ズーム社初のモバイルビデオカメラ「Q3」が発売されたのが2009年11月。音楽用途に焦点をあてたことで楽器ユーザーやライブ/コンサートを撮影したい方を中心に爆発的な人気となりました。翌年の11月には画質にもこだわったモデルとして「Q3 HD」が発売。2013年にはカメラやマイク性能を高めただけでなく、弾いてみたなどの個人演奏やライブの中継として生放送できるようにストリーミング配信に対応したモデル「Q4」が発売されました。
確実に改良されてきたズームQシリーズですが、今月(2015年12月)発売された「Q4n」が一体どこが進化したのか、旧モデルと違いとともに”映像”、”音質”、”その他”にポイントを分けて簡単に使用レポートしてみようと思います。
映像編
上位機種 Q8 と同じ超広角レンズに
「Q4n」では上位機種である「 Q8 」のように広角カメラレンズを採用しました。
自撮り撮影にしても、演奏会を撮影にするにしても、広い範囲が写せて、広くピントが合うようになるのは便利です。大きなコンサート会場で遠くから撮影であれば不便ですが、そうでない限り万能だといえます。「Q3HD」では自撮りでは楽器が映らない。ライブでステージを撮影する時やリハーサルスタジオでの撮影ではメンバーが映らないといったことがデメリットでした。「Q4n」のカメラ・レンズは、35mm 換算で16.6mmの焦点距離となっていて、「Q3HD」より圧倒的に、「Q4」よりも広く撮影することができます。
また、F値(絞り値)でF2.0とより明るく撮影できるようになっているのも特徴です。音楽でのシチュエーションでは、室内やライブハウス、野外でもどちらかというと夜の場合が多いですよね。フラッシュ(ストロボ)ができないので、いかに明るく撮影できるかが重要といえます。
2.3K 動画の解像度対応
「Q4n」は上位機種「Q8」と同じように3M HD (2.3K画質)に対応しています。
フルHD「1080p」 より高い「1296p」による高精細な鮮明な映像を記録できます。また、映像ビットレートもフルHDの場合で、24Mbpsと16Mbpsと選択できるようになっていて、「Q4」の16Mbpsより高スペックになっているのがわかります。
5段階デジタルズームが可能
音楽用途のカメラとして、重要の機能の一つがこのズーム機能です。
いらない部分が写り込んでしまったり、もっとアップで撮影したいけどカメラが近すぎると演奏の邪魔になったりボケたりしてしまう。そんなときはこのデジタルズーム(画角調整機能)に助けられます。
「Q4」では、画角を一段階(約× 1.2)しか切り替えることができませんでしたが、「Q4n」では5段階(× 0.75/ × 0.85/ × 1.00/ × 1.30/ × 1.50)切り替えることが可能です。近づけない場合では「× 1.50」でアップ撮影、「× 0.75」ではFOV 160°と、より視野を広く魚眼に撮影できます。
音楽用途に合わせたシーンセレクト
映像画質を最適化するシーンセレクション機能が搭載しています。
「Q4」や「Q8」でも3モードだったのに対し、「Q4n」では、 クラシックコンサート会場、ライブハウス、リハーサルスタジオ、ジャズクラブ、ダンスクラブ、野外ライブなど、音楽シーンを中心としたものが11種類モードが用意されています。
これはおそらく最も多い音楽用途のシーンプリセットがあるビデオカメラです。夜間や少し暗めの場所、コンサートライトの照明などに合わせて明るさや色調を整えてくれるので非常に便利です。
セルフタイマーが搭載
カメラの場所が離れてしまっている撮影時など、セルフタイマー機能を使うことで3秒後、5秒後、10秒後に録画が開始されます。
動画ソフトでいらない部分を切ったりできますが、動画の質をそのまま保持したかったり、即座にアップしたい場合などに有効です。
音質編
選べるマイク集音方式
「Q3HD」や「Q4」では、X-Y 方式のみでしたが、「Q4n」はマイク部分が可動式となっていて、X-Y 方式の他にA-B 方式による集音方式が選べます。
X-Y 方式は中心部のサウンド(特定の音源)を狙った近接録音や、PAスピーカーからの録音に最適です。部屋やフィールドレコーディングといったソロ音源、またライブでのバンド演奏にも向いています。A-B 方式は広がりのあるサウンドが特徴。ホール全体(部屋全体)を捉える時にはステレオ感が強調された録音ができます。それぞれ一長一短あるので収録場所で試して見るのが良いと思います。
無段階の録音レベル調節
ロータリー式入力ボリュームに変更されたことにより、入力レベルを細かく調節できるようになりました。
おそらく「Q3HD」や「Q4」を使っている方でとても改良して欲しかったポイントが、この入力レベルの調節ではないでしょうか。
本取材でもよくQシリーズを使っているのですが、「Q3HD」では2段階、「Q4」では3段階と、徐々に調整しやすくなりましたが、それでも「H(高感度)」「M(中感度)」では差が大きいものでした。小さな変更でありながらとても重要なポイントだと思います。
音声録音モードが復活
「Q3HD」に搭載され「Q4」で排除された機能といえばオーディオ録音(音声のみ)機能。
