね)みたいな顔をしてた。

「……何かわかった?」

「ああ。やっぱり思った通りだ」

「私、何かが変ってことくらいしかわからないんだけど……変だよね?」

「ああ、変だな。こりゃ変だ。具体的にはベースとハーモニーが変なわけだけど……」

ミートボールのソースを口元につけたままの珠ちゃんは、キリッとした顔で言う。

「ちなみにだけどさ、いろは、この曲もしかして “何回か聴いてたらまともに聴こえる” んじゃないか……?」

「…………そう! そうなの!」

「でも、時間を空けて聞くとやっぱり一回目は変に聴こえる?」

「そう! そうそう!」

違和感、って言いかたをしていたのはそこだった。変なのは変だと思うんだけど、でも何回か聴いてたら別にこれでもいいんじゃない? って思えてくる不思議。でも、明らかに変なのは変なんだ。これは一体なんなのか……。

「あっはは。これはまさに初心者は必ず通る道のひとつだな。”何かがおかしいけど、何がおかしいのかはわからない”。うん。あたしもその現象とは長く付き合ったもんだ」

「そうなんだ……?」

お弁当の中にあるチキンバーをつまみあげると、珠ちゃんはそれを目の前にかざす。

「骨つきチキン」

「え? うん」

「これが本来あるべき曲の姿だ」

「……え?」

「そして……骨なしチキン」

「……うん」

「これがいろはの曲だ」

「私のおかずだね。食べちゃダメだよ」

「うむ。食べないでおこう」

……やばいなぁ、なんかよくわかんないけど珠ちゃん今日絶好調だ。ひさしぶりに何言ってるのか全然わかんない。

「え、えーっと……? つまりどういう……?」

「いろはの曲はね、”筋肉で立ってる” んだよ」

「え? 筋肉?」

「これをあたしは『脳内補完アレンジ』って呼んでるんだけどね」

骨つきチキンをムシャムシャ食べつつ、油で汚れた手を制服のシャツで拭――!?

「ちょっと珠ちゃん!? ティッシュティッシュ! シャツで拭いちゃダメだよ!?」

「え? あー。細かいこと気にするなよ。お母さんみたいだぞいろは」

「いやいやいやいや、それはさすがにどうかと思うよ!?」

「じゃあまぁ、ティッシュをおかりしときましょ」

「……ふぅ。で、どういう意味なの? 筋肉で立ってる? 脳内補完アレンジ?」

「うん、筋肉で立ってるっていうのはね、”ゴチャゴチャいろんな音は鳴っているが、肝心な骨がない状態” のことだ」

「……骨がない?」

「早い話がね、メロディとベースとハーモニー、この一番シンプルな飾り気のない骨組みのことを『マスターリズム』っていうんだけど、これがしっかり組めてない。でもいろんな音をあてずっぽうでガチャガチャと派手に鳴らしてるから、なんだかんだで誤魔化せてるっぽい状態、だ。”大体それっぽい”から、足りない分を脳内が補完して、なんか無理やりOKにしちゃってるって感じかな」

「……あー……」

そう言われると、ギクリと思い当たるトコロがある。オリジナルのメロディを考えてベースをテクスチャーで借りてきて、それを自分なりに改造してそこにハーモニーをつけて、ってやってるけど、その途中でなんかもっと奇抜なことやってみたいとか思って、ちょっと調子に乗った部分。そこのベースとハーモニーのハマり方が、正直だいぶ大雑把っていうか、なんとなくでやってる感じだった。

「奇しくもこれは、さっきあたしがやったことと同じ話だな。あたしが答案用紙に書いた徳川慶喜は、慶の字がいい加減だった。けど、どういうことかはなんとなく伝わる。いろはが言ってる『何かがおかしい』ってのは、答え自体は合ってるけどその詳細な部分がごちゃごちゃしててよくわからんってことだよ」

「よくわからんって……珠ちゃん自分でわかってるんじゃない」

「違う。あれは違う話だろ。歴史のテストは歴史をちゃんとわかってたらOKだって、そういう話だろさっきのは。まぁ、それはいいか。点数の2点や3点でガタガタ言うようなあたしではないからな! ……さて、じゃあ具体的にどこが曖昧なのか、もう一回聴いてみるか。…………ああ、この部分だな」

