【ザ・スペシャル・インタビュー】篠田元一氏(作曲家・編曲家、ピアノ&キーボーディスト)

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超絶“クロスオーバー ”バンド「PIVOT」(現在はNEXT PIVOT)をはじめ、冨田 勲氏/「源氏物語幻想交響絵巻」、「イーハトーヴ交響曲」の国内外公演やレコーディングに参加するなど、幅広いジャンル、メディアの楽曲提供/音楽制作を手がけている作曲家・編曲家、ピアノ&キーボーディストの篠田元一氏の仕事場兼スタジオにおじゃましてお話をうかがってきました。

今回はそのスペシャルインタービューをお送りいたします。(インタビュアー:サカウエ)

篠田さんはご自身のバンドはもとより、冨田先生のコンサートに参加されるなど非常に幅の広いフィールドで活躍されているピアニスト・キーボーディストでもいらっしゃいます。また「実践コードワーク」に代表される多くの著作も出版されたり、シンセ関係の音色やデータ制作を多数手掛けるなど、そのマルチ・タレントぶりはいつも驚かされます。まずは簡単に篠田さんのこれまでのご経歴をお伺いしてよろしいでしょうか?(以降敬称略)

篠田:中高の頃はプログレとかディスコとかソウルとか全盛の時代で、そういった音楽の洗礼を受けていました。そしてその流れの中でハービー・ハンコックのアルバム「Trust」を聴いてビックリしたわけ。そんな時に師匠の笹路さん(笹路正徳氏)のプレイを聞く機会があって「あーすごい!」と。それで、大学に入学すると同時に笹路さんが教えている音楽学校にも入りました。

大学に通いながら音楽学校にも行かれてたんですか?

篠田:そう。大学は当時何を考えていたのかわからないけど数学を専攻していて(笑)、でも音楽も諦めきれなくてね。そんなわけで大学に通いながら笹路さんのレッスンを受けつつ、あるときはローディもやりながら現場勉強してました。そしたらある日、音楽学校からいきなりオーディション受けろと言われてね。何のオーディションかも知らずにとりあえず受けたんだけど、なんとこれが合格しちゃって「君は来週から3週間のツアーに行きなさい」って突然いわれたの。わけのわからないまま顔合わせに行ったんだけど、それが当時のアイドルだった小柳ルミ子さんのバックバンドでピアノ弾く仕事だった(笑)。

18歳でいきなりですか?

篠田:そう。18〜19歳のとき。それで大学通いながらツアー生活、でも大学はなぜかちゃんと4年で卒業できたよ(笑)・・これがプロとしてのキャリアのスタートだけど、こうした現場での仕事で色々なことを覚えていきましたね。そうそう、当時は笹路さんには5人の生徒がいたんだけど、そのうち今でも4人はプロで活躍しているんだ、これはすごいことだよね。

愛用のヤマハC3。工場に行って厳選して特別に手を加えてもらったカスタムモデルとのこと

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もともとクラシック・ピアノを習っていたのですか?

篠田:いやクラシックは習ったことがないんだけど、姉がピアノを習ってて先生が家に来てたのね。そのレッスンを見ながら自分もピアノをポロポロ弾くようになってましたね。見よう見まねしてるうちに、なぜか不思議と弾けるようになって楽譜も読めるようになったのかな。多分(笑)。

それは凄いですね!

そのうちチューリップの「心の旅」などの歌謡曲も耳コピして弾くようになって。当時はラジオ世代まっただ中、自分の聞く音楽も洋楽ポップス中心になっていき、カーペンターズ、ディープ・パープル、シカゴ、そしてプログレ。シンセに出会ったのもその頃だけど、それ以降もフュージョン、ジャズ、AOR・・全部がリアルタイムで体験していますね。

プログレは何を聴いていたんですか?

