【作曲少女Q】その9『ピアノが弾けない作曲家の話』

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番外短編集『作曲少女~曲を作れるようになった私が気になったことの話~』

『ピアノが弾けない作曲家の話』

「……(ゴクリ)」

……よし、この順番だよね。レドレファラシシ……。

「録音スタート……っ!」

レ……ド……ファ……っ!

「ぐおおおおおおおお!」

また違う音鳴らしちゃった。ぐぐぐ……。テンポどおりに弾いて音を入れていくの難しすぎる

よ……。

「ちょっと休憩……」

なんだかんだで、3曲仕上げた私。考えてみれば作曲歴14日+3週間で3曲作ったっていうのは、自分でもビックリするくらい優秀だと思う(まぁ、つまづくたびに珠ちゃんのアドバイスを貰ってるけど)。

それはまぁいいとして、私は最近ちょっと考えている。

「……やっぱり、ピアノ弾けたほうがいいよね……」

そう。ピアノ。ピアノっていうかキーボード? まぁようするに鍵盤。ピアノとキーボードって何が違うんだろ。まぁそれもいいとして。鍵盤を弾けない私は、曲を作る時にいちいちマウスでポチポチと音を入れていく感じで作っている。それでもまぁ、勢いで買ったキーボードは音確認とかメロディ作りの時とかには役に立ってはいるんだけど、でも、音楽ソフトの録音ボタンを押して演奏データを録音する『リアルタイム打ち込み』っていうのが、私にはできない。これができたほうが曲作りは全然早くなるんだろうなっていうのはさすがにわかるんだけど、でも、頑張ってみようとしても鍵盤経験のまったくない私はさっきみたいな、頭の中にあるメロディすらまともに弾けない。

「これはさすがに、単なる訓練の問題だよね……」

ピアノの練習かぁ。難しそうだなぁ。でもこれできたらいいなぁ。なんていうか、「曲作ってます!」って感じするし。マウスでポチポチ音符を入れていく作業ってなんかあんまり華やかなじゃないっていうか、ミュージシャン感がないっていうか。でもなぁ……。ピアノかぁ。

*~*~*~*~*~*~*

「ピアノが弾けたほうがいいかって? そりゃ、弾けるに越したことはないな」

そんなわけで日曜日の夕方、私はこの件についてを相談するため、珠ちゃんちに来た。お昼

頃まで徹夜で仕事してたらしい珠ちゃんは、寝ぼけ眼とすごい寝癖のまま部屋でゴロゴロしていた。

「だよね……」

「なんだ、えらく嫌そうだな」

「あー、嫌ってわけじゃないんだけど……。でも、ピアノって難しいイメージすごいから……なんだっけ、バイエルン? とかあるじゃない? そういうのを小さい頃からやってなきゃ無理みたいな……」

「バイエルン……? なんで急にウィンナーの話を……ああ、ピアノ教則本のバイエルね」

「あ、それそれ」

「確かに、なんなんだろうな。ピアノといえばバイエルで、しかもなんていうか、楽しくないストイックな訓練が必要みたいなイメージって根強いよな」

「そうじゃない方法もあるの? そうだ、そういえば珠ちゃんはどうやってピアノ弾けるようになったの?」

「え? あたしピアノ弾けないよ?」

「ええ!?」

まさかのコメントだよ! あの天才女子高生作曲家の珠ちゃんが、ピアノが弾けないなんて!

「え、ちょっと、意外過ぎてなんていうか、え? だって……でも、それでそんなに素早く作曲とかできるものなの……?」

「あー。まぁ、できるもんだよわりと。演奏と作曲は違うからね。即興で作るなら話は違うけど、作曲は考えながら作るし、そういう意味では必ずしもピアノが弾けなきゃダメってわけでもない。昔はパソコンがなかったから、ピアノ習得は必須だったみたいだけどね」