ビデオカメラ(音声&映像)として使っていたのであれば気づかないのですが、おそらく多くの方は「えっ?ない‥」っと意気消沈したとお察しします。かく言う筆者もその一人‥。ズームのレコーダーなのだからと、当然搭載されている思いよく調べもせず購入してしまいました。なので、ボイスレコーダーや会場録音のみの時はいまだに「Q3HD」を使っています。
そんなオーディオ・レコーダー機能が「Q4n」で復活しました。
どうしても一眼などのカメラ撮影を要する時、「Q4n」で音声のみ録音し後で映像にくっつけたい時などはこの機能が便利になります。
その他
重さが少しだけ軽量に
「Q4n」は178.6g、「Q4」は189.7なので約11.1g と少しだけ軽くなっています。スマホなどもそうですが、小さな製品の場合、多少の変化でも大きな違いになります。
ギターヘッドに取り付けての撮影や(マウント GHM-1)、カメラ用卓上三脚で使うといった場合、軽いほうが固定しやすくなりますね。
また、付属品にアクセサリーマウントアダプターが追加されていますが、こちらはウェラブルカメラGoPro用のアクセサリーを取り付けられるようになってるので、さまざまな場所で撮影できます。
まとめ
以上が「Q4n」の新機能であり「Q3 HD」や「Q4」の違いです。
まとめてみると下記のようになります。
改良ポイント
- ZOOM Q8と同じF2.0/広角160°のレンズを採用し、超広角撮影ができる
- マイクの方向を切り替えて用途に合わせてA-B 方式とX-Y 方式による集音方式を選べる
- Full HD より高い3M HD (2.3K画質)による高精細な映像
- 録音レベルが3段階から10段階に細かく調整可能
- オーディオ録音(音声のみ)が可能
- 5段階デジタルズームで画角を切り替える
- 音楽向け用途に合わせたシーンセレクト
- タッチスクリーン対応
- USB2.0 Full Speed
- 重さ178.6gと軽量化
新機能の中でも、広角レンズの採用、5段階デジタルズーム、シーンセレクトは非常に便利になったポイントかと思います。個人的には録音レベル調整、オーディオ録音も良いですね。
この価格でこの性能であればとてもコストパフォーマンスが高いといえますが、ただQシリーズを使い続けてきて唯一気になっていた録音の際のハンドリングノイズ(手でタッチした時に乗るノイズ)はそれなりに入ってしまいます。
手軽に持ち運んで撮れるのがこの製品のウリでもあるので、カメラ三脚を持ち運ばないケースもあると思います。
その際は専用のクリップ「MA2」があると便利です。もし、多目的に使用するのであれば、「 iKlip Grip 」がおすすめ。こちらは、小さいながらデスクトップ三脚や三脚、セルフィー・スティック(自撮り棒)になる優れもの。カバンの中に入るサイズなので、持ち運びに重宝します。
iKlip Grip レビュー Q4との使い心地も良好!
最後に、他社でも音質にこだわったモデルとして数社からこのようなモバイル・ミュージックビデオカメラが発売されておりますが、ズームが選ばれている理由はどこなのか探ってみました。
マイク性能が楽器特性
ZOOM社は音楽メーカーです。もっと細かくいうと楽器/音響機器の開発・製造している日本のメーカーです。
マイクを高性能なものをつけるだけなら、たとえ楽器メーカーでなくても部品さえ調達できれば可能ということになりますが、マイクを単純に高品位にしても良い音になるとは限りません。もちろん低価格と高価格では差はありますので、価格を同じ位にするとなるとです。
その価値は、どの特性に合わせてマイクをチョイスしたのか、どういうマイキング方法(集音方式)にしたのか、そしてマイクの音量を上げるプリアンプ(音量増幅装置)、デジタル変換するコンバーター(変換装置)はどういったものにしたのか、など‥、ここが楽器メーカーならではの”こだわり”部分です。高音質と謳うのは簡単ですから、音響のノウハウを持っているZOOM社が他社より選ばれている理由の一つだと思います。
音楽用途に合わせた機能
もう一度言いますがZOOM社は音楽メーカーです。ビデオカメラを開発・製造するにあたってウィークポイントはずばり"カメラ"でしょう。
映像のノウハウを持っているカメラ製造・開発メーカーと比べたらどうしたって分が悪い。ビデオカメラの初代「Q3」が発売された時、カメラメーカーはきっと「これは売れない」と思ったのではないかと思います。(というより当時は意識しなかったと思いますが‥)
でも、蓋を開けてみると人気製品となりました。もちろん映像のクオリティは作品(良質な動画)を残すにあたって重要ですから、その後映像に力を入れフルHDに対応した「Q3HD」が発売。そしてこれもまた大ヒット。(この頃から他社が意識し始めたかも知れません)
この頃から競合機種が発売され始めるわけですが、その後も「Q4」や今回の「Q4n」と継続して発売されていきます。他社は撤退?(開発中?)していくなか、選ばれているのは音楽に特化した機能が進化されたのか‥なのだと思います。
例えば、自宅で一人演奏を録画するのに録画画面を見ながら撮影できた方が良いですよね。生演奏を生放送したいバンドやソロの方も多い、その方にはストリーミング機能が役立ちます。屋外でも室内でも必要のない部分は写したくない、そんな方にはズーム機能(画角調整)ができた方が圧倒的に便利です。
そして、今回追加されたシーンセレクト。ほとんどが音楽で使用されると想定された場所になっています。