篠田:「YES」かな。リック・ウェイクマンとか。超絶系より叙情系が好きでキャメルやジェネシス、セバスチャン・ハーディーなんかもよく聴いてました。もちろんEL&Pは聞いていたけど、まったく弾ける気がしないわけ(笑)でもYESならできると思って・・・当時は楽器店にいくとみんなシンセで「危機」とか自慢気に弾いてる時代でね、自分もそのたぐい(笑)。

しばしプログレ談話続く・・・あまりにマニアックな話につき泣く泣く割愛させていただきます。

篠田:・・でも今から思えば、実はあのポルタメントがかかったノコギリ波むき出しのシンセの音自体が好きだったのかもしれないね。当然ミニモーグが欲しくなって、当時は60万位だったかな?それでバイトして中古を買ったの、それがアレ(とスタジオのミニモーグを指す)。

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今も現役選手なんですね

篠田:さすがにチューニングは・・・(笑)。何度かオーバーホールしてるんだけど、自分の3枚目のソロアルバム『Foresight』のときMIDI改造して、RolandのXP-80をマスターキーボードとしてミニモーグを鳴らしています。かけだしの頃は、もう手放してしまったけど、JUPITER-8とかProphet-5とかも「男の60回ローン!」(笑)で買いました。その頃からレコーディングの仕事もやるようになっていたんだけど、当時はスタジオ行くとギャラとは別に楽器使用料みたいなのがもらえて意外とこれでローンを払っていけましたね(笑)。とは言っても大卒で初任給10万くらいの時代に170万のProphetとか買うのは、もうこの先、覚悟を決めるしかないわけ(笑)。でもこの思い切った投資があったからこそ誰よりも早くシンセを頭で体で覚えて、それが今の仕事の糧に全部なっている。今でも楽器メーカーとの仕事も多いけど、あのとき覚悟を決めてなければ今の自分はなかったでしょうね。

ビンテージ・シンセがバリバリ現役の時代から触ってきたわけですからね

篠田:今まで、音楽やシンセの発展の変遷に沿ってリアルタイムに育ってきたというのもラッキーだったのかな。例えばポップスの時代性ってエレピの音色によく反映されていますよね。カーペンターズのウーリッツアーあたりからはじまって、ローズがどんどんブライトになってダイノマイになり、FM(DX-7)のDXエレピになり、デイヴィッド・フォスターあたりからアコピとエレピのレイヤーが流行りだし・・・全部リアルタイムで聞いてきて、自然と馴染んできた世代だと思うんだよね。ボイシングなども音色に応じていろいろ研究してきたわけだし。ちなみに当時買ったローズは今でもいい音していますよ。ローズの鍵盤で弾くと、普段のシンセのピアノタッチ鍵盤で弾くのとは不思議と自然にフレーズも変わってくるんだよね。本物の質感だと音を伝えたいから余計な音を鳴らしたくないみたいな・・。あとこれはナイショなんだけど(笑)、大ヒットした某シンセのプリセットに収録されてるローズの音はここからサンプリングしています。

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お隣にはJUPITER-80とNord Stageがセッティング

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篠田さんは教則本の大御所(?)でもあるわけですが、音楽理論などはいつ学ばれたのですか?

篠田:昔はポピュラーやジャズの教則本や書籍なんてほとんどなくて、全部自分で手探りに学んでいくしかなかったんですね。たとえばニュー・ミュージック系の音楽聞いていて、C7のコードなのにメロディーにレのフラットが聴こえるわけ。なんでこんな音が入っているんだ?って調べてみたらこれが「b9th」というテンションだった・・・みたいな感じ。いつも寝る前にも枕元にも小さい鍵盤(確かヤマハのポータサウンド)をおいて音楽聴きながら音を確認してた・・それくらい「発見」が楽しくて、だから全然勉強したって感覚ではないんですね。ゲームでいえばボスキャラを倒す攻略方法を探っていたようなもの(笑)。その後、音楽学校でも理論を学んだけど「ああこれはあの時のアレだな?」っていう感じでしたね。

「発見」がとても大事だということですね?

