こんにちはサカウエです。お盆も終わり少々気が早いですがもうすぐ9月・・そして9月15日はジャズピアニストビル・エヴァンスの命日です。
パット・メセニー(Pat Metheny)&ライル・メイズ(Lyle Mays)のデュオ・アルバム「"As Falls Wichita, so Falls Wichita Falls" (1981年)」にはそのビル・エバンスに捧げた、「September Fifteenth」という名曲が収録されております。
・・何度聞いても泣けますね・・冒頭は印象派的なハーモニーが特徴的なバラードですが、そういえばビル・エヴァンスもラヴェル、ドビュッシーに影響受けてあの美しいハーモーニーを奏でていたんですね・・・涙・・
さて今回はこの曲の冒頭で聞くことのできる美しい「シンセパッド」の秘密に迫ってみたいと思います。皆さんのアレンジやサウンド・メイキングの参考になれば幸いです!ストリングスの打ち込みをやりたい〜という方は必見だと思います〜
※パッド=ストリングス系の和音演奏に向いている広がり感のあるサウンドの通称
美しいシンセパッドの秘密
さて冒頭の美しいシンセパッドは、ライル・メイズが奏でるOberheim(オーバーハイム)シンセサイザーによるものですが、実は原曲のレコーディングでは、非常に奥の深い手法が使われていたということを、最近パット・メセニーのポッドキャストを聞いて知りました。
wikipedia オーバーハイム 4 ボイス
単音ダビングによる分厚いサウンド
さて、原曲のパッド・ストリングス・パートは4声で構成されています。ライブで演奏する場合は左手ベース、右手コードでこんな感じで押さえると思います。
冒頭のGM7コード
しかし、スタジオ盤ではオーバーハイムの4ボイス・シンセサイザーを使用して「1声ずつ」ダビングしたんだそうです。つまり・・
ということなのですね・・・でもなんでこんな面倒なことをしたのでしょうか? ではこの手法を理解するために、オーケストラのストリングス・セクションについておさらいしておきましょう。
ストリングスセクションの構成・配置
御存知の通りストリングス・セクションは、複数のバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスで構成されています。仮に以下の様な比較的大編成の弦楽器パートが一斉に和音を演奏することを想定してみます。
- 第一バイオリン(16人)
- 第二バイオリン(14人)
- ビオラ(12人)
- チェロ(10人)
- コントラバス(8人)
たとえばそれぞれのパートが、和音の高い方から順に1音ずつ受け持って演奏する場合、各音は複数の奏者が「ユニゾン」で演奏します(ポイント1)。また、各楽器のコンサートホール上での配置が下記の場合、客席から聴いた各楽器の定位(パンポット)は楽器ごとに異なります(ポイント2)
これは第一第二ヴァイオリンが両翼に配置されている例です。低音担当のコントラバス(Double Bass)はかなり右側に配置されているのがおわかりいただけると思います。
ライル・メイズのアプローチ
ライルのオバ4(Oberheim 4voice)はSEMというシンセ・モジュール(2オシレーター搭載)が4台組み合わさったモデルで、同時発音数は最大4音。普通に4音のボイシングで演奏する場合・・それはそれでアナログシンセ特有の「厚み」と「暖かさ」でいい音なんでしょうが、ライル様はそれでは満足しなかったのですね。
シンセで生っぽいストリングスを再現するには「本物のストリングスと同じ理屈でいけばよいんじゃね?」とライル様は考えたのでしょう・・それが4つのモジュールをユニゾンで鳴らし(8オシレーター重ね)、1音ずつダビングしていく作戦だったわけです。
さらに原曲ではボリュームペダルを使って1音ごとにアーティキュレーションをつけて演奏しており、それがまた人間味あふれる有機的な「パッド」ストリングス・サウンドを生み出しています。
トラックダウンの段階で4つの音のバランス、パン、エフェクト等を設定すれば4和音同時に弾くよりも断然凝ったサウンドメイキングが可能になるわけです。これで各音は複数人数の「ユニゾン」(ポイント1)、和音を構成する楽器ごとにパンが異なる(ポイント2)という2つのポイントをクリアできます。
仮に和音演奏を4回重ねた場合、厚みは出るでしょうが「単音作戦」とは異なるサウンドになりますね。
というわけで、これがあのリッチなシンセパッドの秘密だったのですね。打ち込みでストリングスパートを再現したいという方は、アーティキュレーション以外にも、このように配置や編成・等を理解することが大事なのではないでしょうか。
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INTEGRA-7で再現
ではローランドのINTEGRA-7を使ってチャレンジしてみます。オーバーハイム系のプリセットで4音同時に弾いても結構イイ音するのですが、今回は楽な道を選ばず頑張ってみました。
シンセパッド音色は、無償ダウンロード可能なプラグイン「INTEGRA-7 Editor for Mac」で快適なエディットができます(※)。
(※)ご注意:公式には「VSTi版はSteinbergCubase 7 (Mac OS X)、AU版はApple Logic Pro 9 (Mac OS X)で動作確認済」とアナウンスされておりますのでその他のDAWでのご使用は自己責任でお願い致します(2013年8月10日現在)。
1パートずつ単音で入力(DAWはMOTU DP8)。
和音で打ち込んでから単音パートに分解しても構いませんが、1パートづつ手間ひまかけて入力するのがオススメ。
テンポ調整
原曲のテンポ・ルバートの雰囲気を出すためにテンポデータを入力します。原曲をオーディオ・トラックに貼り付けて、クリック再生しながらテンポ入力。根気のいる作業です、忍耐です・・タップテンポを使ったほうが早かったかも知れません(泣)
エクスプレッション入力
フットペダルの代わりにボリューム・コントロールはマウスで入力しました。4パートごとにマニュアルで入力。忍耐です。
メロディーパート
パット様のアコギ(ナイロン)を入力。ギターのスライドは、レガート奏法で自動的に表現可能。これはSuperNATURALサウンドならでは。さすがINTEGRA-7!
ミックス
ミックスは先ほどのストリングスセクションの配置を参考に設定(INTEGRA-7 Editor for Mac上でも可能 )
ベースパートは本物のオーケストラだとかなり右側寄りですが、ここでは自然な感じの中央寄りにしました。
それではお聞きください、冒頭の部分抜粋です。サウンドはINTEGRA-7オンリー、マスタリング・プラグイン、その他のエフェクトは一切使用しておりません。
いかがでしたでしょうか?ギターの打ち込みはいまいちですが、シンセ・パッドの存在感はいい線行っているのではないかと思います。
☆
というわけで、30年前からこうしたアプローチを行っていたパット&ライルの二人は本当にクリエイティブですね〜ライルはいったい今何やってんだろ~
モノフォニックのMoogシンセを使い、気の遠くなるような時間と労力をかけて音楽制作されていたあの冨田勳先生を思い出しました。
それでは〜
家宝:ライルのサイン入りCD
パットのサインも最近もらいました
このライブバージョンは鳥肌モノ・・・美しすぎる
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この方素晴らしいですね
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