「そ……そうなんだ……」

「あたしのピアノ演奏力は……まぁこんな感じかな」

珠ちゃんはそう言うと、音楽ソフトを立ち上げて鍵盤からピアノの音が出るようにした。そして……。

「♪ ♪♪ ♪♪♪ ♪~」

「え」

珠ちゃんは、普通になんか曲を弾き始めた。これはどういうやつなんだろう、ジャズ? 明るくて陽気な、ちょっと古い感じのジャズっぽいのを弾いた。

「あれ、珠ちゃん、弾けないんじゃないの?」

「これくらいは弾けるうちに入らないよ」

「出た。出た出た。出ましたよ珠ちゃん。そうくると思ってた」

「え? どうした?」

あーあ。やっぱりなぁ。そうだと思ったんだよね。ピアノ弾ける人が言う『ピアノ弾けない』くらいあてにならないものはないんだよね。上級者はみんな、私みたいな初心者からしたらそんなの全然弾けてるじゃないっていうのを『弾けない』って言っちゃうんだよね。はぁ……。これが才能の違いなんだなぁ……。

「何でもない。私もピアノ頑張らなきゃなぁ……」

「いや、珍しくちょっと怒ってるな? 何を怒ってるんだよ」

「怒ってはないけど……やっぱりそうなんだなーって思って」

「そうなんだ、って……? ああ、今弾いたやつのことか?」

「うん。珠ちゃん、言っておくけどそれ、普通無理なやつだよ」

「あはは! それがな、実は私が弾けるのはこの1曲だけなんだ。ちょっとかっこつけて弾いてみただけだ」

「え、そうなの?」

「残念ながらそうなんだ。ついつい、ピアノ弾ける人アピールをしてしまったけどね。あたしが弾けるのはこの明るいジャズの1曲、奏法的には『ストライド奏法』ってやつなんだけど、これしか弾けない。ほかの曲はまったく弾けない。それは本当にマジだ」

「へぇ~! でも、一曲は弾けるんだね」

「うん。だってあたし、バイエルとかそういう勉強っぽいことするの死ぬほど嫌いだからな」

「ああ、たしかに、言われてみれば珠ちゃんがそういう勤勉っぽいことしてるのってイメージわかないかも」

「もちろんだ。あたしくらい勉強が嫌いなやつはいないからな。だから、楽しいと思える弾き方だけ、それ以外の応用なんかまったくできなくていいからひとつだけって決めて練習したんだよ。それだったらもともと好きなタイプのピアノ演奏だし、できるようになったらうれしいもんだよ。あたしは、音楽について訓練や勉強をするのなんてまっぴらごめんなんだ。遊んで遊んで遊ぶのが音楽だからな」

珠ちゃんが弾いた、ストライド奏法?のジャズのピアノは、明るくてリズミカルな雰囲気も含めて、なんだかいかにも珠ちゃんって感じがした。『これだけは弾けるようになりたい』かぁ。

「なるほどなぁ。弾きたくない曲をまったく弾かないっていう、そういう選択肢だってあるにはあるんだね……」

「ピアノのプロになりたいなら話は別だけどね。あたしが常々思うのはそこなんだよ。作曲をしようとか、楽器をしようとか、そういう時に初心者はいつも、まるでプロでも目指すのかなって感じの超ストイックな訓練をしがちなんだけど、そんなの続くわけないじゃん。つまんないんだもん」

「ああ……それはものすごくシンプルだけど本当のことかもしれないね」

「音楽に限った話じゃないけど、初心者が最初にやるべきことは『楽しみ方をたくさん見つける』だよ。中級者くらいになって、もしもっとうまくなりたいと思ったらその時にストイックな勉強や練習をすればいいのに、なんでか初心者に限って勉強勉強、練習練習、訓練訓練って感じになっちゃうんだよな。どんなのでもいいんだよ、とにかく楽しく遊ぶ方法を見つけなきゃ、明日もまたやりたいなって思わないもんな」

「うん。すごくその通りだと思う」

「そういう意味で、あたしが弾けるピアノはストライドジャズピアノだけだ。それ以外のピアノについては、聴くぶんにはいいなって思うけど弾けたら楽しいだろうな!っていう気持ちにはそれほどならなかった。だから、あたしが弾けるのはこのピアノだけだし、これから先もこれ以上ピアノについて弾けるようになろうとも思っていない。必要もないと思ってる」