「たぶんBメロのどこかだと思うんだけど……」

「うん。たしかにちょっと変だ。でも、何回か聴いてたらまともにも聴こえてくる。こういう場合に有効な『骨組みチェック』の仕方を教えておこう。どうやるのかっていうとね……」

珠ちゃんはウズラのゆで卵を食べながら言う。

「全部の音を選んで、半音上げればいい。それで “おかしな部分” はハッキリする」

「え? 半音上げるって……キーを上げるっていうこと?」

「そう。半音上げるっていうかまぁ、何音でもいいし、下げてもいいんだけどね。要は今聴いてるキーじゃないキーでその曲を再生してみるんだ。そうすると、どうなると思う?」

「どうなるって……そりゃ、キーが変わる……だけじゃないの?」

「それがね、意外とそれだけじゃないんだ。とくにこの場合はね。たとえでいうとそうだなぁ……」

そう言うと珠ちゃんは、さてどう言えばわかりやすいか……みたいな顔をしながらちょっと考えごとをする。

半音を上げる? それで曲の変なところがわかるっていうのはどういうことなんだろ。だって全部上げるんだよね? だったらその変なところも一緒に……いや、もしかして……?

「ねぇ珠ちゃん……もしかして、変なところってキー変えたら目立つの?」

「お、そうそう! そういうことだ。なんだ、わかってるんじゃないか」

「いや、半分当てずっぽうなんだけど」

「つまりそうなんだよ。ガチャガチャ音を鳴らしてなんか誤魔化してるところって、キー変えたらすごい違和感が出るんだ。だから、キーを変えることでいったん脳内補完アレンジをオフにして、曲を聴き直す。変だと思う瞬間は正しいキーより露骨に目立つから、そこの小節数やタイムをメモして、その部分を重点的にいじる」

「そっかぁ~なるほど! 耳が聴き慣れてるのを一回、それでリセットするみたいな感じ?」

「そうだな。最初はどうしてもね、特に感性で音楽を書く場合は、どこがおかしいのかすら曖昧な “なんか変” 問題は頻繁に起こるんだよな。だからこそ、それを自分なりに診断して整頓するモノサシが必要になる。今教えた “キーチェンジで変なとこあぶり出し作戦” は、そのテクニックのひとつだね」

「なぁーるほどねー!」

「あとはその変なところをいろいろいじって、これだなっていうのが出るまで試す。これだ!って思ったら、もう一度キーチェンジをしてみて確認する。それでも違和感がなければ、おおむねちゃんとしてると思って正解だ。『キーを変えてもちゃんと意図した通りの効果になってる』、これが、いわゆる “ちゃんとしてる” の基準のひとつかな」

「さっそく試してみる!」

「この問題に直面したっていうのは、かなりの進歩だぞいろは。もう一人前かもな」

「え? でも私、なんだっけ、音楽理論? 全然わかってないよ?」

「まぁ、それはあとでわかるからほっとけばいいよ。理論書を読んでわかった気になるより、実際そうやって音をいじって感覚でわかってる方がよっぽど手っ取り早い。料理とかもそうだろ? ”おいしい感じに”っていう、曖昧だけどむしろ一番確かなその感覚を優先するのが大事なんだ。レシピよりずっとね」

*~*~*~*~*~*~*

家に帰った私は、さっそく言われた通りにキーチェンジで『変なとこ探し』をしてみる。すると、Bメロのところ以外にも違和感のある場所を見つけた。ここも、無意識にいろいろ鳴らすことで誤魔化してたところなんだなぁ……。

「さて……ここからがむしろ正念場、だね」

変なところの場所はわかった。あとは、いろいろ試して気持ち良い感触を見つけていく。

今日はここまで!

*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

⇒ 【作曲少女Q】トップページに戻る

パソコンが有ればすぐにDTMがスタートできる「ComposerGirl」セットご用意しました~

この商品をオンラインストアで購入するこの商品を展示している店舗

↑ページトップ