【作曲少女Q】その8「”語り継がれる名曲”とはなんなのかという話」

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番外短編集『作曲少女~曲を作れるようになった私が気になったことの話~』

『”語り継がれる名曲”とはなんなのかという話』

「トーキョォォオオウ!」

「ディーズニィラァアアアンドゥ!」

「だな! いろは!」

「だね! 珠ちゃん!」

さて! ド頭からテンション高いけど今日は! 珠ちゃんと東京ディズニーランドに来ているのです! 今日は私も珠ちゃんよろしく、ぬいぐるみ帽子をかぶってお届けしております!

「しかしディズニーランドのショップはぬいぐるみ帽子の天国だな。素晴らしい品揃えだ」

ちなみに、せっかくふたりなので帽子はチップ&デール。私がチップで珠ちゃんがデール。

「なかなか似合うじゃないかいろは」

「え、そう? えへへ、なんか珠ちゃんになった気分♪」

というわけで、チップとデールをかぶりながら並んで歩く私たち。エントランスからすぐのアーケード「ワールドバザール」を歩いて抜けると、正面にあの有名なシンデレラ城が姿を現す。

「……おお、やっぱ良いもんだな」

「ちょっと冷えるけど、天気も良いし最高だね!」

「……でも、制服はちょっと寒いな」

2月の上旬。そりゃあもう、寒さはかなり極まってるけど、私たちは制服で遊びに来ている。放っといたら珠ちゃんはコンビニに行くみたいな格好で来ちゃいそうだったので、制服で来るようにって頼んでおいた。

「ピース!」

「ぴーす……なんかちょっと恥ずかしいな」

「珠ちゃん顔かたいよ」

「え? そう? あ! 目つぶっちゃったかも」

そしてシンデレラ城前。キャストさんにお願いして写真を撮ってもらう。自分で撮るよりキャストさんに撮ってもらった方が全然良い写真になるんだよね。うん、バッチリ!

……そして私たちは、あんまり焦らない感じのゆったりしたテンポでシンデレラ城前からトゥモローランドのアトラクションの方に歩く。

「……実はあたしさ、子供の頃、ディズニーって嫌いだったんだ」

「そうなの?」

「うん。なんなんだろうなぁ、大人が子供に押し付けてくる”子供ってこういうの好きでしょ”みたいなノリに反発したかったのかな」

「ああ、それはちょっとわかるかも」

「あと、アメリカンな過剰なアクションが無理だったのか、そのへんは正直曖昧なんだけど」

「でもそういう人結構いるみたいだね。ディズニーってだけで嫌いみたいな」

「うん。あたしもそのひとりだったんだけどね。どのタイミングだったか、それが丸ごとひっくり返って今は大好きなんだよな」

「へぇ~。でも、大人になってから好きになるっていう人も結構いるんだってね」

「あたしはまさにそのパターンだな」

*~*~*~*~*~*~*

スペースマウンテンやバズライトイヤーのアトラクションを楽しんで、それからファンタジーランド側に歩く。時間帯的に空いてるっていうのもあったので、そこらへんでアリスのレストランに入って小休止。

「あー、雰囲気いいねぇ。アリスの曲ってワクワクするね!」

「アリスの曲は特にウキウキするの多いよな」

「それにしても、こういう語り継がれるような名曲って、どうやったら書けるんだろうねぇ」

「ん、そうだなぁ、それについては、今の時代ではなかなか難しいかもしれないな」

「え? 今の時代って、時代とか関係あるの?」

なんとなく違和感のある珠ちゃんの返事。珠ちゃんはレストランのメニューを見つめて目移りでキョロキョロしつつ、それと同時にボーッと私と会話している。

「んー、関係ある。ちょっとだけだけど。……なぁいろは、このアンバースデーケーキ(なんでもない日のケーキ)、ふたりで食べないか? ワンホールはひとりじゃさすがにデブりそうだ」

「うわ、大胆なチョイスだね。でも……うん! たまにはいいよね!」

「……で、何だっけ、ああ、語り継がれる名曲を作るには、っていう話か」

「そんなのに答えなんかあるの?」

「あるよ」

さらっと言ってのける珠ちゃん。もしそんなことがわかってるなら、世の中の作曲家はみんなそれができるようになるんじゃって気もするんだけど……?

「語り継がれる名曲っていうのは、”多く聴かれた曲”のことだ」

「え……?」

なんかそれ、言ってること当たり前じゃない?