確かに映像の品質に関してはカメラメーカーが有利ですが、問題はそれが音楽ユーザーのポイントをついているのか。もし、音楽向け以外の用途、運動会の撮影?風景?花?料理?夜景?であれば、他社にお任せします‥という割りきったスタンスがズームQシリーズが支持されている理由なのかと思います。
販売価格
Q4n 生産終了 (税込) ¥29,700 (税抜 ¥27,000)
JANコード:4515260015726
Q4n対応アクセサリ
Q4 と Q4n の比較
Q4n | Q4 | |
記録メディア | SD/SDHC/SDXC 対応カード(Class 10 以上、最大 128GB) | SD/SDHC/SDXC カード(最大 128GB) |
撮影素子 | 1 / 3 インチ 3M pixels CMOS センサ | 1 / 3 インチ 3M pixels CMOS センサ |
レンズ | 固定焦点(36cm 〜∞) F2.0 焦点距離 16.6mm(35mm 換算) FOV 160° |
固定焦点(55cm ~∞) F2.8 焦点距離 約 22mm(35mm 換算) |
動画フォーマット | MPEG-4 AVC/H.264 (MOV) | MPEG-4 AVC/H.264 (MOV) |
動画解像度 | 3M HD (2304 × 1296) 30fps HD1080p 30fps HD720p 60fps HD720p 30fps WVGA 60fps WVGA 30fps |
HD1080p 30fps HD720p 60fps HD720p 30fps WVGA 60fps WVGA 30fps |
音声フォーマット | 【WAV】 量子化ビット数:16/24bit サンプリング周波数:44.1/48/ 96kHz 【AAC】 ビットレート:64 〜 320kbps サンプリング周波数:48kHz |
【WAV】 量子化ビット数:16/24bit サンプリング周波数:44.1/48/96kHz 【AAC】 ビットレート:64 ~ 320kbps サンプリング周波数:48kHz |
音声機能 | ローカットフィルタ オートゲイン(Concert/Solo/Meeting) |
ローカットフィル夕 オートゲイン(Concert/Solo/Meeting) |
映像機能 | 【デジタルズーム】 (× 0.75/ × 0.85/ × 1.00/ × 1.30/ × 1.50) 【シーンセレクト】 (Auto/ConcertLighting/Night/Concert-Low Light/Dance Club/Jazz Club/Concert Hall/Rehearsal-Studio/Garage/Outdoor/Sunset) 【セルフタイマー】 (Off/3sec/5sec/10sec) |
画角切り替え 【シーンセレクト】 (Auto/Concert Lighting/Night) |
ディスプレイ | 2.0″ フルカラー LCD タッチスクリーン対応 |
2.0″ フルカラー LCD |
内蔵スピーカー | 400mW 8 Ω モノラルスピーカー | 400mW 8 Ω モノラルスピーカー |
内蔵マイク | 120°AB/120°XY ステレオ方式 最大入力音圧:140dBspl 入力ゲイン:− 30 ~+ 44dB |
XY ステレオ方式 120° 最大入力音圧:130dBspl 入力ゲイン:+ 7db ~+ 47dB |
LINE入力端子 | 入力端子:ステレオミニジャック 入力ゲイン:−∞~+ 26dB 入力インピーダンス:2k Ω 以上 ※プラグインパワー対応 |
入力端子:ステレオミニジャック 入力ゲイン:+ 0db ~+ 26dB ※プラグインパワー対応 |
出力端子 | ライン/へッドフォン兼用ステレオミニジャック HDMI micro Type D |
ライン/へッドフォン兼用ステレオミニジャック HDMI micro Type D |
USB | ミニ B タイプ 【マスストレージクラス動作】 クラス: USB2.0 High Speed 【オーディオインターフェイス動作】 クラス:USB2.0 Full Speed 仕様:サンプリングレート 44.1kHz 16bit 【ウェブカム動作】 仕様:映像 サイズ WVGA/720p 音声 48kHz 16bit ※ iPad 用オーディオインターフェイス、マスストレージクラス動作サポート ※ USB バスパワー動作 |
ミニ B タイプ 【マスストレージクラス動作】 クラス: USB2.0 High Speed 【オーディオインターフェイス動作】 クラス:USB1.0 Full Speed 仕様:サンプリングレート 44.1kHz 16bit 【ウェブカム動作】 仕様:映像 サイズ WVGA/720p 音声 48kHz 16bit ※ iPad 用オーディオインターフェイス、マスストレージクラス動作サポート ※ USB バスパワー動作 |
本体外形寸法 (マイク収納時) |
全長:119 × 幅:51 × 高さ:62 mm | 106.4(W)×57.8(H)×30.4(D) |
重量(電池含む) | 178.6g | 218g |
付属品 |
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