篠田:たとえば、何か難しいフレーズとか曲とかコピーをするとき、最初に譜面とか買ってきてそれを見て弾くとするじゃない?でもそれだと音符を見て弾くだけの単なるエチュードの練習と何ら変わらないわけ。それに対して自分の耳でやっとの思いでコピーして音が採れると「あっ!」という瞬間があるよね。この「あっ!」というのが生涯忘れることのない発見になるんじゃないかな。フレーズやスケール、コード、ベースとの相互の絡みなども同時に吸収できることも多いし。だから最初に譜面ありきでなく、まず自分の耳でコピーして後から確認用として譜面を見るのがいいと思います、ってよく弟子には教えてるんだけど(笑)。

人生を変えた出来事

あれは忘れもしない大学入学の間もない頃、ビッグバンドのピアノの先輩が弾いている和音を聴いて「??」と思ったの。演ってるのはFのブルースってのはなんとなくわかったけど、それまで聞いたことないコードの響きなわけ。しかもフレーズは白玉じゃなくてポンポンってコンピングだからよけい音が良く聴き取れないんだ。それでその先輩に「どうやって弾いてるんですか?」って尋ねたら「そんなのお前なんかに教えられるか、自分で調べろ」って言われたの(笑)。それがすごく悔しくて、さっそくハンプトン・ホーズとかジャズのレコード聞きまくって耳コピしまくったわけ。それで発見したのがこんな和音(ピアノを弾きはじめる)。

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7th-3rd-13thという7thコードの定番ですね?

篠田:そう。今思えばF7のボイシングとしてはどうってことないんだけど、当時はこれがジャズ!って衝撃をうけたんだよね。そんなこと教えてくれる文献もあまりないから。全部自分で耳コピするしかなかった。F7の時はこう、Bb7の時はこうって。あと、このボイシングって ベースのとり方でCm69 とか裏コードの B7(#9)、さらに一部省略形としてEbmaj7(#11) とか Am7(b5,11) でも使えるなあ、とか(譜例参照)・・そうやって研究していくうちにすべてが繋がっていったという感じかな。そしてこうして自分が研究してきたことを若い人にも教えてあげたいなと思って書いたのがキーボード・マガジンの13年以上にも及ぶ連載。それを加筆してまとめたのが「実践コード・ワーク」というわけなんです。当時は自分もまだ勉強していたわけで、視線の高さは読者と変わらないところが逆に支持してくれたんじゃないかな。

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当時キーボード・マガジン連載の「実践コード・ワーク」と連動した教則「カセット」。1986年発売。なんと29年前なのに内容は今でも高度なテンション・ボイシングがばっちり学べるのがスゴイ!

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ワタクシもよく読ませていただきました。

篠田:自分の積み重ねてきたことを書いただけなんだけど、テンションとかアッパー・ストラクチャーとか変な分数コードとか・・この辺もけっこう支持されたわけ。他に誰も書いてなかったし。自分も勉強の身だったから、オレなんかがエラそうに書いてていいのかなって思ってて・・いずれにせよ、あの大学時代の先輩の言葉がなかったらプロになっていないのかもしれないね。マジに感謝してます(笑)。

しばし音楽理論談義続く・・

篠田:あととても大事だなあと思ったのは、仕事やりたての頃よく先輩諸氏にいわれた「自分のルーツとは何か?」ということ。何を聞いて育ってきたかってのは大切だね。その点さっきも言ったように自分は色々な音楽に接することができてラッキーだったのかもしれない。自分の弟子達にはいろんな音楽を聴いてそのエッセンスを理解させるような指導を心がけています。

篠田さんは現在、キーボーディストの西脇辰弥さんとのユニット「ORANGE SHIFT」のほかにもフュージョン・バンド「PIVOT」(現在はNEXT PIVOT)でも活動されていますね?