「いや、そりゃそうだと思うけど……だから、そんな風に何度も聴いてもらえる曲を作るのが難しいっていう話じゃない?」

当たり前のことを言われた私は、自分の質問が伝わってないのかとちょっと考える。別の言い方で聞こうかな?と思っていると、珠ちゃんは私のその顔を見て、続けた。

「大事なのはそこ、何回も聴いてもらえる、だ。どんなに素晴らしい音楽だったとしても、聴いてもらえなきゃそれは音楽としての使命を果たせてるとはいえない。語り継がれる曲は良い曲であるのと同時に、大勢に何回も、いつまでも聴かれているから”語り継がれる名曲”なんだ」

「いや、もちろん意味はわかるんだけど、だからね? 大勢の人が何回も聴くのは、曲が良いからなんじゃない?」

「名曲だから何度も聴かれる。もちろんそうだ。けど、同じようなクオリティのものなのに聴かれる回数が少なくて、結局今となってはほとんど誰も知らないっていう曲もたくさん存在するんだよ。覚えておかなきゃいけないのは、『大事なのは曲の出来だけじゃない』ってことだ。もちろん、曲が良いのは大前提だけどね。いわゆるヒット曲を作るために必要なのは、『良い曲』であることと、大勢に長い間聴かれる『状況』があるってことなんだ」

……ん~、なるほど……?

「特に今の日本の音楽事情の中で、あるひとつの曲を語り継がれるほどの名曲にするっていうのは難しい。なんでかっていうと、作っても作っても次から次にって感じで新しい曲が出てきて、1曲を聴き続けるっていう『状況』がないんだ」

「1曲を聴き続ける状況……」

「たとえばね、今このレストランで流れてる曲『不思議の国のアリス』のテーマ曲《アリス・イン・ワンダーランド》。この曲をあたしたちが知ってるのは、DVDやテレビや何かで、何度となく聴いてきたからだ。もっと誰でも知ってるのだったら、『ピノキオ』《星に願いを》とかね。この曲については、知らない人の方が少ない、誰でも知ってる名曲だ。《星に願いを》は、映画『ピノキオ』のために書かれた曲であり、そしてその後、ディズニーのイメージソングのようになったからこそ、ディズニーに触れたすべての人が一度は聴く曲になった。たしかに、クオリティとして間違いなく不屈の名曲でもあるんだけど、そんな風に”人に聴かれる機会が多かったから”、あの曲は誰でも知ってる、語り継がれる名曲になったんだ」

「あー、そういうことかぁ。ちょっと納得かも。……でも、それって今の音楽事情じゃ無理なの?」

「無理っていうか、難しいとこもあるね。テレビなどメディアが流行りを”作ってた”頃は、ヒットチャートがちゃんと機能していたしそれに合わせて若者も聴く音楽を選んでた。けど、もうネット時代だからね。それぞれの人が、ほとんど無軌道に好きなものを探すようになってからは、これっていう流行りの軸がない。すなわち、『多くの人に長い間聴かれる状況』が生まれにくい。ボーカロイドの曲《千本桜》がいろいろな場所で歌われるようになったことなんかは、その中での新しいムーブメントのひとつだけどね。でもオールタイムベストになるような伝説的ヒット曲のほとんどは、昔のものばっかりだろ? たとえば、山下達郎の《クリスマス・イブ》とかさ。とっくに新しいのに変わっててもおかしくないのに、いまだに冬になれば《クリスマス・イブ》だ。ああいう流行り方をするっていうことが、最近はほぼないんだ」

「……たしかに、この曲すごくいいのになんで流行ってないんだろうっていう曲、たまにあるよね」

「むしろそういう例の方が多いって印象かな。良い曲自体はたくさんある。けど、それを大勢の人が”なかば無意識でずっと聴く”っていう状況が生まれなくなったから、ヒットソングっていう概念は崩壊しちゃったんだ。まぁ、時代の変革なんだろうね。逆に言うと新しい流れが生まれる瞬間でもあるし、ことさら悲観するようなことでもないのかもしれないけど」

うわぁ、珠ちゃんめっちゃ考えてるなぁ。ワンホールのケーキをトレーに乗せて席を探しながら語りだしたよ。いや、でも言ってることはやっぱりさすがだなぁ……。

「珠ちゃん、ここどう?」

「お、オッケー」

そして私たちは、席についてアンバースデーケーキワンホールを、大胆に半分こで食べる。なんという贅沢さ。やばいねこれは。

「まぁさ、こういう話をしたくなるのはね(モグモグ)、今あたしがゲームの音楽とか作ってると(モグモグ)特に思うことなんだよ。イチゴ超おいしいなこれ」

「うん、やばいね」

「(ゴクン)……たとえばさ、特に最近はインターネットを活用したソーシャルゲームなども多いわけだけど、イベント追加曲追加曲追加曲って感じで、ゲームが公開されたあともどんどん曲を増やすんだ。それについては、まぁ作曲する側からしたらお金は貰えるわけだし願ってもないことなんだけど、でも、注意深くやらなきゃこれは逆に最悪なんだよね」

