【作曲少女Q】その10『”うまい歌”と、歌う声優さんの話』

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番外短編集『作曲少女~曲を作れるようになった私が気になったことの話~』

『”うまい歌”と、歌う声優さんの話』

「カラアゲとか頼んじゃうか!? フライドポテトとかもあるぞ!? あ! あたしドリンクバー行ってくる! いろはは何がいい!?」

「え!? えっと、じゃあウーロン茶もらえるかな」

妙にハイテンションな珠ちゃんに、ドリンクをお願いする私。そういえばカラオケとか行ったことないねーって話を学校帰りに話してた私たちは、じゃあ今から行こうって話になり近所のカラオケボックスにいる。……でも、この珠ちゃんの謎のハイテンションは、なんなんだろう……?

「お待たせー! 持ってきたぞッ!」

「ありがと珠ちゃん♪」

「なぁ、いろは何歌うんだ? 何歌う?」

うお、なにこのグイグイくる感じ。手のつけられない犬みたいな感じだ……すんごい尻尾振ってる……。

「見ろいろは! ロボットボイス機能だって! 『アーアー、コンナノモデキルンダー』あははは!」

うわぁ、ダメだこれ、テンションおかしい。その機能はまず使わないやつだよ珠ちゃん。でも、さっきから何がそんなに楽しいんだろう……?

「……ねぇ珠ちゃん、何でそんなにテンション高いの?」

「え? だってさ、あたし友達とカラオケ来るの初めてなんだ!」

「えっ」

あ、まずい。どうしよこれ、聞いちゃいけないやつだったかも。何て反応すればいいんだろ……?

「そ、ソウナンダー……、うん、私もそれほど来ないカモー」

「え? いや、カラオケにはよく来るんだけどさ、いつもはヒトカラだから」

「ヒトカラ? って、ひとりカラオケ?」

「うん!」

「ひとりでカラオケ……って、それ楽しいの……?」

しまった。これこそ聞いちゃいけないやつだ。

「ん? いや、めっちゃ楽しいよ?」

「……そ、そう! そうだよね! ひとりのカラオケも楽しいよね!」

「でもふたりでカラオケも楽しいよな! ほらいろは、なんか入れろよー♪ 歌うぞこのーっ!」

「あ、あははは、うん、歌おっか」

「あたし先入れていい? どれにしよっかなー♪」

人と関わるのがちょっと苦手な珠ちゃん。どうやらこの子は、ひとりでカラオケに行くのが普通らしい。それって、私の感覚にはないやつだなぁ。ひとりでカラオケって楽しいの? でも確かに、ひとりでレストラン入ったりひとりで映画見に行ったり、ひとりで遊園地行ったりとかする人もいるにはいるって聞くし、たぶんそれはそれで楽しいのかな……? ひとりで遊園地はさすがに寂しいんじゃないかなと思うんだけど……。

しかし珠ちゃんのこのハイテンションぶり。そっか、珠ちゃん、誰かとカラオケ行ったことないんだ。だったら今日は、うんと盛り上げてうんと楽しまなきゃね!

「珠美、歌います!」

「わーパチパチ!」

そして、珠ちゃんの入れた曲の伴奏が始まり、歌い出す珠ちゃん。

……うわ、うまい。え? かなりうまくない? 何これ、作曲やってる人って、歌もうまいの?  珠ちゃんの歌声は、すっと芯が通っててまっすぐで、でも細かいニュアンス?みたいなのもいろいろ入ってて、すごく雰囲気のある歌だった。これは、珠ちゃんが作曲家だからなのかな? そうとも限らないよね? ……うわぁ、サビも伸び伸びとしてて、良い感じだなぁ。なんだろ、うまいっていうのともちょっと違うんだけど、味があるっていうか……。

*~*~*~*~*~*~*

「……かーなーえーーらーれーてくーーー」

「……おお~! 珠ちゃん、歌うまいんだね!」

「そ、そうか?」

「うん! ビックリ! 作曲家って、歌もうまいんだね~!」

「そうかな? いや、これはうまいとは言わないような……」

「うん、うまいというか、味があるっていうか。良い歌だなって思った」

「そうか。だったら良かった」

なんか、珠ちゃんが珍しく照れてる。

「すごいなぁ。なんか次歌うの緊張するなぁ」

「あはは。歌は、ちょっと気をつけることをわかってればそれなりには歌えるもんだよ」

「え? コツとかあるの?」

「んー、コツっていうか、どうすればある程度まとまってる歌に聴こえるか、みたいなのはあるかもな」

さらっと重要な秘密を話し出す珠ちゃん。それ、結構聞きたいやつだ!

私は曲予約のリモコンを操作するふりをして、珠ちゃんの話の続きを聞き出す……。

「それってどういうこと? まとまってる……?」

「いやさ、曲作ってると、ボーカルのピッチ……つまり音程をパソコンで修正したりすることも結構あるからさ、どういう部分を気をつければ”うまい感じに聴こえるか”みたいなことはある程度感覚で覚えてるみたいなとこあるんだよね」

「そんなのあるの!?」

「ああ。あるよ。この部分を修正したら大体ちゃんとするなーみたいな」

それって、つまりうまい歌とは何か、みたいなことじゃない!?