篠田:西脇くんとは、音楽性がとてもうまくかみ合いますね。シンセを弾かせたら彼は天才プレーヤーだし、お互い演奏をはじめたらもう止まらなくなる(笑)。一緒にユニットやろうって話になったのはとても光栄なことだけど、彼と一緒に音楽やると、また学生時代に戻って純粋に音楽の思考を深めていける感じなんです。ORANGE SHIFT はとんでない可能性を感じています。これから本腰入れてどんどん活動していくので楽しみにしててください。

NEXT PIVOTはあえてこの時代に「クロスオーバー」を標榜しているわけ。矢堀くん(矢堀孝一氏)と話して新メンバーを決めたんだけど、これからの時代を担う新進気鋭の若手育成もテーマなんです。結構難しい曲も多くて「3拍子で7つ取りのコードワークとか(笑)」とにかくこんな時代だからこそ、メチャクチャ難曲にも挑戦してやろうって・・ってことなんだけど、若手が予想以上に超絶で、こっちも必死(笑)。その辺がおもしろいと思いますね。

普段の仕事だと、圧倒的にひとりでパソコンの前にいるわけなんだけど、人前で演奏するというのは僕にとってはとっても大切なことなんですね。打ち込みで作る音楽はノンリアルタイム。後からいかようにも自由に手が加えられてしまう。完成度を高められる良さはあるけど、こればっかりだとストレスがたまってしまうし、演奏でも甘えみたいのが出てしまうのが嫌なんだよね。せっかく僕のまわりにはすばらしいミュージシャンもいるわけだから、一緒に演奏することでそこから吸収させてもらいながら学びたいこともある。それが普段の仕事にもフィードバックしてくるし。

篠田さんは弦アレンジもお得意ですよね?

篠田:金管五重奏とか昔のPIVOTでもホーン・アレンジをたくさんやってきたけど、ストリングスはやはり特別な想いやこだわりがありますね。いろいろやってきたけど、向谷さん(向谷実氏)も僕のHP上の音を聞いてくれてて、ストリングスのアレンジだけとかもよくお仕事を頂きました。自分の作品はほとんど生楽器中心なので、プリプロは一応 ProTools で作るんだけどけっこうラフです。弦のアレンジは最近ではずっとSiberiusでやっています。

ProToolsとSiberius

05オーディオインターフェイスはAvid HD OMNIでその上のマイクプリはFocusrite OctoPre MKII Dynamic。ミキサーはPreSonus StudioLive 16.0.2、パソコンはMac Proを使用(詳細な機材リストは後半に掲載)

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コントロールルーム全景。カラフルなデザイン。ここも完全防音をしてあるとのこと。

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スタジオブース全景。ドラムや小編成のストリングスなどはここでレコーディングするとのこと。シックなデザインでもちろん完全防音構造。

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ここで現在製作中のとあるボーカリストの弦アレンジを聞かせていただく。弦やピアノは全部このスタジオで録音されたとのこと。

生の弦ってやはり艶があっていいですね。弦のアレンジはやはり独学で?

篠田:基本的に対位法などは独学だけど指揮の手ほどきなどは受けました。それと若いときはいろんなバックバンドもやってきたので、その中で音楽監督を務める服部さん(服部克久氏)など巨匠のスコアから学べる機会がありました。また冨田勲先生と長年お仕事させて頂いたのも大きいですね。オーケストラの中で演奏する機会にも恵まれていたので仕事から学んできた感じかな。あとジェレミー・ルボック(デイヴィッド・フォスターやパット・メセニーなども手がけているグラミー賞アレンジャー)が大好きでこの人の弦アレンジは、ものすごく研究しました。でもいくら自分で良いスコアを書いたつもりでも現場で「えっ…」って反省することも多く、弦奏者とのコミュニケーションの良し悪しで音も表情も決まってしまう。現場を重ねて一歩一歩という感じですね。

壁にはチック・コリア、ジョー・サンプル、デビッド・フォスターらとのツーショットが

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ソフト音源は使われるのですか?