「そっか。なるほど。じゃあ、私にとっても弾けたいなと思うピアノをひとつ見つけて、それだけをとりあえずやればいいんだね」

「まぁ、そんなとこだな。ところで、なんでまたピアノを弾けるようになりたいとか思ったんだ?」

「え? それはもちろん、作曲に便利かなと思って」

「便利は便利だけど、弾けなくても作曲はできるぞ? そういう作曲家もたくさんいるし」

「あー、うん。そうなんだけど……マウスで音符をポチポチいれていくの、疲れるなぁと思って……あと、せっかく買ったしキーボードも使ってみたいなと思ったりなんかして……」

あの中古のキーボードだって、使う人が使えばもっと便利な道具なんだよね。そう思うと、宝の持ち腐れ感がすごい。そういうのも使いこなせる自分になりたいっていう気持ちもあるし、あと、マウスでポチポチするのはやっぱり疲れるっていうのも結構大きな理由だったり。

「……でも、リアルタイムで弾いて打ち込んでいくっていうのだと、テンポが早くて慌てちゃって、なんか上手に打ち込みできないんだ。だから、ピアノ弾けたほうがいいのかなって……」

「それがネックなんだったら、別にピアノを弾ける必要はないな」

「え? そう?」

「要は、メロディやらを思いついた瞬間にスパッと打ち込みたいとかそういうことだろ?」

「……えっと……うん……? でも私、下手だからリズムずれるし、音も間違っちゃうし……」

「だったらまずは片方でいいんだよ」

「片方?」

「全部ドでいい。音の長さとタイミングだけちゃんと考えて、テンポに合わせてドだけで弾く。頭の中でメロディを想像しながらね」

「……そっか、なるほど」

珠ちゃんの言ってることが一瞬わからなかったけど、なるほど、それはいいかも。ピアノが弾けない私は、メロディをテンポ通りにちゃんと弾こうとしたからダメだったわけで、でも全部をドで弾いて音の長さとタイミングだけ合わせれば……。

「……つまり、ドだけで打ち込んで、あとでマウスでずらすっていうやり方だね……!」

「まぁそんなとこだ。パソコンだからこそできる、裏技みたいなもんだけどな! それだったらできそうだろ?」

「うん! そっかー、なるほどなぁ。私、ちゃんと弾けなきゃダメって思い過ぎてたかも」

「ちなみにあたしはこの機械に頼ったダメ技のことを『モールス打ち込み』って呼んでるんだけどね」

「モールス打ち込み?」

「モールス信号わかるか? ツッツーツツ、みたいなやつ。あれみたな感じだから『モールス打ち込み』」

「あー、なるほど」

「メロディくらいはサラサラっと弾けたほうがスマートだけどね。でも、慣れてないうちはモールスでいい。もしそれでもやっぱりメロディくらいはバシッと弾けるようになりたいと思うなら、この前教えた12キーのドレミ(詳しくは『作曲少女』を読んでね)を癖みたいに常にひと回し弾き続けたら、最低限の指回しはできるようになるよ。ピアノが苦手な作曲家が覚えるのは、そこまででも結構十分だ。欲を言えば、1曲くらいはまともに弾けた方がいいとは思うけどね」

「なるほどなぁ。そうかぁ」

*~*~*~*~*~*~*

その夜、家に帰ってから私はさっそく、珠ちゃんから教わった『モールス打ち込み』を試してみる。ひとつの鍵盤だけでする打ち込み。録音された演奏データは全部ドだけど、タイミングと長さだけは合ってる。それをマウスでズラしたら、マウスでひとつひとつ長さを調整しながら打ち込んでいくのよりはかなり早く打ち込めた。

「なるほど……これは便利かも……機械文明万歳……」

たしかに便利。でも、珠ちゃんが弾いてみせた、珠ちゃんが言うには”この曲しか弾けない1曲”。そういうのいいな。楽しそうに弾いてるその横顔が、私にもそう思わせてくれた。まずはモールスから始めて、私もじっくり『とっておきの1曲』を練習してみようかな。

今日はここまで!

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おまけ

ストライド奏法はこんな感じです。

ユジャ・ワンの” Tea for two ” スイングして・・・ない:-・・けど凄いですな)

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