「珠ちゃん、さっきからさらっと言ってるけどその話、実はすごく重要なんじゃない?」

「え。そうかな?」

「で、で、珠ちゃん、どの部分を気をつけたら歌はうまい感じに聴こえるの?」

「おお、なんか食いついた」

食いつくよそりゃ! これはかなり気になることだよ! 知りたい女子高生が列をなすよ!

「んー、そうだな。まずは、音の出だしだ。とにかく出だしのピッチが不安定ってケースは多い」

「音の出だし……歌い出しってこと?」

「そう。伸ばすのは大体誰でもつつがなくできるんだけどさ、うまい下手って、実はその音の出だし、専門用語でいうと『アタック』のところでかなり決まるんだ」

「な、なるほど……?」

「音のキャラクターを決めるのは、アタックなんだ。これは結構おもしろい話でね、よし、ちょっと見てろよ?」

そういうと、珠ちゃんはスマホを取り出して、ボイスレコーダーを起動した。

「これは音の不思議だ。あたしは今から自分の声を録音する。こうだ。『アーーーーーーー』。はい。録れた。聴いてたよな?」

「え、えっと、うん?」

急に何始めたんだろ……?

「いろはは今、確かに私がアーッて言ってるのを聴いてたよな?」

「うん」

「でも、あたしさ、ボイスレコーダーの録音ボタンを、声を出すのより少し後に押したんだよ。そしたらどうなると思う?」

「どうって、だったら、途中からしか録れてないんじゃない?」

「うん。じゃあ、再生してみよう」

そう言って珠ちゃんは、ボイスレコーダーを再生する。すると……。

『ーーーーーー』

「??」

「あたしの声に聞こえるか?」

「えっと、珠ちゃんの声……? いや、珠ちゃんの声っていうよりは、ブザーみたいな音に聴こえる……ような?」

「そう。その通り。アタックの音がない、伸ばしだけの部分を録ると、なんと不思議なことに歌声ってやつは、ブザーみたいな音にしか聴こえなかったりするんだ。ビックリだろ」

「へぇええええええ! すごいね! なんか手品みたい!」

「つまりあたしが言いたいのは、それくらい、アタックっていうやつはその音の性格を決めるものってことなんだ。だから、歌う時はとにかくアタックについてを気をつける。その歌声がうまく聴こえるかどうかのかなり重要な部分を占めてるのはそこだ。音程をパシッと当てて、演技的な色もしっかりつけて、発音を、とにかく発音を! 気にして歌う。それだけで歌というものは、かなり良くなるもんなんだ」

「すごい! なんかこれ、すごいね! なんか物理的?みたいな!」

「さっきいろはがあたしの歌を『うまい歌というよりは良い歌』って言ったのは、実に適確な感想なんだよな。アタックがしっかりできている歌は『良い歌』になる。『うまい歌』になるかどうかは、そのあとのブザーの部分、そして音の切り方、いやゆる”歌い上げ”ってやつだな、それの良さで決まる。けどこの歌い上げについてはそれこそ、ボーカルとしての実力が必要だ。これを持ってる人が、ボーカルとしても優れてる人だと言っていい」

「へぇ~なるほどなぁ~!」

「だから、あたしができてるのはアタックだけだ。歌い上げについては、正直普通だよ。音の切り方くらいはちょっと気にしてるけどね」

「なるほどなぁ! 思った以上に物理的なんだね~!」

「ちなみに、この話をもう少し詳しく話すとね、感動する音っていうのは非常に物理的な話なんだ」

「感動する音……なんてあるの?」

「あるんだよ、それが」

そんなのあったら無敵じゃない? でも、あるというからにはあるんだろうな。珠ちゃんだし。

「『感動する音』で一番分かりやすいのは、和太鼓の音だ」

「ああーーーーー。感動するね」

「いや、感動はしていないんだ。でも、感動”させられる”んだよ。太鼓ってやつはね」

「え、どういうこと?」

珠ちゃんはドリンクバーでとってきた、なんか色の変なカルピス?(さては、何かミックスしたね?)を飲みつつ答える。

「そもそも人間が音を聞いて感動するっていうのは不思議なメカニズムだ。ある特定の音波や音程の体積を連続的に聴いて、それで心がある方向に誘導される、考えてみれば不思議すぎる話だと思わないか?」

「それは、そう聞くとたしかにそうだね」

「その中でももっともシンプルに、直接的に人の心を感動させるのが太鼓。それはね、音の波動で体を物理的に揺らして、『ドキドキしてる時の体の感じ』を擬似的に再現することができるからなんだ」