篠田:プリプロはほぼソフト音源100%。特にピアノ音源はこだわってます。今後はライブでもソフト音源を使う予定なんだけど、お気に入りは「GARRITAN ABBEY ROAD STUDIO CFX CONCERT GRAND」です。

GCFX

Yamaha の CFX ですね。そういえば篠田さんのスタジオのグランドピアノもヤマハですね。

篠田:(パラパラ弾き始める)そうですね。ヤマハのグランドピアノの音に慣れ親しんでいるというのもありますね。この GARRITAN のピアノはアンビエントの質感がとても自然で、リバーブはいらないくらい。しかもお手頃価格(笑)。これを Mac Book Pro に入れてどこでも弾けるようにしています。あとローズだと Pianoteq に追加する音色がいいですね。急いでる仕事はアコピもエレピも生を使わないで全部これ。それと最近シンセ系で気に入っているのは UVI の一連のソフト音源かな。これらはライブでも使うつもりで、MainStage(Apple社のプラグイン音源プレーヤーソフト)上に立ち上げ、Roland FA-08のサウンドとミックスして鳴らしていきます。

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とてもシンプルなセッティングですね。

篠田:これだけでピアノ、エレピ、パッド、シンセリードなんでもOK。パッドはエクスプレッション・ペダルにアサインしてあってボリューム・コントロールしています。またFA-08は88キーなのでスプリットして2台のシンセを横並びにしたようにもよく使っています。

MIDIと音楽について

篠田さんはMIDIに対する造詣も深く、MOTO MUSIC主宰としてこれまでもMIDIデータ関連の仕事も携わってらっしゃいましたよね?

篠田:MIDIってのは演奏情報を数値化できるという点で非常に画期的なプロトコルっていうのは誰しも認めるところだと思う。でも「遅れ」の問題というのは今でも解決していないよね?遅れといってもいろいろなんだけど、たとえば、ひと昔前のドラムソフト音源の中には波形の頭をトリミングして音の立ち上がりを良くさせてますよね。でも実際のキックなんかはビーターがヘッドを叩く瞬間に音量がピークになるんじゃなくて微妙に時間差があるわけで高品位な音源ほどこの隙間をトリミングせず残しています。ということはMIDIデータでタイミングをジャストにしても音の鳴りは遅れるわけです。厳密にはMIDIの遅れもそこに重なるわけだよね・・・。

目で見て確認じゃなくて「耳」で確認しなくてはならないということですね?

篠田:そう。数字だけ信用してクオンタイズして終わり・・じゃなくてやっぱり「耳」で確認する必要があるよね。テンポもそう。人の演奏って、サビ前とか盛り上がってくれば微妙に走ったりするわけじゃない?こうした要素を軽視する人が今も昔も多いのかなあと思ったりしてた。

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打ち込みだけで曲を作ることはありますか?

篠田:今はあまりしてないなぁ。よほど限られた時間しかない場合を除いて、可能な限り生に差し替えるようにしてます。

昔はMIDIデータで完コピ・シミュレーションしてた時代もありましたね。

篠田:たとえば、コロッケのようなモノマネ芸人が本人とまったくそっくりに演じたとしても、おもしろくないと思うんだよね。特徴を誇張したりユニークにデフォルメしてエッセンスをキャプチャーしているからそこに「笑い」が生まれるんじゃないかと思うわけ。MIDIも似たようなところがあって、MIDIは生楽器に変わるものではないし、そっくりさを狙うだけでなく、そこに音楽性をキャプチャーした「笑える」要素が必要だと思う。「笑える」とか「ニヤける」って大事なファクターだと思うな。むかしマンハッタン・トランスファーの「Wacky Dust」という曲でミニモーグをダビングしてフルバンドやってたじゃない?

あれは本当に笑いました!Bメロのトランペットのミュートとか雰囲気出てますね・・

篠田:そう。アレをだれも本物のビッグバンドだとは思わないけど、音楽的には正真正銘の「ビッグバンド」なんだよね。まったく音は違うのに。可笑しいということでなくて「やるなーっ」て思わずニヤけるじゃないああいうの聴くと。

自分もビッグバンド演ってたのでよくわかります。

篠田:あと昔、MIDI楽曲データを作ってきてよかったなあと思うのは、さまざまなジャンルの曲を耳コピすることでアレンジや音楽性を学習できたってことは大きかったかな。当時同じように多くのMIDI楽曲を作っていた坂上さんもだと思うんだけど、昔のハード音源には発音数の制限(16音、32音等)がありましたよね?でもこうした限定された環境でやりくりする創意工夫が、後の自分の創作活動にも大きな影響を与えていると思う。音楽的にも無駄な音とはどんな音なのかにも神経がいくわけだし。そういえば坂上さんの作ったMIDIデータには随分と学ばせてもらったよ! 音楽を知ってるからこそのこだわりがデータから伝わってきたし、シンセ内蔵のデモも圧巻だったよ。

それは光栄です!