「珠ちゃん、口のまわりめっちゃクリームついてるよ」

「おっと……。でな、いたずらに曲数が増えると、その作品らしさっていうものがなくなっていく。バリエーションを増やそうとするあまりにね。だから、曲を増やすならその軸になる”作品らしさ”っていうものを注意深く徹底しなきゃいけない。けど、そこまで気をつけられる作曲家は少ないし、そんな的確な指示をできるディレクター(制作監督)もほぼいないから、作曲家もディレクターも途中でわけわかんなくなっちゃって、『どんな作品にでも別に使えちゃう、どうってことない曲』が生まれちゃいがちなんだ」

「なるほど……そういう意味でいうとあれだね、ここに流れてるディズニーの音楽とかは、そういうところがすごいのかも」

「うん、まさにそうだな。ディズニーの魔法がどこにあるのかというと、それは、あらゆる部門から末端にいたるまで徹底された『方向性の統一と世界観の厳守』なんだと思うよ。これを維持し続けるっていうのは、半端じゃない統率力が必要だ。ようするにだ――」

珠ちゃんはケーキをもうひと口、バクリと食べながら言う。

「目指すものを間違わずに見つめ続けるリーダーと、それを実現する最高のチームと、それを望むファンたちがいたからこそ、《星に願いを》は語り継がれる名曲になったんだ。曲が良かったからだけじゃない、そういう複数の要素と状況があって、名曲は名曲になる」

「なるほどなぁ……言われてみれば、確かにそうかも」

「ちょっと違う例だけど、《サザエさん》や《アンパンマンマーチ》なんかも近い例だよな。もしもこれらの曲が1年に1回新しい曲とかに変わってたら、きっと誰も覚えちゃいない。ゲームの『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』がいまだにテーマソングを大事にしてるのも、そこが決定的な部分なんだと思うよ。長年にわたって目印になりうる決定的な1曲。それが、語り継がれる名曲というやつだ」

*~*~*~*~*~*~*

それから私たちは、ホーンテッドマンションやフィルハーマジック、ハニーハントとかを楽しんで、スプラッシュマウンテンとビッグサンダーマウンテンにも乗って3大マウンテン制覇したりとかもしつつ、散々遊びたおした。聞けば珠ちゃんは無類の絶叫マシン好きということで、3大マウンテンについては並んでる間ずっと鼻息がすごかった。

「でも珠ちゃん、絶叫マシンが好きなら富士急ハイランドとかの方がよかったんじゃない?」

「あー。富士急は素晴らしいね。絶叫し放題だ。けどね、絶叫マシンが富士急より過激じゃなくても、ディズニーランドにはほかでは得られないものがあるからね」

「……ああ、それはちょっとわかるかも。なんなんだろうねこの感じ」

「なんだろうな。それを感じられるから、あたしはディズニーランドが好きなんだ」

……そしてその1日の締めくくり。日が落ちてからのこと。

暗くなったディズニーランド。エレクトリカルパレード・ドリームライツがやって来る。

子供の頃より今は私の少し背も高くなって、子供ほど無邪気でもなくなっちゃったけど、でも、それでもこのパレードは私たちの視線を釘付けにする。流れる音楽はなんていう曲なのかな。タイトルは知らないけど、あのエレクトリカルパレードの曲。楽しげな音楽に合わせて、キャラクターやダンサーの人たちがお客さんを楽しませながらゆっくりと進んでいく。

「……やっぱ、いいもんだな」

「うん」

パレードの光は、私たちを照らす。2月の夜の風はさすがに冷たいけど、でも、夜の闇の中で光る金色のパレードは、そんな寒さを忘れさせるくらい、子供や大人や、私たちの胸を高鳴らせる。

光を見つめる珠ちゃんの横顔は、いつもの元気な様子から考えるとちょっと違和感があるくらい静かだった。ただ静かに、金色の光を瞳に映している。その表情から、気持ちは読み取れない。でもきっと、珠ちゃんも今私と同じような気持ちで、感動してるんだよね。

「……なぁいろは、このパレードさ」

「え?」

かすれたような声でつぶやいた珠ちゃんの声を、私は聞き返す。

「これを作ったのって、もとはといえばひとりの人間だったんだよな。すごいよな」

「ひとりって……? ああ、ウォルト・ディズニーのことだね」

「死んでからもう、50年も経ってるのにだぞ」

「うん。すごいことだよね」

「……自分が死んで、それでもその作り上げてきたものが50年経ってもこうやって語り継がれてる。それって、生半可なことじゃないよ。……だからこそ、打ちのめされる」

「そうだね……」

「……こんなの観るとさ、あたしは一度きりのこの人生を、どう生きられるのかなとか、思っちゃうよな」

「……」

パレードを観ながら、私と珠ちゃんが考えていたことは違った。珠ちゃんの言葉は、感動して出た言葉というには少し重く、でも確かな決意みたいなものが感じられる、そんな言葉だった。今同じ景色を観ている私たちはまだきっと、同じものを観ているわけではないのかもしれない。けど……。

「こういう気持ちも、曲にしたいね」

「そうだな」

次の曲は、たとえば今日の感動を閉じ込めて。

今日はここまで!

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