「……ああーーーっ! なるほど! ドキドキしてる時の感じ! 太鼓って体に響くもんね!」

「そう、実はたったそれだけの話なんだ。感動する音っていうのは、つまり体をドスンと揺らす音だ。良い方向の感動か悪い方の感動かはさておいてね。まず心が何らかの方向に動くのは間違いない。ごくシンプルに、物理的に動かされてる」

「そっか、なるほど。だからお祭りの太鼓とか、なんかグッときちゃうんだね」

「それでだ、さっきの話に戻るとね。じゃあうまい歌ってなんなのって話なんだ」

「うん」

「歌の上手さは、雑に極端に分けるとふたつのポイントに分けられると思う。『演技』と『音波』だ」

「演技? って、演歌みたいな?」

「演歌と言っちゃったらジャンルが限られるけど、まぁ例えばそうだね。どんな歌にも、演技って要素はかなり含まれてるんだ。この『演技』の部分が、歌の性格を決める。そしてもうひとつの要素『音波』は、その歌声の放つ物理的な音の波動がどれくらい人の体を振動させるものなのか、そういうビームみたいなものだ。これは、とにかく音が大きければ良いというものでもない。ある特定の効率的な音波を放つことで、人の心はもっとも良い振動をする。これを喰らうと、嫌でも感動する。出音一発で『うわぁ! うまい!』って思っちゃうのはつまりこれが強力だった場合だ。まぁ歌の要素にはもっといろいろあるけど、うまい歌とは、っていう話をマインドの部分を一切排除して語るなら、つまりこういう物理的な部分が勝負だったりするんだよな」

「なるほど……でもなんか、ある意味じゃ身も蓋もない感じするね」

「つまりそれくらいシンプルなんだよ。ちなみにこの『演技』と『音波』の話だけを切り出して言うとね、それは『声優』と『ボーカル』みたいなもんだったりもするんだ」

「え、声優さん? 何か関係あるの?」

「このふたつは同じく声を扱う仕事でありながら、特化してる部分が違うんだよ」

「ああ。でもたしかに。でも最近って声優さんが歌ってることって多いよね」

「繰り返すけど、歌は出だしでキャラクターを決める『演技』の要素と、聴く人の体を震わせる『音波』の要素がある。声優さんはもともと演技のプロだから、演技はまずできるんだ。けど音波はできないことの方が多い。そして逆に、プロコーラスなんかをやっているボーカルさんは、キャラクター性のある『演技』を求められると、やっぱりうまくできないことの方が多いんだよな」

「そうなの? 歌のプロの人は全部できそうな気がするんだけど……?」

「シンガーソングライターみたいな人は別だけどね。いわゆるライブとかに出てるコーラスの人やスタジオミュージシャンとかは、とにかく『音波』が好きなんだ。それを発することで震える自分の体、そして聴かせることで震える客席の体。その音的快楽が好きすぎるから、コーラスって仕事をしてるのかもしれないね」

「そっか。でも、言われてみればなんかそういう気がしてきたかも。声優さんは演技がもともと好きだから、キャラクター性のある歌い方で勝負する、みたいな話だよね?」

「つまりそういうことだな。歌っていうのがざっとそういうものでできているっていうのさえわかっておけば、何を鍛えればいいのかっていうのもわかってくる。っていうのが、作曲家の立場から見た全体的な事情だ。歌を歌うことに苦手意識のある声優さんっていうケースは多いんだけど、でも歌の半分の要素はむしろ特技だっていうことさえ覚えておけば、それを軸にして勝負することはできるとあたしは思うんだよね。演技のうまい声優さんなら、良い歌を歌うことはできる」

「はぁ~~~なるほどなぁ……。言われてみれば納得」

「さてと、それを踏まえて、次はいろはが歌う番だな?」

「エッ!?」

うわぁ、このタイミングで歌うの、すごい嫌!

「だーいじょうぶだって。『演技』と『音波』、どちらかができれば歌は良い感じになるんだから」

「私どっちもできないよ!? 大丈夫じゃないよ!?」

「あははは! じゃあ曲スタート!」

「うわぁああ!」

*~*~*~*~*~*~*

……そして、なんか緊張して色々中途半端な歌を歌う私。でもたしかに、言われた部分を気にして見ながら歌ったら、ちょっといつもよりうまく歌える気がするかも。なんてことを思いながら、ちょっと乗ってくる私。

「いいぞ! うまいじゃんいろは!」

「え、えへへ、そうかな? あ、2番始まる!」

うん、イイ感じ! なるほど、演技と音波かぁ。たぶんほかにもいろいろあるんだろうけど、でもこのふたつを気にするだけで結構変わるかも! なんか、もっといけそう!

「♪……きーっとーーーっ♪」

「失礼しまーす、カラアゲとフライドポテトでーす」

「お、待ってましたっ!」

!?

「……ぁぃ……して……る…………」

「ん?(モグモグ)どうしたいろは? 何で歌わないの?」

…………。

……今日はここまで!

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