篠田:今は膨大なメモリーが使えるのでシンセの音色数やクオリティーも昔とは桁違い。例えば音楽でもiTunesなどで膨大な音楽が聞けるようになっている。音楽がコレクションみたいになって便利な半面、情報量が多すぎて、例えばある曲を愛着持ってじっくり聴きこんで研究するなんていう習慣が希薄になっている気がするんだよね。本当にこれでいいのか?という意識も時には必要かと思う。

最近のシンセはプリセット音色しか使わないという人も多いと思うけど、たとえばアタックをもうちょこっと変えれば雰囲気も変わるのに、でも変えない・・そういう人も多いよね。もうちょっと音にはこだわりを持たないといけないと切に思うんだけど。

今は「生」にこだわっているわけですね。

篠田:ソフト音源は便利だけど、やはり単に「本物の代用品」として使うのは正しくないというかまだ抵抗ありますね。ライブでも今後ソフト音源を鳴らす機会が増えていくと思うけど、演奏時の遅延の問題だけでなく、パソコンやオーディオ・インターフェースから出る音というのは「楽器の音」というよりも「オーディオの音」。洗練され過ぎてて楽器本来の隠し持つ粗野な魅力や感触を感じないんだ。ここは今、音作りを含めていろいろ試しているところです。

新スタジオ完成

ところで、最近スタジオを新築されたそうですね

篠田:この(今の)スタジオも作ってから約20年近くなったし、自分の仕事だけでなく、プライベートレッスンや接客で使うことも多くて、それに娘(篠田浩美氏)はマリンバ&打楽器奏者なので楽器も年々増えていくし、その楽器類を合わせると、もうスタジオはパンク状態(笑)。そこで数年かけて資金計画を練り、昨年あたりから多目的に使えるリフォーム部屋ともうひとつ2ndスタジオを作る計画を立てたんだ。せっかく作るなら間取りやデザインにもこだわってみようと思ったわけです。

カラフルなエントランス。ちなみにペンキ屋さんも同級生とのこと。

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篠田:幸いにも工務店をやっている同級生がいて、お互い言いたい放題言い合いながら何枚も何枚も図面を書き直しつつ時間をかけた。1階は吹き抜けにして、残る半分は1階が防音スタジオ、中2階に楽器などの収納部屋つくったんだ。

茶色のドアはスタジオ扉。隣の壁には4Kサイズ程度のテレビを壁掛けする予定とのこと。

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篠田:多目的な部屋は、ログハウス風にしたかったので、徹底的に天然木にこだわりました。手間も時間もめちゃくちゃかかるし、職人さんも大変そうだったけど、なかなか満足いく部屋とスタジオができたと思います。この部屋にいると木の香りだけで癒されてすぐ眠くなります(笑)。スタジオ内のワイヤリングや窓ブライド、照明器具などはまだ途中なのでこれから随時追加していきます。

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篠田:壁や床はすべて無垢の天然木(パイン材)。左上の斜めの形状は中2階から2階に登る階段裏で、この部屋でも時には録音部屋としても使えるように考えています。弦楽四重奏やアコースティック系ならバッチリ録音できると思う。その辺もあって天井は高くしたかったわけ。

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こちらが防音スタジオ。

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篠田:ドラムが録音できる8畳弱くらい。防音工事はわりとしっかりやりました。スピーカー棚やディスプレイを壁掛けする下工事も終わっているけどワイヤリングはこれから。下の開きは収納スペースでシンセ3~4台は入る。でもこのスタジオに娘のマリンバを常設されるとまた親子ケンカが絶えなくなるな(笑)。

機材が入るのが楽しみですね!最後にこれからのご予定を聞かせてください。

篠田:久しぶりにコード進行の本を執筆中です。都会的でオシャレなコード進行やボイシングを満載したもので、もうすぐ書き終えます。告知もそろそろ始まると思いますよ(※2015/8/6追記:公開されました!詳細はコチラ)ライブの方は近いところでは6/17にNEXT PIVOT、7/31にORANGE SHIFTが予定されています。CCBのギタリスト米川英之くんのサポートなどもよくやっています。あと、地元の川口市が開催する川口ストリートジャズフェスティバルが9/20にあります。昨年からこのイベントにもいろいろ関わっているのですが、今回もかなり豪華なメンバーでスペシャルなバンドを編成しましたよ。駅前のメインステージのトリで出演する予定になっています(注:ライブの詳細情報などは最後に記載)。

本日はどうもありがとうございました!これからもぜひ素晴らしい音楽を作って下さい。

というわけで音楽やシンセの発展とともにキャリアを積んでこられた篠田氏ならではの貴重なお話でした。あっという間に数時間が過ぎ去ってしまいました。本当に楽しいお話ありがとうございました!

部屋の片隅にはゴルフクラブが・・こちらの練習もぬかりなさそう

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篠田元一氏の主な機材リスト

Computer

  • Mac Pro (Late 2013) 3.5 GHz 6-Core Intel Xeon E5 32GB
  • MacBook Pro 15インチ 2.5GHzクアッドコアIntel Core i7

Audio Interface

  • Avid HD OMNI
  • RME Hammerfall DSP Multiface
  • ZOOM TAC-2R

Software

  • Pro tools HD
  • Logic Pro X
  • Sibelius
  • etc...

Monitor Speaker

  • YMAHA MSP7 STUDIO
  • YMAHA 10M STUDIO

プラグイン・エフェクト

  • WAVES Platinum+L316
  • etc...

ソフトウェア音源

  • VIENNA INSTRUMENTS(各種)
  • Native Instruments KOMPLETE ULTIMATE
  • UVI各種
  • AAS各種
  • Ivory II各種
  • Pianoteq
  • GARRITAN ABBEY ROAD STUDIO CFX CONCERT GRAND
  • AAS各種
  • etc...

MIXER

  • PreSonus StudioLive 16.0.2

Microphones

  • AKG : C-414B-ULS×2
  • AKG : C451EB×2
  • RODE : NT2×2
  • SENNHEISER : MD 421
  • SHURE : SM57×6
  • etc...

Keyboard

  • YAMAHA Grand Piano C3(Custom Made)
  • Rhodes Suitcase 73Key
  • Roland FA-08
  • Roland RD-800
  • Roland Jupiter 80
  • YAMAHA S-90ES
  • Nord Stage
  • Minimoog
  • etc...

篠田元一氏プロフィール

■篠田元一(Motokazu Shinoda)

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作曲家・編曲家、ピアノ&キーボーディスト大学在学中にピアノ/キーボードを笹路正徳に師事。自己グループにてレコード・デビューを果たしプロの道へ。その後は、自己の音楽制作事務所モトミュージックを拠点に幅広いジャンル、メディアの楽曲提供/音楽制作を手掛けている。2000年『PIVOT』(zizo)、2002年『Floating Colors』(日本コロムビア)、2003年『Foresight』(COOL SOUND)と3枚のソロ・アルバムを発表。ジャズ、クラシックなどのジャンルを超えた鮮烈かつ斬新なサウンドで高い評価を得る。

ピアノ/キーボーディストとしての演奏活動では、水野正敏(b)、仙道さおり(perc)とのユニットThprim(スプライム)<2枚のアルバム・リリース>や小川文明、三柴 理との3人ピアノ編成の「鍵盤王子」、NEXT PIVOTなどで精力的なライブ活動の他、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団をはじめとする国内外の名門オーケストラとの共演も多数。冨田 勲「源氏物語幻想交響絵巻」やオーケストラに初音ミクを導入して話題となった「イーハトーヴ交響曲(初演)」などの国内外公演やレコーディングにキーボード・ソリストとして参加している。

加えて『実践コード・ワーク・シリーズ』『DTM打ち込みフレーズ制作技法』をはじめとする記録的なベスト・セラー、ロング・セラーを誇る音楽書籍も多数執筆している。日本シンセサイザー・プログラマー協会所属。日本音楽著作権協会正会員

■HP■ http://www.moto-music.co.jp/

■Twitter■ http://twitter.com/MotokazuShinoda

■Facebook■http://www.facebook.com/motokazu.shinoda

篠田氏のソロアルバム、左から1st『PIVOT』、2nd『Floating Colors』、3rd『Foresight』ま た自己バンドThprim(スプライム)の1st『Thprim』と2nd『Novelette』

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2015/8/6追記 :篠田氏の新書リットーミュージック『かっこいいコード進行88』発売が決定いたしました!
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たまにはジャズっぽいコード進行で曲を作ってみませんか『かっこいいコード進行88』は、“ジャズテイストのコード進行で曲を作ってみたい。でも自分の引き出しの中にはアイディアがないし……”というアナタに最適なコード進行テンプレート集です。8小節単位で作られた88種類のパターンは、そのすべてがアーバンでアダルトな進行をテーマとして生み出されたものばかり。キーをCメジャー/Aマイナーにそろえてあるため、パターン同士を自由に組み合わせることが可能です。また各パターンにはコード理論に基づいた簡単な進行解説と、その進行で使用されているコードの基本形を併記。ちょっとした理論本&コードブックとしても使えるかも。さらに、各パターンを適切なボイシングで演奏したSMFをダウンロード対応で用意していますから、ファイルプレーヤーソフトを使って耳から雰囲気を確認したり、DAWソフト上に好きなパターンをドラッグ&ドロップして曲作りのデッサンに利用することができます。

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かっこいいコード進行88

THE STYLISH CHORD PROGRESSION 88

著者:篠田 元一

定価:1,944 円(本体1,800円+税)

仕様:B5変型判/196ページ

発売日:2015.8.24

ISBN:9784845625840

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篠田元一氏のライブ予定

<2015/6/17(水):NEXT PIVOT>

出演:篠田元一(Key)、矢堀孝一(G)、小栢伸五(B)、山本真央樹(Ds)

川口ショックオン

詳細→ http://www.shock-on.jp/schedules/performance/1043

<2015/7/31(金):ORANGE SHIFT>

出演:篠田元一(Key)、西脇辰弥(Key,Harmonica)

川口ショックオン

詳細→ http://www.shock-on.jp/schedules/performance/1211

<2015/9/6(日):NEXT PIVOT>

出演:篠田元一(Key)、矢堀孝一(G)、小栢伸五(B)、山本真央樹(Ds)

川口ショックオン

詳細→ http://www.shock-on.jp/schedules/performance/1227

<2015/9/12(土):米川英之Hybrid>

出演:米川英之(G)、篠田元一(Key)、斎藤TAK(B)、岡本邦男(Ds)

川口ショックオン

詳細→ http://www.shock-on.jp/schedules/performance/768

<2015/9/20(日):川口ストリートジャズフェスティバル2015>

http://kawaguchi-fes.org

駅前メインステージのラストにスペシャルバンドで出演予定

篠田元一(Key)、富永“トミー”弘明&藤原美穂(Vo)、矢堀孝一(G)、伊藤広規(B)、大久保敦男(Ds)

編集後記 by サカウエ

今回は突然の申し出にもかかわらず篠田さんには快くインタビューを引き受けていただきました。本当にありがとうございました!篠田さんと出会ってもう二十数年が経ちますが、これまでもMIDIや楽器関連のさまざまなイベントなどでご一緒に演奏させていただく機会もあって非常にリラックスした雰囲気の中お話をお伺いすることができました。学生の頃よくキーボード・マガジン(キーマガ)の篠田さんの記事をよく読ませていただいていましたが、数年後ワタクシ自身もキーマガで連載記事を書くことになるとは夢にも思っておりませんでした。ご本人の温和で実直なお人柄はお幾つになられても変わりません。あとホントお若いですね!

最後に仲良く記念のツーショット!

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